研究所に戻るとウルスラはエルデ教授に電話を掛けていた
ウルスラ「はい、エルデ教授。いつもお世話になっています。それで確認したい事があるのですが…。(中略)。はい、やはりそうですか。ありがとうございます」
電話を切る
ウルスラ「私の読み通りですね。姉様。エイラさんはサーニャさんの家に居ません。間違いなく、スオムスが堕ちてあちらに寝返ったものと思われます」
ハルトマン「は!え?なんでどういう事?だってさっきエイラはサーニャんの家から電話を掛けてきたんだよ?」
ウルスラ「それはエイラさんが口にしただけですよね?本当に彼女の家から電話をかけているなら、まず家主のサーニャさんに代わるはずです。ここの電話では、どこからかかって来たかを逆探知する術がないです。別な所から電話をかけても、本人の発言次第で『かけてきた場所』はいくらでも作れます」
ハルトマン「・・・そういえば、さっきの電話、サーニャんは1度も出なかったね。え!じゃあ本当にエイラがシャイタン側に落ちてたら、このアジトもバレてるじゃん!エイラにはここで行う計画は話してないけど・・・」
ウルスラ「このアジトには入る事はできませんよ。入口にはパスワードや指紋認証がありますし。ツァーリ・ボンバが落ちてもビクともしません。もっとも、出入口一点狙いをされたら流石にまずいですが」
ハルトマン「それは、良かったよ。・・・あれ!そういえばアジトで待機してる筈の宮藤は!」
ウルスラ「宮藤さんには一応カンペで『シャイタンの秘密は話すな、電話を切ったら偽装作戦に徹しろ』と伝えて、別の場所に避難させてます。ですが、エイラさんがあちら側に堕ちたため、作戦の練り直しが入りますね。固有魔法が強化されていると厄介です」
ハルトマン「そうだね。エイラは未来が見えるから、偽装作戦をしても想定より時間が稼げないかもしれない。」
その時、2人の男女が入ってきた。
???「エイラさんはこちらで対処するわ、未来視が相手なら、時間はこちらの土俵よ」
???「うむ、我々は未来視など関係ないからね」
ハルトマン「!?貴方達は、もしかしてヴェール教授かエルデ教授の知り合いですか?」
???「そういえば、あった事はなかったわね。私はペチュアよ。宮藤くんのいる、精神科の主任よ。」
???「僕はリダンだ。ペチュアくんのパトロンをしている」
ハルトマン「そうだったんですね。初めまして。私は小児科の生徒のエーリカ・ハルトマンです。こっちに居るのが双子の妹で科学者のウルスラ・ハルトマンです。」
ペチュア「よろしく、ヴェール教授から話は聞いているわ。それにしても、未来予知の能力者ね。久しぶりに相手するわ」
リダン「ああ、よろしく。久しぶりの予知能力者捕縛か、腕が鳴るな」
ハルトマン「てことは、ペチュア教授も時間に関する固有魔法を持ってるんですか?」
ペチュア「私の固有魔法は『時間停止』、大概のものの時間を止められるわ。例えばそこのペンとか、ほいっ!」。
ペチュア教授がペンを空中に放り投げるとペンは落ちずに空中でピタリと停止した。
ペチュア「こんな感じに物理法則を無視してピッタリと止まるわね」
ハルトマン「!!嘘でしょ!こんな強力な魔法があるんですか!・・・てことは、リダンさんも男ですけど何か使えるんですか?」
ペチュア「ただ、時間を止めるだけだから、早送りや巻き戻しは出来ないわ。それと、全盛期なら1日は軽く固定出来たけど、今はせいぜい30分が限度ってとこね。それと、ガスや液体のような『形を持たないもの』には効かないわ。あと、時間が止まるって事は、自然治癒力なんかも止まってしまうから、一概にメリットではないわ」
リダン「僕はもっぱら、このレギュレーター(犬型の小型機械)で、ちょっとした時空間移動が出来るよ。まあ、一種のワープだね。ただ、横の空間移動は『半径1km先まで』、縦の時間移動は『前後3日以内まで』しか出来ないかな。あと、連続で使うには1日はクールダウンが要るから、隠密向けだね完全に。それと、これは僕しか使えないから、何かを頼むなら僕に依頼してね」
ハルトマン「時間移動が出来るんですか!あの、だったら3時間前に行ってエイラからの電話が来る前の私達にエイラの裏切りを教えて欲しいんです!」
リダン「お易い御用さ、3時間前だね。ちょっと伝えてくるよ」
