ブルーロック─龍の始動─   作:へるしぃーぼでぃ

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VS.チームY

 

 

『武器を持て、破壊者(ストライカー)よ!!敵の組織を翻弄し!ねじ伏せ!破壊する!!己だけの“武器”を!!』

 

「己だけの武器、か……」

 

葛城の呟きが、狭い室内に木霊する。

チームZミーティングルームにて、絵心甚八からのメッセージに受けた彼は深く思案していた。他の物は皆、葛城の次の言動にビクビクするのに忙しく、ただ静かに待機している。

その中で葉隠だけは、脳内でvs.チームX戦のシミュレーションを繰り返していた。

 

(あの時ああしていれば……いや、やっぱりコッチへ動いた方が……)

 

特に思い返されるのは終盤のシーン。完全にゴール前に抜け出せたのに、肝心のシュートが打てなかった。

葛城のような肉体(フィジカル)があれば。

士道のように奇想天外なシュート力があれば、と悔やまずにはいられない。

だが、ないものねだりしても仕方がないことは分かっている。しかし明確な“武器”が思い浮かばない今、彼の思考は泥沼に沈んでいた。

 

「葉隠……葉隠司!」

 

「ッ!、ハイ!」

 

怒号にビクリと肩を跳ね上げる葉隠。

そんな彼に葛城はため息を吐き、互いの鼻の頭が付きそうなほどにまで接近してきた。

口と細目が薄ら開かれ、一言ずつゆっくりと喋る。

 

「しっかりしてくれよ。お前には、働いてもらわないと困るんだから」

 

「あ、ああ……、悪い。昨日のプレーを思い返しててさ」

 

粘度と言えばいいのか、囁かれた言葉が背筋にゾワゾワと来た葉隠はゆっくり椅子ごと後退しながら謝った。

だが葛城は獲物を逃がさない。ゴツい腕がヌゥ、と葉隠に追ってきた。

殴られる!と思った葉隠が両腕でガードしたが、しかし彼に訪れたのは痛覚ではなかった。

ポン、と両肩に優しく手のひらが置かれた。予想外の行動に葉隠が呆けていると、ニッコニコな笑みを浮かべた葛城にグイグイ椅子ごと引き寄せられた。

 

「なるほど。いや、昨日の君のラストプレー、俺は評価しているんだよ。やはり自発的な動きをしてくれると、司令塔としてたいへん助かるからな」

 

そう言ってチラリと他チームメイトに笑ってない目を配る葛城。その視線に気付いているのかいないのか、全員の視線は何もない机の上に釘付けだ。何人かは頭を抑えて震えたり、吐き気を催したように口元を抑えているが。

彼らの反応に再びのため息を吐く葛城。

 

「従順なのはいい事なんだが……な。だから君には期待しているよ、葉隠くん」

 

「ッ……期待してくれてんのはありがたいけど、俺には誇れるような武器がないんだ。あんまり期待されても困るよ……」

 

耳元で囁かれ、ゾワゾワ度がさらに増した葉隠は逃げるように立ち上がった。葛城が何故か残念そうな表情を作るが、屈んだ姿勢を元に戻すと自暴自棄気味な葉隠へ啓司を示した。

 

「いやいや、君には立派な武器があるじゃないか。コチラの意図を素早く汲んだり、些細なチャンスに抜け目なく走り込む……すなわち“洞察眼”が」

 

目立つ能力ではないが、しかし戦場(ピッチ)上においては重要な能力。葛城は1試合を経ただけで、無自覚な葉隠へ明確なアドバイスを贈ってみせた。

 

「洞察眼……!?いや、あんまり自覚が……」

 

「まぁ、分かりづらい能力ではある。だがすごい能力だぞ!……ただ、惜しむらくはその自覚のなさと、もうひとつ」

 

ピッ、と太い指が葉隠の胸を突き立てた。

 

「圧倒的な身体能力の低さだ。だが心配するな!俺が、今から、徹底的に、鍛えてやる」

 

ニッカリと輝くような笑顔だが、葉隠の洞察力は見抜いていた。その眼がドロドロに濁っていることに──……

 

 

 

 

「ここに居たのか、士道」

 

チームZ、トレーニングフィールド。

葛城が1人で訪れた先には、彼の目当ての人物が独りで生命活動(サッカー)に励んでいた。

目当ての人物──士道龍聖は葛城をチラリと一瞥すると、おもむろにシュートを放った。

ダアァン!と葛城の顔面──の真横の壁に叩き付けられ、そのボールは士道の足下へ返っていく。葛城はこの時、微動だにせず静かに佇んでいた。

 

「んあ?かっつぁんじゃん。使えない兵隊どもの教育(きょーいく)は終わったのか?」

 

あっけらかんと言い放つ士道。

まるで今葛城の存在に気付いたとばかりに普通に話し始める士道に、葛城は気にした様子もなく歩を進めた。

 

