ブルーロック─龍の始動─   作:へるしぃーぼでぃ

6 / 8
VS.チームV(悪魔の始動)

 

 

対W戦を終えたその夜、チームZは歓喜に満ち溢れて……いなかった。

食堂で相席している葛城と葉隠は、真剣な表情で会話(ミーティング)しながらゆっくりと食事を進めていた。

 

「どうにか同点で終えられたが、最終戦は何がなんでも勝たなくてはならなくなってしまった……」

 

「それはしょうがないだろ。むしろ時光みたいな怪物相手に同点(イーブン)だった事を喜ぼうよ。それに俺と葛城もレベルアップしたし、あんまり悲観するような状況じゃないと思うんだけど……」

 

葉隠の言葉に、葛城はステーキをひと口頬張ると静かに首を横に振った。

 

「いや、それを踏まえても次の戦いは厳しいものになるだろう。なんたってチームVには、青森のメッシ西岡がいるんだからな」

 

「誰じゃソイツ?」

 

ドカッ!と向席に褐色の触覚男──士道が座り込んだ。口にはすでにステーキを頬張りつつ、2人の会話にイキナリ入ってくる。

葛城が意外そうに呟いた。

 

「珍しい……というより初めてだな。お前がミーティングに顔を出すなんて」

 

「今のお前らはそこそこ爆発してっからな、その起源を視にきてやったんだ。んで、ニッシーって誰?」

 

あくまでマイペースな士道に苦笑しながら、葉隠は説明した。

 

「その異名の通りだよ。あの世界的ストライカー・メッシみたいに鮮やかなプレーをするんだ」

 

「ほーん。メッシのメッキを被ったニッシーちゃんかぁ。そりゃスゲー」

 

聞いてきたワリにはあまり興味無さそうな士道。葛城が参ったように頭の裏を掻いた。

 

「お前は鍍金(メッキ)と言うが、実際強い。伊達に伍号棟最上位に君臨している奴じゃないぞ」

 

そう、伍号棟とはいえ彼は常にランキングトップに輝いているのだ。冠が偽物だろうと、その実力は本物だという事に変わりはない。

だが士道はその情報を聞いても眉ひとつ動かさず、食べ終えた食器を手に席を立った。

 

「ま、相手が誰だろうと俺は自由に爆発するだけだ。……お前らも仲良くなんのはイイけどよ、馴れ合ってるだけならコレ以上の爆発は期待出来ねぇぜ?」

 

そう言い捨てて食堂から去っていく士道。流星の如く一瞬の着席だった。

彼の言葉に葉隠は「?」と首を傾げ、葛城も難しそうな顔をして押し黙った。

 

「いや馴れ合うっつーか仲良くっつーか、チームZとして勝ち上がるための共同戦線って感じだと俺は思ってるんだけど。……葛城はどう思ってる?」

 

葉隠が不安そうにチラリと視れば、薄く開かれた瞳と眼が合った。妙にネットリとした、湿度の高いその視線が恐ろしかった葉隠は思わず愛想笑いを浮かべる横で、葛城は静かに返答した。

 

「俺は良きチームメイトだと思っているよ。お前が居なければ今頃、チームZは士道の独壇場だっただろう」

 

士道をレッドカードに嵌めるまでは、チームZは葛城の手中だった。だが時光という葛城のパフォーマンスを超える敵が現れた時、彼のチームは崩壊した。それを再建・再構築したのがこの葉隠だ。この男が居なければ、今ここで食事を楽しむ余裕はなかっただろう。

それきり葛城は黙り、葉隠を見据え続ける。沈黙のガン見にたいへん居心地の悪くなった葉隠は、急いで話題を振るった。

 

「……っな、なあ、そういえばさ!チームZの今の得点王って、お前と士道どっちなんだ?」

 

「ん?そうだな。士道はこれまで7点を稼いだが、Y戦のレッドカードで-4点……つまり3点だ。そして俺はノーカードで5点だ」

 

「そして俺が1点……、なんだかんだ言って、お前が現得点王かよ。あの士道相手にスゲェな」

 

素直に褒める葉隠に、フッと一瞬笑った葛城だが、直ぐにその表情を曇らせた。

 

