「まさか俺の想定を超えてくるとはね。やるじゃんチームZ」
──RE START!!
西岡初がチームZの脅威度を上方修正し、試合を再開した。清羅刃や他の選手を満遍なく使い、Zの守備陣を華麗に翻弄していく。
「クソっ!行かせん!」
「ボール寄越せメシ岡!」
「寄って
葛城と士道がダブルプレスで挟むが、それを嘲笑うように西岡がパスを出す。そしてノーマークだった清羅が1人、ゴール前へ躍り出た。
「ナメんな!」
「!?」
いや、そこには葉隠も居た。
彼は西岡と
(
腕が、足が交差する。その互角の攻防は攻め気に勝る葉隠に軍配が上がった。
「……ッ!」
「よし!行くぞカウンター!」
「良くやった葉隠!」
そのままZの連携網へ繋いで一気に
「今度はお前が覚醒の番か?葉隠司」
西岡初が葉隠の前にポジショニングする。
西岡の脅威はプレーの質の高さもあるが、このサッカーIQの高さも凄まじい。葉隠の不穏な気配を敏感に察知し、臨機応変に対応する姿はまさにサッカーの申し子と言える。
だが、今の葉隠は『覚醒』など生ヌルい存在へと変貌していた。
「ああ。潰すぜ、
ポン、と左サイドにループパスを上げる葉隠。
カウンターは速攻が基本。その中で唐突なこの減速に他プレイヤー全員が虚を突かれ、上を見上げた。
そしてボールの落ちる先はゴール前30m、そこへ走っていくのは葛城当。それに気付いた西岡が「クソ!」と悪態をついて落下地点へ走り出す。
「決めろってことか。 ならば遠慮なくっ!」
ゆっくり落ちてくるボールはトラップする必要がない。迫り来る西岡が到達する前に、葛城はダイレクトで決めようと足を振り上げ──……
「俺のボールだ!!」
「なに!?」
その背後から躍動してきた士道龍聖と衝突した。「なっ!?」とシュートブロックに足を出した西岡も巻き込み、ボールはあらぬ方向へ。
そしてその
この事故を発生させた張本人だけが、予測不能な
そうして実現する、キーパーとの1vs.1。
「くそっ!無闇に前に出るなよ
倒れた西岡の叫びを忠実に守り、キーパーはジッと葉隠の出方を窺う。葉隠のシュートで警戒すべきは
果たして、右足を振り上げ明らかな
(ッ視線でどこ狙ってるかバレバレなんだよ!)
ゴール右上角。シュート力のある選手ならば1点必至の照準だが、葉隠程度の
キーパーが予測し、右へ飛んだ。
「ナイス、キー」
葉隠の静かな言葉が刺さった。
GOAL!!【Z:2-2:V】
「っな、ラボーナ!?」
地を這うシュート。威力もスピードもない、何の変哲もないゴロシュート。だが値千金となるボールが、ゴールラインを越えていた。
「これが俺の……存在証明だ」
禍々しい熱を纏った葉隠が、汗を滴らせ呟いた。
敵味方問わず利用し、喰い合わせ、己の武器の弱みすらも利用しゴールを貪る。
これが葉隠司の辿り着いたサッカー。これが彼の、彼だけの悪魔の証明。
と、そこで電子のホイッスルが響き渡った。前半戦、終了である。
「……あのループパス、俺に撃たせる気はさらさらなかったんだな?」
ロッカールームに戻る途中、もう1人の悪魔、汗を蒸気させる葛城が新たに誕生した悪魔に話しかけた。
葉隠はその細目を真正面から見据え、正直に返答した。
「ああ。お前の一撃シュートを止めに入る西岡の移動速度と、士道の貪欲なボールへの執着が交差する場所を選んだだけだ。後は全員がボールを見上げる中、あの状況を作り上げた俺は冷静にボールが来る可能性の高い場所にポジショニングしてたんだ」
もちろん、
「あ、そうだ士道」
葉隠はふと、チームZの原初の悪魔、士道龍聖に歩み寄ると話しかける。「あ?」と未だゴールを決められない彼が冷えた汗を服で拭う中、そのセリフを吐いた。
「まだバテんなよ?お前の
それだけ言ってフィールドから去っていく葉隠。呆然とする士道に、背後から葛城も彼に声を掛けた。
「そうだな。癪だが、お前の動きが西岡を手こずらせているのは事実だ。……だが次にまた衝突してきたら、今度は吹き飛ばすぞ?」
さっきは不意を突かれただけ。来ると分かっていれば、士道程度のタックルなど体幹で弾き飛ばせると忠告だ。
そして士道など眼中にないとばかりに歩き出す葛城。
そんな去っていく2人の背を、悪魔はポカンと見つめて呟いた。
「……アレ?俺、喰われちった?」
「喰われてたまるかよ。つーかまだ同点になっただけだし」
時を同じく、ロッカールームで水分補給する西岡がそう言ってチームVを鼓舞していた。
最初は士道だけをマークすれば楽勝だと思っていた。しかしこの試合中に葛城と葉隠の両名が急速に成長……いや、変貌したため、彼の
それでも彼に……
「まずは巻き返す。お前ら、行くぞ!」
第伍号棟、最終戦。
2ndHALF──KICK OFF!!