ペチュア「ほんの少し現在が変わるかもしれないけど、そこは了承してね?」
リダンはその場からいきなり消えた。
ハルトマン「うわ!いきなり消えたよ。一体、どんな感じに書き変わるんだろうな〜。」
ペチュア「基本的には、余程歴史を変えるような動きをしない限りは大きく変わらないわ。作戦の進捗や人間関係が少し分岐したりするくらいね」
ハルトマン「・・・あの、もしもですけど、宮藤が今の状態になる前に戻って宮藤が怪我を負う前に阻止したらどうなるんですか?」
ペチュア「それをした場合、どこから修正したかによるけど、今の人間関係の一部が塗りかわるかもね。それと、宮藤さんの行動原理の説得力も変わるかも。彼女の支持はこう言ったらナンだけど『障害者の希望の星』という点で成り立っている部分もあるから、エルデ教授の心を動かせずに、産科がシャイタン側に取り込まれる世界線も考えられるわ」
ハルトマン「それは、ヤバいですね。ていうか、下手したら宮藤もシャイタン側に付いた可能性も有り得ますね。」
ペチュア「そうね。あの子なら、誰かを人質にされれば言う事を聞いてしまうと思うわ。だから、あまり歴史を変えかねない干渉は受けかねるわ」
その時、時間移動からリダンが戻ってきた。
ハルトマン「うわ!びっくりした〜。いきなり現れないで下さいよ!」
リダン「すまないねハルトマンくん、とりあえず伝えてみたよ。とりあえず、ミーナ君がスオムスの連合除名を打診し、クザワールが事情聴取のために拘束されたようだ。だが、スオムス軍そのものの動向には変化がなかったな。それと、君たちがあそこのカメラに映る事無く、同じ場所の地下室を発見した事になったよ。それ以外に変化はない」
ハルトマン「ありがとうこざいます。これで、進展があればいいんですけど。」
リダン「難しいな、なるべく影響を最小限に抑えたから、大局の変化はほとんど無いかもしれない」
ハルトマン「ちょっと整理してみましょうか。先ず、エイラはこっちを騙したと思ってるだろうね。けど、クザワール元帥が捕まった事を知ったら気付くのも時間の問題かもしれませんね。」
ペチュア「まあそうなるわね。ただ、慌ててカメラ回収に向かえば、目立つわ。それに、スオムス軍で何かあれば、曲がりなりにも士官のエイラさんは国へ戻される。少なくとも、しばらくは私達と接触不可能になるでしょうね」
ハルトマン「そうですね。あくまでもエイラの裏切りに気づいてない振りをしないといけませんからね。」
その時、研究所の電話が再び鳴った
ウルスラ「エイラさんかもしれません。裏切りには気づいていない演技に気をつけてください」
ハルトマン「オーケー気をつけるよ。・・・もしもし。」
エイラ「おお!今度はハルトマンか。また大変な事になったんダナ!」
ハルトマン「どうしたの?まさかサーニャんの家にガサが入った何て言わないよね?」
エイラ「実は、スオムスのクザワール元帥が連合軍から拘束されたんダナ。そのせいで、中将の私は今からスオムスに強制連行されて、連合軍の監視下になるから、自由に連絡が出来なくなるんダナ。」
ハルトマン「えっ…、クザワール捕まったの?!やっぱり連合軍で消極的態度だったから?という事は、連合軍は一気にサカルッチの優勢かぁ…。いや、サカルッチが業を煮やしてクザワールにあらぬ罪を捏造して捉えさせた可能性すらありそう…。他国も報復を恐れて、スオムスの味方をしないだろうね…。という事は、エイラを匿ったサーニャんも逮捕されたって事かな?」
エイラ「いや、連合軍を裏切ってシャイタン側に付いた情報が何処からか漏れたみたいなんダナ。だから、交戦前に上層部を皆捉える算段みたいなんダナ。(まあ、本当は捕まるのはクザワールだけなんだが、こう言ってた方が私も動きやすいんダナ)」
ハルトマン「ああ見えて実はクザワールが繋がっていたのかぁ…。それなら消極的態度も納得だね。兄弟分に戦争なんてしたくないだろうから。しかし、エイラ達も捕まれば、いずれ私達にも捜査の手が伸びそうだよ。あのサカルッチの事だから、元501は全員出頭命令出されるかも。私はそこが怖いね」
エイラ「取り敢えず、私だけで何とかなるようにしてみるんダナ。けど、恐らくこれが私からの最後の連絡なんダナ」
