ブルーロック─龍の始動─   作:へるしぃーぼでぃ

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最終回です。お読み下さりありがとうございました。


『士道龍聖』の物語

『“青い監獄(ブルーロック)”には伍号棟しか存在しなかった。お前らは全員チームV~Zの最底辺と思い込み、1次選考(セレクション)をバカみたいに戦ってたんだよ』

 

「ふざけんなぁ!」「こんな思いしてまでサッカーしてなんの意味があんだよ!?」と喚く有象無象。

(とき)は1次選考が終わり、10日後。場所はブルーロック地下中央エリア。

そこに集められた125名のストライカーたちが、絵心甚八のこの曝露(ガイダンス)にキレ散らかしていた。

その中で彼──士道龍聖は、ただただ落胆していた。

 

(あ?つまりここに集まってる全員が底辺だったって事か?なら1番スゴいヤツでも、西岡メッシレベルまでしか居ねぇってのか?)

 

だとしたら“青い監獄(ブルーロック)”の底が知れた、と彼は途端にヤル気を失くした。

そこそこに過酷だった数日間のフィジカルトレーニングの疲れも相まって、士道はその場で寝始めてしまう。

その間、ある男のプレーが起こった。

それは糸師凛──彼が準備運動と称して2種類のキックを撃ち上げ、それらを空中で衝突させたのだ。こんな芸当は西岡初にも出来ないのだが、フテ寝してしまった士道はそれを知る由もない。

こうして糸師凛との邂逅は果たされず、悪魔は底辺も底辺へと堕ちていった。

 

「んあ?なーんか誰も居なくなってんな」

 

士道が起きた時には、部屋には彼が最後の1人だった。

説明を一切聞いていなかった士道は、とりあえず矢印の示すまま扉を潜り、通路を進む。

そして始まる、2次選考(セレクション)1stステージ。

全面をパネルに囲まれた正方形の部屋、そのパネルの1つから突如ボールが射出される。

 

「おっほい。ボールちゃん久しブリブリ」

 

10日ぶりのボールをトラップ。そのままリフティングしていると、真正面に人影が現れた。BLM(ブルーロックマン)である。

瞬間、ギョロリと士道の眼が蠢く。

 

「おー、なにナニ?イカす奴が出てきたッじゃん!」

 

ドッ!と語尾とともに撃ち抜かれるシュート。

そのボールはBLMの真正面に放たれ、バシン!とキャッチされた。

 

「スッゲ!ボール触れんの!?」

 

幻映像(ホログラム)物体(ボール)を触ったことに素直に驚く士道。

パネル上部に制限時間と100GOALのカウントの文字が浮かぶ。それを視てココが何をする空間なのか察知した彼は、さっきまでの興奮は何処へやら、ため息を吐いた。

 

「はぁー、理解理解(アンダスタンタン)蹴撃練習(シュートレ)かよ、ここまで来て今更感パネェな」

 

ダラリと脱力する士道を余所に、左側パネルから射出口、右手にゴールポストとBLMが展開される。

ボシュ!とボールが放たれた。

 

「あーはいはい。さっさと終わらす……か!」

 

キーパーと1vs.1の状況(シチュ)、進化した士道がハズす道理はない。

彼は次々とゴールを決めていき、レベルMAX時の初球以外、すべてを一撃で決めて1stステージをクリアした。ランキングこそ111位だが、その所要時間は糸師凛に次ぐ速さである。

これをモニタールームから視ていた“青い監獄(ブルーロック)”職員、帝襟アンリが感嘆して呟いた。

 

「やっぱりスゴい得点能力ですね、士道龍聖くん。……でも、あまりにもマイペース過ぎて、このままだと脱落しちゃうんじゃないですか?彼」

 

アンリは背後の人間に語り掛けたつもりだったが、反応がない。彼女はジト目で振り返ると、話し掛けた人物──“青い監獄(ブルーロック)”総指揮、絵心甚八は、その言葉を無視しカップ焼きそばにマヨレーザーを放っていた。そして長い指で箸を操り麺を混ぜ合わせて絡めとると、1口啜って咀嚼しながらようやく反応を示した。