「だがあと1試合ある、2点差では心許ないな。それにあの西岡率いるチームV相手に勝ち切らなければ、チームZは脱落だ。初見殺しの士道ならともかく、俺のプレーが通用するかどうか……」

 

どうやら次の試合への懸念が拭えないようだ。そんならしくない葛城に、なんだか微笑ましい気持ちになった葉隠はその大きい背中をバシン!と叩いた。

 

「ッ!?何をする!?」

 

「ようやく人間味が出てきたじゃん、葛城。お前みたいな奴でもそんな不安を感じることがあるんだな」

 

入寮してから士道と葛城のことを、ただただ『恐ろしい奴』としか認識してなかった葉隠。だが日々を重ね試合を乗り越えた今、彼等も1人の人間なのだと偏見を改めていた。

 

「あの士道だってそういう面もあるはずだろ。今日ココに来てくれたのだって、ほんの気まぐれかもしれないけど明らかに今までと違う反応じゃん。……もしかしたら最終戦、俺らのチームプレーが炸裂するかもしれないぜ?」

 

葉隠の意見は非常に楽観的なモノだ。それは士道と正面から競り合った葛城だからこそ否定できる。

だがもしも、士道がチームとして溶け込めばプレーの幅が一気に広がる。それだけ彼の能力は常軌を逸しているのだ。

 

「まぁ、奴だって好き好んで負けたくないハズだ。劣勢になった時くらいは、加勢してくれるのを信じてみてもいいかもな」

 

フッ、とありえない妄想に自嘲の笑みを浮かべる葛城。

ふと目の前で笑う葉隠に、葛城は万感の想いを巡らせた。

最初は駒のひとつとしか視てなかった葉隠司という男。だがここまで噛み付かれ、追い抜かされ、競り、諭される関係になるとは思ってもみなかった。

葛城が信条とする『実力主義』において、この男の存在はもはや無視できないレベルにまで成長していた。

 

(この才能がここで消えるのは惜しい。次の試合、何がなんでも勝って生き残ろう。……なにより、もしも士道1人だけが生き残ったら俺は発狂するかもしれん)

 

実力においては誰よりも勝る士道。だからこそ惜しい、それを帳消しにするほどの暴力性や生態が、彼のサッカー人生の足枷になっている事が惜しくて堪らなかった。

 

(俺の人心掌握術は、今この時コイツらを導くために培ったモノなのかもしれない。……V戦、俺は勝つためにお前らを指導しよう!)

 

ステーキを頬張り、決意新たに立ち上がる。葛城はもう、その心になんの迷いもなかった。

そんな再起を図る巨漢の足元で、葉隠は静かに現状を分析していた。

 

(西岡率いるチームV……伍号棟で唯一の全勝チームだ。反面、俺たちZは得点数こそ多いけど1勝2分。勝たなきゃチームとしては敗退、葛城か士道のどっちかしか生き残れない)

 

もし葉隠が得点王で生き残るならば、最終試合で5点以上ももぎ取らなければならず、まったく現実的ではない。

 

(やっぱり最終戦、俺がやるべきはコイツらのアシストか。もちろん隙あらば俺もゴールを狙うけど、なにより点が欲しいこの現状、士道の得点能力は必須。葛城の右のシュートも強力だし、それを俺の脳と眼で活かす!)

 

やるべき事は視えた。葉隠は生き残るため、決戦に向けてその眼に熱を纏い、迸らせた。

そんな彼らの勝負意識が高まる中、ただ1人、人の輪に入らぬ龍は誰も居ない通路で呟いた。

 

「さぁて、次の試合はどんだけ爆発できっかな♪」

 

 

 

 

伍号棟、最終戦。

チームZvs.チームV──

 

(始まる、俺のサッカー人生を懸けた1戦!……これが最後になるか始まりになるか、それは俺たちの実力次第!)