ハルトマン「うん、悲しくなるよ…。私、エイラの事忘れないから」
エイラ「ああ、もしかしたら反逆罪で殺されてしまうかもしれないんダナ。・・・どうやら、迎えが来たみたいだから電話を切るんダナ」
ハルトマン「うん、分かった。私も、サカルッチにする言い訳でも考えておくよ。それじゃあ、エイラ、ありがとうね」
電話が切れた後。
ウルスラ「お疲れ様です姉様。中々迫真の演技でしたね。」
ハルトマン「うん、何とか乗り切ったよ。でも、あっちも気付くのは時間の問題かもね。サーニャが拘束される可能性に答えなかったから、ウルスラの推理は確定だよ」
ウルスラ「後はヴェール教授が宮藤さんの偽装人形を作ってから考えますか?」
ハルトマン「そうだね。とりあえず偽装作戦の結果を見て動きを考えようか」
ウルスラ「偽装人形も何処まで通じるでしょうかね。」
ハルトマン「目はある程度誤魔化せても、未来予知で宮藤の動きを捉えられたらおしまいだからね…」
その時、アジトにヴェール教授が帰ってきた。
ヴェール「そうだね。取り敢えず。人形制作は完了したわよ。」
ウルスラ「あっ、お疲れ様です。こっちもとりあえず、シャイタンの隠し部屋とおぼしき場所を見つけました。それと、理由は分かりませんが、エイラさんがあちらに付いたようです。その件でスオムス軍の元帥が拘禁されました」
ヴェール「ええ、未来から来たリダンから聞いたわよ。取り敢えず人形のセッティングはポトリー達に任せてきたから。」
ウルスラ「さすが早いですね。首尾は大丈夫ですか?」
ヴェール「ええ、あの二人は頭のキレが良いからベストな所に置いてくれるはずだよ。」
ハルトマン「ありがとうございます。さて、新たな問題だよ!エイラ対策を練らないと!」
ペチュア「あんまり過去を書き換えすぎると、現代に矛盾の歪みが生まれるわ。短期決戦で彼女を捕縛する策が必要ね」
ウルスラ「私の予想としてはエイラさんは恐らく病院にいると思います。」
ヴェール「ふむ、それは有り得そうだね。私達をまとめて監視するにふさわしい場所だし、病気を偽って入院をゴネ続ければ、長く活動を続けられるからね。まあ、いたとしても、顔を変えて偽名で入院してるだろうね。足はつけたくないだろうから」
ウルスラ「そうなると、1番有り得そうなのはシャイタンの心療内科でしょうね。シャイタンの所なら書類も弄りやすいでしょうから。」
ヴェール「多分あそこなら1番潜り込みやすいだろうね。表向きに入院患者はいない、って事になっているけど。隔離病棟をこっそりと私物化して、スパイを匿っている可能性あるから」
ペチュア「そうなのよね。あそこは元々精神科の持ち物だったのに、いつの間にか心療内科に管轄権を取られていた。誰も近寄らない隠し部屋欲しさに、医局を買収して持ち主を書き換えたのかもしれないわ」
ウルスラ「もしかしたら、イルミナを埋め込まれたウィッチ隊の何人かはそこにいるかもしれませんね」
ヴェール「そうなるとかなり厄介になるね、病院自体がデッカイ戦場になるから。まあ、下手に動けばあっちも不都合だから、病院を戦場にしようとは思わないかもね。万が一病院で騒ぎを起こしたら、自分も動きづらくなるから。シャイタンは用心深いから尚更ね」
ウルスラ「どうしましょうか。病院を戦場にする訳にもいきませんからね。」
ペチュア「無難な線をいくなら、なるべく外に誘い出したいわ。もしくは、隔離病棟を封鎖するしかないわね」
ウルスラ「隔離病棟の封鎖ですか。確かに可能ならそれもありかもしれませんね。」
ペチュア「まあ、封鎖するとなると結構面倒なのよね。下手に動けば、勘づかれたと思って強硬策を取りかねないから」
ウルスラ「1番動きやすいのはどの科にも所属してない私かもしれません。まあ、エイラさんの口から割れてたら意味無いかもしれませんけどね。」
ハルトマン「エイラは未来が読めるからね。未来視でも干渉できないリダン達の助けは要るかも」
ウルスラ「そうですね。リダンさん。ぺチュアさん。一緒に来て手を貸して貰えませんか?」
ペチュア「ええ、いいわよ。久しぶりの未来視持ちとの対決で、内心ワクワクしてるのよね」
リダン「最終的には、彼女を確保してみよう。協力するよ。」
ウルスラ「ありがとうこざいます。それでは、隔離病棟に行きましょうか。」