「ここでもう1点決めてやる」
Zボールから始まる後半戦、葉隠司はドリブルしながら考えていた。
自らのサッカー観をブチ壊し、最強のチームVに風穴を開けた。だがまだ同点、生き残るにはまだまだ点が欲しい。
彼は持ち前の洞察眼を巡らし、探る。フィールドの『綾』を。
「調子ノッてんじゃん、葉隠司」
「ッチ!」
その目の前に立ち塞がるは西岡初。前半戦とは異なる空気を纏い、彼は話しかけてきた。
「正直、俺は
試合中に雑談とはそれこそナメた態度だが、葉隠はその言葉を一字一句聞き漏らさなかった。いや、
彼の言葉が、雰囲気が……全身から、尋常ではない“熱”を発していたから。
「俺らのチームは勝ち上がり確定してるけど……引き分け?負け?ありえないね!お前らを喰って先へ行く!」
「!?」
ドッ!と勢いの強いプレス。
今までにないその
「ほら喰った♪」
「あ」
葛城へのパス、それをピンポイントで清羅刃が
(パスを
そのまま清羅と
【Z:2-3:V】GOAL!!
「やはり一筋縄ではいかないな。だが、それでこそ倒しがいがある……!」
「ああ、ブッ潰して勝ち上がってやる!」
強い。だからこそ
新しい自分を試したい。そして目の前の強大な敵を喰らい、己の強さを証明する。
五体が熱を発する。フィールド全体が熱を帯びていく。今この瞬間、確かに彼らは『フットボールの熱い場所』の一端を担っていた。
「……」
その中でただ1人、士道だけが取り残されていた。目を瞑り、直立不動の姿勢で動かず、触覚と揶揄される2房の前髪だけが吹き荒れる熱風に煽られている。
そしてプレーが再開される直前、長いまつ毛が薄く開かれた。
その背中に、不気味な熱を溜め込みながら。
──RE START!!
「繋げ葛城!西岡をボールに触れさせるな!」
「同感だ。散開しろお前ら!」
従順な8人と葛城×葉隠で中盤を駆け上がる。この連携には流石のチームVも翻弄されるが、しかし通用するのはあくまで中盤まで。
(ここまでは順調!あとはゴールの為に利用できるヤツと
洞察眼が駆け巡る。ゴール正面前に葛城・西岡、その奥に士道、背後の清羅……、脳内に各ポジションを置いて思考する。
そして思い描く、ゴールへの
「……ッ葛城!」
ドッ!と出されたパスは、葛城と西岡の中間。2人が競り合うこと前提の位置。
「ッ、やってくれるな葉隠!」
「どういうパスだよ!?」
憤慨と困惑に苛まれながらも、相手にボールを渡すワケにはいかない。2人は走り、その体をぶつけ合う。
「……っクッソ!」
(っ、なるほど!如何に西岡のステップワークだろうが、動く方向が同じならば
西岡のステップは細かく速いが、パワーに劣る。目標地点が分かっていれば肉弾戦で制する事が可能なのだ。
葛城が
「ちょこまかと……ッ!」
「ボールもらい!」
耐える巨人の足下を、サッカー巧者が切り込みにかかる。
その瞬間を新生の悪魔が待っていた。
「それは俺がもらう!」
葉隠だ。
彼はパスを出すと同時に同方向へ走り、葛城が受け取ったボールを自らで回収したのだ。
「っキサマ!?」
「はぁ!?マジでなんなん!?」
味方ボールを強奪するなど西岡の辞書にはない。故に刺さる。
全てを置き去りにした葉隠が、
「……ッさせねぇ!」
「!?」
いや、1人だけ──清羅刃だけが喰らいついていた。葉隠の背後からスライディングでシュートを阻止。ボールがあらぬ方向へ飛んでいく。
(クソ!コイツずっと背後に隠れてやがった!つーか喋れんのかよ!?)