 

実力とは、すなわち武器。

葉隠は“洞察眼”と、それを活かした間合いからの“湾曲蹴弾(ループシュート)”。

葛城は“人心掌握術”、“左右の質の違うシュート力”、そして常人離れした“肉体(フィジカル)”。

最後に士道の“ゴール前での圧倒的得点能力”。

青い監獄(ブルーロック)”へ来て、発見し進化させてきた己だけの武器。これらが通用しなければ、眼前に広がる105m×68mのフィールドはこれが見納めになる。

その稜線に立ちはだかる相手が、その向こう側に現れた。

 

「あれがチームV、アレが西岡初……」

 

身長は意外と低い。だがチームの中央に立つその佇まいは尋常でなく、エースとしての風格が漂っていた。

ゴクリ、と思わず唾を飲み込む葉隠。それで緊張も嚥下した彼は、その眼に熱を灯らせた。

 

(さぁ行くぞ、最終戦!)

 

──KICK OFF!!

電子のホイッスルが鳴り響き、ボールはVボールから始まった。

パサーを務めるのは清羅刃──無口で根暗な印象の目立たない選手。そして肝心の青森のメッシ西岡初は、ボールを彼に渡すと颯爽と前線へ駆けてきた。

 

「速攻来るぞ!」

 

葛城の号令に、ZのDF(ディフェンス)ラインが動く。

西岡に徹底マークが2人付き、清羅にも1人張り付かせる。そして葛城当と葉隠司は臨機応変に動けるようポジショニング。最後に士道龍聖はカウンター用に敵地最奥で完全自由。

これが対V戦、対西岡専用の基本フォーメーションである。

 

「悪いが、お前にはこの試合何もさせてやらんぞ」

 

葛城が絶妙な間合いから西岡にそう語りかけた。一瞬キョトンとした西岡だったが、言葉の意味を理解するとニヤリと笑った。

 

「そうかい。でもさぁ……」

 

そこで一旦声が止まる。

それを不審に思った葛城が注意を向けた、その時。信じられないことが起こった。

 

「何をさせない気?」

 

西岡が動いた。のを知覚出来た。それが限界だった。

気付けば西岡に裏を取られ、そこに狙いすましたように清羅のパスが上がってきていた。

 

「な!?」

 

「いつもながらナイスタイミング、清羅」

 

トラップして即ドリブルに繋げる西岡。そのままZディフェンスを鮮やかに抜き去り、華麗なシュートがゴールネットに突き刺さった。

 

【チームZ:0-1:チームV】GOAL!!

 

「俺がサッカーするのは当たり前だ。俺を止めたきゃ本物のメッシ連れてきな」

 

葛城の巨体をポンと叩き、自陣へ帰っていく西岡。その入れ替わりに葉隠と士道が戻ってきた。

 

「スッゲー奴じゃんニッシー!メッキも磨けば輝くじゃん♪」

 

「実際に視るとホントにヤバいな。ドンマイ葛城、切り替えていこう」

 

「あ、ああ……。しかしあの一瞬、何が起こったんだ?警戒はしていたんだが、気付いたら抜かれていた」

 

思い返してみてもサッパリ分からない。だがその答えを、遠くから視ていた葉隠の眼が見抜いていた。

 

「多分、歩幅とスタートダッシュだよ。アイツ、メチャクチャ小刻みに動いててさ、そこからマークの重心の逆を突いて一気に……って感じ」

 

「それだけであんな消えるような動きが出来るのか……ッ!やはりとんでもない相手だな、チームV」

 

「ああ。しかもあの清羅ってヤツもクセモノだ。アイツはとんでもなく視野が広い」

 

西岡も脅威だが、その彼にパスを供給した清羅も一筋縄ではいかない人物だ。

西岡の細かく素早い動き出し(オフザボール)に精確なパスを出すだけでなく、それまでのボール保持力(キープ)も卓越している。

これがチームVの実力。これが伍号棟で唯一の全勝チーム。

 

「でも勝つしかない。俺たちにはそれしかないんだ」

 

「ああ、お前の言う通り切り替えていこう。対策は戦いながら考える」

 

「ガンバレかっつぁん、イっくぜ葉隠ちゃん」

 

──RE START!!

