騎士王の弟   作:テムテムLvMAX

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エナの正体と試練のその後


モルかーさん「ちょっとヤバそうだわ」

未来のゴリラ「おかーさま大丈夫?」

モルかーさん「大丈夫、まだ、なんとか」

旦那「妻の為に人肌脱ぎます、今宵は祭りじゃー!」




ロクデナシ魔術師と女神の恋

 ─無事に、何事もなくとも言えなくもないが異界での試練が終わり波乱の幕引きとなった、その翌日にアルティシアの為にささやかな祝いの場が設けられた。

 場所はエスター卿の邸宅、あらゆる準備がマーリンの手によって行われ、アルトリアはアルティシアの為に執事となって給仕をすると言うおもてなしをすることにした─

 

 

「さぁアルティシア、お祝いしよう。君の無事と試練達成を祝ってね」

 

「どうアルティシア! かなり執事じゃないこれ? これなら男装してもバレないかな!」

 

「出来るならメイドが良かったなぁ……」

 

「なんと!?」

 

 

 毎度アルティシアだよ、全能さんがノリノリでくれた『祝福』のお陰で試練を乗り越えられたよ。

 感謝感激……とまではいかないかな、なんか龍になってから体がムズムズする。ちょっとこれ不備があるんじゃねーの? 

 

 

「アールートーリーアー! 父さんを忘れているぞー! どうだアルティシア! 父さんも執事になってみたぞ!」

 

「うふふ、あなたったら若い子みたいにはしゃいではしたないですよ」

 

「おやおや? ご夫人もまんざらじゃ無いご様子ですがね~?」

 

「マーリン様、言わないお約束ですよ」

 

 

 オッパゲタ……親父何してんの!? 騎士鎧さえそんなに似合ってないのに燕尾服が似合うわけねぇやろがい! と言うか今の時代に燕尾服あんのかよ! これマーリン先生の差し金or全能さんのご都合主義か? 

 まぁどちらにせよ、ここまで体張ってくれて祝ってくれるなら嬉しいもんだな。前世はそういうの無かった、いやあったけど薄味だったな。

 

 

「いやーまっこと嬉しいぜよ! こん家に生まれてきてよかったぜよ!」

 

「アルティシア! いきなりどうしました!? まさかまだ頭の方が治ってないのか!」

 

「姉さん、これは俺なりの喜びだよ、気にしないで」

 

「あの、私は場違いなんじゃ……?」

 

 

 ─エナもこの祝いの席に出席していた、アルティシアが招いたのだ。自分の覚悟の最後の一押しをしてくれた恩人だと皆に紹介し、それなら是非お呼びするべきとアルトリアとエスター夫婦は同意した。と言う流れで来ていたのだがどうにも片隅から動こうとしていなかった─

 

 

「エナさん、良いんですよ。どうやら息子は貴女にお世話になったようですから!」

 

「え! いやいや! こっちがお世話になったんです! 私の命の恩人ですよ彼は! なんと言うか恐れ多いと言うか失礼なんじゃないかと考えてしまうのです」

 

「うふふ、ならそんな片隅で固まっているより祝ってあげてください、その方があの子も喜びます。あの子は人に気を使える、いや使い過ぎる子なんです。アルティシアにどうせ気を使うなら貴女も楽しんで下さいな、それがあの子の為になりますからね」

 

「おぉ……これが母み……わかりました! 全力で楽しみます!」

 

「えぇ! どうぞ楽しんで下さいな。あの子が考案した料理に頬が落ちても知りませんよ? なんてね」

 

 

 ─こうして、祝いは夜まで続き皆が楽しんだ。

 アルティシアはアルトリアに奉仕され何故か違和感が無いことに違和感を覚え、実の父エスターには酷評と言う剣を彼の心に突き刺した。アルティシアいわく『違和感がありすぎて似合わない、筋肉が邪魔』だそうです

 