「……」
再びのだんまりになる清羅と視線が交錯したのも一瞬。葉隠はボールの行方を追おうとして、目を見開いた。
「……え、ゴール……してる?」
GOAL!!【Z:3-3:V】
顔を上げた瞬間、あさっての方向へ飛んだハズのボールがゴールネットに飛び込んできたのだ。
その射出方向と思しき方向に目を向ければ、そこには士道龍聖が芝の上に大の字で倒れ込んでいる姿が。
彼は恍惚な笑みを浮かべ、絶頂に喘いだ。
「あー、きんもちイイ〜〜ッ!」
⬟
──後半戦が始まり、ピッチ上の全員が白熱する中。
その時、士道だけが緩やかにフィールドを歩いていた。反面、脳ミソを目まぐるしく加速させながら。
(再定義しろ。俺にとってサッカーってなんだ?)
彼は前半戦、“爆発”と称するゴールを決められずにいた。葉隠や葛城に利用され、西岡に阻止され、その生命活動を止められてきた。
何故こんな事態に陥ったのか?ソレを自分の中に探る。
(楽しい?勝つと気持ちいい?いや、そんなチャチなモンじゃない。生きるコトそのものだ。……なら、生きる理由ってなんだ?)
(生きる理由……それはこの世界に自分が生きた証を残すためだ。その方法が、俺にとってサッカーだった)
(じゃあサッカーで生きた証を残すためには?試合に勝つ?世界一になる?……いや、それはただの『結果』だ。俺を真に証明するのは……)
歩きから早歩きに。
早歩きから小走りに。
そして彼は駆け出す。射出された精子の如く、一直線に卵子へ向かって。
(ゴールだ!孕ませる行為こそ、俺をこの世界に刻む唯一の方法!)
走る士道の視界。
葉隠がパスを出し、葛城と西岡が奪い合う。そして葉隠が強奪、だが清羅がクリアした。
その浮いた
(この種を……ッ射精しろ!)
彼の弩級の身体能力、そして研ぎ澄まされた感覚が、その動きを可能にした。
急停止、反転、からのバク転跳躍。
そして放たれる、
それは、彼だけが辿り着ける境地。他の誰にも理解されない価値観。
だからこそ強烈に刻まれる、その存在。士道龍聖という圧倒的生物の痕跡。
GOAL!!【Z:3-3:V】
「あー、きんもちイイ〜〜ッ!」
彼は覚醒した。
自らのサッカー観を再定義したことにより、今まで『なんとなく』でしてきたプレーを明確にしたのだ。
すなわち、言語化である。
(武器がナントカって言ってたヤツ、こういう事か。なるほどね。俺は今までシュート撃ちゃゴール出来ちまった分、射程範囲とか考えたコトもなかった)
だがこの試合、彼の動きは完全に封じられ、見切られ、利用された。
このままでは生き残れない。窮地に立たされた生物がする事は1つ。“進化”するのだ。
(感覚を研ぎ澄ませてハッキリ分かった。俺は
その振り返る時間がタイムロスとなる。それが必要ないと分かれば、彼の得点能力の幅は無限の広がりを見せた。
(言うなら“超空間感覚”!思えば、射精すんのに卵子に狙いを定めるなんてしねぇよなぁ……。それよりドピュドピュ吐き出さねぇと!)
