お前に苦しい思いをさせるつもりは無かったんだ、私の死がお前を苦しめた、赦されるなら今一度この命を得た時・・・その全てをお前の為に使う。
血も肉も魂も全て使ってでもお前を救いたい、だからそんな顔で戦うな。その苦しみを全て肩代わり出来たなら・・・あぁ・・・私の愛しき弟よ。
─少女騎士と魔術師の死合いは熾烈を極めた。
魔女と恐れられた存在が産み出した騎士と、たかだか齢八歳を迎えた魔術師では天と地程の差があるはずだった。しかし王を選びし剣、カリバーンの助力を得た魔術師は互角以上に勝負することが出来た─
「調子に乗りすぎだねぇっ! いでよ死霊たち! 奴を殺しに行け!」
「聖なるはこの一撃なり! 死者は微塵に砕けろっ!」
─拮抗する両者の間には差など微塵も無い、しかし魔術師の刃は一度も少女の首に届かない。無数の死霊を一撃で蹴散らせても、たった一人を殺せないもどかしさは魔術師をより苛立たせた。それは相手も同じで追い詰められ目的を果たせない苛立ちを隠さないでいた─
「クソガキぃ! いい顔してりゃ調子付きやがってぇぇぇ! 死ね死ね死ね!」
─苛立ちをそのまま武器にしたような人を貫通する魔力の棘を全身から放つ、魔術師はそれを容易く避けて、いなし、弾いた。しかしただの棘ではないそれは何処までも追尾して魔術師を刺し貫く─
「クソが!
「こっちも何度も殺されてブチギレてんだよ! 元からだけどなぁぁぁっ! おいカリバーンもっと力を寄越せ、魔力をあるだけ持っていけ! アイツを殺させろ!」
─何度も致命傷を負ったとしても魔術師たる彼は、宿命の鎖の呪いを使って復活していた。運命を強制するその呪いはカリバーンの調整により魔力の続く限り無限再生と言う不死性を与える道具として扱われていた。
魔術師はこの場に限り不死の戦士となったが、それでもあと一歩が足りていない。少女もそれを理解していた。─
「お前が私を殺せるものか! いくら死なない体を得ても貴様の剣が私に届くことはない! 何故か分かるか!」
「そんなこと知るかぁぁぁ!
─激しくただひたすらに激情を引き出し、仇を殺すためのエネルギーに変えていった。龍と言う存在を孕む魔術師である彼は無茶苦茶な魔力使用に耐えられているが、常人なら既に灰も残らないだろう。
少女騎士もその魔力量に恐れをなしていたが、恐怖を怒りで塗りつぶし、主への忠誠心で振り払っていた。
魔術師を支えるカリバーンは彼の思いに答えるべく次々に魔力を消費し、爆発的な破壊力を持つ攻撃を繰り出していく─
『光は力になり、また波となる。いけアルティシア! 私を振るえ!』
「おらぁぁぁっ! くたばれぇ!」
─刀身に漲り爆発的に高まる光を斬撃の如く飛ばし、あらゆる障害を切り裂き少女騎士の黒き鎧を文字通り鎧袖一触にしていく、魔力で編まれた鎧はより強い魔力に当てられ形を維持出来ずにボロボロと剥がれていった─
「クソっ! 鎧が! やってらんねぇわね! 魔女の涙はまだあったかしら」
─少女騎士は形勢が不利とみると彼を苦しめた呪いの塊、魔女の涙を取り出して自身の中へ埋め込んだ。少女騎士の鎧の大部分は呪いで形作られており、破壊されたとしても呪いを取り込む事で再生する─
「それはっ!」
「これは我が主の愛が籠められているの! 貴方は耐えられなかっただけの話、私にとっては素晴らしいものなのよ?」
「再生した……またぶっ壊してやるっ!」
「あは! ならまた直すだけ……根比べは得意じゃないのよ、さっさと決着つけさせてもらうわ」
「お前と競うつもりはねぇ! 俺の一方的な報復だ! 復讐、怨念、怒りのすべてを貴様にぶつけ、姉さんの仇を討つ……!!!」
─互いがこれが最後と悟り、剣を握る手に力が入る。カリバーンに光が更に集まりだし刀身が伸び倍以上になったそれを大上段に構え後は全霊を込めて振り下ろすだけだ。対しモーゼットは背を低く下げ獲物を狙う猟犬のように姿勢を変え、剣を逆手に持ち魔女の涙で染め上げた─
