ブルーロック─龍の始動─   作:へるしぃーぼでぃ

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VS.チームW(後半戦)

 

第伍号棟7試合、2nd HALF

──KICK OFF!!

 

チームZボールから試合再開。

彼らはパスを細かく繋ぎ、中盤をジワジワと押し上げていく。間違っても時光にボールを触れさせないよう細心の注意を払いつつ、ボールはゴールマウス手前約30mの位置で葛城当へ渡った。

ここまでは順調、彼はチラリと戦場を見渡す。

 

(さて、葉隠の作戦通りここで俺がボールキープするが、果たして……)

 

葉隠の話はこうだ。

まず、体格の良い葛城がポストプレーに徹し、最後方(アンカー)となって溜めを作る。そしてその瞬間を、アイツ(・・・)が見逃さないだろうと。

 

「かっつぁん!」

 

士道龍聖が駆ける。

その不規則かつ大胆な動き出し(オフザボール)に、マークしていたW守備(ディフェ)2人がまとめて置き去りにされる。ここへパスを出せば決定機だが……

 

「行かせなぁい!」

 

「ぬァ!?ネガ肉マン!?」

 

そこへ時光青志が割り込んできた。彼の俊敏性(クイックネス)なら士道の敏捷性(アジリティ)に張り合える。前半戦の士道の得点能力を視て、チームWも陣形(フォーメーション)を変えてきたらしい。

目の前で繰り広げられる光景に、葛城はゾクリと背筋が震えた。

 

(ウソだろ!?全部……全員の動きが葉隠の言った通りじゃないか!?)

 

ロッカールームで聞いた、後半開始時の計画(プラン)。葛城がパサーを担うことにより、士道へ時光がマークに付き、その()が自由になると──……

 

(全員が俺と士道に注目する中、俺からしか視えない無人のスペースを、お前は……ッ!?)

 

葛城からの視界。そこに映るのは、ただ1人自由(フリー)な葉隠司がゴールへ駆ける姿が。

 

「……ッ、点を決めろよ!葉隠!」

 

ドッ!と放たれた葛城のパスは、周囲の人間にとってヤケクソパスに見えただろう。

だがボールの落下地点、そこにはピンポイントでパスを受け取るストライカー(エゴイスト)が居た。

 

「ナイスパス」

 

トラップし、ゴールへ迫る葉隠。

呆気に取られたキーパーは瞬時の判断で前に出てくるが、それも葉隠の台本(読み)通りであった。

ポン、とキーパーの頭を山なりに越えるシュート。

 

「あ」

 

キーパーの間抜けな声が響く中、パサリと湾曲蹴弾(ループシュート)が決まった。

 

GOAL!!【Z:3-2:W】

 

それは、あまりに静かな逆転だった。敵はおろか、仲間すらも呆気に取られる葉隠のプレー。

静寂の中、1番最初に反応したのは士道龍聖だった。

 

「ありゃりゃ、かっつぁんにスルーされちった。まさかの葉隠ちゃんかよ、テメェ……」

 

出し抜かれた形となった士道。その眼がジロリと葉隠を睨み、ヘビに睨まれたカエルは思わず身構えたが……

 

「中々テクニシャンじゃん!俺とは別種の“爆発”を感じたぜぃ♪」

 

そう言ってにこやかに笑う士道。呆気に取られる葉隠。

本来ならば士道のモノだったゴールを奪って得点したのだ。この結果、理不尽極まる士道から暴力を振るわれる覚悟をしていた葉隠は、この明るい士道にひどく困惑した。どうやら彼は好プレーには好意を示せる生物らしい。

 

「……“爆発”か。これがお前の感じてる世界……」

 

青い監獄(ブルーロック)”へ来て、初のゴールだ。しかも全てを思い通りに動かしての得点。

指先が震える。いや、全身が、心が、脳ミソが興奮の熱に包まれていた。

今、葉隠は初めて『サッカー』を理解した気がした。

 

(……っイケる!俺は、俺の能力は通用する!自分の武器(持ちモノ)を識っているっていうのは、こんなにも重要な事だったのか!)

 

葛城から指摘された“洞察眼”という武器。ソレを意識し使いこなした視界は、まさに世界が違って視えた。

 

(葛城、お前には感謝するよ。お前のお陰で新しい自分を識れたし、チームZはまだギリギリ生き残れる稜線にいる。恩返しってワケじゃないけど、ナニかに躓いてる今のお前を……チームZを俺が引っ張ってやる!)

