ブルーロック─龍の始動─   作:へるしぃーぼでぃ

7 / 8
VS.チームV(悪魔たちの凋落)

 

 

「まさか俺の想定を超えてくるとはね。やるじゃんチームZ」

 

──RE START!!

西岡初がチームZの脅威度を上方修正し、試合を再開した。清羅刃や他の選手を満遍なく使い、Zの守備陣を華麗に翻弄していく。

 

「クソっ!行かせん!」

 

「ボール寄越せメシ岡!」

 

「寄って(たか)って来たな。んじゃ清羅!」

 

葛城と士道がダブルプレスで挟むが、それを嘲笑うように西岡がパスを出す。そしてノーマークだった清羅が1人、ゴール前へ躍り出た。

 

「ナメんな!」

 

「!?」

 

いや、そこには葉隠も居た。

彼は西岡と対峙(マッチアップ)したところでムダと割り切り、周囲のパスコースを潰す事に専念していたのだ。

 

清羅(コイツ)との体格(フィジカル)勝負なら五分だ!)

 

腕が、足が交差する。その互角の攻防は攻め気に勝る葉隠に軍配が上がった。

 

「……ッ!」

 

「よし!行くぞカウンター!」

 

「良くやった葉隠!」

 

そのままZの連携網へ繋いで一気に反撃攻勢(カウンターアタック)前線(フロント)が目まぐるしく移り変わる。

 

「今度はお前が覚醒の番か?葉隠司」

 

西岡初が葉隠の前にポジショニングする。

西岡の脅威はプレーの質の高さもあるが、このサッカーIQの高さも凄まじい。葉隠の不穏な気配を敏感に察知し、臨機応変に対応する姿はまさにサッカーの申し子と言える。

だが、今の葉隠は『覚醒』など生ヌルい存在へと変貌していた。

 

「ああ。潰すぜ、お前ら(・・・)

 

ポン、と左サイドにループパスを上げる葉隠。

カウンターは速攻が基本。その中で唐突なこの減速に他プレイヤー全員が虚を突かれ、上を見上げた。

そしてボールの落ちる先はゴール前30m、そこへ走っていくのは葛城当。それに気付いた西岡が「クソ!」と悪態をついて落下地点へ走り出す。

 

「決めろってことか。 ならば遠慮なくっ!」

 

ゆっくり落ちてくるボールはトラップする必要がない。迫り来る西岡が到達する前に、葛城はダイレクトで決めようと足を振り上げ──……

 

「俺のボールだ!!」

 

「なに!?」

 

その背後から躍動してきた士道龍聖と衝突した。「なっ!?」とシュートブロックに足を出した西岡も巻き込み、ボールはあらぬ方向へ。

そしてその無秩序(ランダム)なボールに追い縋るのは、葉隠司。

この事故を発生させた張本人だけが、予測不能なこぼれ球(ルーズボール)に素早く反応していた。

そうして実現する、キーパーとの1vs.1。

 

「くそっ!無闇に前に出るなよGK(キー)!」

 

倒れた西岡の叫びを忠実に守り、キーパーはジッと葉隠の出方を窺う。葉隠のシュートで警戒すべきは湾曲蹴弾(ループシュート)のみ。彼の純粋なシュート力は並程度しかないので、ゴール前で待機している方が阻止しやすいのだ。

果たして、右足を振り上げ明らかな蹴撃動作(シュートモーション)に入る葉隠司(ストライカー)。この動きからループは無いと判断、キーパーは動いた。

 

(ッ視線でどこ狙ってるかバレバレなんだよ!)

 

ゴール右上角。シュート力のある選手ならば1点必至の照準だが、葉隠程度の身体能力(パラメータ)ならば止められる。

キーパーが予測し、右へ飛んだ。

 

「ナイス、キー」

 

葉隠の静かな言葉が刺さった。左下角(・・・)のゴールに。

 

GOAL!!【Z:2-2:V】

 

「っな、ラボーナ!?」

 

地を這うシュート。威力もスピードもない、何の変哲もないゴロシュート。だが値千金となるボールが、ゴールラインを越えていた。

 

「これが俺の……存在証明だ」

 

禍々しい熱を纏った葉隠が、汗を滴らせ呟いた。

敵味方問わず利用し、喰い合わせ、己の武器の弱みすらも利用しゴールを貪る。

これが葉隠司の辿り着いたサッカー。これが彼の、彼だけの悪魔の証明。

と、そこで電子のホイッスルが響き渡った。前半戦、終了である。

 

「……あのループパス、俺に撃たせる気はさらさらなかったんだな?」

 

ロッカールームに戻る途中、もう1人の悪魔、汗を蒸気させる葛城が新たに誕生した悪魔に話しかけた。

葉隠はその細目を真正面から見据え、正直に返答した。

 

「ああ。お前の一撃シュートを止めに入る西岡の移動速度と、士道の貪欲なボールへの執着が交差する場所を選んだだけだ。後は全員がボールを見上げる中、あの状況を作り上げた俺は冷静にボールが来る可能性の高い場所にポジショニングしてたんだ」

 