「ああ、結構な逸材を見つけてね。次の試合には間に合わないだろうが、その次の試合にはそこそこ動けるようになってるはずだ。……だから、お前に『お願い』に来たんだ」

 

「ああん?」

 

訝しむ士道を他所に、葛城は仰々しく頭を下げた。

 

「次の試合だけでいい、俺とポストプレーを組んでくれ。このリーグ戦、2試合勝てばほぼ勝ち上がりが確定する。伍号棟最上位チームVと戦う前に、そのラインを越えておきたいんだ」

 

この提案を、彼は本気で持ちかけていた。

憎たらしいが、チーム内得点王は士道が掴むだろう。それは初戦で5点も取られた事から容易に想像できる。

得点さえ入ればチームZが脱落する確率は低い。が、懸念事項は士道の性格・習性だ。

暴力的な彼はいつ爆発するか分からない不発弾のようなモノ。処理をするなら的確に、迅速にせねばならない。

そしてこの処理の成否は……

 

「はァ?やっぱなんも分かってねぇな、かっつぁんはよ。いいか?俺にとってサッカーは……」

 

「あ、そう。じゃあいいよ。おやすみ」

 

語り始めた士道を遮り、葛城は踵を返す。

さすがの士道もこれには一瞬呆けたが、直ぐに青筋を浮かべて蹴撃動作(シュートモーション)に入った。

 

「オイこら待てよッデクの坊!」

 

加減ナシ。全力のシュートが今度は確実に頭を狙って放たれた。

葛城の後頭部へ一直線に突き進むボールは、バシン!!と盛大な破裂音とともにあさっての方向へ弾かれた。

葛城が振り向きざま、拳でボールを弾き飛ばしたのだ。その横顔には不敵な笑みが浮かべながら。

 

「その調子で次の試合……チームY戦も暴れてくれよ?暴れん坊士道くん」

 

そのまま自動ドアの向こうへ消えていく葛城。

後に残された士道は機嫌悪そうに「ハッ、テメェの暴君ぶりには負けるぜ」と閉まったドアに吐き捨てた。

 

 

 

──伍号棟、第4試合。

チームZvs.チームY──KICK OFF!!

 

その戦いは、異様な試合内容だった。

開幕、ドリブルする士道へチームYの選手が強引なタックルをかましたのだ。

 

『チームY、悪質なタックルによるファウル!イエローカード!』

 

「へへ、悪い悪い」

 

「あ?なにヘラヘラしてんだ、テメー」

 

悪気のなさそうな、どう見てもワザとな態度に士道が“爆発”した。

顔面に膝蹴り、からの脳天への踵落とし。ゴシャ、と嫌な音を立てて、その選手は人工芝に転がった。再びの警笛が鳴り響く。

 

『チームZ、明らかな暴力行為のためレッドカード!士道龍聖、退場!』

 

「チッ!自殺志願者を殺しただけだろーが!あーやってらんねー」

 

言いながら、本当にヤル気を無くした様子の士道はそのまま退場していった。ブチのめされた選手も再起不能と見なされ、この試合は10人対10人という異例の流れで再開された。

 

「ふふ、扱いやすくていいね」

 

背後から聞こえたこの言葉に葉隠は振り向く。そこに居た葛城の表情は、あの粘りつくような笑みを浮かべていた。だが直ぐにソレは消えて、いつもの細目に戻る。

 

「ん?どうしたんだ、葉隠?」

 

「……アンタ、もしかして相手チームと、何か……」

 

その問いは、葛城の人差し指により遮られた。立てられた人差し指が、葉隠の喉仏をグリッと押し込んだのだ。

 

「ッ!?かハッ!」

 

「なんの事だかサッパリだ。チームZ最大の得点者(ポイントゲッター)を退場させて、なんのメリットがあるのか俺が教えて欲しいよ」

 

咳き込み、喉を抑えて涙目になる葉隠は視ていた。葛城の顔が、どう見ても恍惚の笑みを浮かべているところを。

その後、チームYは立て続けに2点を獲得。この時、チームZは露骨なほどにボールに触れることはなく、前半を終えた。

そして後半戦。

 

「さて、そろそろいいかな」

 

葛城のこの言葉に「え、約束が違っ」とチームYの誰かが叫んだが、本気になった葛城とその兵隊は無類の強さを発揮。3点をむしり取る。

だがここで葛城にとって不測の事態が起きた。 チームYが「クソがァ!」と奮闘し、どうにか1点を獲得。そこで試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

「……ま、いいか。これで士道とは五分五分だ」

 

葛城は今回、すべての得点の終弾者(フィニッシャー)だ。これで士道の5点と並ぶ。

 

(コイツ、ここまで計算して……ッ)

 

葉隠はただ1人、この狂気の男に戦慄していた。戦慄する事しか、できなかった。

 

伍号棟、第4試合。

【Z:3-3:Y】

──勝敗、DRAW

 

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