 

自分を識り強者から肯定され、結果(ゴール)を決めた事によりかつてない『自信』に溢れる葉隠。

ストライカーとして1歩を踏み出した彼の背を、膝をつく葛城はただ見上げることしか出来なかった。

 

「負けたくない負けたくない!ゴール!ゴール!ゴール!!」

 

──RE START!!

再開速攻、叫び散らす時光青志が直線走行(ラインスプリント)で駆け抜けてきた。他のWのメンツはサポート程度に2人上がってくるだけで、残り8人は引いてガチガチの守備体制だ。

 

「点取って調子乗ってるトコ悪いが、コッチにはエンジンの掛かった時光が居んだよ!この陣形(フォーメーション)で一気に終わらせてやるぜ!」

 

Wの参謀役が叫ぶ。もはや小細工なし、単純な(パワー)で潰しにきた。

士道も、葛城ですら止められない時光の特攻だ。この戦法で点を取られ続けたら、もはやチームZに勝機はない。

 

「俺がやる」

 

ザッ、と時光の前に立ちはだかったのは、葉隠司だ。彼は悪魔たちでも止められなかったこの怪物と、無謀にもたった1人で対戦(マッチアップ)した。その眼に熱を灯して。

 

「どいてぇ!」

 

猛進する時光はその勢いのまま咬合踏襲(シザーステップ)

バババ!と左右に激しく動く時光に対し、葉隠は眼と脳を最大限に働かせる。

 

(ッ、目の前で視ると想像以上に速い!)

 

「あ、抜けた」

 

反応すら出来ず抜き去られる。そのまま時光のシュートがゴールネットを叩いた。

 

【Z:3-3:W】GOAL!!

 

コレに見かねた葛城が葉隠の肩に手を置く。威勢よく名乗りをあげた手前、アッサリ抜かれて精神的ダメージがデカいだろうと彼なりに気遣った行動だ。

 

「……時光(アイツ)を止めるのは不可能だと割り切れ、葉隠。ここからは点取り合戦(シーソーゲーム)になる、細かくパスを繋いで……って、おい?」

 

時光を止めることを諦めた葛城がそう話し掛けるが、しかし相手から反応がない。顔を覗き込むと、眼を見開いてブツブツと考え込む葉隠が居た。

 

「速いけどパターンやクセが読めれば……、もう1度視ればイケるか?」

 

その異様な雰囲気に、ゾクリと背筋が凍った。自身が攻略を諦めた時光を、全身体能力が劣る葉隠はまだ止めるつもりなのだ。

 

(いや、それよりも前半の終わり頃から様子がおかしい。段々とコイツの考えてることが分からなくなってきた)

 

試合開始時はまだ思考を読めた。自分と士道を利用し、チームZとして生き残る算段だと。

だが今の彼は違う。敵わぬ相手に挑み続け、負けてなお心が折れない彼の胸中をまったく想像できなかった。

心揺れる葛城を余所に、試合は再開される。

 

──RE START!!

 

「イっくぜぃ葉隠ちゃん!」

 

「ああ、走れ士道!」

 

勢いよく駆ける両者。それを止めようと時光が動き、周りもその熱に浮かされ活性化していく。

1人取り残された葛城が、呆然と戦況を読み取っていた。

 

(今、このフィールドで1番『実力』があるのは、士道と時光、次点で俺だ。……そして葉隠、お前は俺たちの足下にも及ばない羽虫のような実力しかなかったハズだ)

 

実力主義。それが根幹にある葛城はいつしか、視ただけである程度の実力を測れる『眼』を持っていた。そして今、その眼が捉える光景は……

 

(それがこの試合中、急激に上がり……ッ俺と同じにまでなっている!ありえない、いくら伸び代があったとしてもっ)

 

鍛錬を施し、アドバイスもした。だがそれは使い勝手を良くする為で、断じて己を喰わせるために育てたのではない。

ならば何故、このような状況に陥っているのか……。

 

(いや、違うな。俺が下がっているんだ。アイツが強くなって俺が弱くなっている、それで簡単に説明がつく)

 

士道と時光という怪物たち。彼らに叩き伏せられやり過ごそうとする者と、立ち上がる者。差が出るのは自明の理だった。

 

(だが俺には、コイツらに勝つビジョンが視えない!俺の身体じゃあ……士道の動きに、時光の肉体にどう足掻いても勝てない!)

