騎士王の弟   作:テムテムLvMAX

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マーリン「覚悟決めろ~」

アルティシア「覚悟完了!」シャキン!


忘れてないか?第三の力。

 ─『異界』に放り込まれたアルティシアは恐怖の乗り越え無事にこの試練を達成出来るのか……それは誰にも、いや、アルティシアには分かっているだろう─

 

「や、やめて……喰わないで……っ!」

 

「グルル……!」

 

「ガルルッ!」

 

 ─二頭の狼に迫られるアルティシア、四方八方は木に埋め尽くされ逃げ場無し。これは試練始めてまだ二分でこの始末、先が思いやられる─

 

「ほ、ほら! この枝が見えるか? ほらほら遊んでやるぜ~……ダメ?」

 

「「アォォォォン!」」

 

「ガルルッ!」

 

「ガァァ!」

 

「ギャオォォォン!」

 

 

 更に増えた……OH MY GOD! ガッデェェム! 神様仏様お姉様、この際全能さんでもいいからこのいぬっころを退ける勇気をくれぇ! 俺実践初めてなんです! と言うか殺したくない! 生き物を殺すなんてしたことないわ! 魚くらいしか! 

 

 ダメだ……緊張感と焦燥感、おまけに殺生への抵抗感……っ! 精神がももも、持たないんだっ! こんな現実逃避しか出来ない己が憎い! 

 

 

「仲良くしよ? ね? 食いもんやるからほら……あ、ジャガイモ好き?」

 

「ギャャ!」

 

 ─魔狼の口から火球が放たれそれがアルティシアの足元に着弾、驚いた彼は持っていたジャガイモを落としもれなく焼き芋となった─

 

「あの、焼き芋、たべ「ガルルッ!」ですよね……」

 

 ダメだ、俺は死ぬのか……俺が……死ぬ、死ぬ? やめろ、死にたくない! 殺したくない! こんな筈じゃ無いんだ! ンンンンンン! マーリンのクソハゲ! こんなのどうしろってんだ! 

 

 

 ─どこからかアルティシアが呪い殺したい恩師の声が響く、それも愉快さを感じさせる明るい口調で捲し立てる話し方だ─

 

 

『ほらほらほーら! 本気だしたらそいつらは一瞬だろ? アルティシア』

 

「マーリン! 見てるなら何とかしろ! 可愛い弟子が犬の餌になるぞ!」

 

『ハハッ! 君ならさぞや美味しい餌になるかな?』

 

 

 ─アルティシアは虚空に叫ぶ、目の前の魔狼を睨み付けながら。

 マーリンは声色を変え普段より低めで話し始めた、この話し方でアルティシアには分かった。マーリンが本気で自分に向かっていると。何年も一緒にいた恩師の思いはこの窮地に置いても違えず理解できた─

 

 

『改めて言う、それは君の試練だ。姉を支えるなら乗り越えないとね、君が優しいのは知っているよ。聖人とまでは行かないけどこの時代に似つかわしくないほどに優しいのさ、君は。だけどね、その優しさに誰かが殺されるんだ。君が目指す先はそんな世界だよ? 騎士ってのは大変だねぇ』

 

 そうか、そうだ。……そうだな、そうなんだな。俺の甘さで見逃して、そいつがいずれ誰かを殺すなら……俺は俺が許せない、しかしそいつの命まで背負う程メンタリティ足りてない。

 

『悩んでるね我が弟子よ、一つ助言をするなら……君は君らしくあれ。甘さに殺されるなよアルティシア』

 

 マーリンの言葉、確かに響いた。絶体絶命の窮地に立たされて初めて身に染みたと実感した。そうかい、俺らしく……なら、まずは俺らしさを探すか。

 

「いぬっころ! 殺したくねぇから今だけ見逃す! 顕現せよ、火の魔術! そんでもって土の魔術!」

 

 

 ─アルティシアは火を扇形に薙ぐように放ちながら自分の足元から地面をひっくり返して壁とした、これで魔狼との間ができた。更にダメ押しともう一つ魔術を発動する─

 

「水の魔術、足下注意ってな。泥遊びは好きだろ犬っころ! ざぁまざぁま! じゃ俺にげっから!」

 

 ─魔狼達の足下に向け水を直接的に行き渡らせ泥沼に変えた。ここまでを一連の動作としてすんなりやってのけ魔狼から無事に逃げ延びた、しかし逃げた先は更なる窮地だった─

 

 

 ☆☆★★

 

 

 あっぶねぇ! 死にかけた……まぁこの方角は家に向かうんだ、その内出口に出るだろう。……待てよ、マーリン先生は割りと意地悪だから仕掛けがない筈がない。単純に迷う『迷いの呪い』、目的地から離される『遠ざけの呪い』、知らぬ間に足が遅くなる『鈍足の呪い』……少し思い出すだけで色々呪いあるなぁ……キッツ。

 

「はぁ、やってられねぇ」

 

「あの……っ!」

 

「クソマーリン! クソマーリン!」

 

「あのっ!」

 

「マーリンマーリンぶっ飛べマーリン!」

 

「あのっ!!!」

 

「え? ホァァァァァ!?!?」

 

 ホァァァァァァ!?!? 幽霊ホァァッ!? 

