─マーリンが遊びに来て一週間、その間にアルトリア、アルティシアは良く遊び、良く学び、良く遊び……世界一の魔術師が干からびているがいつもの事─
「どうだ! やったぞ! 成功だ、成功したんだ……っ! 氷の魔術がなにするものぞ!」
「おめでとう、おめでとう。アルティシア。君はその年で世の魔術師の数十年を無に返した……全く君はどこまで才能に溢れているのか分からないよ」
「私も姉として鼻が高い、そうだアルティシア今度は空を飛んでみないか?」
「空? 良いね! マーリン教えて!」
「おおっと!? それは難しいんだぜ? またきちんと教えるから今度にしてくれないかな?」
─狼狽える花の魔術師、それもそうだろう。アルティシアの次なる望み、飛行魔術は高等も高等な上位魔術である。しかし教えない理由はそうではない、アルティシアは『才能』がある、いくらでも教えれば覚え無いなら生み出すことの出来る『才能』が。マーリンは恐れた、アルティシアが自分以上の魔術師になることを─
「アルトリア姉さんちょっと耳かして」
「ん? なんだ?」
やぁ全能! 聞いているかな? 俺だよ俺! アルティシアだよ! お前のお陰で魔術がヒョイヒョイ覚えられて大変結構! 楽しい生活してるよ!
だけどね……飯、不味くないか?
ブリテン、飯不味くないか?
俺ね、転生チート間違えたよ……
ククク、アハハハハハ……ワハハハッ!
元ジャパニーズなめんなオラァァァァ!
「アルトリア姉さんは今のご飯で満足ですか?」
「アルティシア? いきなりだな」
「いつもお芋なのは飽きませんか? シンプルなマッシュポテトだけでは飽きませんか?」
「まぁ、その……うん、味には正直飽きているが日々の糧があるならばそれだけでありがたい事だ。主の恵みに文句など有りはしない」
「いけません、いけませんよ……このアルティシア! アルトリア姉さんの弟としての責任、果たさねば」
そう、これは『この世界』が俺に与えたもうた試練なのだ。俺がアルトリアペンドラゴンの弟である理由、それはアルトリアペンドラゴンを支えること、あらゆる面で支えることなのだ!
俺の解釈はきっと有ってる、間違えてても知るものか。このアルティシア! アルトリアペンドラゴンの食事から支えてきます、手始めに品数増やす! 味も多様にする!
我が母よ、キッチンはこれより俺の戦場……『味の探求者アルティシア』として振る舞います。
「お母様の料理にケチを付けるのかアルティシア、今からそう言う人間になっては先が思いやられる」
「違う違う違う違う違う……アルトリア姉さん、食事ってのはねぇ、美味しく味わうことができて初めて『食事』と言うんだよ? 食べられれば良いとか、これで満足しようと言うのは食事を作業に貶めてしまうよ?」
「アルティシア……なるほど、そうですね。日頃の食事への感謝をより深めるためですね。アルティシア」
「へ? まぁ……そんなところかな?」
「良いです良いですね! 私のアルティシアは他所の子より聡明です! 姉は誇らしい、ウンウン……」
「その話にマーリンお兄さんを加えてくれないだろうか、面白そうなら首を突っ込むのはボクの性だよ!」
ふっ、役者は揃ったな。このアルティシア、肉体は五歳なれど精神は五歳にあらず。いざや美味なる探求を始めん! まずはジャガイモ達の味付けを工夫する。
─アルティシア達は家の裏にある納屋から大量に蓄えてあるジャガイモを幾ばくか持ち出しこそこそと裏庭に準備する三人、アルティシアが調理、アルトリアが下準備、マーリンは味見兼人払いと分担した─
「よし、人払いはやった。準備もした。まずは焼き芋、塩でいこう」
「焼き芋? 塩? その……マッシュポテトよりシンプルだね?」
「いえいえ、シンプルですが工夫次第です。やたらと難しくするのはアホですよ、シンプルに出来てかつ美味しいが理想です」
裏庭に無限に落ちてる小枝を集めて火の魔術で焚き火をする、ジャガイモを枝に刺して煤が付かないように空気の流れを風の魔術で調節してじっくり焼く。
するとやがて芋の香りが鼻をくすぐる、香ばしいこの香りにバターがあれば良いね……しかし今手元には無い。そこで塩の登場だ、塩はいいシンプルに美味しくする。
「どうぞマーリン」
「では頂こう、はふっあちち……フゥー、あむ」
「どうだろうマーリン様?」
「美味しい、焼き加減でここまで変わるのか……感動とまではいかないけど衝撃を受けている、アルトリアも食べなさい」
「主の恵みに感謝し旨い!」
食い気味すぎだ! でも旨いと言ってもらえて良かった、よし次なるは揚げだ。フライは好きだ、サクサクふわりとした食感に芋の香りが口いっぱいに広がる。コショウがあれば更に旨いがないので仕方ない。そもこの時代に香辛料無いのです……悲しいね。
「まずはマッシュポテ「これで良いか? アルティシア」判断が早い! ではこれをチーズ入れてコネコネまるめて解いた卵に浸しパンを粉にしたものをつけて油にドボン!」
じゅんじゅわー……OK!