 

今まで肉体(フィジカル)で負けたことはなかった。一時は暴力という想定外の壁に当たったが、それも『そういう使い方』を学べば敵ではなかった。

そう、今この瞬間。葛城当は初めての『挫折』を味わっていた。

 

(葉隠……お前は、いつもこんな屈辱に身を置いていたというのか!?)

 

パスを繋いでゴールを狙う汗だくな葉隠の姿に、葛城は畏敬の念を抱いた。かつて見下していた者の、圧倒的弱者ゆえの『強さ』を垣間見て……。

 

(……そうだ。『実力』は『覚悟』だと、あの時識ったハズじゃないか。だが俺はあの時『暴力』で返したせいで、結局本質を捉えていなかった)

 

葛城はあの時、選択を間違えたのだ。正解が選択肢に浮かびながらも、環境が、性根が、思考が歪曲していたせいで道を踏み外してしまった。

ならばどうするか。その答えは、今目の前で弱者が繰り広げていた。

 

(俺は……弱い。それを認めて、今はただ走れ!)

 

 

 

 

「ゴール前で下りるぜ、高速IC(インターチェンジ)!」

 

「ダメダメェ!そこJCT(ジャンクション)だよぉ!」

 

士道龍聖が裏を抜け、そこに時光青志が追いつく。

ゴール前の目まぐるしい攻防。悪魔と怪物の狂騒は余人の介入する余地などなく、ただの有象無象に成り下がる。

ただ1人、葉隠司を除いて。

 

(きっと士道は最終的に時光を抜く!だがそこでパスを出しても、それは『士道の得点』だ。だからこそ!)

 

「!?、葉っぱコンニャロっ!」

 

「!、ヤバ、今パス来たぁ!?」

 

時光を抜ききっていない今、敢えてパスを出す。加えて弱めのパスだ。

位置関係的に時光が先にボールに触れる。しかし。

 

「俺のだ肉マン!」

 

「ちょ待ぁ!?」

 

そこへ強欲で強引な割り込み(インターセプト)。仲間からのパスであるのに敵から強奪しなければならないとはなんたる矛盾。

2人の怪物の取り合いの末、弾かれたボールはチームZの1人がトラップ。ゴールのために動くマシーンと化している彼は、それをすかさずゴール前へ蹴り上げた。

 

「あぁん!?」

 

「俺たちの後ろ!?」

 

「お前らをゴール前から引き剥がすのが、俺の狙いだ」

 

そこには、さっきまで士道たちが争っていたゴール前に走り込む葉隠が。

今の一連のプレー、まず弱いパスを出したのは2人を釣り出すエサだ。そして彼らが喰いついている間に葉隠は入れ替わりにゴール前へ走行(ラン)、ド自由(フリー)でシュートを放つ……

 

「させるかぁ!」

 

「!?」

 

Wの参謀役が、シュート寸前の葉隠にタックルした。ドシャァ!と2人は勢いよく倒れ込む。

 

『ピピー!チームW、イエローカード!Zのフリーキックで再開!』

 

警笛が鳴り響く中、葉隠は倒れ込むその人物に手を貸した。「悪ぃ、勢いつけすぎた」と素直に謝ってくるソイツに、葉隠は質問した。

 

「……どうして俺の動きを読めたんだ?完璧に出し抜けたと思ったんだけど」

 

「簡単だ。さっきのお前のゴールを見てからずっと注意してたからな。それでもギリだったワケだけど」

 

そう言って「ファウルして悪かったな」とゴール前の壁に去っていく。葉隠はこの時、複雑な心境が厳つい顔として出ていた。

 

(……ゴールを止められて悔しいけど、ヤベぇ!士道や葛城を差し置いて俺を注意してたっていう事に喜んじまった!クソ、ニヤつきそうになる……!)