 

「別にいいんじゃない?それで落ちたらそれまで。逆に這い上がってこれたら、それこそ『スゴい』ことの証明でしょ。まぁ2次選考は長い、気長に視てなよアンリちゃん」

 

もぐもぐと行儀悪く、箸でモニターを指し示す絵心。あまり納得してない表情のアンリ。

どちらにせよこの2次選考、彼らに干渉することは出来ないし、しない。個人の能力を極めることを課題(ミッション)として設けた場だ。第三者の介入は不純物(アンフェア)である。

……だが、絵心の胸中は穏やかではなかった。

 

(士道龍聖、コイツはすでに突出した(エゴ)を持っている。その点では俺の目指すストライカーの最優秀個体と言っていい。……だがそれ故に問題行動が多い。果たしてこの男が日本サッカーを変えるのか、それとも……)

 

絵心の心境などいざ知らず、画面の中、100本のGOALを決めた士道が涼しい顔で通路を歩く。

そして辿り着く、2ndステージ。

 

「なんじゃ?ショボイ奴らしか居ねーな」

 

士道龍聖の第一声である。

この言葉にまだチームを組めていない人間たちの視線が突き刺さるが、なんのその。

登場から1歩で剣呑なムードだが、その中で一際明るい声が士道にすり寄った。

 

111位(アンタ)、スゲぇなぁ!こんな選りすぐりのヤツらを前にその啖呵、マジ釈迦に説法スタイルじゃん!」

 

「んあ?んだ坊主」

 

やかましい輩──新BLランキング108位の五十嵐栗夢だ。

士道は興味無さそうに上の空だが、「なあ、俺らと組もうぜ!あと1人決まってねぇんだ!」とグイグイ来る。

士道が返事をする間もなくチームは結成され、彼らは3rdステージへ進出。そのまま流れるように3vs.3の“奪敵決戦(ライバルリーバトル)”が決戦合意(マッチメイク)された。

──そこで惨劇は起こった。

 

「レベル低すぎっ。つまんねーのでちょっと激しめのプレイを開催しねー?」

 

「は?いきなりナニぐば!?」

 

突然の膝蹴り。そして警笛が鳴るより早く次の獲物へ襲いかかる士道。あまりにもレベルの低いサッカー内容に、彼のガマンが限界を迎えたのだ。

その暴挙で彼は退場。2vs.3で勝てるワケもなく、そして実力のないイガグリも選ばれず、彼らは後退した。

そして出会い、蹂躙する。國神錬介と御影玲王を。

 

「自分を壊せない人間に、爆発は起こせないぜ」

 

新BLランキング50位と10位という格上のタッグであるが、数値では測れない士道の実力は彼らを大きく凌駕した。

危なげなく勝利を掴み、そのまま3vs.3、4vs.4と立て続けに勝っていく。

それぞれランキング20位曽倉哲、4位黒名蘭世を指名し、迎えるは3次選考(セレクション)──世界選抜戦。

 

『よーやくコレで最後か。後半は特に面白みのない試合だったからキツかったぜ』

 

『ホントそれな!糸師冴の弟とトラップ小僧くらいしか覚えてねぇぜ!』

 

『大目に見てあげなよ。僕らが期待し過ぎただけだし』

 

“ゲットゴールジャンキー”アダム・ブレイクと、“重戦車”ダダ・シウバ、それと“そばかすベイビー”パブロ・カバソスが言葉を交わす。

彼ら世界選抜組はこれまで6組のブルーロック選抜を査定してきて、いささか辟易していた。

先駆者(トップバッター)の糸師凛は良かった。サッカー後進国と侮っていた日本への価値観を上方修正する程度には実力があった。

それがいけなかった。

以降のチームへ、彼らは最初からヤル気を出してしまったのだ。凛でさえ、その気になった彼ら相手に手も足も出なかったのだ。以降のチームBL(ブルーロック)がゴールを奪えないのは必然である。