 エナはアルティシア考案の料理の数々に思わず昇天しかけた、前世と言う未来から持ってきた知識をフルに使い芋料理に革命の嵐を巻き起こすまだ序章に過ぎない

 

 こうして夜が更け寝静まった鳥達が騒ぎ出す頃、エナは一人抜け出した。彼女の足はあの試練の森へ向かっていた─

 

 

 ☆★☆★

 

 

「さぁ、行くぞ……ごめんね、アルさん……私やらないといけないことがあるから……」

 

「おや? こんな朝早く……ほとんど夜だけどどこへ行くのかな? エナさんとやら」

 

「あっ、マーリンさん、起きてらしたのね」

 

 

 ─エナが家を出ると、待ち伏せしていたのかと思うタイミングでマーリンが声をかけた。アルティシア達と一緒に寝ていた筈の人物が何故か自分より早く外に出ている、普通ならここで不審に思うだろうが、エナはそうでは無いようだ─

 

 

「いやいや、今起きたよ。起きてここまで瞬間移動さ」

 

「へぇー」

 

「やっぱり人間と感性がずれてるね『女神エポナ』」

 

「バレていたようですね、いつからです?」

 

 

 ─女神エポナと言われた彼女は正体がバレた事にさほど驚きは無いようだった。

 

 ここでエナ改め女神エポナについて、一つ語ろう。

 女神エポナは馬の、そして繁栄と豊穣の女神として信仰されているケルト由来の神。その姿は馬単体や女性と馬と言う組み合わせで描かれる。また馬以外と共に描かれる事もあり、その時は泉や生死に関わる彼女の別側面なのだとか。

 

 その彼女がマーリンに半ば強引に異界に招かれていたと言う事実、知ればアルティシアが飛び蹴りかます事間違いなし─

 

 

「始めからさ、知っていて巻き込んだんだ」

 

「では、異界に私が迷いこんだのは貴方のせいなんですね」

 

「そう」

 

「では、私の『半身』がどこへ消えたのか知っていますか? 神の半身がフラフラと迷子なんてあり得ないですから」

 

 

 ─彼女の半身、それこそが彼女が探し求めるアリアちゃんだ。女神エポナは半身共に揃う事でその神力を発揮する。普段なら切っても切れない存在なのだがどうにも今回はそう言う事ではないようだ─

 

 

「それは君の返答次第さ」

 

「なるほど、女神に仇なす不届き者でしたか、いくら彼らが認めていても所詮は夢魔との混血ですか」

 

「手厳しいね、ろくでもないのは半分だけだって、残りは人間だよ? この事は置いておくとして、女神エポナに提案がある」

 

「提案?あなたに従えと言うのならお断りです」

 

「違う違う、君に祝福を授けてほしい人が居る」

 

「私の祝福ですか……生憎誰かにさらわれた半身が居ないので不可能としか言えませんね」

 

「半身を取り戻したらやってくれるかい?」

 

「えぇ、あなたに仕組まれたとは言え命の恩人たるアルティシアとその姉に祝福を授けるなら喜んで」

 

「ありゃ? バレていたね、これであいこかな?」

 

「これでも人をみる目はあるつもりですよ、私の信者は多いですからね」

 

「じゃあよろしく頼むよ、女神エポナ。それっ!」

 

 

 ─マーリンが杖を振るい空間を割った、そこから一頭の馬が現れた。その馬は神の半身に相応しい毛並みと馬体を持つ白馬だ、編み込まれたたてがみには木の実や木の葉が飾られている。まさしく馬と繁栄と豊穣の神の半身だ─

 

 

「アリア、私の半身……よく戻りましたね」

 

「ブルルッ」

 

「えぇ『女神エポナ』としてとびきりの祝福を授けましょうね」

 

「ヒヒーン!」

 

 

 ─女神エポナは祈りを込める“どうかその生涯に実り多きことを”とアルトリアに馬と豊穣の祝福を与えた。

 これでアルトリアが馬で困ることも食い扶持に苦心することも無いだろう。

 