ペチュア「あそこにもカメラはいくつかあるわ。元々は脱走者チェック用だけど、監視に流用してるかもね」
ウルスラ「そういえば、ぺチュアさんの能力でカメラを止める事ってできるんですか?」
ペチュア「映像に形はないから、流石に無理ね。でも、カメラの動作なら止められるわ。ほんの少しだけカメラの動きを止めて、素早く作業しましょう」
ヴェール「ドアの封鎖くらいなら、私の能力を使えば数分あれば終わるよ~」
ウルスラ「成程。ヴェールさんの能力でドアを封じるんですね。お願いします!」
ハルトマン「4人が行くなら私も行った方が良いかもね。周りを見張る役もいるでしょ?」
ウルスラ「そうですね。お願いします姉様。」
そう言って5人は病院の隔離病棟に向かった
ヴェール「それじゃあ、カメラの死角を突いて作業するね~」
ウルスラ「お願いします。ヴェールさん。…建物の中に入って何かさぐれたら良いんですけど、どうしましょうか?」
ヴェール「下手に顔を見られたらまずいからね~。内部はリダンに任せよっか。リダンなら何かあっても逃げられるし」
リダン「分かった。可能な限り探ってみよう。」
その時茂みの向こうからサーニャがやって来た
サーニャ「あ、ウルスラさん。無事だったんですね。良かったです。」
ウルスラ「サーニャさん!何故ここに?」
ヴェール「あれ?エルデ教授達はどうしたの?」
サーニャ「実は30分前程にアルテアちゃんが私の家を襲撃してきたので、1発決めて気絶させてから急いでエルデ教授達とウルスラさんの研究所に向かったんです。その時、空からウルスラさん達が見えたので降ろしてもらったんです。」
ハルトマン「もう嗅ぎつけてきたってわけか…。しかし、アルテア単騎で竜人3人もいる拠点を襲撃とはね、イルミナ2つの強化力は相当自信あるんだろうね」
サーニャ「なんとか、不意は付けたんですけど、恐らく2度は通用しないです。何より、身体能力が人間では考えられないレベルです。」
ウルスラ「イルミナに関する文献は、私も読んだ事あります。その文献には、かつてウィッチの連合軍が確立する以前に作られた、対ネウロイ用人造強化人間計画とありましたね。身体能力を常人の10倍以上に高め、ネウロイも素手で倒せるような力を発揮します。エネルギーも大気や太陽光から直接生成して、飲食なしで生き続ける事も可能だそうです」
サーニャ「それは、ヤバいというレベルじゃないですね…それと、襲撃がある前にエイラから電話があって、スオムスが連合軍を裏切ったから自分は処刑されるって電話があったんですけど、本当なんですか?」
ハルトマン「サーニャン、それはエイラがこっちを騙すために敷いたデマだよ。スオムスがあっち側に付いたのは事実だけど、エイラは既にシャイタン配下だから、逮捕を免れてるよ」
サーニャ「え!じゃあ…エイラは私達の…敵に?」
ハルトマン「そうだね、どういう経緯で寝返ったかは分からないけど。サーニャンの家に逃げてきたなんて嘘までついて、私達をゆすろうとしたからね」
サーニャはエイラの裏切りにショックを受けたのか膝から崩れ落ちた。
サーニャ「そんな…エイラの事信じてたのに・・・」
ハルトマン「私も正直飲み込めてないよ…、リーネやアルテアに続いて3人目だもん…。1度皆を集めた方がいいね…。一応、同じスオムスのニパ子は早急に拘束させたよ。今はロスマン先生が尋問してるって」
サーニャ「うん…そうだね。ハルトマンさん。」
ウルスラ「初めからあちら側なのか、スオムス軍がシャイタン側に付いた事で寝返ったかはまだ分かりません。ただ、エイラさんもイルミナの恩恵を受けていれば固有魔法が復活しているでしょうから、あらゆる手が全て読まれ勝機は見い出せませんね」
リダン「だから、こちらが読まれた行動の軌道修正を裏から行う必要が出たんだ。万が一の時は、時空の狭間に隠してあるIBM5100でも引っ張ってくるか、あれならレギュレーターの範囲を超えた時間移動が可能だからね。もっとも、あれを使うと世界線そのものが変動するリスクがあるから、場合によっては悪化する可能性もあるけど…」
ヴェール「話してる所悪いけど、取り敢えずドアの固定は終わったわよ。急いで研究所に戻りましょ!」
ハルトマン「そうだね、素早く帰還だね!」
6人はカメラに移らないように急いで研究所に移動した。