サッカーをスポーツではなく“生命活動”と称する彼は、一連のプレーを『性』に結びつける事により理解を早める。これも彼だけの特性だ。
「……人間じゃねぇ……」
快楽の余韻に浸る士道に、葉隠司は思わず呟いた。
シュートの瞬間を直接視たワケじゃない。だが寸前までのボールの軌道と士道の位置、そして倒れ込む彼の姿からどんなプレーが起きたのか推測したのだ。
それらを踏まえて、この感想である。
急制動、バク転跳躍、そしてノールックの
葉隠は恐れ慄き……
(すげぇっ!コイツを使えば、この
同時に歓喜に沸いていた。
突破口どころではない。士道を使いこなせれば、確実に勝てるという予感を葉隠の眼と脳が感じ取った。そしてそれは、周りの人間も同様だった。
「凄まじいな。あれが士道の本当の実力か……」
「葛城」
葛城当も士道の進化に気付いたようだ。彼は汗を拭い、その細目を鋭く光らせる。
「そう来なくてはな!だが得点王は譲らん、このチームを勝利させるのは俺だ」
「ああ、喰われてたまるかよ。士道にも、アッチにもな」
葉隠が指し示すは、チームVの方向。青森のメッシ、西岡初。
彼も士道の変化を感じ取っており、今まで以上にその身に熱を纏っていた。
「本当の本当に、ここからが本番みたいだな。気張れよ
──RE START!!
後半戦開始から15分、Vボールから始まる攻防。清羅刃から渡されたボールをドリブルし、西岡初が汗を散らし駆ける。
その眼前に、士道龍聖が現れた。
「パコって腹ペコったぁ!喰わせろニッシー!」
「ッマジで
戦術もポジションも無視した士道の動き。しかもハイになった彼はこの後半戦中盤、スタミナの低下する気配がまったくない。
(っマジモンの化け物だなコイツ!)
流石の西岡も、今の士道と1on1は分が悪い。彼は瞬間の判断で横にパスを出した。
「それなら俺が喰う!」
「ッ葉隠!?」
そこを葉隠司が狙っていた。
士道の圧倒的運動量&予測不能な動きを西岡が警戒すると洞察し、このパスする瞬間を待っていたのだ。
意趣返しパスカットに成功した彼は流れのまま駆け上がる。それに追随するは葛城当と配下2名、ゴール
「……行かせない」
そこを清羅刃が立ちはだかる。
(そう、お前は俺をマークしに来るよな。……ココから俺がフィールドを支配する!)
思考しながら葉隠はクルリと反転。自陣へ向かって
「満腹だから戻すぜ」
そのボールはすぐ背後を追走していた西岡の顔面、真正面に向かって放たれた。
「ッうお!?てめ……」
思わずトラップした西岡、その浮き球を覚醒した悪魔がかっ攫う。
「浮気ボールゲッツ!ナイス美人局プレー!」
「ッとに狂ってんな、お前らァ!」
行かせまいと腕と肩でブロックする西岡。対して士道は俊敏なステップでソレを躱し、颯爽と独走する。ここへ来て如実な体力の差が現れた。
「……ッ!」
だが再びの清羅が士道を止めた。しかも仲間を2人従え、士道を囲む陣形。「うひょう、俺モッテモテ」と呟く横を、フリーの葉隠が通過する。
(今の士道の脅威度は最高潮!清羅たちは人数を掛けるしかないっ、そこが俺の狙い目!)