 

緩む表情筋を必死に抑える葉隠。

そんな彼の背後から、悪魔の触覚がボールの前に立った。

 

「オイ葉っぱ野郎。このボール(フリーキック)俺に蹴らせろ」

 

「ん?ああ、ソレは俺も言おうとしてたところだ、士道」

 

あっけらかんと言う葉隠に、話を持ちかけた士道の方が「はあ?」と聞き返してしまう。

そんな彼など置いておいて、葉隠は淡々と説明していく。

 

「俺のキック力じゃどう足掻いてもゴールは奪えない。そしてパスを出そうものなら時光の俊敏性(クイックネス)の餌食だ。だったらもう潔く、お前が蹴って点を取った方が利口だ」

 

つらつらと述べる葉隠に「もういーよ、要は俺が好きにしちゃってイイって事だろ?」と早速蹴撃動作(シュートモーション)に入る。

ドシュ!とゴール枠上角に直下蹴弾(ドライヴシュート)が放たれた。

 

「流石に目の前で撃たれればッ!」

 

Wのキーパーが飛び付く。ゴール前で士道がシュート一択なのはフィールドの共通認識。指先がボールにかすり、ゴガン!とポストに当たって弾かれた。

 

「カ、カ、反撃(カウンター)!」

 

こぼれ球(セカンドボール)を拾ったのは、時光。震える声とは裏腹にイチ速くボールに辿り着いた彼は、そのまま1人で駆け出していく。

そこに、その男は居た。

 

「止まれ、時光」

 

チームZ、葛城当だ。相対(マッチング)した時光青志が叫ぶ。

 

「そこどいてぇ!弱い人ぉ!」

 

バババ!と激しい咬合踏襲(シザーステップ)。常人では反応することすら出来ない時光のステップワークに、葛城はその肉体を走らせた。

──真後ろへ。

 

「へあ!?」

 

「お前と真正面から戦うなんてバカらしい。弱者なら、弱者なりの戦い方があるんだよ!」

 

半身で並走し続ける葛城。ボールは自陣に持ち込まれるが、絶妙な間合いでドリブルを封じパスコースを消し、タッチライン際で時光を抑え続けることに成功していた。

 

「ぬあぁっ邪魔ぁ!」

 

「っぐ、この!?」

 

時光が強引に突破しようとするが、葛城とぶつかりボールだけが飛び出る。

──そこにサッカーに於ける、ラプラスの悪魔が待っていた。

 

「ごっつぁんリターンズ!」

 

「うぇ!?」

 

「士道!?」

 

驚く2人を置き去りに、疾走する士道龍聖。カウンター返しだ。

ギャギャギャ!と圧倒的な敏捷性(アジリティ)でチームWをブチ抜き、瞬く間にゴール前へ。

 

「そう何度もヤられてたまるかぁ!」

 

そこへWの参謀役が仲間を2人引き連れ、塊となって躍り出た。人海戦術で士道を潰すつもりだ。

 

「今はジャマだ!乱交パーティー!」

 

だが士道は止まらない。ボールを蹴り上げ、その一瞬で3人の壁の裏へ走り抜ける。そして後はキーパーと1vs.1……

 

「壁は4人だ!」

 

「ッお前も前に出てきてんのかよ!?」

 

3人の壁の向こう、そこにキーパーも前進しており、浮くボールをヘディングで弾き飛ばした。

 

「チッ、くそダリ……、っ!」

 

「セカンド!……あ」

 

ボールの行方を視るために振り向いた士道、そして飛び出したキーパーの視界の先には、葉隠司が蹴撃動作(シュートモーション)に入る姿が。

 

「ここまでご苦労、士道」

 

ポン、と彼らの頭上を超えていく歪曲蹴弾(ループシュート)。今、Wのゴールネットはガラ空き、そこへボールがゆっくりと落ちていく……

 

「まだだぁ!」

 

「な!?」

 

その落下地点、ソコへ駆けるWの参謀が。

彼は士道の壁役の時、視ていたのだ。その奥でこぼれ球(セカンドボール)を待つ葉隠の姿を。そしてキーパーがボールを弾いた瞬間、自陣のゴール前へ一目散に走っていたのだ。

 

「オラァア!」

 

ドガン!と蹴り上げたボールがクロスバーに当たる。

ボールは再びチームWの手に渡り、カウンター返しの返し(・・)が始まった。

 

「爆発が足んねーぞ木っ端ミジンコぉ!」

 

「うっせぇ!お前もまんまと爆弾処理されただろ!」

 

叫び、走る。

速攻のカウンターだっただけに、フィールドの選手は疎らな分布だ。しかも後半戦も後半、さらにカウンターの応酬で全員の体力も消耗していて動きが鈍い。

 

「ボールちょぉだぁい!」

 

「……っくそ!」

 

その中でただ1人、時光青志だけが運動量を落とさず走り回っていた。葛城も食らいついているが、ここへ来て明確な肉体(フィジカル)の差が浮き彫りになっていた。

 

「アイツ、スタミナどんだけ!?」

 

「ヤベぇじゃん、ちょっち追いつけねぇ」

 

走る速さも然ることながら、位置的にもとても追いつけるモノではない。

時光はパスを繋ぎ葛城をブチ抜き、とうとうゴール前で自由(フリー)になった。

 

「あ、やっとゴールだぁ」

 

【Z:3-4:W】GOAL!!