もちろん、こぼれ球(ルーズボール)は葉隠の居ない場所に飛ぶ可能性もあった。だがあの状況で彼だけがゴールへのビジョンを見据えて動いた結果、あのゴールシーンが実現したのだ。例えマグレと言われようと、そのラプラスの悪魔(マグレ)すら引き寄せた事になる。誰にも文句を言われる筋合いはなかった。

 

「あ、そうだ士道」

 

葉隠はふと、チームZの原初の悪魔、士道龍聖に歩み寄ると話しかける。「あ?」と未だゴールを決められない彼が冷えた汗を服で拭う中、そのセリフを吐いた。

 

「まだバテんなよ?お前の無秩序(フリーダム)な動きが、俺のプレーの幅を広くしてんだからさ」

 

それだけ言ってフィールドから去っていく葉隠。呆然とする士道に、背後から葛城も彼に声を掛けた。

 

「そうだな。癪だが、お前の動きが西岡を手こずらせているのは事実だ。……だが次にまた衝突してきたら、今度は吹き飛ばすぞ?」

 

さっきは不意を突かれただけ。来ると分かっていれば、士道程度のタックルなど体幹で弾き飛ばせると忠告だ。

そして士道など眼中にないとばかりに歩き出す葛城。

そんな去っていく2人の背を、悪魔はポカンと見つめて呟いた。

 

「……アレ?俺、喰われちった?」

 

「喰われてたまるかよ。つーかまだ同点になっただけだし」

 

時を同じく、ロッカールームで水分補給する西岡がそう言ってチームVを鼓舞していた。

最初は士道だけをマークすれば楽勝だと思っていた。しかしこの試合中に葛城と葉隠の両名が急速に成長……いや、変貌したため、彼の予定(ヴィジョン)が壊された。

それでも彼に……彼ら(チームV)に悲観の様子はない。何故ならこの戦場(ピッチ)には伍号棟ランキングトップ、青森のメッシ西岡初が存在しているのだから。

 

「まずは巻き返す。お前ら、行くぞ!」

 

第伍号棟、最終戦。

2ndHALF──KICK OFF!!

 

「ここでもう1点決めてやる」

 

Zボールから始まる後半戦、葉隠司はドリブルしながら考えていた。

自らのサッカー観をブチ壊し、最強のチームVに風穴を開けた。だがまだ同点、生き残るにはまだまだ点が欲しい。

彼は持ち前の洞察眼を巡らし、探る。フィールドの『綾』を。

 

「調子ノッてんじゃん、葉隠司」

 

「ッチ!」

 

その目の前に立ち塞がるは西岡初。前半戦とは異なる空気を纏い、彼は話しかけてきた。

 

「正直、俺はお前ら(チームZ)を……いや、“青い監獄(ブルーロック)”をナメてたよ。ここまで全戦全勝してきて、すっかり気が緩んでた」

 

試合中に雑談とはそれこそナメた態度だが、葉隠はその言葉を一字一句聞き漏らさなかった。いや、聞き漏らせなかった(・・・・・・・・・)と言った方が正しい。

彼の言葉が、雰囲気が……全身から、尋常ではない“熱”を発していたから。

 

「俺らのチームは勝ち上がり確定してるけど……引き分け?負け?ありえないね!お前らを喰って先へ行く!」

 

「!?」

 

ドッ!と勢いの強いプレス。

今までにないその気迫(プレッシャー)に圧された葉隠は、反射的に葛城へパスを出した。

 

「ほら喰った♪」

 

「あ」

 

葛城へのパス、それをピンポイントで清羅刃が中間阻止(インターセプト)した。この展開に西岡がニヤリと笑い、その顔を視た葉隠が悟る。

 

(パスを出さされた(・・・・・)!っクソ、やっぱ強ぇ!)

 

そのまま清羅と連動(ワンツー)、最後は華麗なドリブルとシュートテクニックで危なげなくボールが叩き込まれた。

 

【Z:2-3:V】GOAL!!

 

「やはり一筋縄ではいかないな。だが、それでこそ倒しがいがある……!」

 

「ああ、ブッ潰して勝ち上がってやる!」

 

強い。だからこそ彼ら(チームZ)は滾る。

新しい自分を試したい。そして目の前の強大な敵を喰らい、己の強さを証明する。

五体が熱を発する。フィールド全体が熱を帯びていく。今この瞬間、確かに彼らは『フットボールの熱い場所』の一端を担っていた。

 

「……」

 

その中でただ1人、士道だけが取り残されていた。目を瞑り、直立不動の姿勢で動かず、触覚と揶揄される2房の前髪だけが吹き荒れる熱風に煽られている。

そしてプレーが再開される直前、長いまつ毛が薄く開かれた。

その背中に、不気味な熱を溜め込みながら。

 

──RE START!!

 

「繋げ葛城!西岡をボールに触れさせるな!」

 

「同感だ。散開しろお前ら!」

 

従順な8人と葛城×葉隠で中盤を駆け上がる。この連携には流石のチームVも翻弄されるが、しかし通用するのはあくまで中盤まで。

 

(ここまでは順調!あとはゴールの為に利用できるヤツと契約(ジョイント)するだけ!)