「士道!」
「んあ?今度は俺が美人役かよ」
言いつつもパスを出す士道。受け取り、走る葉隠の背後から西岡が追いついてくる。
「マトモなサッカーしやがれ、テメェらァ!」
だがそれも予測通り。葉隠は叫んだ。
「ハッ!今更だな。
追いつかれる前にロングパスを放つ。その行先は葛城当、ペナルティエリア1歩手前の位置。
ゴールを背にトラップする。
「ようやく来たか。だがこの状況……」
ゴール前へ到達していた彼だが、そこにはキーパーの他にDFが3枚も張り付いている。これを突破するのは至難の業だ。
「だからこそ、押し通す!」
葛城は横の配下へパスを出し、自らは3枚の壁に真正面からぶつかった。
この人数差を工夫なしで突破など、常人ではありえない選択。そんなV守備陣の思考が楔となり、堅牢なハズの壁が崩された。
崩壊する壁のガレキを浴びながら──肩に腕に腰にDFの腕を絡ませながら、葛城は味方から返ってきたボールを右でシュートした。
「ナッメンなぁあ!」
Vキーパーが叫ぶ。
目の前で撃たれた強烈なシュートだが、人が密集してるお陰で
「インプレー!……あ」
キーパーの声が窄む。
「させない……!」
そこへ清羅刃がシュート阻止に走ってくるが、葉隠はすでに
この時、清羅の脳内に3択がよぎった。
1.このままシュート
2.ループシュート
3.ラボーナによる
清羅の視野が広がる。葉隠の振り上げた足が……──軸足と
瞬間、地面のシュートコースを封鎖するために
「ナイス
ポン、と葉隠の言葉とボールが放たれる。
ラボーナは合っていた。だが葉隠はそこまで読まれることを察知し、そのシュートを浮かせたのだ。
(ここまで全部読み通り!
地を這う清羅を嘲笑うように、ボールが頭上を超えていく。キーパーは葛城のシュートを止めたためにゴールポスト右下で這いつくばっている。
無人の左側へボールが吸い込まれて……──
ガン!とクロスバーに嫌われた。蹴る威力が高すぎたのだ。
「な……ッ!?」
愕然とする葉隠。悪魔の証明は失敗した。
だがプレーは止まらない。弾かれた球に追いすがるは、西岡初と士道龍聖。
「シャア!葉っぱちゃんおあずけドンマァイ!」
「撃たせねぇ!」
西岡が内側に
士道の方が
彼の判断は至極正しかった。相手が並の人間なら。
「撃つんじゃねぇ……ッ喰うんだよ!」
士道が
(ッ!?コイツ、
GOAL!!【Z:4-3:V】
身構えていたハズの西岡が反応できない奇想天外なシュート。
今度こそボールはネットに叩き込まれ、遂にチームZは逆転した。
「うっハァ〜!横取りのメッシうめぇ〜!」
点を決めた士道が天を仰ぐ。
ゴールポストを精確に捉える能力をフル活用した、衝撃の逆転劇。誰にもマネ出来ない、まさしく悪魔の所業。
葉隠が肩で息をしながら悪態をつく。
「クソっ、あんな動きも出来んのかよ士道……!」
覚醒した士道の動き。それは悪魔に身を売った葉隠の思考すら凌駕するものだった。これでは今後のプレーに支障をきたす。
(つーかその前に、問題は俺のシュートだ!なんで入らなかった!?あそこまで完璧に読んでおいて……)
清羅のプレスも読んだ上でシュートを放った。なのに外れた。いや、原因は分かっている。
ラボーナは高等
(くそぉッ、士道だってあんな曲芸シュートは初めてのハズ!それでもアイツは決めて、俺は決められなかった!肝心の俺自身が悪魔を証明できない……ッ!)
これがホンモノとニセモノの差。天然と人工、その品質の差。
項垂れる葉隠に、両方の性質を内包した悪魔がやってきた。
「惜しかったな葉隠。……かくいう俺もシュートを外した身だ、このまま終われんのは同じだろう?」
「ああ……!次こそは俺が決めてやる!」
シュートこそ外したものの、今やこの試合は彼らが支配している側だ。プレーを組み立て挑戦し、結果的に逆転もした。その事実が、彼らを何度も燃え上がらせる。
奮起するチームZ。だがその逆サイドでは、逆境でこそ盛大に燃える者も居た。チームV、西岡初である。
「……」
普段のおちゃらけた雰囲気が、消えた。
そのヒリつく空気はフィールド全体に伝播し、チームZの逆転などなんの
葉隠と葛城はその空気に警戒度を上げる。ただ1人、士道だけが楽しそうに口角を吊り上げた。
「おーおー、イイね!ピリ辛料理期待!」
「ほざいてろっ。もうテメェらのサッカーには……付き合わねぇ!」
──RE START!!
再びのVボールから再開。ボール
そこをまたしても悪魔が妨害する。
「オラオラ、もっと喰わせろまだ腹ペコじゃい!」
「ああ……ッ皿でも喰ってな!」
相対した士道龍聖だったが、一瞬で抜かれた。「んあ?」と何が起きたのか分からない士道に、カバーに入った葉隠司が戦慄する。
(ヤベェ!後ろから視てても何が起きたのか分かんねぇ!どんなドリブル技術だよ!?)
