(ヤベェ奴とチームになっちまった……)
士道龍聖と葛城当率いるチームZ。
その中で今だ存在を主張出来ずに埋もれていた彼──BLランキング299/300位、“オニごっこ”により各棟で1名ずつ脱落した現在、275位の
(士道は誰が見ても明らかにヤベェけど、葛城って人も相当ヤバいッ)
あの時、葉隠は視てしまったのだ。士道にそしられた時の、葛城の虚無の眼。アレは明らかに沸点の振り切れている眼だった。だというのにその後も何事も無かったように振る舞う葛城に、葉隠の直感は警報を鳴らしていた。
そしてそれは正しかった。
(この3日間でやった体力テストもキツかったけど、それ以上にコイツらのせいで俺らは……ッ)
入寮してからすでに3日。体力テストと告げられひたすら動き回る傍ら、士道による暴力と葛城による
「俺の爆発に着いてこれねーヤツは死ね」
脅威の身体能力を発揮する士道龍聖。
人間離れしたその動きに着いていける人間はもちろん皆無。「退屈すぎる」とボヤきながら殴る蹴るの暴行に抗える者も居なかった。
「いいか?俺の言うことは絶対だ。得点王の俺の指示に従え」
ただ1人、葛城当を除いて。
彼は最初こそ横暴な士道を言葉だけで諌めていたが、御しきれないと悟るとついに本性を現した。
荒ぶる士道の踵落としを真正面から両腕で受け止め、そのまま一本背負いの要領で壁に向かって投げたのだ。
「うひょう!スゲー筋肉ぅ」
投げられた士道は持ち前の運動神経で軽やかに壁に着地。この時ようやく彼の脳内に『葛城当』が
対峙する悪魔2人。
「……実は俺も、暴力は得意なんだよ。ヤるか?」
「いいね♪こんなショボい運動してるよか元気ハツラツだぜぃ!」
一足触発の雰囲気になったが、そこで絵心からストップが掛かった。この時、仲介が入らなければ本当に乱闘になっていただろう。
ホッとしたのも束の間、今度は葛城が他メンバーに喰いかかる。
「お前らもお前らだ。なんでそんなに動けないんだ?」
そこから地獄の始まりだ。
体力テストで成績の低い者に『指導』と称して葛城考案の筋トレが課せられたのである。
ただでさえ体力テストがキツく、その上に士道の暴力は止まず、葛城の監視の下で筋トレだ。
これにより士道と葛城を除くチームZの面々は心身共にズタボロになったが、葉隠だけはまだ心が折れていなかった。
(俺は世界一のストライカーになりに来たんだ!こんな逆境なんかに負けてたまるかよッ!)
彼にはこの思いともうひとつ、人一倍視線に敏感な感覚を持っていた。これにより悪魔たちの視界から逃れ続け、他メンバーより比較的消耗せず3日後を迎えた。
『これより一次
絵心の宣言。そしてついに訪れる、伍号棟全5チームによる総当たりリーグ戦。
初戦、チームZvs.チームX──……
「よっしゃ、よーやく爆発の
「お前ら、俺の指示通り動けよ。
(ようやく、サッカーが出来る……!)
エゴイスト2人に最早逆らう気もないチームメイトの中、葉隠のみが目に闘志を燃やして人工芝に足を踏み入れた。
士気は最悪と言っていい中、試合は無慈悲に始まった。
──KICK OFF!!