 

洞察眼が駆け巡る。ゴール正面前に葛城・西岡、その奥に士道、背後の清羅……、脳内に各ポジションを置いて思考する。

そして思い描く、ゴールへの道程(ルート)

 

「……ッ葛城!」

 

ドッ!と出されたパスは、葛城と西岡の中間。2人が競り合うこと前提の位置。

 

「ッ、やってくれるな葉隠!」

 

「どういうパスだよ!?」

 

憤慨と困惑に苛まれながらも、相手にボールを渡すワケにはいかない。2人は走り、その体をぶつけ合う。

 

「……っクッソ!」

 

(っ、なるほど!如何に西岡のステップワークだろうが、動く方向が同じならば肉体(フィジカル)で勝る俺に()があるのか!)

 

西岡のステップは細かく速いが、パワーに劣る。目標地点が分かっていれば肉弾戦で制する事が可能なのだ。

葛城が背肩奪取(ショルダーチャージ)。だが西岡もタダでは取らせない。葛城の周りを細かく動き、ドリブル・シュート・パスの選択肢を極限にまで狭める。

 

「ちょこまかと……ッ!」

 

「ボールもらい!」

 

耐える巨人の足下を、サッカー巧者が切り込みにかかる。

その瞬間を新生の悪魔が待っていた。

 

「それは俺がもらう!」

 

葉隠だ。

彼はパスを出すと同時に同方向へ走り、葛城が受け取ったボールを自らで回収したのだ。

 

「っキサマ!?」

 

「はぁ!?マジでなんなん!?」

 

味方ボールを強奪するなど西岡の辞書にはない。故に刺さる。

全てを置き去りにした葉隠が、蹴撃動作(シュートモーション)に入った。

 

「……ッさせねぇ!」

 

「!?」

 

いや、1人だけ──清羅刃だけが喰らいついていた。葉隠の背後からスライディングでシュートを阻止。ボールがあらぬ方向へ飛んでいく。

 

(クソ!コイツずっと背後に隠れてやがった!つーか喋れんのかよ!?)

 

「……」

 

再びのだんまりになる清羅と視線が交錯したのも一瞬。葉隠はボールの行方を追おうとして、目を見開いた。

 

「……え、ゴール……してる?」

 

GOAL!!【Z:3-3:V】

 

顔を上げた瞬間、あさっての方向へ飛んだハズのボールがゴールネットに飛び込んできたのだ。

その射出方向と思しき方向に目を向ければ、そこには士道龍聖が芝の上に大の字で倒れ込んでいる姿が。

彼は恍惚な笑みを浮かべ、絶頂に喘いだ。

 

「あー、きんもちイイ〜〜ッ!」

 

 

 

 

──後半戦が始まり、ピッチ上の全員が白熱する中。

その時、士道だけが緩やかにフィールドを歩いていた。反面、脳ミソを目まぐるしく加速させながら。

 

(再定義しろ。俺にとってサッカーってなんだ?)

 

彼は前半戦、“爆発”と称するゴールを決められずにいた。葉隠や葛城に利用され、西岡に阻止され、その生命活動を止められてきた。

何故こんな事態に陥ったのか?ソレを自分の中に探る。

 

(楽しい?勝つと気持ちいい?いや、そんなチャチなモンじゃない。生きるコトそのものだ。……なら、生きる理由ってなんだ?)

(生きる理由……それはこの世界に自分が生きた証を残すためだ。その方法が、俺にとってサッカーだった)

(じゃあサッカーで生きた証を残すためには?試合に勝つ?世界一になる?……いや、それはただの『結果』だ。俺を真に証明するのは……)

 

歩きから早歩きに。

早歩きから小走りに。

そして彼は駆け出す。射出された精子の如く、一直線に卵子へ向かって。

 

(ゴールだ!孕ませる行為こそ、俺をこの世界に刻む唯一の方法!)

 

走る士道の視界。

葉隠がパスを出し、葛城と西岡が奪い合う。そして葉隠が強奪、だが清羅がクリアした。

その浮いたこぼれ球(ルーズボール)が、走る士道の背後に来た。

 

(この種を……ッ射精しろ!)

 

彼の弩級の身体能力、そして研ぎ澄まされた感覚が、その動きを可能にした。

急停止、反転、からのバク転跳躍。

そして放たれる、直撃縦直下回転(ダイレクトラインドライヴ)

それは、彼だけが辿り着ける境地。他の誰にも理解されない価値観。

だからこそ強烈に刻まれる、その存在。士道龍聖という圧倒的生物の痕跡。

 

GOAL!!【Z:3-3:V】

 

「あー、きんもちイイ〜〜ッ!」

 

彼は覚醒した。

自らのサッカー観を再定義したことにより、今まで『なんとなく』でしてきたプレーを明確にしたのだ。

すなわち、言語化である。

 

(武器がナントカって言ってたヤツ、こういう事か。なるほどね。俺は今までシュート撃ちゃゴール出来ちまった分、射程範囲とか考えたコトもなかった)

 

だがこの試合、彼の動きは完全に封じられ、見切られ、利用された。

このままでは生き残れない。窮地に立たされた生物がする事は1つ。“進化”するのだ。

 

(感覚を研ぎ澄ませてハッキリ分かった。俺はP・A(ペナルティエリア)付近なら、視なくてもゴールマウスを感じ取れる!ハッ、今までワザワザ振り返って確認してたのがバカらしいぜ)

 

その振り返る時間がタイムロスとなる。それが必要ないと分かれば、彼の得点能力の幅は無限の広がりを見せた。

 

(言うなら“超空間感覚”!思えば、射精すんのに卵子に狙いを定めるなんてしねぇよなぁ……。それよりドピュドピュ吐き出さねぇと!)