 そしてアルティシアには違った祝福を与えた“愛する者の守り神にしてください”と、もはやそれは祝福ではなく彼女自身の願いだった。

 

 神の視点から人間を見れば普通ならば信仰の糧、または愛すべき子供達と言う認識にならざる得ないがマーリンの策に巻き込まれて半身を失った時に。強く生き苦悩もする、でも私をしっかり護ってくれた良き人間。その時初めて人間と言う一括りの視点から抜け出しアルティシア個人を見た、そして引かれ惚れた─

 

 

「驚いた……君、前途多難だよ。少なくともボクの千里眼は後何人か居ると見ているけど?」

 

「良いんです、私が彼の初めてならそれで」

 

「強欲だね、いや彼もだけど」

 

「愛が深いと言ってください、欲が浅くて神なんてやってられませんよ」

 

「モノは言い様か……ならせめてボクも祈っておくよ、居留守の唯一神にね」

 

「まぁ! どうせならケルトの主神にしてくださいな、では。私は去ります、さようなら愛しい貴方……夢魔の混血よ、くれぐれも頼みますよ」

 

 

 ─エポナは戻ってきた半身と共に朝焼けに消えて行った、もう彼女は帰ってこないだろう。神秘が終わりを迎え神が地上に存在出来なくなっている今、悪霊や悪魔、妖魔と言った怪物に成らずさるには今が潮時、立つ鳥後を濁さず、愛した者に別れを告げずに去り逝く彼女

 

 

 しかしそれに待ったがかかる─

 

 

「おやおや、随分諦めるのが早いね。神秘が無くとも、怪物に堕ちる事がない……そういう手はあるにはある、やるかい?」

 

「っ!? ……あなた、ロクデナシってよく言われます? 覚悟を決めた後に誘いをかけるなんて人でなしですよ」

 

「幸い半分人じゃないんだ、さぁアルティシアと共に行くか、このまま星の裏でアルティシアを見守るか。どちらが良いかな『女神エポナ』?」

 

 

 ─妖しく微笑むマーリンはその時ばかりはいつもの優しい兄のような振る舞いを捨てたロクデナシで夢魔で魔術師だけど他人の幸せを少し考えたマーリンだった。

 そして彼の言う地上に残る方法とは何なのか、女神エポナはどう判断したのか……─

 

 

 ☆☆★★

 

 

 

 ─試練から一年が経った、アルトリアはマーリンから今がその時だ、とだけ告げられたが彼女にはよく分かっていなかった。無論マーリンはそこまで折り込み済み、アルトリアの生涯アドバイザーマーリンに油断は無い。

 

 明日は毎年行われる騎士達の模擬試合が教会にて執り行われる、修行をしていた彼女は今までスルーしていたが今年はアルトリアも観戦しようとついていく事にした─

 

 

「さ、行きますよ。アルティシア」

 

「分かってます、姉さん」

 

「今日からは違うだろ?」

 

「はい、『アーサー兄上』!」

 

「うむ、騎士足るもの親しき中にも礼儀を持つべし。うんうん私の『四十八条の騎士道』の一つにしておきますか」

 

「多くない? 姉上、じゃねぇや兄上」

 

「何を! 細分化し過ぎだとマーリン様に言われてかなりまとめた方だぞ?」

 

「ヒェ~」

 

「その、ほら……それよりも貴方の兄はどうです? この鎧似合ってます?」テレテレ

 

「この鎧ソムリエから言わせて貰えば……百点! でもそんな可愛い兄貴がいるかぁぁぁ! 変装の概念覆るわ!」

 

 