「チッ、相手は石狩かよ」
葛城が思わず舌打つ。
チームXの筆頭は高校No.1身長の石狩幸雄だったからだ。
「0からサッカーやれっつーけど、2メートルからやらせてもらうぜ」
初っ端から葛城当vs.石狩幸雄の
「くっ、実際に向かい合うと本当にデカいな……!」
「お前も中々の筋肉だぜ」
早々に足止めされた葛城の前、そこを絶妙なポジショニングで士道が走り抜ける。
「コッチ寄越せ、DV野郎!」
士道の言葉に薄く開いた瞳を向けるが、しかし葛城はこれを無視した。それよりも使い勝手のイイ兵隊がいるからだ。
「葉隠!」
「ああ、分かってるよ!」
葛城の号令に葉隠司が動く。巨影からボールが飛び出し、そのまま流れるようにワンツーを繋げる。
「あん?もうチームプレー出来んのかよ」
驚く石狩の裏に抜け出した葛城が、そのまま有象無象を蹴散らしゴールを決めた。
GOAL!!【チームZ:1-0:チームX】
このチームZ、士気こそ低いが統率力はトップクラスである。薄氷の上に成り立つ悪魔の指揮によって。
「チッ、俺にもボール寄越せよ亭主関白ヤロウ」
「欲しかったら従順になれ、ドラゴンもどき」
チームメイトであるハズの悪魔2人がバチバチとヤり合う。その後方で葉隠がひとり、虎視眈々と機会を狙っていた。
(試合にはなんとか入れる!あとはコイツらの間をどうにか掻い潜ってゴールを……っ)
士道の
そこに物理的に走ってくる巨影が映る。石狩幸雄だ。
「……ズイブン仲がイイじゃねぇか、お前ら」
──RE START!!
言い合う悪魔どもを他所に巨人が走る。
彼の
【Z:1-1:X】GOAL!!
「……どうやって止めるか、アレ」
「おっほ。きもちーくらいの真っ正面突破」
関心する士道だが、葉隠も葛城の言葉と全く同じ思いだった。
あの巨体と競り合える人間は皆無。つまり空中戦は石狩の独壇場、
「つまり、マイボール時点での点取り合戦……ッ」
そうなれば不利なのはチームZだ。点を得るには石狩という山を毎回越えなければならないからだ。
「上等だ。お前ら、キビキビ動けよ」
──RE START!!
葛城の号令にチームZ全員が動き出す。葛城を中心としたパスワークで中盤を支配、隙をついて点を取る動きだ。
「チームとしちゃ完成してるが、ワンマンなのがモロバレだぜ」
石狩が葛城をピタリとマークする。視点の高い彼はチームZのキーマンが彼である事を遥か高みから見抜いていたのだ。
これでは自分へのパスを通せない。葛城が悪態をついた。
「クソっ!」
(ッここがチャンスだ!)
瞬間、ボールをキープしていた葉隠が動いた。
石狩が抜けた穴をドリブルで突破しようとしたが──
「させっかよ!」
「石狩だけだと思うな!」
チームXの面々が群がってくる。石狩が特別目立って忘れていたが、その他のメンツも葉隠よりランキング上位者なのだ。これを1人で切り抜けるにはあまりに無謀すぎる。
「コッチだ、葉隠司!」
「ッ!」
その叫びに視線を向ければ、コチラに走り寄ってくる士道龍聖の姿が。葉隠の眼が戦況を読み取る。
(良い位置!ワンツー突破だ、クソ士道!)
暴力を振るわれたが、それでも勝利のためと割り切ってパスを出す。そのままゴール前に抜け出して葉隠がシュートを打つ算段だったが──
「ナイスパス♪」
士道はその場で
GOAL!!【Z:2-1:X】
「な……、バケモンかよ!?」
愕然とする葉隠。
特級の身体能力だとは理解していたが、驚くべきはその
想像のナナメ上を行く、もはや奇行とも呼べる動き。
搭載された肉体と思考が、根本から違う。これが士道龍聖のサッカー。
「サーカスにでも居たのか?さぞ観客が沸いただろうな」
「山を越えられねぇならその筋肉脱げよ、ハンデで重し付けてんのか?」
ゴールをかっ攫われて面白くない葛城に、爆発を起こせてご機嫌な士道が軽口を叩く。
そこに参加できない葉隠は悔しそうに奥歯を軋ませた。
その後も試合は点取り合戦を繰り広げ、士道・葛城・石狩の三つ巴でノンストップで進む。
【Z:6-6:X】
前半が終わり、後半40分。
チームXの内訳は石狩3点、他3点。石狩にマークを増やした結果、フリーになった選手が得点したのだ。
そしてチームZの内訳は、葛城が2点、士道が4点だ。
葛城を中心にパスを回すZの面々だが、尽く士道が横取りするのだ。その予測不能な
ともあれ両チーム驚異の得点量だが、ここで均衡が崩れた。
「ッはァ、はァ……ッ!」
石狩幸雄が肩で息をし、とうとう片膝をついたのだ。攻守ともに多大に貢献していた弊害だ、ムリもない。
「ふぅ……ようやく崩落したか。よしお前ら、最後は俺にボールを渡せ!勝たせてやる!」
対してエース級2人を擁するチームZには、まだ余裕があった。葛城が激を飛ばし、そのラストプレーが始まった。
──RE START!!