 

サッカーをスポーツではなく“生命活動”と称する彼は、一連のプレーを『性』に結びつける事により理解を早める。これも彼だけの特性だ。

 

「……人間じゃねぇ……」

 

快楽の余韻に浸る士道に、葉隠司は思わず呟いた。

シュートの瞬間を直接視たワケじゃない。だが寸前までのボールの軌道と士道の位置、そして倒れ込む彼の姿からどんなプレーが起きたのか推測したのだ。

それらを踏まえて、この感想である。

急制動、バク転跳躍、そしてノールックの直下蹴弾(ドライヴシュート)。どれをとっても人間業ではない。葉隠の洞察眼のキャパを遥かに超えるプレーだ。

葉隠は恐れ慄き……

 

(すげぇっ!コイツを使えば、この試合(ゲーム)勝てる!)

 

同時に歓喜に沸いていた。

突破口どころではない。士道を使いこなせれば、確実に勝てるという予感を葉隠の眼と脳が感じ取った。そしてそれは、周りの人間も同様だった。

 

「凄まじいな。あれが士道の本当の実力か……」

 

「葛城」

 

葛城当も士道の進化に気付いたようだ。彼は汗を拭い、その細目を鋭く光らせる。

 

「そう来なくてはな!だが得点王は譲らん、このチームを勝利させるのは俺だ」

 

「ああ、喰われてたまるかよ。士道にも、アッチにもな」

 

葉隠が指し示すは、チームVの方向。青森のメッシ、西岡初。

彼も士道の変化を感じ取っており、今まで以上にその身に熱を纏っていた。

 

「本当の本当に、ここからが本番みたいだな。気張れよチームV(お前ら)!」

 

──RE START!!

後半戦開始から15分、Vボールから始まる攻防。清羅刃から渡されたボールをドリブルし、西岡初が汗を散らし駆ける。

その眼前に、士道龍聖が現れた。

 

「パコって腹ペコったぁ!喰わせろニッシー!」

 

「ッマジで情緒(セオリー)狂ってんな、テメェ!」

 

戦術もポジションも無視した士道の動き。しかもハイになった彼はこの後半戦中盤、スタミナの低下する気配がまったくない。

 

(っマジモンの化け物だなコイツ!)

 

流石の西岡も、今の士道と1on1は分が悪い。彼は瞬間の判断で横にパスを出した。

 

「それなら俺が喰う!」

 

「ッ葉隠!?」

 

そこを葉隠司が狙っていた。

士道の圧倒的運動量&予測不能な動きを西岡が警戒すると洞察し、このパスする瞬間を待っていたのだ。

意趣返しパスカットに成功した彼は流れのまま駆け上がる。それに追随するは葛城当と配下2名、ゴール機会(チャンス)が巡る……

 

「……行かせない」

 

そこを清羅刃が立ちはだかる。

 

(そう、お前は俺をマークしに来るよな。……ココから俺がフィールドを支配する!)

 

思考しながら葉隠はクルリと反転。自陣へ向かって蹴撃動作(シュートモーション)

 

「満腹だから戻すぜ」

 

そのボールはすぐ背後を追走していた西岡の顔面、真正面に向かって放たれた。

 

「ッうお!?てめ……」

 

思わずトラップした西岡、その浮き球を覚醒した悪魔がかっ攫う。

 

「浮気ボールゲッツ!ナイス美人局プレー!」

 

「ッとに狂ってんな、お前らァ!」

 

行かせまいと腕と肩でブロックする西岡。対して士道は俊敏なステップでソレを躱し、颯爽と独走する。ここへ来て如実な体力の差が現れた。

 

「……ッ!」

 

だが再びの清羅が士道を止めた。しかも仲間を2人従え、士道を囲む陣形。「うひょう、俺モッテモテ」と呟く横を、フリーの葉隠が通過する。

 

(今の士道の脅威度は最高潮!清羅たちは人数を掛けるしかないっ、そこが俺の狙い目!)

「士道!」

 

「んあ?今度は俺が美人役かよ」

 

言いつつもパスを出す士道。受け取り、走る葉隠の背後から西岡が追いついてくる。

 

「マトモなサッカーしやがれ、テメェらァ!」

 

だがそれも予測通り。葉隠は叫んだ。

 

「ハッ!今更だな。ソレ(・・)をブッ壊すのが……ッ“青い監獄(ココ)”の本懐だろうが!」

 

追いつかれる前にロングパスを放つ。その行先は葛城当、ペナルティエリア1歩手前の位置。

ゴールを背にトラップする。

 

「ようやく来たか。だがこの状況……」

 

ゴール前へ到達していた彼だが、そこにはキーパーの他にDFが3枚も張り付いている。これを突破するのは至難の業だ。

 

「だからこそ、押し通す!」

 

葛城は横の配下へパスを出し、自らは3枚の壁に真正面からぶつかった。筋肉(フィジカル)に任せた超強引な突破である。

この人数差を工夫なしで突破など、常人ではありえない選択。そんなV守備陣の思考が楔となり、堅牢なハズの壁が崩された。

崩壊する壁のガレキを浴びながら──肩に腕に腰にDFの腕を絡ませながら、葛城は味方から返ってきたボールを右でシュートした。

 

