俺とラティ…渾身の突きが太腿を貫通し、奴がバランスを崩す…膝なら良かったんだけどな…太腿なら、立ち上がる可能性も有るな…とにかく畳み掛け……っ?
「あ?」
急に目の前が暗くなり、そのまま前に倒れ込む…くっ…このまま倒れる訳には…!
「おっと。」
倒れる直前、力強い腕に受け止められた。
「ふむ…限界みてぇだな、取り敢えず寝てろ。」
「すまん、シウス…」
「気にするな。」
シウスの手を借りて、仰向けにゆっくり倒れ込む…
「悪い、後頼む…」
「任せろ、大丈夫だ…お前が起きる頃には終わってる…」
「ああ。」
目を閉じる……いや、待て待て…それで良いのか?仲間二人に全部押し付けて?
『違う…』
そうじゃないだろ?俺が今ボロボロになってるのは何故だ?
『俺は…』
寝るのなら、アイツにこの傷の半分でも良いから与えてやってからだろ…?
『俺は……俺は!」
心の中の自問自答それに対する答え…それが口から漏れたと認識したその瞬間…俺は跳ね起きた。身体は動く…いや、無理にでも動かしてやる…!足元に落ちていた自分の剣を掴む…奴の姿を視界に捉えた瞬間に俺は駆け出した…ダメージのせいか、ろくに視界も定まらない中…俺はほとんど勘で剣を振る……っ!何かを斬ったのは間違い無い…だが、それにしては手応えが軽い…?
「なっ!?」
聞こえるあの男の驚愕の声……くっ…何だ、どうなってる…?
「貴様ァ!」
「キリト!…もう良い、休んでろ…十分だ。」
後ろから羽交い締めにされ、ほとんど引き摺られる様にして後ろに下げられる…シウスの声が耳に届いた…
「シウス…俺はまだ…」
「しっかりしろ、自分が何をやったのか…ちゃんと見ろ。」
「くっ……!」
深呼吸を繰り返して、意識を少しでも整えられないか試みる……しばらくすると揺らいでいた視界が安定し始め、目を疑う光景が見えた…
片腕を失い、血を流すあの男と対峙するラティ……片腕が、無い…?良く見れば奴の足元に腕は落ちていた…その手には、あの斧が握られたまま…
「あの野郎の腕を落としたのはお前だ。」
「俺が…」
「ああ……教本に載ってそうなただ、上から振り下ろすだけの縦方向の斬撃…だが、あの時のお前はそれだけのダメージを負いながら体幹のブレは一切無かった…そして、たった一刀だけでお前は野郎の腕を落としやがった…とんでもねぇよ、お前。」
「……」
「とにかくもう良い 、寝てろ。あれ程の傷を負った奴に俺とラティが負けると思うか?」
「いや…分かったよ、今度こそ任せる…」
そうだよな、もう俺だけが身体張らなくて良いんだよな…
思えば、俺はいつも格上と命懸けで戦って来た…俺なんてただ、人より少しゲームに自信が有るだけのガキだったのに…
背中に再び感じる地面の感触…俺は今度こそ目を閉じ、眠る……目が覚めたら全部終わってる…そう、信じながら…
「ん… 」
「スゲェな…もう目を覚ましやがったのか。」
「シウス…終わったのか?」
「ああ…しかもついさっきだ……起きれるか?」
さっきは本当に応急処置レベルで強引に奥まで向かっていた…改めて薬草を使っての治療がされたのか傷の痛みも引いている…
「ああ、何とかな…」
地面に手を着き、立ち上がった瞬間にふらついた…横の壁に手を着いて、何とか踏みとどまる…
「大丈夫か?」
「ちょっと目眩がしただけだ…っ…!」
奴の身体が倒れている……首と両腕が無い。
「本当にとんでもねぇよお前ら…もう片方の腕はラティが斬り飛ばしやがった…」
「ああ、あいつならそれくらい出来ただろうさ…」
あいつには剣に関して天賦の才が有る…今でこそ、あいつは俺の後ろをちょこちょこ付いて来てる印象だが、そう掛からずにあいつは俺を追い抜いて行くだろう…今までもそうなる可能性は有った…それでも今日まで俺とラティの差が埋まらなかったのは…ラティに今以上に強くなる理由が無かったからだ…
その辺の野盗程度なら十分に撃退、殲滅が可能な実力…それ以上を必要としなかった…だが、これだけの強敵がこれから先も現れるなら…ラティはその才を絞り出さないとならないだろう……これからあいつは、強くなる。
「討伐の証拠が無いといけねぇからな…首は落としてある…」
「ああ…って、ラティは?」
辺りを見渡すが、あいつの姿は無い。
「実はこの洞窟、まだ奥が有りやがるんだ…さすがにもう何もねぇと思うが…あいつに偵察に行って貰ってる。」
「へぇ…」
そう言えば、宝物庫の様な物は見てないな…
「シウス。」
「ん?」
「……宝が出て来たらどうする?」
「討伐中に見付けた財宝は俺らの物だ…時間掛けて全部換金するに決まってんだろ。」
要はその間討伐成功の報告もしないって事だ。時間は有る…何とか全部回収したいもんだな…まぁ、あんまり時間掛けたらコイツの死体が腐るけど。
「とは言え、先ずはイリアの事が先だろ?」
「そうだな…」
金が有っても、イリアさんが死にでもしたら意味が無い…っ……足音が聞こえる。
「ラティか?」
「方向的にそうだろうな。」
しばらくして階段を降りて来るあいつの姿が見えて来た……いや、ここ階段有ったのか?全く気付かなかった…
「シウス、ちょっと…キリト!?目が覚めたのか?」
「ああ、何とかな…」
「で、どうした?そんなに慌てて…」
「いや、それが…とにかくちょっと来てくれないか?」
ラティの後ろに続く様にして俺たちは階段を上った。
階段を上った先には宝物庫の様な部屋は有ったが、それ以上に目を引く物が有った…
「これは…」
「ヒデェな、こりゃ…」
左右に並ぶ鍵付きの格子戸の有る部屋…それはどう見ても牢屋で……っ!
「……笛の音か?」
「ああ、誰か居るみたいなんだ…」
「牢屋の状態を見るに、ろくに世話もされてなさそうだけどな…」
とは言え、俺たちを呼びに来たラティの判断はある意味正しい…どれくらいの期間かは分からないが、こんな所にずっと閉じ込められてたなら…そいつは到底真っ当な精神状態であるとは思えない…
「どうする?」
「笛吹いてるなら向こうは割とまだ余裕有るんだろうよ、一旦様子を見ようぜ。」
まぁ、俺たちは今ボロボロだ…他人に構ってる場合じゃない…
「ここで少し休む…その後中の奴を連れて島を脱出すりゃ良いんじゃねぇか?」
「それが良いか。」
俺は特に返事はしなかったが、シウスの意見には賛成だ……万が一今、そいつに暴れられたら…抑える自信が無い。
「良し、下に戻ろうぜ?」