まだ1点、試合は始まったばかり。絶望するには早すぎる。仮に西岡を止められないなら、コッチはそれ以上に得点すればいい。

彼らは走り出した。

 

「……」

 

「ホントに無口だな、アンタは」

 

葉隠司vs.清羅刃。

体格は五分、そして恐らく能力も五分だ。洞察力と視野の広さという違う能力だが、どちらも眼を使う。葉隠はジッと目の前の敵を見据えた。

 

(右に重心が寄りすぎ……逆へ切り込む!)

 

ドッ!とドリブルで進み、その先でパスの行先を探す。……が。

 

「うおっ!?」

 

そこにはVのDF(ディフェンダー)2人も待ち構えていた。挟まれた葉隠は立ち往生し、その背後から清羅によってボールを奪われてしまう。

その交錯の一瞬、清羅と目が合った葉隠は悟った。

 

(ッコイツ、さっきのはワザとか!?まんまと誘導された!)

 

重心を傾けていたのは、罠。清羅はその視野の広さで自陣のポジションすらも把握し、この状況(シチュ)を画策していたのだ。

そして視界の端で走り出す西岡、そこへパスを出すために足を振り上げる清羅の後ろ姿。

 

(周りの人間を使う分、コイツの方が上手(うわて)!ちくしょう、追加点取られ……ッ)

 

「俺参上!」

 

「!?」

 

ドシュ!と士道龍聖にパスカットされた清羅。流石の彼も驚きに目を見開く中、こぼれ球(ルーズボール)は葛城当の方へ。

 

「ナイスだ士道!葉隠もボヤっとしてないで動け!」

 

ハッとなる葉隠。切り替えろと言い返され、己を不甲斐なく思いながら直ぐに動き出す。

西岡は今、得点の機会(チャンス)にイチ早く反応したお陰で守備に参加出来ない位置にいる。ここがZの得点機会だ。

 

「士道!繋げ!」

 

「あいあい、蜜月な三角関係(ハニートライアングル)結成!」

 

葛城、士道、葉隠で押し上げていく。そして終弾者(フィニッシャー)を務めるのは……

 

(お前の領域(テリトリー)だ、葛城!)

 

葉隠からのセンタリング。それを受け取った葛城が、30mからの超ロングレンジシュートを放つ──……

 

「ッそれは警戒済みだ!」

 

「むっ!?」

 

その主砲は阻まれた。

Vのブロックが2枚飛び出し、ガガッ!とボールが弾かれる。葛城の右シュートは強力であるが、一瞬の溜めと直線的な軌道はたいへん読みやすい。来るとわかっていれば対処は容易いのだ。

しかし幸運にもボールはZの手元に落ち、そこから逆サイドの葉隠司へパスが渡る。

 

(だったら俺が決めてやる!)

 

葛城へ人が集中した今、葉隠はほぼノーマーク。キーパーと1vs.1が実現し、後は湾曲蹴弾(ループシュート)の間合いを作るだけだが……

 

(……キーパーが突っ込んでこない!?)

 

そう、キーパーがゴール前から進んでこないのだ。この状況で前進してこないとは余程セーブ力に自信があるのか、しかしこれでは武器が活かせない。

葉隠は瞬時に切り替えた。

 

(舐めんな!だったら普通に決めるまで……ッ)

 

「その立ち止まった1歩がっ、致命的だぜ!」

 

背後からVのプレス。しまった!と葉隠が思った時には、既にボールは蹴り上げられ清羅刃の下へ。

 

「クソっ、止めてくれ!」

 

叫ぶが、その願い空しく西岡へ渡されたボールは吸い込まれるようにゴールネットを揺らした。

 

【Z:0-2:V】GOAL!!

 

「おたく等の事は研究済みだぜ、チームZ」

 

苦々しい表情を作る葛城と葉隠に、歩み寄ってきた西岡初が得意げに語りかけてきた。ピッ、と人差し指が突きつけられる。

 

「葛城当、アンタの肉体(フィジカル)に任せたプレーは強力だけど、直線すぎて動きが予想しやすい。それに反して葉隠司は動きが狡猾だけど、単体の能力値が低いから対処しやすい。……まぁお互いの欠点を埋め合う良いコンビなんだけど、分断しちゃえばそれまでさ」

 