「ナッメンなぁあ!」

 

Vキーパーが叫ぶ。

目の前で撃たれた強烈なシュートだが、人が密集してるお陰で軌道(コース)は読めた。右上角に飛び、ゴガン!と手とポストがボールを弾く。

 

「インプレー!……あ」

 

キーパーの声が窄む。

こぼれ球(セカンド)を足に収めたのは葉隠司、ペナルティエリアの縦線上。ここが彼の蹴撃地点(シュートポイント)

 

「させない……!」

 

そこへ清羅刃がシュート阻止に走ってくるが、葉隠はすでに蹴撃動作(シュートモーション)の体勢──。

この時、清羅の脳内に3択がよぎった。

1.このままシュート

2.ループシュート

3.ラボーナによる転がす(ゴロ)シュート

清羅の視野が広がる。葉隠の振り上げた足が……──軸足と交差(クロス)した。

瞬間、地面のシュートコースを封鎖するために滑空走(スライディング)。素早い対応、素晴らしい反応だ。

 

「ナイス警戒(ケア)

 

ポン、と葉隠の言葉とボールが放たれる。

ラボーナは合っていた。だが葉隠はそこまで読まれることを察知し、そのシュートを浮かせたのだ。

 

(ここまで全部読み通り!(V)味方(Z)も全部俺の予想通りの動き!この眼と脳と蹴撃種類(シュートバリエーション)で、俺は先に行く!)

 

地を這う清羅を嘲笑うように、ボールが頭上を超えていく。キーパーは葛城のシュートを止めたためにゴールポスト右下で這いつくばっている。

無人の左側へボールが吸い込まれて……──

ガン!とクロスバーに嫌われた。蹴る威力が高すぎたのだ。

 

「な……ッ!?」

 

愕然とする葉隠。悪魔の証明は失敗した。

だがプレーは止まらない。弾かれた球に追いすがるは、西岡初と士道龍聖。

 

「シャア!葉っぱちゃんおあずけドンマァイ!」

 

「撃たせねぇ!」

 

西岡が内側に走る(ラン)

士道の方が反射反応(レスポンス)が速かったためにボールは奪われる。ならばこそ、西岡の最善手はこのシュート阻止の動きだった。

彼の判断は至極正しかった。相手が並の人間なら。

 

「撃つんじゃねぇ……ッ喰うんだよ!」

 

士道が走りながら跳躍(ランニングジャンプ)。勢い余ってボールを通り越した士道だが、その右足が背後に向かって勢いよく振り抜かれた。

 

(ッ!?コイツ、背面無視蹴弾(リバースノールックシュート)!?)

 

GOAL!!【Z:4-3:V】

 

身構えていたハズの西岡が反応できない奇想天外なシュート。

今度こそボールはネットに叩き込まれ、遂にチームZは逆転した。

 

「うっハァ〜!横取りのメッシうめぇ〜!」

 

点を決めた士道が天を仰ぐ。

ゴールポストを精確に捉える能力をフル活用した、衝撃の逆転劇。誰にもマネ出来ない、まさしく悪魔の所業。

葉隠が肩で息をしながら悪態をつく。

 

「クソっ、あんな動きも出来んのかよ士道……!」

 

覚醒した士道の動き。それは悪魔に身を売った葉隠の思考すら凌駕するものだった。これでは今後のプレーに支障をきたす。

 

(つーかその前に、問題は俺のシュートだ!なんで入らなかった!?あそこまで完璧に読んでおいて……)

 

清羅のプレスも読んだ上でシュートを放った。なのに外れた。いや、原因は分かっている。

ラボーナは高等技術(テク)。単純に、葉隠の技巧が足らなかった。ぶっつけ本番で決めるには、あまりに難易度の高い技だった。

 

(くそぉッ、士道だってあんな曲芸シュートは初めてのハズ!それでもアイツは決めて、俺は決められなかった!肝心の俺自身が悪魔を証明できない……ッ!)

 

これがホンモノとニセモノの差。天然と人工、その品質の差。

項垂れる葉隠に、両方の性質を内包した悪魔がやってきた。

 

「惜しかったな葉隠。……かくいう俺もシュートを外した身だ、このまま終われんのは同じだろう?」

 

「ああ……!次こそは俺が決めてやる!」

 

シュートこそ外したものの、今やこの試合は彼らが支配している側だ。プレーを組み立て挑戦し、結果的に逆転もした。その事実が、彼らを何度も燃え上がらせる。

奮起するチームZ。だがその逆サイドでは、逆境でこそ盛大に燃える者も居た。チームV、西岡初である。

 

「……」

 

普段のおちゃらけた雰囲気が、消えた。

そのヒリつく空気はフィールド全体に伝播し、チームZの逆転などなんの価値(アドバンテージ)にもならないと言外に伝わってくる。

葉隠と葛城はその空気に警戒度を上げる。ただ1人、士道だけが楽しそうに口角を吊り上げた。

 

「おーおー、イイね!ピリ辛料理期待!」

 

「ほざいてろっ。もうテメェらのサッカーには……付き合わねぇ!」

 

──RE START!!