それでも止めなければならない。葉隠は一挙手一投足も見逃さまいとジッと眼を見開き、西岡の動きに反応した。
(右に抜ける……!そこだ!)
葉隠が動く、重心が傾く。瞬間、西岡がそれとは逆へ切り返した。
「んな!?」
(これは……
ドリブルで進行方向に行くと見せかけ、一気に逆に切り返す
(それにしたってレベルが段違い!これがコイツの本気!?)
「クソ、止めてくれ葛城!」
「分かってる!それよりお前らは突っ込みすぎだ!」
抜かれた2人と違い、葛城当は無闇に距離を縮めない。絶妙な間合いをキープし、シュート・パスコースを防ぐポジショニングで西岡を制する。
「流石は得点王だね。けどさぁ……こうしたらどうするつもり!?」
ドッ!と西岡の方から急接近。
瞬間、葛城も
「さっすが♪ッけど甘い!」
「なに!?」
「よく連動した清羅ァ!」
転がるボールに追いついた清羅刃が、抜け出した西岡にワンタッチパス。あとには予定調和の如く、彼のシュートがZゴールネットを穿った。
【Z:4-4:V】GOAL!!
今までも西岡のドリブルは脅威だった。だが窮地に立たされた彼の技術はさらに磨きが……──いや、ナマクラのような危険極まりない切れ味を獲得していた。
「正攻法じゃお前らに喰われる。だったら俺も、邪道を歩ませてもらうぜ」
最後のパス、アレは彼にとっても賭けだった。西岡の技術は最高峰だが、故にそれに付いてこれる選手は少ない。
だがその前の
変化するのはチームZだけではない。彼らも1分1秒毎に強くなっていくのだ。
「だからどうした。お前がスゴいのなんて始めっから分かってんだよ」
「ああ。試合も振り出しに戻っただけだ。舐めるなよ」
「いいねイイネ!激アツじゃん!全員フル勃起タイムセール!」
──RE START!!
Zボールを葛城当が運ぶ。
今までにないパターンにチームVに動揺が走るが、西岡初は直ぐに意図を見抜いた。
「ふーん、考えたな。確かにやり難ぃ」
葛城の突破力は生半可では止まらない。この男に人数を掛ければそれだけ周りがフリーになり、西岡が
そして西岡の選択は……
「囲め!3人だ!」
前者。その言葉に即座に動くチームV。だが葛城もそれは想定内だ。
「葉隠!」
「おう!」
パスを受け取るは葉隠司。そこへ最早お馴染みの清羅刃が立ちはだかる。
「……」
(ここが
このプレーは絶対に失敗できない。時間的にも得点差的にも、ここが勝負の分かれ目。
葉隠は覚悟を決めた。
ドリブルで駆け、それに清羅が追随して来る。
(やっぱり俺とコイツの能力値はほぼ同じ!違うのは視野と脳ミソの突出具合……、それを凌駕しろ!)
併走しながら各ポジションを脳内に思い浮かべる。
葉隠はクルリと反転、走りながら背後を向いた。
「葛城!受け取れ!」
「!、させない……!」
清羅の脳内によぎるは前のプレー。
西岡へシュート性のパスを出し、それを士道が奪うという常識からハズれたあの行動。
今の葛城には3人のマークが付いているとはいえ、その葛城も前のプレーで3人の壁を壊している。
このパスは100%通るという予感。そしてその先の未来には、混沌と未知のプレーが待っている。
清羅がパスを出させまいと動くのは必然だった。
「ナイス反応」
(そう、お前のその優秀さを利用する!)
ブレーキの掛かるこの一瞬、パスと見せかけた
結果的に葉隠は360°回転し、自分で自分にパスを出したのだ。
「……ッ!?」
(完璧に抜けた!シュートだけじゃない、1体1でも俺は俺を証明する!)