分断、という言葉にハッとなる両者。確かに先のプレー、思い返すと互いにカバー出来ない位置でボールをやり取りしていた。彼らは攻めているつもりが、完全に手の平で転がされていたのだ。

自陣に戻っていく西岡の背に、2人は険しい顔で相談した。

 

「まさか勝負を仕掛ける前から仕掛けられていたとは……!今までとはレベルが違うというわけか」

 

「まずいな。完全に相手のペースだ。この流れを変えるには……」

 

2人の脳裏によぎるのは、あの悪魔。葛城は不本意ながら、ゆっくりと頷いた。

 

「ああ、四の五の言っている場合ではない。奴に暴れてもらうとしよう」

 

ボールをセットし、葛城が士道へ視線を送る。「へ、よーやくかよ」と駆ける悪魔に、試合は再開された。

 

──RE START!!

中盤は葛城×葉隠のワンツーコンボで駆け上がる。今度は分断されぬよう注意を払いつつ、虎視眈々と機を窺う。

そして暴れ回る士道がフリーになった瞬間──

 

「……ッ行け、士道!お前に懸ける!」

 

「ちゃっはぁ!」

 

葉隠からのセンタリング。

軒並みを蹴散らし、ゴール前に飛び出した悪魔が歓喜に叫んだ。これで1点は確実……

 

「そう、Zで要警戒なのはお前だけだ」

 

「!?、ニッシー!?」

 

飛び出る士道より先に、西岡がボールに触りクリアした。ボールがサイドラインの向こうへと転がっていく。

 

「テメェ、俺の爆発を邪魔しやがって……」

 

「そりゃゴメン。爆発物は丁寧に処理しろって学校で教わったもんで」

 

あっけらかんと言う西岡に「チッ、優等生ちゃんが」と捨てゼリフを吐く士道。

そんな彼らを、葉隠は先のプレーを思い返しながら視ていた。

 

(俺たちのワンツーから、士道の不規則な動き出し(オフザボール)へのセンタリングは完璧な初見殺しのプレー……。それでも西岡は反応した。ッどんだけハンパねぇんだよ、突破口が視えない……!)

 

頼みの綱である士道すらも通用しない。優秀な洞察眼を持つが故に、葉隠はもはやこの試合に勝機を見い出せなかった。

そんな彼の背を、ポンと叩く大きな手があった。

 

「諦めるにはまだ早いな、葉隠。耳を貸せ」

 

「葛城……」

 

どうやら彼にはまだ策があるようだ。葉隠は素直に耳を傾けると、その内容に驚愕した。

 

「それは……ちょっと博打過ぎじゃねぇ?」

 

「いいじゃないか博打。それに、もう手段を選んでいられる状況じゃない」

 

確かに、このままではこの試合に勝ち目はないのは明白。なんとしても生き残りたい葉隠は、その眼に熱を灯して覚悟を決めた。

 

「ていうか、お前は現得点王なんだからこの状況が続けば生き残れるじゃん。なんでそんな危ない橋をわざわざ渡るんだ?」

 

葉隠の尤もな疑問に、葛城は考えるように頭の裏を搔くと、答えた。

 

「エゴイストなら当然だろう?消極的なサッカーをするなんて死んでるのと同じだからな。……何より、やられっぱなしは性に合わん」

 

細目の奥に獰猛な熱を孕ませ、Zのスローインが彼に渡された。

 

──RE START!!

 

「上がれ!葉隠、士道!」

 

その言葉と共に2つの影が走る。

ゴール前、西岡は士道、葉隠には清羅が付き、ペナルティエリアという密室で混戦状態となる。

だがそのお陰で葛城がフリーだ。強靭な体格を活かし、Vの守備をブチ破っていく。

 

「ッチ、やっぱ並大抵じゃ止まんないか。おい!シュートコース警戒(ケア)!」

 

西岡が叫ぶより早く、すでにVは防御体制。ゴールへ一直線のラインは消された。やはり葛城の右足は封じられている……

 

「だったらコッチで撃たせてもらう!」

 

蹴弾偽装(シュートフェイント)。右から左へボールを明け渡し、葛城のカーブシュートが放たれた。

 

「左ミドル!?っいや、甘い!」

 