「これで終わり……そっちもそう判断みたいだな」
「私は主の為に貴方を殺す、それこそ私の
─一瞬に思える長い時のあと……仕掛けたのはモーゼットからだった。猟犬の姿勢から踏み込み、左右へ剣を振り回し間合いを詰めた。
一息に迫るモーゼットにたじろぐ事なく睨み付けて動かない、アルティシアは端から見れば冷静に構えているように見えた─
「速いっ!」
「我が主の為にっ! 復讐も果たせず死んでいけやぁぁぁっ!」
─気迫と共に剣が迫る、それは確実に首を捉える軌道をしていた。しかしアルティシアは恐れを殺し怒りに任せ一歩踏み込む─
「……っ!? (コイツ死にに来たっ!」
「肉を切らせてっ!」
─ザクッ、モーゼットの刃はアルティシアの首に触れたが、その刃が首を断つより素早くカリバーンはモーゼットの胴体を袈裟斬りにしていた─
「骨を断つ……うっ……呪いか……まぁ今回はカリバーンで腐食の進行を押さえられるが……でもキツイ」
「うあ……あ、かはっ。負けか……」
─首の皮一枚がギリギリ切れた辺りで刃が止まり辛うじて無事なアルティシアだったが、仕込まれた呪いを受けた。モーゼットも肩から腰を一刀両断されるがそもそも人間の範疇に収まる存在ではない為にアルティシアよりは余裕があった、それでも胴体が二つに分かれている事には変わり無い─
「負けた負けた……君に負けた……我が宿命、ここで潰えたり。このモーゼットを退けたこと、後悔しろ……いずれ主の精鋭達がお前を襲いに来るぞ……」
─モーゼットの頭をカリバーンで叩き潰し死体を魔術で跡形もなく焼き、呪いの残滓も残さず綺麗にカリバーンの光で消した。とそこまでしてから途方もない強さを放つ気配を感じさせる大柄な男が近付いてきた─
「はぁ……モーゼットよぉ。負けては意味が無いだろうに……」
「誰だっ……さっきのやつの仲間か?」
「仲間……まぁその様なものだ。お前は知らんだろうが、オークニーと言う国で騎士団を任されている。『夜騎士オウル』とでも名乗っておこう」
「で? お前も俺を殺しに来たのか?」
「いいや、俺はお前と戦うつもりは無い。そこの……それそだそれ。いやー良かった『核』は無事だったか」
─オウルと言う大柄な男はモーゼットだった灰の中からコロコロとした赤い宝石を探しだし懐へしまいこんだ─
「コイツは回収しとかないとな、怒られる」
「おい、それはなんだ?」
「気になるか? ……あー特別秘密でもないし話してもいいか。モーゼットは錬金術と魔術を使って生まれた
─男は淡々と語る。その態度には敵意は感じられ無いが同時に隙も無い。それどころか勝負になるかさえ疑問になるほどに男の覇気にアルティシアは圧力を感じていた。彼のモーゼットとの戦闘によるダメージを差し引いて考えても互角とは到底考えられなかった─
「じゃ、帰るとするか。やることはやったからな」
「あぁ、さっさとどっか行ってくれ。もう体は動かないからな」
「だろうな、子供の癖によくやる……将来が楽しみだ。強くなれよ、そして俺とやり合おうぜ?」
─手をヒラヒラさせシニカルな笑顔で男は去っていった。一体アイツは何だったのか、アルティシアの疑問は野ざらしの姉の亡骸で消え失せた。
冷たい亡骸にアルティシアは寄り添い、開いていた目をそっと手で閉じた。更に姿勢を整え手を組ませ祈りのポーズにして地面へ寝かせおき着ていたボロボロのローブを切り顔を隠すように掛けた、その後彼は手で十字を切って天へ祈りを捧げせめてもの冥福を祈った─
「姉さん、仇は討てたよ。でも完全じゃ無かった……ごめん」
終わった……終わってしまった。アルトリア姉さんが居ない今、ブリテンは……残念だが崩壊へ進んで行き最後には、征服が待っているか……
はぁぁ……どうしたらいいんだろうな……俺には分からない
─風に紛れて花びらが舞った。マーリンが来たのだ、やっとの事で拘束を振り払って来てみれば、事は全て終わっていた─