再びのVボールから再開。ボール保持者(ホルダー)は西岡初、彼が先頭で突っ切ってくる。

そこをまたしても悪魔が妨害する。

 

「オラオラ、もっと喰わせろまだ腹ペコじゃい!」

 

「ああ……ッ皿でも喰ってな!」

 

相対した士道龍聖だったが、一瞬で抜かれた。「んあ?」と何が起きたのか分からない士道に、カバーに入った葉隠司が戦慄する。

 

(ヤベェ!後ろから視てても何が起きたのか分かんねぇ!どんなドリブル技術だよ!?)

 

それでも止めなければならない。葉隠は一挙手一投足も見逃さまいとジッと眼を見開き、西岡の動きに反応した。

 

(右に抜ける……!そこだ!)

 

葉隠が動く、重心が傾く。瞬間、西岡がそれとは逆へ切り返した。

 

「んな!?」

(これは……片足転換偽走(マシューズフェイント)!?)

 

ドリブルで進行方向に行くと見せかけ、一気に逆に切り返す技巧(テクニック)。ボールタッチの細かい西岡におあつらえ向きな技だ。

 

(それにしたってレベルが段違い!これがコイツの本気!?)

「クソ、止めてくれ葛城!」

 

「分かってる!それよりお前らは突っ込みすぎだ!」

 

抜かれた2人と違い、葛城当は無闇に距離を縮めない。絶妙な間合いをキープし、シュート・パスコースを防ぐポジショニングで西岡を制する。

 

「流石は得点王だね。けどさぁ……こうしたらどうするつもり!?」

 

ドッ!と西岡の方から急接近。

瞬間、葛城も近接戦闘(インファイトデュエル)モード。その巨躯を屈めて臨戦態勢に入る。

 

「さっすが♪ッけど甘い!」

 

両足交換球(ラクロケタ)、と見せかけスルー。真横にボールを転がし、葛城の視線がそちらに向いた逆方向へと駆ける。

 

「なに!?」

 

「よく連動した清羅ァ!」

 

転がるボールに追いついた清羅刃が、抜け出した西岡にワンタッチパス。あとには予定調和の如く、彼のシュートがZゴールネットを穿った。

 

【Z:4-4:V】GOAL!!

 

今までも西岡のドリブルは脅威だった。だが窮地に立たされた彼の技術はさらに磨きが……──いや、ナマクラのような危険極まりない切れ味を獲得していた。

 

「正攻法じゃお前らに喰われる。だったら俺も、邪道を歩ませてもらうぜ」

 

最後のパス、アレは彼にとっても賭けだった。西岡の技術は最高峰だが、故にそれに付いてこれる選手は少ない。

だがその前の単独先攻(ワンマンプレー)により生まれた時間と、この試合を通して成長した清羅の“読み”が、ギリギリあのパスに交わったのだ。

変化するのはチームZだけではない。彼らも1分1秒毎に強くなっていくのだ。

 

「だからどうした。お前がスゴいのなんて始めっから分かってんだよ」

 

「ああ。試合も振り出しに戻っただけだ。舐めるなよ」

 

「いいねイイネ!激アツじゃん!全員フル勃起タイムセール!」

 

──RE START!!

Zボールを葛城当が運ぶ。

今までにないパターンにチームVに動揺が走るが、西岡初は直ぐに意図を見抜いた。

 

「ふーん、考えたな。確かにやり難ぃ」

 

葛城の突破力は生半可では止まらない。この男に人数を掛ければそれだけ周りがフリーになり、西岡が相対(マッチアップ)すれば士道を止められる人間が居なくなる。究極の2択を迫られていた。

そして西岡の選択は……

 

「囲め!3人だ!」

 

前者。その言葉に即座に動くチームV。だが葛城もそれは想定内だ。

 

「葉隠!」

 

「おう!」

 

パスを受け取るは葉隠司。そこへ最早お馴染みの清羅刃が立ちはだかる。

 

「……」

 

(ここが分岐点(ターニングポイント)!今ここ、マイボールでゴールを決めなきゃ流れが断ち切れる瀬戸際!)

 

このプレーは絶対に失敗できない。時間的にも得点差的にも、ここが勝負の分かれ目。

葉隠は覚悟を決めた。

ドリブルで駆け、それに清羅が追随して来る。

 

(やっぱり俺とコイツの能力値はほぼ同じ!違うのは視野と脳ミソの突出具合……、それを凌駕しろ!)

 

併走しながら各ポジションを脳内に思い浮かべる。

葉隠はクルリと反転、走りながら背後を向いた。

 

「葛城!受け取れ!」

 

「!、させない……!」

 

清羅の脳内によぎるは前のプレー。

西岡へシュート性のパスを出し、それを士道が奪うという常識からハズれたあの行動。

今の葛城には3人のマークが付いているとはいえ、その葛城も前のプレーで3人の壁を壊している。

このパスは100%通るという予感。そしてその先の未来には、混沌と未知のプレーが待っている。

清羅がパスを出させまいと動くのは必然だった。

 

「ナイス反応」

(そう、お前のその優秀さを利用する!)

 

ブレーキの掛かるこの一瞬、パスと見せかけた踵面送球(ヒールパス)。つまり進行方向(プラス)への動き。

結果的に葉隠は360°回転し、自分で自分にパスを出したのだ。

 

「……ッ!?」

 

(完璧に抜けた!シュートだけじゃない、1体1でも俺は俺を証明する!)