「……せめて同点で終わらせてやる」
石狩の地響きのような低い声。
もはや走り回る体力のない彼は、ゴール前にてその巨体を聳え立たせたのだ。さらにチームX全員が自陣で
「はァ?ツマんねーことしやがって」
途端、見るからにヤル気を無くして歩く士道。彼は点の取り合いを楽しんでいた節があるので、チームXの防御体制に心底落胆したようだ。
「士道!何をチンタラ歩いてる!?」
これに困ったのは葛城だ。
奇想天外に動き回る士道が居なければ、チームXの注意はすべて葛城へ向けられる。防御を固められたこの場面、犬猿の仲といえど攻め手が欠けるのはあまりにもイタかった。
「よっしゃチャンス!」
「囲ってボール奪え!」
「……ックソ!!」
群がるチームX。囲まれ、身動きの取れぬ葛城に諦念の色が浮かんだ、その時。
「葛城!」
「!?」
葉隠司が動いた。
今まで葛城からパサーの役割しか与えられていなかった彼が、この場面で命令違反したのだ。
だが咎める時間も、理由もない。葛城は一瞬の判断でパスを出した。
(決める!俺がッ、ゴールをッッ!)
葛城へ複数人がプレスしたお陰で防御陣形に穴が空いたのだ。ソレを目敏く感じ取った葉隠がひた走る。
背後から葛城が浮かせたボールをトラップした。
(完ッ全に抜け出した!!)
あとはゴールへボールを押し込むだけ。葉隠は目の前を見据え……
「良い動きだが、お前にゃ俺を越えられねぇよ」
ぬおんっ、と山脈が隆起した。
石狩幸雄だ。
身長が高いということは、戦況を誰よりも見渡せるという事。葉隠は上手く動いたが、ゴール手前で全てを視ていた石狩に先回りされていたのだ。
「ッな!?」
「惜しかったが、引き分けだな」
石狩の影が葉隠を覆い隠し、シュート寸前のボールを文字通り蹴散らした。
残り時間、数秒。ボールが
「引き分け?なんじゃそりゃ」
そこに1匹の悪魔──士道龍聖が居た。
「は?」
「なんで居る……ッ士道!」
完全にクリアしたと思った石狩が呆け、視てる事しか出来なかった葛城が叫ぶ。
そんな有象無象を意に介さず、士道の
GOAL!!【Z:7-6:X】
『ピッピー!試合終了!勝者、チームZ!』
アナウンスが響き渡り、チームXの面々が崩れ落ちる。引き分けで終えられると思った試合が一瞬で覆されたのだ、あの石狩でさえ動揺を隠せないでいた。
そしてそれは、チームZも同じだった。
「士道、お前!最後だけ持っていきやがって……ッ!」
葛城が睨む。
士道が最初から動いていれば、それを囮に自分がゴールを奪う算段だったからだ。その予定を崩されただけに留まらず、最後のオイシイ所だけを持っていかれて怒髪天を貫く思いだった。
だが肝心の士道は何処吹く風だ。
「あ?俺は俺のゴールのために生きてんだ。かっつぁんの介護なんざしたくねーっつの」
「かい……ッ!?」と言葉に詰まる葛城を他所に、「ふぃーいい汗かいた。なかなかウマかったぜ、ガリガリ君♪」と石狩を労う士道。
その言葉に石狩は苦い顔をした。
「チッ、見下ろしやがって。ムカつくヤツだぜ。……けど、ま、引き分けに逃げたのが敗因か。俺もエゴが足んねーな」
彼はすでに次を見据えており、決意新たに立ち上がる。
その時、横で座り込む葉隠に声を掛けた。
「オメーも頑張れよ。あんな奴とチームメイトなのは同情するがよ」
「……」
葉隠はその言葉に、何も返す気力がなかった。
(俺は……何も通用しなかった……)
第伍号棟、第1試合。
──勝者、チームZ