 

後半戦40分、チームWの逆転。

これにWは勝ちを確信して沸き、時光を褒め称える。そんな騒がしい彼らとは裏腹に、Zは静かに話し合っていた。

 

「オイオイかっつぁん。さっきみたいに止めてくれねぇと困るぜぇい」

 

「ハァ……ハァ……ッムチャを言うな。時光(アイツ)のスタミナが異常なんだ、あれをどうにかしないと引き分けすら難しいぞ」

 

「……ああ。だったらもう、一瞬で勝負を仕掛けるしかないな」

 

「何か考えがあるのか?」と葛城の質問に、葉隠は苦肉の策を話した。

 

「背に腹は変えられねぇ。時間もねぇし、士道を使って縦ポン1発でキめる。負けたらもう得点王しか生き残れねぇ瀬戸際だからな」

 

「お、それイイね。やっぱ大爆発(ビックバン)が起きなきゃ生命誕生しねぇもんな」

 

「俺の爆発でお前らを誕生させてやるよ」と速攻で上機嫌になる士道。「ああ、頼んだぞ」と素直に頼る葉隠に、葛城が苦虫を噛み潰したように呟いた。

 

「結局、アイツを頼るしかないのか……!」

 

「……いや、士道は多分、止められる」

 

驚く葛城に、葉隠はその先の計画(プラン)を話した。ソレをプランと言うにはあまりに博打だが、他に方法が思いつかない葛城は静かに覚悟を決めた。

 

「どちらにせよ、もうやるしかない……か」

 

「ああ、走れ士道!」

 

「あいあい、サッサと寄越せよザコども」

 

──RE START!!

開幕、小細工無しにフィールド中央を駆けていく士道龍聖。そして葉隠の予想通り、チームWはそんな士道を徹底マークする動きだ。

 

「ピッタリ張り付かなくていい!人数で囲め!パスが来たら時光だけ飛び込め!」

 

「おーおー、俺人気者?」

 

Wの参謀役が叫ぶ。やはり最得点者(ポイントゲッター)の士道を潰しに来たが、そんなもので止められる悪魔ではない。

 

「敵四苦八苦、俺疾駆ハック!」

 

前後左右、常人には理解できない動きで翻弄する士道。これにより並の選手は置き去りにされるが、並ではない者が2人居た。

 

「意味不明な動き、ストップ!」

 

「あんまナメんな!お前は目立ちすぎだ!」

 

時光青志と、Wの参謀だ。「ありゃ、俺がハックされちった?」と一瞬止まる士道。

そこで戦況が動いた。

 

「士道!」

 

止まった士道へ、葛城からのシュート性の強烈なパスが走った。「ンじゃそりゃあ!?」と流石の士道もソレをシュートに繋げることは出来ず、トラップしながら抗議の叫びを上げる。

その横を葉隠、遅れて葛城の両名が駆ける。

 

「寄越せ士道!縦ポンのルートは読まれてるから作戦変更だ!」

 

「どっちでもいい!パスを出せ!」

 

「図りやがったなテメェらぁ!」

 

叫ぶ(シャウト)する士道に、容赦なくプレスする参謀と時光が考える暇を与えない。青筋を浮かべる士道はシュート性のパスを葛城に出した。

 

「うお!?ったく、どこまでも協調性のない……!」

 

「オラ!返せボール!」

 

強烈なパスに面食らう葛城に、刹那で裏抜けしてきた士道が膨大な熱量を発して怒鳴る。

この瞬間、葛城は迷った。

確かに士道はシュートを撃てる態勢だが、そのすぐ背後には肉体怪物(フィジカルモンスター)時光が居る。シュートする瞬間にタックルでもされれば、流石の士道でも確実に得点できるとは言い難い。

そして迷った理由はそれだけではない。葛城からの視界にはその奥、ど自由(フリー)の葉隠の姿も捉えたのだ。

今の彼なら確実に点を決めてくれるだろうという自信と実績に満ち溢れている。葛城は彼へパスを出そうと、一瞬で判断を下した。

しかし選択肢があるが故の迷い。その一瞬の迷いが、彼の1歩を届かせてしまった。

 