 

この時、フィールドの誰もが葉隠の動きに不意を突かれた。それだけ彼のプレーは見事だった。

故に、その偶然は起こった。

 

「うお!?」

 

「は……?」

 

自分で自分に出したハズの踵面送球(ヒールパス)、その先には(V)の1人が居たのだ。

名も知らぬ彼は思わずトラップし、迫り来る葉隠を躱す。そして……

 

「せ、清羅!」

 

ドフリーの清羅へパス。これを起点に、チームVが一斉に反撃(カウンター)に動く。

 

「クソっ、行かせん!」

 

葛城が止めに動くが、彼の周りに居た3人が散開。清羅を最後方要(アンカー)にパスを回し、葛城にボールに触れさせずジワジワと押し上げていく。

その間に、西岡初は敵陣最奥へ。

 

「寄越せッ清羅!」

 

「ちょい待ち!ゴム忘れてんぞ!」

 

だがもれなく士道龍聖も付いてくる。

これを視た清羅はそのままパス回しでゴール前まで迫り、ラストパスを出した。

西岡……は囮。駆け出すVの3人。Zキーパーはボールの落下地点の1人に陣取ったが、それは横パスされた。

ガラ空きのゴールネット。そこにボールが叩き込まれ……──

 

「させっるかぁあ!」

 

葛城当がタックルした。ドシャア!とV終弾者(フィニッシャー)は勢いよく倒れ、同時に『ピピー!』と警笛が鳴った。

 

『チームZ葛城当、危険なタックルによりイエローカード!加えてエリア内の反則のため、ペナルティキック!』

 

なんとか追いついた葛城だったが、ムリヤリな阻止によりカードを食らってしまう。痛恨のイエロー(-1点)とペナルティキックだ。

そしてキッカーは例に漏れず西岡初。彼がハズすなどという奇跡は微塵も起きず、そのシュートは無情にゴールネットを揺らした。

 

【Z:4-5:V】GOAL!!

 

「……すまん、葛城。俺がボールを取られちまったせいで」

 

「そんな事はどうでもいい。今はこの状況を打破するために策を練れ」

 

ピシャリと弾かれ、葉隠は深呼吸ひとつ、気持ちを切り替える。確かに、謝罪などしてる場合ではなかった。

後半戦も30分が経過。少なくともあと2点は取らなければならないこの状況、猶予はなかった。

 

──RE START!!

葉隠は考える。

先のプレー、自分の動きに間違いはなかった。それでもゴールに辿り着けなかった。11人vs.11人という人口密度が引き起こす無秩序(ランダム)さを前に、彼は弾かれたのだ。

それを補うのに必要な能力は、視野。だがそんな能力は今の葉隠にはない。

 

(ないものねだりしても仕方ない!けど、これからどうすればいい!?あとは俺に何が出来る!?)

 

自信は消えた。

それほどまでに手応えを感じた先のプレーが『偶然』という要素に壊され、ソレが自分の中であまりにもデカい敵になっていた。

実際はそこまで考え込む要素ではない。あれは本当にたまたま、葉隠の突飛なプレーが呼び込んだイレギュラーだ。だが次も同じことが起きるのではないかと考えたら、彼の行動の選択肢が極端に狭められた。

 

「葉隠……」

 

そんな葉隠の様子を、葛城当が遠目から視ていた。

もはや葉隠は使い物にならない。勝つためにはどうにかして立ち直ってもらわなければならないが、1度の失敗で挫けるようではこの先に未来はない。

 

(そんなお前に用はない。……仕方ない、この1点を決めて、俺は得点王として1人で先に行く!)

 

ドリブルしながら計画(プラン)を変更する葛城に、西岡初が肉薄した。

 

「もうアンタらは終わりだよ、チームZ。それほどさっきのプレーはデカすぎた」

 

西岡の言う通りだ。もし葉隠があのまま抜け出して得点していたら、流れは完全にZに傾いていた。それほどまでに勝敗を左右するシーンだった。

だが……

 

「フザけるなよ。まだ俺の試合は、終わっていない!」

 

諦めるには早い。チームZにはまだ悪魔が蔓延っている。

士道龍聖へ一気攻勢のパス。受け取る士道だが、そこを清羅刃がマークする。

 

「お、お仲間従えたケセラセラじゃん」

 

「……」

 

失念する葉隠をマークする必要がないと判断、チームVはポジションを変更してきた。

葛城には西岡、士道へは清羅と3名で徹底マークだ。もはやチームZの勝機は絶望的……

 

「つかさぁ、もう腹いっぱいなんだよね。ごっそさん」

 

急に士道が立ち止まった。

この局面で止まるなどありえない。マークに付いていた全員の動きが次の行動(アクション)に備える、その一瞬を士道の眼が捉えた。

 

「こういう感じっしょ?」

 

ドッ!と急発進。マークをすべてブチ抜く士道。

それを視た西岡が叫ぶ。

 

緩急直行(ロコモティブ)!?アイツあんなん出来んのかよ!?」

 

驚くのもムリはない。

今までシュートシーンでしか発揮してなかった反応(レスポンス)を、士道はドリブルに起用してきたのだ。その背景には、葉隠のプレーからの閃き(インスピレーション)があった。

 

(ずっと視てたぜ葉隠ちゃん!お前は“眼”をこーやって使ってたんだな!)