 ─アルトリアはアーサーと名を変え男装をし鎧を着込む事で完全に男と区別がつかなくなった(とされる)、少なくとも女性には見えない。彼の鎧はアルティシア考案製作のマーリン監修で作られた特注品、アルトリアの鍛え上げた女性的かつ凶悪なマッスルを隠す為にフルプレートアーマーとし、なおかつ王になった後も使えるように呪詛と穢れから常に守り、更にアルトリアの意識にリンクし彼女が害ありと認めたモノのはね除ける魔術防御を備えたものだった。あと変装に不安を持ったアルティシアが認識改変魔術をこっそり追加した、高名な魔術師か対魔術A以上の方にはバレるかもしれない。

 

 更に剣、これもまた特注品であった。彼女の尋常ならざる筋肉と要望に合わせた結果、ただ重く鋭く固い大剣が出来上がった。彼女の身長より長く持ち運ぶには背中に背負うしかなかった。

 

 見た目は完全にセイバーのそれなので割愛する─

 

 

「アルティシアもよく似合っていますね、まるでマーリン様のようだ」

 

「それはけなしてます? 晒してます?」

 

「誉めてるんだよ!?」

 

 

 ─アルティシアには鎧ではなく服だ、魔術を主に使う彼に鎧は必要なく、いざと言うときは持ち前のアルトリアの次に強靭な肉体を惜しみ無く使うので問題ない。

 服装は魔術の師たるマーリンへの尊敬を込めて似せたものを用意した、用意したのはマーリンだが。ニッコニコで持ってきたので拒否権はアルティシアには無かった。

 花の魔術師マーリンの本領たる姿、持ったからには無様な姿を晒すわけには行かないだろう─

 

 

「フフフ、マーリンさん参上! 旅立つ若者に知恵を授けましょう!」

 

「あ、先生。この服返していい? なんかプレッシャー凄いんだけど」

 

「ダメ! それは我が弟子だと言う証だ、どうしてもと言うのなら私を倒しなさい、無理だろうけどね! そうそうこれも渡しておくよ」

 

「おっ! うおっ!? つ、杖ぇ!? これ大事な物じゃないのかよ! 魔術師って杖が命とまで言うんだし!」

 

「いや予備あるから、ほら」

 

「あっ、新しくするついでに古い方寄越したのね」

 

「あとは髪をながーくしたらボクがもう一人出来上がるねぇ」

 

 

 ─アルティシアは完全にマーリンの着せ替え“人間”化していたが止めるものは誰もいなかった、アルトリアに関しては弟の可愛さ天元突破で拳を天に突き上げ生涯に悔いなしフェイスで立ち尽くしていた─

 

 

「さぁお行きなさい、二人とも。運命は近付いているよ、アルトリア。彼女を支えるんだぞアルティシア、見てるからね? さぁ馬を用意したから乗っていきなさい、これが最後の餞別になる」

 

「ただ模擬試合見に行くだけに大げさではないですかマーリン様?」

 

「まぁ、うん、マーリン先生の言う運命、明日かなって気がする」

 

「流石弟子、誉めてやるぞーよしよし」

 

 

 ─マーリン最後の餞別は馬、アルトリアには黒く大きな馬を、アルティシアには白く編み込みを施した馬を渡した─

 

 

「名前はあるのですか?」

 

「いや、アルトリアが決めて良いよ、アルティシアの方はごめんね。もう名前があるんだ、『エポナ』それがその馬の名前さ、思いっきり可愛がってあげてくれ、どの馬より速く走るだろう」

 

 

 ─アルトリア、アルティシアは明日の模擬試合に向けて教会へ向かった。渡された馬に跨がり地を駆ける姿は紛れもない騎士と魔術師であった─

 

 

 

 

 

 

 

 

『このエポナ、生涯貴方の側で祈ります。貴方の為に、貴方だけのために……あなたに幸あれ』

 

 

 

 

 

 




マーリン「エポナ、頑張っておいで」

『頑張りますとも、一緒にいれるだけでもハッピーですから。いずれ星の裏に隠れる身だった事を考えればそれだけで満たされたような気持ちです』
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