 

「キャァァッ!?」

 

「怨霊退散悪霊退散飢えず乾かず無に帰ってェェェェッ!!!」

 

「ちょっと! 私は悪霊じゃないですよぉ!」

 

「あえ? ……あ、人間だよかっ……本当に人間? クソマーリンの使いっぱしり精霊じゃない? 使い魔? それとも使い魔(サーヴァント)なのか!? ここは特異点か!」

 

「ちーがーいーまーすー! 私はエポ、いや……エナです! あの迷ってしまって! はぐれたのです! あの子と! ええと何て言っていいのか……あぁもう!」

 

 まて、本当にコイツはなんなんだ? この『異界』に紛れ込む人間なんているのか? マーリン先生お手製だぜ? そこら辺にある異界じゃなくて人為的に産み出した異界なんだ、ここは魔性や化生の餌場じゃないんだぞ……ダメだ、マーリンってだけで何でもありな気がしてきた。

 取り敢えず良心に従い助けよう、綺麗なお姉さんには媚びておけ、と言うのが俺の前世からの流儀だ。

 

「えーエナさん、だったね?」

 

「はい、エナです!」

 

「深呼吸だ、落ち着くまで深呼吸しよう。ほら一緒にすぅーのへぇい!」

 

「すぅーブフッ! ちょっと! 真面目にやってくださいよ!」

 

「よし! 混乱と緊張感は改善したな」

 

「え? ……あ、本当だ」

 

 ─エナと名乗った女性は年の頃は二十歳、背は平均的だがスタイルは良く髪飾りや服装も平民が着るものより豪華であった、ひときわ目を引くのは胸元に輝く金の馬のブローチだ。さしずめ貴族か豪商の出なのだろうとアルティシアには予想できた。

 アルティシアは緊張をほぐしエナを落ち着かせた後にエナがどうしてここに居るのか、何とはぐれたのかを聞き出す事にした─

 

 

「ほら、その辺の切り株に腰かけてもらっていい? ゆっくり話そう、この森は深い。焦っても良いことは無いですよ」

 

「はい、ありがとうございます親切な方。名前は何と言うのですか?」

 

「俺? 俺はアルティシア、若干八歳にして魔道を極めんとする求道者、と言っていいのかな?」

 

「へぇ! その様には見えませんでした! 八歳にしては輝き方が違うと言うか……」

 

「輝き方?」

 

「いえっ!? オーラ、オーラが違いますねっ!」

 

「ふふっ、そうです? いやー見る人が見たらそう見えるんですね! そんなこと言ってくれたのは貴女が初めてだ、おおっと話が逸れましたね。エナさんはどうしてここに?」

 

「それが……その、お恥ずかしい話なんですが、分からないのですよ。どうしてここに居るのかが。本当に唐突にここに引き込まれたんです」

 

「ふむふむ、で、何とはぐれたのです?」

 

「そう! 聞いてください! 私の可愛いあの子がどこかに行ってしまったのですぅ! 私はもう気が気でないのですようぁぁぁぁんアリアちゃーんどこーッ!」

 

「ちょっと! そんなに叫んだら化物がよっ……よって……~~~ッッッッッ!」

 

 

 ─アルティシアがエナの絶叫を止めようとしたが時すでに遅く、フシュルルル……フシュルルル……空気が入っては抜ける音がする、そしてその音の主はエナの真後ろにぬらり、ぬらりと鎌首をもたげていた。

 それは魔なる大蛇、牛さえ丸飲みにする大蛇が魔力によって更に大きくなっていた……アルティシアは気絶と復活を二度繰り返し、最善の策を思い付いて言うより早く行動に移した─

 

 

「エナさん、ゆっくりこっちにおいでください(そこは死にます)」

 

「え!? そんな、まだ知り合って間もないのですよ!?」

 

「素早く、静かに、落ち着いて、俺の所へ来てください(命が惜しかったら)」

 

「いやん情熱的……っ! やっぱり貴方は八歳なんかじゃないわね」

 

「このあとの(展開次第では)貴方の全てを任せてくださいね」

 

「えぇ! このエナは乗り気ですわよ? 責任はとれるのかしら? 小さな勇者様」

 

 ─エナだけが事の重大さに気付かない、日本神話のヤマタノオロチ、その首の一本がエナの真後ろにいると想像しよう。それが口を開けエナを狙うのだ。

 古来より蛇は龍や竜に見立てられている、その例に漏れずこの大蛇は僅かに幻想種の最強の血を引いていた。

 

 エナはどことは言わないが見せ付けるように艶めかしく歩き、誘惑する女の目をしていた。一歩一歩を近づきアルティシアの目の前まで来るとパチリとウインクした。それと同時にアルティシアはエナを両手で抱き締め情熱的にお米様だっこする─

 

 

「ふふ情熱的ね、ハグだなんてっ!? ちょっと! 肩に担ぐなんてヒェェェ! 大蛇ぁ!?」

 

「ひとっ走りお付き合いくださいませ! 我が足に加速と強化と無音の魔術!」

 

シャァァァァァァ!!! 