キーパーがギリギリ飛びつき、ゴガン!とポストに弾かれる。上角を狙った精確なシュートだったが、その分威力に欠けていた。

こぼれ球(セカンドボール)は無人の位置へ。そこへ意気揚々と現れる悪魔、士道龍聖。

 

「シャア!マイボーラー!」

 

「ボールは持ってもいいけど、撃たせてやんないよ」

 

西岡初が匠な守備でシュートコースを潰す。「あぁん!?邪魔じゃニシシッピ!」と喚く士道、その前方を葉隠司が通過する。

 

「士道寄越せ!コッチ!」

 

「……ッ!」

 

パスの選択肢として動くが、彼の背後には常に清羅刃が張っている。パスが通ったとしても一動作(ワンアクション)が限界だ。

 

「裏出せ葉っぱ!」

 

しかしそれだけ出来れば十分。

士道がパスを出し、そして強引な裏抜け。

西岡はそれに追随、俊敏なステップであらゆるコースを消す。

清羅がパスコースを消すために動き。

パスを受け取った葉隠の眼がこれら事象を捉えて……踵面送球(ヒールパス)を出した。

 

「なにっ!?」

 

「ナイスだ、葉隠」

 

彼らの後方、そこで巨漢・葛城当が右足を振り上げる姿が。

ドン!と破裂音と共に炸裂するシュート。ゴールネットが豪快に揺さぶられた。

 

GOAL!!【Z:1-2:V】

 

「……やってくれんじゃん!」

 

西岡が楽しさと悔しさを滲ませた顔で得点者(ストライカー)を視る。その視線に気付いた葛城は、ニヤリと悪どい笑顔で迎えた。

そんな彼らを横から視ていた葉隠は、その悪い顔をしている葛城に不服を申し立てた。

 

「おい葛城、俺に話した計画(プラン)……俺のヒールパスを他の仲間に拾わせて、そのパスに3人同時連動で攻めるって話はウソだったのかよ!?」

 

スローインから始まった今の計略。

葛城のシュートを起点に、ゴール前で葉隠がボールキープし折を見てマイナスへ展開。そこから士道・葉隠、そして逆サイから葛城の3人の波状攻撃……という話だった。守備を捨てた全攻撃(フルアタック)という博打だったが、実際のプレーはさらに大胆な勝負を仕掛けてきたのだ。葉隠が憤慨するのもムリはない。

だが葛城はあっけらかんと話した。

 

「ああ、お陰でお前ら2人が良い囮になって、俺がフリーで決められた。敵を騙すならまずは味方から、だ。……まぁ安心しろ、この試合は俺が勝たせてやる」

 

悪魔的な笑みを浮かべ、そう宣言する葛城。今のセリフは葉隠と、士道に向けて放たれたものだ。それを敏感に感じとったもう1人の悪魔は「チッ!」と意外にも舌打ちだけで去っていく。この試合で未だ活躍してない事が、彼には相当堪えているようだ。

そしてそれは、葉隠も同様である。

 

(クソ!葛城の奴、調子出てきたな。久しぶりに悪魔のツラだ。どうにか俺もゴールを決めたいけど、まずは清羅をどうにかしないと……)

 

さっきのシーン、仮に3人の波状攻撃を行ったとしても士道と葉隠のゴールは難しかっただろう。それぞれに西岡と清羅のマンマークが付いていたのだ、まずコレをどうにかしないと話にならない。

 

(俺にフィジカルやスピードなんて能力はないし、今持ってる能力も全力(フル)で活用してる!それでもあと1歩……いや、2歩も3歩も足りてない!この状況で俺が生き残るためには……っ)

 

西岡の神がかり的なプレーを頂点に、士道の破天荒な動き(ムーブ)。そして葛城の体格(フィジカル)と計略、清羅の影の暗躍……蔓延る選手たち……

 

「……ッ」

 

洞察眼がフィールドを見渡し、見つけた。進化など生ヌルい、一気に歩を進める禁断の術を。

 

(このメンツに割って入るには、俺も成るしかない!悪魔に!!)

 

彼の纏う熱が、この最終局面で大きく歪み始めた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。