「ソイヤー! 出来たでっ!」
「うんうんいい香りだ、揚げたパンの粉が香ばしくっていい。ではパクっと……旨い! チーズ良いね! 中でトロリと溶けて最高だよ! あ、お酒ある?」
「父秘蔵の葡萄酒なら……昼から飲むおつもりで?」
「そんな蔑むような目で見ないでおくれアルティシア……分かったよ、飲まないさ」
「ハフッ! 旨い! 姉は最高に感動しています! しかしこれが毎日食べられればそれはそれで堕落してしまいそうだっ……くっ、ここまで美味しいとは不覚っ!」
なんだろう、アルトリアってこの頃から大食い気質なのかな、そんなんだから腹ペコ王とか言われるんだよ。
─このあともアルティシアの美味なる探求は続き三人は満足行くまでジャガイモも食べ続けた、夕食はもちろん食べられなかった。アルトリアを除いて─
☆☆★★
─更に一週間が経ち、花の魔術師は帰宅すると言い出した。アルトリア、アルティシアはいい遊び相手であったマーリンが去ると言うので見送りをする─
「またね! マッシュポテトおじさん!」
「マーリン様、また会いましょう」
「あぁ、また来るよ。それとアルティシア! マッシュポテトは許すとしておじさんはダメだ! お兄さんと呼びなさいお兄さんと!」
─いつものように騒がしく送り出す二人、いつものように消え去るマーリン。しかし今日はマーリンの様子が違った─
「アルトリア、アルティシア。今のブリテンがどう言う状況か分かるね?」
「えぇ把握しているつもりです、偉大なるウーサー王がいなくなり各地で腕に覚えのあるものが次なる王にならんと争っているとか、それに乗じて魔獣や妖しき者共も活発化しているとマーリン様は以前仰っていましたね」
「うん、今はそんな大変な時なんだ。だからね、今度騎士達を一同に集めて選定を行うよ。これで誰が王かハッキリとするだろう、ボクの名の下に行われたとあれば誰も文句の付けようが無いだろう。うんうん、我ながら良い考えだ」
「騎士達が集まる……マーリン様! 見学だけでも! 見学だけでもさせてください! 私は騎士の家庭に生まれ騎士の教えを受けました、そして貴方から聞いたウーサー王の話を聞き、騎士は我が天命と思いました。どうか私をその場にお連れください」
「じゃ俺も行きたい! アルトリア姉さんあるところに俺はいるぞぉ!」
─マーリンは思案した、彼の計画ではまだ数年先にしておくつもりだった選定の儀式をブリテンの予想以上の混乱に焦り取り返しがつく間にやってしまおうとしたのだ、その選定の儀式は目の前にいる少女アルトリアを大いなる運命の流れに翻弄される切っ掛けとなる。
そこまではマーリンの手のひらの上であるためどうにでもなるが、問題が一つ。アルティシアだ、不確定要素たるアルティシアが仮に選定の儀式に何らかの影響を与えてしまったらどうなるのか……予想外、予定外、規格外、表し方は様々なれど確実にマーリンの手の平から転げ落ちる要素がある。
どうするべきか、どうしたら良いのか、どうしたらこの
あぁボクは人でなしだけど、人じゃないとは言わないよ。自己否定はハッピーにならないからね。