 

 ─アルティシアはエナを担いで駆け出した。

 初めの踏み込みで大地を砕き一気にトップスピードへ持っていく、その速さは獲物を狙う鷹か隼のよう。障害の多い森の中だと言うことも踏まえてもかなり速いが後ろから迫る蛇は木々を飲み込みへし折りながらその長い長い胴体をうねらせほぼ同じ速さで追いかけてくる─

 

 

「クソッ速すぎる! 追い付かれそうだっ!」

 

「え! え! 大丈夫なの!?」

 

「喋んな舌をがむじょ!」

 

「貴方が噛むの!?」

 

「うるへー! イテテ……」

 

「貴方速いのね!」

 

「そりゃ魔術師だから魔術で速くなってるさ! そうれ加速の魔術!」

 

 ─更に魔術を重ね速さを得るアルティシア、また加速するが一向にあの蛇を突き放せない。あの蛇は津波、全てを飲む意思ある津波、あるいは口に入るものは何でも飲み込みその腹へ溜め込む様相、まさに七つの大罪の一つ『暴食』の具現。

 この事態はマーリンが仕組んだことにあらず、現在マーリンはアルトリアに管理不行き届きと叫ばれながらメンタルをボコボコにされていた─

 

 

「風を切って走るのはいつぶりかな~」

 

「呑気な! 真剣に走らないと貴方も喰われるのよ!」

 

「エナさん、一つ聞きたい! もし仮に殺さずにすむ方法があるならそれを実行した方がいいか?」

 

「……えぇ、その方が誰も苦しくならないわ。手を下す者も下される者もね」

 

「でも、それで他の第三者が殺された時、その時殺さなかったのは間違ってるって事だよな?」

 

「……そうね」

 

「俺は迷ってるんだよ、あんな恐ろしい化物でも生きててさ! 俺を殺そうとしてても血が怖くて殺せない!」

 

「……」

 

「答えが出ない、納得出来る答えが出ないんだ。出ない内は無理だよ、俺には逃げることしか出来ない。ははっ! 血迷ってんのかな俺! 初対面のエナさんにこんなこと言ってさぁ!」

 

 

 ─アルティシアは、アルティシアの魂は平和の中で生きてきた。いつ死ぬか怯えないでいい安心できる平和な世が今の彼を形作る環境だった。生き物の生死から遠ざけられた生活の中で彼は生死に悩むことなく育ってきた。

 それが今、彼に深く突き刺さる楔になっていた。

 

 苦悩する、誰の命も大切なものだと。

 矛盾する、奪うべき命があるのかと。

 混乱する、今までの人生はなんだったのかと。

 憤慨した、あまりにも難しい問題にだと。

 

 忘却され記憶の果てに居た生死の命題が巡りめぐって死後に降りかかる、自分の命を失って二度目の人生でやっと正面から考えるとは何と言う体たらく、アルティシアは今思考の渦に飲み込まれていた─

 

 

「仕方無い……貴方は大きな目的があるのでしょう? 私から手を離し大蛇に与えなさいな、さすればこの場は収まり貴方は目的を達成することができる、違う?」

 

「いきなりなんだ!? そんなこと出来るかよ!」

 

「なんで?」

 

「死にたがりか!? 命は大事だ! 死んで何かを得るなんて無いんだからな! 生きてこそ楽しいんだ! だから守るぞ! 犠牲なんて無駄な考えやめちまえバカのすることだからな!」

 

 

 ─走りながら叫ぶ、声の限り叫ぶ、叫びの中からアルティシアは何かを見出だそうとしていた。自分で納得のいく答えが喉元に来ていた、答えは自分の中にあった、マーリンが言っていた『君は君らしくあれ』それの答えが今、エナの助けを借り見出だせそうなのだ─

 

 

「命は大事だ、しかし! あの蛇のように他者の命を必要以上に狙う奴は許せない! ならばこそ俺は討つ! そうだ! 俺の騎士道は『奪わせない』事と見つけたり!」

 

「ちょっ、止まるの!? あれに勝てるの!? なんか覚悟が決まったみたいだけど策とか宛はあるのね!?」

 

「ある! 頭がスッキリしたもんだから忘れていたことを思い出せた、すまないが降りてくれ。そして目一杯離れるんだ道は作る。顕現せよ土の魔術!」

 

「死なないでよ!」

 

「死にましぇーん!」

 

「あ、不安」

 

 

 ─木々が生い茂る所へ強引に土を隆起させ走りやすい一本道を造り出し、エナはアルティシアに言われた通りその道を全力で走った。悩みの果てに見出だした答え、彼の騎士道はアルティシアに大きな変化をもたらすだろう、そして、迷いの晴れたアルティシアの真価が発揮されるのだ─

 

 

 

 




アルティシア「ダッシュダッシュダッシュ!」

エナ「サラマンダーよりずっとはやーい!」
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