この時、フィールドの誰もが葉隠の動きに不意を突かれた。それだけ彼のプレーは見事だった。
故に、その偶然は起こった。
「うお!?」
「は……?」
自分で自分に出したハズの
名も知らぬ彼は思わずトラップし、迫り来る葉隠を躱す。そして……
「せ、清羅!」
ドフリーの清羅へパス。これを起点に、チームVが一斉に
「クソっ、行かせん!」
葛城が止めに動くが、彼の周りに居た3人が散開。清羅を
その間に、西岡初は敵陣最奥へ。
「寄越せッ清羅!」
「ちょい待ち!ゴム忘れてんぞ!」
だがもれなく士道龍聖も付いてくる。
これを視た清羅はそのままパス回しでゴール前まで迫り、ラストパスを出した。
西岡……は囮。駆け出すVの3人。Zキーパーはボールの落下地点の1人に陣取ったが、それは横パスされた。
ガラ空きのゴールネット。そこにボールが叩き込まれ……──
「させっるかぁあ!」
葛城当がタックルした。ドシャア!とV
『チームZ葛城当、危険なタックルによりイエローカード!加えてエリア内の反則のため、ペナルティキック!』
なんとか追いついた葛城だったが、ムリヤリな阻止によりカードを食らってしまう。痛恨の
そしてキッカーは例に漏れず西岡初。彼がハズすなどという奇跡は微塵も起きず、そのシュートは無情にゴールネットを揺らした。
【Z:4-5:V】GOAL!!
「……すまん、葛城。俺がボールを取られちまったせいで」
「そんな事はどうでもいい。今はこの状況を打破するために策を練れ」
ピシャリと弾かれ、葉隠は深呼吸ひとつ、気持ちを切り替える。確かに、謝罪などしてる場合ではなかった。
後半戦も30分が経過。少なくともあと2点は取らなければならないこの状況、猶予はなかった。
──RE START!!
葉隠は考える。
先のプレー、自分の動きに間違いはなかった。それでもゴールに辿り着けなかった。11人vs.11人という人口密度が引き起こす
それを補うのに必要な能力は、視野。だがそんな能力は今の葉隠にはない。
(ないものねだりしても仕方ない!けど、これからどうすればいい!?あとは俺に何が出来る!?)
自信は消えた。
それほどまでに手応えを感じた先のプレーが『偶然』という要素に壊され、ソレが自分の中であまりにもデカい敵になっていた。
実際はそこまで考え込む要素ではない。あれは本当にたまたま、葉隠の突飛なプレーが呼び込んだイレギュラーだ。だが次も同じことが起きるのではないかと考えたら、彼の行動の選択肢が極端に狭められた。
「葉隠……」
そんな葉隠の様子を、葛城当が遠目から視ていた。
もはや葉隠は使い物にならない。勝つためにはどうにかして立ち直ってもらわなければならないが、1度の失敗で挫けるようではこの先に未来はない。
(そんなお前に用はない。……仕方ない、この1点を決めて、俺は得点王として1人で先に行く!)
ドリブルしながら
「もうアンタらは終わりだよ、チームZ。それほどさっきのプレーはデカすぎた」
西岡の言う通りだ。もし葉隠があのまま抜け出して得点していたら、流れは完全にZに傾いていた。それほどまでに勝敗を左右するシーンだった。
だが……
「フザけるなよ。まだ俺の試合は、終わっていない!」
諦めるには早い。チームZにはまだ悪魔が蔓延っている。
士道龍聖へ一気攻勢のパス。受け取る士道だが、そこを清羅刃がマークする。
「お、お仲間従えたケセラセラじゃん」
「……」
失念する葉隠をマークする必要がないと判断、チームVはポジションを変更してきた。
葛城には西岡、士道へは清羅と3名で徹底マークだ。もはやチームZの勝機は絶望的……
「つかさぁ、もう腹いっぱいなんだよね。ごっそさん」
急に士道が立ち止まった。
この局面で止まるなどありえない。マークに付いていた全員の動きが次の
「こういう感じっしょ?」
ドッ!と急発進。マークをすべてブチ抜く士道。
それを視た西岡が叫ぶ。
「
驚くのもムリはない。
今までシュートシーンでしか発揮してなかった
(ずっと視てたぜ葉隠ちゃん!お前は“眼”をこーやって使ってたんだな!)