「行かせるかぁ!」

 

「なに!?」

 

葉隠の下へ、Wの参謀がカバーしに動いたのだ。これでは得点するのは難しい。

 

「クソ!」

 

足が止まる葛城。

パスコースはすべて封じられた。士道を利用した、葉隠か自分で点を取るという裏の作戦は失敗した……

 

「何してんだ葛城!お前が撃て!」

 

葉隠の叫びが鼓膜を震わす。

そうだ、と今更ながらその選択肢に気付いた。この試合で尽く自信を喪失してしまい、その考えを放棄していたことに今気が付いた。

 

「フザけんなかっつぁん!お前のシュート力じゃゴールに届かねぇだろ!?」

 

だが士道の言葉も最もだ。ゴールマウスまで約30m。葛城の左足のシュートではギリギリ届かない位置。

 

(いや……、まだ俺には残された“武器”がある)

 

ズキン、とその考えとともに、右足の脛が痛む。

そう、本来ならば彼の利き足は、右。だが怪我をして以来、彼は右足でボールを蹴ることが出来なくなっていた。

 

(ッッダメだ!右で撃つなんて、それこそ数年ぶりだ、マトモに蹴れるかどうかすら怪しい!……かと言って左でゴールするビジョンも視えない!どうすれば……)

 

悩み、行動不能に陥る葛城。精神(メンタル)が地の底の彼は今、もはやサッカーすらマトモに出来ずにいた。

 

「撃たねぇなら寄越せ!カツラ野郎!」

 

「葛城動け!取られるぞ!」

 

「行かせなァい!」

 

「勝つのは……チームW(俺たち)だ!」

 

汗を飛び散らせ、ギラギラ輝く男たちの眼が葛城を射抜く。思い返せばこの試合、自分の存在がとてつもなく霞んでいた。

 

(俺の『実力』は……こんなものだったのか?)

 

愕然とする葛城。

身も心も、何もかも凌駕されたこの試合。半端に『強者』だっただけに挫折を知らずに生きてきた葛城にとって、最底辺からのし上がってきた葉隠司の存在はとりわけ異質。

体格も、技術も自分の方が上。だのに葉隠は今、自分よりも活躍している。すなわち実力を発揮している。

 

(『実力』は、本番で発揮しなきゃ意味がない。なら、俺に足りないのは……)

 

「ッ、葛城後ろ!」

 

葉隠が叫ぶ。

止まってしまった葛城の背後から、Wの1人が迫っていた。Zは今、ほぼ全員が前線に出ている。しかも時間もない。ボールを奪われることは、すなわち敗北に直結していた。

 

「これで俺たちの……勝ちだァ!」

 

タックルしてきたWの選手がボールに触れようとした、瞬間。

その間に肉の壁が立ちはだかった。

 

「ぐはっ!?っな、動かねぇ!?」

 

葛城の肉体から、尋常ではない熱が迸っていた。

 

「……邪魔だ」

 

ザッ!とそこで蹴撃動作(シュートモーション)。振り上げる足は

青い監獄(ブルーロック)”に来てから初めて全霊の力を込められた、右足。

「あ!?そっからシュート!?」

 

「葛城っ、お前まだそんな武器を!?」

 

慄く周囲の声が不思議と遠くに聞こえる。だが葛城の意識は、足下のボールとゴールマウス上角にのみ注がれていた。

 

(俺に足りないのはッ『自分の支配(セルフコントロール)』だ!)

 

ズドンッ!と爆発が如きキック音。

超直線的な軌道。故に最短でゴールへ向かうボールは、警戒していたキーパーを通り越してゴールネットに突き刺さった。

 

GOAL!!【Z:4-4:W】

 

「うぇえ!?何今のぉ!?」

 

「ウソ……だろ……」

 

項垂れるチームWを余所に『ピッピー!試合終了!第7試合、DRAW!』とアナウンスが走る。

同時に、雄々しい雄叫びがフィールドに響き渡った。葛城当の、エゴイストとしての産声だ。

 

「ハハッ、やっぱスゲェ奴だわ、お前は」

 

葉隠の苦笑は、彼の叫びの中に吸い込まれていった。

 

 

伍号棟、第7試合。

【Z:4-4:W】

──勝敗、DRAW

 

 

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