「やぁやぁ我が弟子よ、頑張ったね。先生は嬉しいよ……なんて、ふざけすぎかな……アハハ……」
「なっ……マーリン先生……っ!? 貴方は今までどこに居たんですか! 何故姉を見捨てたんですか!? 何故! 助けに来なかったのですかっ……!」
「僕も……いや、すまない。君に比べれば僕の言い分は意味を持たない。すまないアルティシア、僕は無力だった。だが、せめてもの罪滅ぼしをすることは出来ると思うんだ」
「罪滅ぼし?」
「アルトリアを生き返らせる事だ」
「なッ!?」
─マーリンが言い放った事は頭を殴打して感覚麻痺させたような衝撃を与えた
アルティシアとて蘇生と言う手段が頭をよぎらなかった訳ではないが、どうにも今ある知識と使える魔術では姉を生き返らせるには足りないと判断していたからだ。
命を操る魔術は公には禁忌とされ禁術と称しその存在はごく一部の魔術組織、高位魔術師が知るのみであった。アルティシアはマーリンからその秘匿された禁術たちを詳しく聞いていた、万が一にも備え使用も出来るように指導されていた。
しかし今回のアルトリアのような元の姿を留めない上に呪いを受けた場合は、いかなる禁術をもってしても蘇生は出来ないものだとアルティシアは判断していた。それが覆され驚きは大きかった─
「アルティシア、まだ教えていない禁術がある」
「それは一体どのような……? いや何でも良い! 姉さんが生き返るなら何でもする!」
「そうか、君ならそう言うだろうと思っていた……今から行うのはネクロマンシー、いわゆる死霊術さ。あぁ手伝いは要らないよ。その他禁術の複合になるからね、一人の方がやりやすいんだ」
☆★★★
あれから一年が経った……俺も一つ年を取り、実家暮らしをしながら魔術のなんたるかを少しずつ深めていく生活を送っていた。
あのあとどうなったのか、先に結果を言うならば生き返った。しかし問題が発生した……いや起こるべくして起きた問題だったのかもしれない、生き返った姉さんは人とは言えないようなモノだった。
「アルティシア? 何か手伝おうか?」
「いいよ、僕の事より姉さんはリハビリしないとダメだよ?」
「大丈夫、この体にも慣れてきた」
その振る舞いこそ普段と変わらないが仮初めの体に魔術で魂を縛り付けているだけだ、端的に言えば成長出来ない体になってしまった。老いて死ぬことも病で死ぬこともない完全無欠の体だ。
そんな裏事情を知らない人々はアルトリアを神の子の再来として担ぎ上げて城まで建てる勢いがあった、それもウーサー王の影響が強い城下町だと尚更だった。何故か? それは民がウーサー王と神の子の“重み”が一緒だったからだ、火がついた民衆はあれよあれよとアルトリアの味方になり臣民となっていった。
ウーサー王が没したのはもう何年も前の話、民には今が大事だった。ウーサー王の居城だったものを改修して名を改めた。
神出鬼没なる城、キャメロットとはマーリンがそう名付けた。アルトリアを蘇生して直ぐあの場に居た人間全てに魔術でもって記憶を操作し、アルトリアが主の奇跡で生き返ったんだと誤認させて半ば洗脳のように言葉巧みにアルトリアを王として認めさせ、王としての居城を用意させるまでの熱狂的な忠誠心を植え付けた。
騎士達の中にもアルトリアを認めその配下に下る者達は居た、根なし草の主を持たない騎士がほとんどではあるが。
「姉さん、今日は王として初めての仕事があるんじゃないの?」
「あ、そうだったな。よし、宰相アルティシア、ついて参れ」
「仰せのままに……我が王」
今日はアルトリア姉さんがアーサー王としてこのブリテン全土に対し宣言を出す、俺も宰相として宣言の瞬間に立ち会う為にキャメロットへ向かった。
─そして後世にアーサー王物語に最初の奇跡と称される事となるこの一連の出来事は、アーサー王の更なる躍進の幕開けでもある。武と徳をもって民を従え騎士を率いた騎士王の物語はまだまだ続く……─