選手の能力値を正しく測る“洞察眼”。これを、葉隠をずっと観察していた士道は手に入れたのだ。
士道はより多くのゴールを残すために、他の生物の生態からヒントを得ていた。
そして喰う。良質な精子を生成するために、彼は栄養を欲して動く。貪欲なまでに。
「オラァ!孕め!」
ドリブルからの強烈なシュートだが、如何せん真正面からすぎた。パスからの奇想天外なシュートが止めづらいのであって、ただのシュートでは脅威度は半減。キーパーが弾いた。
その
「ナイス士道。俺が決める!」
「させるかぁ!」
再びの
「させねぇっつってんだろ」
「!?」
西岡が体を離し、ボールより1歩先へ。つまりシュートコースを潰しにきた。
近距離戦では敵わないと、潔く受け入れた上での判断。そしてそれは正しかった。
コースを潰された葛城はトラップ、その動きを止めてしまう。
「……ッならば、こじ開ける!」
ボールを持った上で突撃を敢行する葛城。
だが西岡の狙いはあくまでボールのみ。葛城の腕を躱し、足下のボールを弾く。
「チッ!……だが!」
「クソ、居たのか!?」
彼らの背後には葛城の配下が。葛城は自分に西岡がマークしてきたのを察知した時、背後に
「出せ!ゴール前!」
「行かせるかぁ!」
3度目の
ゴール前、スペースはない。ボールが蹴り上げられ、今度こそ葛城の決定機が──
「長ぇよその勝負。もう腹パンパンだって」
「ッ士道!?」
2人の戦いに突如として悪魔が舞い降りた。いや、飛び上がって乱入してきた。
「ヤる時は、イッキに奥まで挿れろッ!」
──
ゴール前の密集地帯で行うモノではない。だが彼は空中で葛城の肉体を支柱にし、体をムリヤリねじ込んでゴールをかっ攫った。
GOAL!!【Z:5-5:V】
同点。同時にチームZの得点王の座は彼に回帰した。
この時、後半戦開始から40分が経過していた。残り5分、ボールはVから始まる。アディショナルタイムも恐らく1分しかない。
「く……っそ!葉隠ェ!動け!ボールを奪えぇ!」
もはや形振り構っていられない。
葛城が叫び、葉隠がハッとなって動き出す。だが、もう……
──RE START!!
「パス回せ!間違っても葛城と士道に触れさせるな!」
西岡の号令に素直に従うチームV。彼らはチームとして勝ち上がりが確定している。ここで無様な負けを晒すくらいなら、堅実に
西岡がタッチライン際でボールを持つ。そしてその前に、葉隠司と葛城当が寄せてきた。
「くそっ、まだ、まだ……ッ!」
「終われん!あと1点取れば……ッ」
「お前らのプレーは良かったよ。けど、全てにおいて運がなさすぎたな」
ドッ!と逆方向へ散らされるボール。そしてその瞬間、試合終了を告げる電子のホイッスルが鳴り響いた。
『試合終了!5-5でこの試合、ドロー!』
試合が終わり、歓喜の声はどこからも上がらなかった。
勝ち残ったチームVですら、Zの脅威から逃げ切ったと安堵のため息が吐かれるばかり。
そして敗退の決定したチームZは、葉隠と葛城だけが地面に伏せていた。
それ以外のメンバーは無感情で立ち尽くし、唯一生き残りの士道だけが気持ち良さそうに歩いていた。
その歩みが、伏せる2人の前で止まった。
「いやー、イイ具合だったぜお2人さん♪お前らのおかげで、俺は新しい“爆発”をこの世界に起こせそうだ。ごっそさん」
士道はこの試合を経て、多くの実りを得た。
自己の進化に始まり、葉隠の洞察眼と葛城の
結果として、彼らはこの悪魔を育てるためのエサを提供したに過ぎない。
彼らはもう、その役目を終えたのだ。
第伍号棟、全試合終了。
5チームによる総当たりの最終結果──
1位、チームV11名(最多得点:西岡初)
2位、チームW11名(最多得点:時光青志)
以下、脱落する下位3チームの最多得点者3名。
X、石狩幸雄
Y、皿斑海琉
Z、士道龍聖
──以上25名を、1次