アルティシア、我が優秀なる弟子よ。君に苦労させられるよ……もしかしたらさ、ボクの千里眼よりもっと遠くを見ているのかな。あのコロッケだって極東の食べ物だったろう、それも未来のだ。
アルティシア、ボクも腹を括ろう。君の起こす歴史の嵐はボクが収めよう、君の困難はボクの試練と受け取ろう、そして願わくば君の姉に良い未来をもたらしておくれ。
「よし! 皆でいこうか! エクターくん! 準備をしたまえ! 行くぞ! ご夫人もケイ君に久しぶりに会いたいだろうさ!」
「ちょっとマーリン様! もう、わかりましたよ! いけばいいんでしょ! 行けば!」
─目指すはブリテンの大教会、今は亡きウーサー王のお膝元。そしてブリテン全土から名だたる騎士の中の騎士達が集まる魔窟と化しているそこにアルティシア達は向かったのだった─
★★☆☆
─ここは教会、騎士達が集まりし魔窟と化した教会。名のある騎士が皆同じ目的で集まっている、それは選定の剣。王を選ぶ剣を得んと勇む彼らの片隅にアルトリアとアルティシアの姿があった─
「凄い……なんたる気迫……なんたる熱気か! アルティシア、騎士は凄いな」
「そうっすねぇ……」
言うほど凄く見えないな、ガッチリしたフルプレートアーマーに腰に一本の剣だけ。銃やらミサイルには無力だろうよ……まぁこの世界がfateって事を加味するなら凄い越えてヤバイ。
だからね、俺はまだまだ戦闘力もろくに分からない雑魚なんだろうな。アルトリア姉さんは直感か経験か、どちらにしろ騎士達を正しく見ているようだ。
「ん? なんだガキか……邪魔だぞ」
「おっとと! すみません」
─教会の入り口辺りにいた二人は次に入る人の丁度邪魔になる、そう思って移動しようとしたアルトリアの手をぐい、と引っ張る誰かがいた─
「おっと、そっちじゃねぇぞ」
「誰です……って、ケイ兄さん」
「こんちゃ!」
「おう元気かアルティシア、アルトリアもしばらく見ない内に大きくなったな」
─手を引いたのは彼らの兄、ケイ。アルトリアとアルティシアの兄に当たる人物。彼は家を出て騎士として修行を積んでいる言わば見習い騎士、アルティシア達とはこれが何年ぶりかの再会だった─
ケイ兄さん、逞しくなったねぇ……がちぃむちぃな効果音が聞こえてきそうなマッスル、マッスルいずパワー。やはりマッスルは全てを解決する。真理だね。
「そうかそうかアルティシアは五歳でアルトリアは十二歳か……いい女に成りやがってよぉ、“二人”とも嫁に出したくねぇ!」
……ん?
「はい、アルティシアは特に“嫁”になんか出してやりません! それが我らの誓い、ですよねケイ兄さん!」
「うむ、よく覚えていたぞアルトリア!」
ンンンンン~~~???
「待て、待って……俺は男だよ?」
「え? いや、女の子では? そんなに愛らしくて母性くすぐる男がいるか?」
「俺も母さんからお前は女の子だって聞いてるが?」
ンンンンッ~~~! いけません! いけませんぞ! お母様はいたいけな二人に何を吹き込んだのか!