 

選手の能力値を正しく測る“洞察眼”。これを、葉隠をずっと観察していた士道は手に入れたのだ。

士道はより多くのゴールを残すために、他の生物の生態からヒントを得ていた。

そして喰う。良質な精子を生成するために、彼は栄養を欲して動く。貪欲なまでに。

 

「オラァ!孕め!」

 

ドリブルからの強烈なシュートだが、如何せん真正面からすぎた。パスからの奇想天外なシュートが止めづらいのであって、ただのシュートでは脅威度は半減。キーパーが弾いた。

そのこぼれ球(セカンドボール)へ走るのは、葛城当と西岡初。

 

「ナイス士道。俺が決める!」

 

「させるかぁ!」

 

再びの近距離肉弾戦(インファイトデュエル)。だがこの状況(シチュエーション)は肉体に優る葛城に分がある。このままボールを止めずにシュートすれば……

 

「させねぇっつってんだろ」

 

「!?」

 

西岡が体を離し、ボールより1歩先へ。つまりシュートコースを潰しにきた。

近距離戦では敵わないと、潔く受け入れた上での判断。そしてそれは正しかった。

コースを潰された葛城はトラップ、その動きを止めてしまう。

 

「……ッならば、こじ開ける!」

 

ボールを持った上で突撃を敢行する葛城。

だが西岡の狙いはあくまでボールのみ。葛城の腕を躱し、足下のボールを弾く。

 

「チッ!……だが!」

 

「クソ、居たのか!?」

 

彼らの背後には葛城の配下が。葛城は自分に西岡がマークしてきたのを察知した時、背後に配下(パサー)を用意していたのだ。

 

「出せ!ゴール前!」

 

「行かせるかぁ!」

 

3度目の近距離戦(インファイ)

ゴール前、スペースはない。ボールが蹴り上げられ、今度こそ葛城の決定機が──

 

「長ぇよその勝負。もう腹パンパンだって」

 

「ッ士道!?」

 

2人の戦いに突如として悪魔が舞い降りた。いや、飛び上がって乱入してきた。

頭跳直接弾(ダイレクトダイヴヘッド)で決めようとする葛城より上、そこに士道のつま先が到達する。

 

「ヤる時は、イッキに奥まで挿れろッ!」

 

──頭点越蹴弾(オーバーヘッドキック)

ゴール前の密集地帯で行うモノではない。だが彼は空中で葛城の肉体を支柱にし、体をムリヤリねじ込んでゴールをかっ攫った。

 

GOAL!!【Z:5-5:V】

 

同点。同時にチームZの得点王の座は彼に回帰した。

この時、後半戦開始から40分が経過していた。残り5分、ボールはVから始まる。アディショナルタイムも恐らく1分しかない。

 

「く……っそ!葉隠ェ!動け!ボールを奪えぇ!」

 

もはや形振り構っていられない。

葛城が叫び、葉隠がハッとなって動き出す。だが、もう……

 

──RE START!!

 

「パス回せ!間違っても葛城と士道に触れさせるな!」

 

西岡の号令に素直に従うチームV。彼らはチームとして勝ち上がりが確定している。ここで無様な負けを晒すくらいなら、堅実に引き分け(ドロー)に持ち込む算段だ。

西岡がタッチライン際でボールを持つ。そしてその前に、葉隠司と葛城当が寄せてきた。

 

「くそっ、まだ、まだ……ッ!」

 

「終われん!あと1点取れば……ッ」

 

「お前らのプレーは良かったよ。けど、全てにおいて運がなさすぎたな」

 

ドッ!と逆方向へ散らされるボール。そしてその瞬間、試合終了を告げる電子のホイッスルが鳴り響いた。

 

『試合終了!5-5でこの試合、ドロー!』

 

試合が終わり、歓喜の声はどこからも上がらなかった。

勝ち残ったチームVですら、Zの脅威から逃げ切ったと安堵のため息が吐かれるばかり。

そして敗退の決定したチームZは、葉隠と葛城だけが地面に伏せていた。

それ以外のメンバーは無感情で立ち尽くし、唯一生き残りの士道だけが気持ち良さそうに歩いていた。

その歩みが、伏せる2人の前で止まった。

 

「いやー、イイ具合だったぜお2人さん♪お前らのおかげで、俺は新しい“爆発”をこの世界に起こせそうだ。ごっそさん」

 

士道はこの試合を経て、多くの実りを得た。

自己の進化に始まり、葉隠の洞察眼と葛城の肉体(フィジカル)に耐えうる体幹を獲得した。

結果として、彼らはこの悪魔を育てるためのエサを提供したに過ぎない。

彼らはもう、その役目を終えたのだ。

 

 

 

第伍号棟、全試合終了。

5チームによる総当たりの最終結果──

1位、チームV11名(最多得点:西岡初)

2位、チームW11名(最多得点:時光青志)

以下、脱落する下位3チームの最多得点者3名。

X、石狩幸雄

Y、皿斑海琉

Z、士道龍聖

──以上25名を、1次選考(セレクション)突破とする。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。