─この時アルティシアは激怒した、必ずかの母親を問い詰めねばならないと。
アルティシアの内なるアヴェンジャーがメラメラと火を燃やしている時、マーリンの声が教会全体に響き渡る─
『よくぞ集まった! ブリテンに名を馳せる騎士達よ! 我が名はマーリン。偉大なる先王ウーサー王に並び立たんとするならば我が試練を受けて欲しい。さぁ皆、中庭に集まりたまえ!』
「ようし! 行くか、王には俺がなってやらぁ!」
「何をとんちきな事を……当然私が選ばれる、どこぞの田舎騎士が選ばれるなら私は騎士を止める」
「へっ! 言ってろよ、お前さんみたいながりひょろが魔獣に着いていけるものか」
おーおー血気盛んな騎士ばかり、男ばかりで花がないね。花のお兄さんの事は違うぞ。ちゃっかりエスターパッパも参加してる……
よく見てみればパッパ以外の騎士は身なりはキチンとしているが誰も彼も日本人の理想とする騎士では無いよーな、創作でみる騎士ってもっと爽やかでキラキラしてて騎士道とは守る事と見つけたり! ってイメージだったんだが……やはりサブカルはサブカルか。
─マーリンに従い教会の中庭に集まる騎士達を待っていたのは開放的な庭に鎮座する巨石、その上に鉄床が嵌め込まれそこに一本の剣が刺さっていた─
「さぁ見たまえ、これなるは選定の剣。銘はカリバーンだ。これは王の資格を持つ者にしか引き抜けないように私が全霊をもって
─マーリンは極めて挑発的な抑揚で語り騎士達を煽り立てた、アルトリアも釣られそうになったがまだ騎士にもなっていない身だと自分を律しカリバーンを見つめた。
一人、また一人と挑みては引き抜けず。やがて最後の一人も終わるが剣はそこにあった─
「これでこの場には王がいない事が証明された、これで無益な争いはしなくて良いよね? ほら帰った帰った、不満は受け付けないよ、選定を受け入れられないならボクに挑むといいさ」
─魔術師に似合わぬ力任せな言葉は騎士達を黙らせ威圧する、清廉潔白、文武両道、騎士はこうあるべしと言うものはこの時代に無い。この時代の騎士は力と権力にあぐらをかいた俗物が多く騎士足らんとする騎士は希少だった、不満や苛立ちに身を任せ暴れても不思議ではないがそんな彼等をただ言葉でマーリンは威圧する。それで充分であったからだ─
「お帰りはあちらだよ~……よし、全員帰ったか。ふぅ、疲れた。やっぱりボクはこんなキャラじゃないよ。ゆるふわだよボクの本質ってさ」
「……騎士とは、何でしょう……初めこそ憧れの騎士かと思えば選定の剣が引き抜けないと分かればやれ腐れ魔術師やれグランドクソ野郎と悪態ばかり! お父様以外の騎士は皆欲にまみれた獣ですか! これでは偉大な王など今後生まれはしないではないですか!」
「アルトリア、今の騎士たちはそう見えたかい?」
「えぇ、先王のような他者への慈しみや覇気は感じられない、いやそれどころか野蛮な者ばかりか! 私が騎士になるなどもはやあり得ない!」
「ほら押さえて押さえて、ならねアルトリア。君が騎士を変えるんだ。君が騎士なって皆に見せてやるんだよ、騎士の道を。騎士道をね!」
「私が? まさか、ウーサー王のような説得力ある力と偉業があればこそそれは叶うとは思いますがたかが小娘の話を誰が聞こうかっ! そも女が騎士になれないのは私がよく知っています!」
「頭が固いねぇ、女が無理なら男装をしてしまえばいい。偉業が無ければ創ればいい。力が無ければ付ければいい。その全てを手にする資格はあそこだ、アルトリア」
「カリバーン……あれがあれば、そうですね。引き抜ければマーリン様の言ったこと達成できるでしょう、引き抜けさえすればですがね」
「あれは王を見定める選定の剣、力や偉業は引き抜く条件には入っていないよ。国を治められる器を見るんだ。まぁ最低限の力が無いと引き抜けないかもね。真面目に言うよアルトリア、騎士になりなさい。理想を求めかの王のように高い所を見据えなさい、怒りや不満をぶちまけるならあれらと同じだよね?」
マーリンがいつになく真面目な顔だ。アルトリア姉さんもいつもの微笑みからやる気が満ち溢れるマスラオのような表情だ。やはりアルトリアは剣に選ばれる定め、そして俺はそれを引っ張るなり押すなりして支えよう。折れず曲がらず真っ直ぐに理想の騎士を目指せるように、そしてアルトリア姉さんの最後の時まで弟であることを許してくれ。
「分かりました、騎士になります。必ず理想の騎士になります。かのウーサー王を超える騎士王に! さぁ今から帰って特訓ですよアルティシア! さぁさぁさぁ! 貴方にも手伝ってもらいますからね! 目指せウーサー! 追い越せウーサーですよ!」
「アイアイマム!」
─この日から弱きを守り強きを挫き、あらゆる人々の盾となり公平公正を貫く、騎士と書いてヒーローと読む彼女の騎士王道、支えるは異世界の魂を持つ弟─
いやーここから本格的にアーサー王伝説の開始だなぁ、これで頑張ったら俺も英霊の座に刻まれちゃったりしてね。アルトリア姉さんの背中は任せろー!
アルトリア「目指せニチアーサー!」
アルティシア「俺は姉さんの支柱になる!」