そうして次々と試合を消化していく内に、彼らのヤル気はすっかり鎮火していった。それが今の彼らの心境である。

それでも彼らを唸らせる才能の原石は少なからず転がっていた。凪誠士郎、烏旅人など……つまり、(のち)のTOP6だ。

その最後の1人が、気の抜けた世界に対して目を輝かせていた。

 

「おー、強そー。ナニナニ?アイツ等とヤっていいの?」

 

士道が興味津々な様子で世界選抜組を見やる。その反応にチームメイトは「トップスターを知らないのか?」と視線を向けるが、当然彼はそんな反応など気にしない。

士道は無造作にトップスターたちへ近づく。

 

『ん?なんか来たよ』

 

カバソスが士道に気付いた。士道はそんな彼を視ると「このチビもヤベェ……アイツもっコイツもヤベェ!」と次々に指を差してはしゃぐ。

その様子に“レ・アールの貴公子”レオナルド・ルナがニコニコと笑う。

 

『元気がいいなぁ。最後のクリアチームだし、底辺なりによっぽどここまで来れたことが嬉しいんだね!』

 

『ちょっとルナさん、失礼ですよ。……ま、これでラストですし、お互い頑張りましょー』

 

“神童”ジュリアン・ロキが士道へ手を差し出す。「おー、ナイスチューミーチュー!イッツエクスプロージョン!」とゴキゲンな士道は叫び、試合は開始された。

 

 

 

「葉隠。俺には何が足らなかったと思う?」

 

──士道が世界選抜に出会う、10数日前。

暗い通路の中。そこに、脱落となった敗者たちの岐路があった。

ゆらゆらと歩く巨漢──葛城当から零れた弱音に、質問された葉隠司は何も返答を返さなかった。

……いや、返せなかった。

その質問への回答は、自分の方こそ知りたかったから。

だから、これはただの独り言だ。

 

「……士道は、凄かった。弩級の身体能力に、常識に囚われない脳ミソもある。あーゆうヤツが、世界に行くんだろうな……」

 

自分は何ひとつ持っていない。肉体は凡、脳ミソも士道ほどブッ飛んでおらず、そして運もない。

葉隠が“青い監獄(ここ)”に来て学んだ最大の事柄は、自分はストライカーではなかった事。

挑み、這い、よじ登り、そしてすべてをブチ壊された。もう、サッカーに未練は──……

 

「おい。なんだ、コレ……」

 

葛城の震える声がした。

彼らの足下に『SELECT(選択)』の文字。視線を上げれば、『EXIT(出口)』ともう1つ、『WILD CARD(敗者復活)』と書かれた禍々しい扉が。

 

「どういう事だ?もう一度、挑戦できるのか?」

 

迷う葛城。

だが葉隠は、そんな彼を差し置いて1歩を踏み出した。

出口の方へ。

たまらず葛城が叫ぶ。

 

「その選択でいいのか?俺は……俺たちにはまだ、可能性がッ」

 

「あると思うか?あの士道のプレーを視て」

 

葉隠の力のない瞳……だが強い諦念の瞳に、葛城は息を飲んだ。

そして思い返(フラッシュバック)される、士道龍聖の規格外の行動の数々。

押し黙る葛城に、葉隠は声を震わせながら言葉を紡いだ。

 

「俺はお前らを視て、悪魔に成ろうとした。けど、それが間違ってた。悪魔程度じゃダメなんだ……、悪魔すらも喰らうバケモノじゃないとッ」

 

実力がないから、使えるモノはすべて利用して生き残ろうとした。

だが違ったのだ。それだけでは足りなかった。

──利用し、喰らう。

喰らい、自らの血肉にせねばならなかったのだ。敵も、味方も。なにもかも。

 

「俺はいくら頑張っても“人間”の範疇から抜け出せる気がしない。サッカーは……、世界一のストライカーは、あの化け物に任せるよ」

 

出口が開き、外からの逆光で葉隠の顔は見えない。だがおそらく、その表情は自分と同じだと、葛城は彼の後に続いた。

 

「……そうか。そうだな。俺たちは……ストライカーとしての俺たちは、アイツに喰われて死んでしまったんだな」

 

これ以上の無様は晒せない。

彼らの夢は潰えた。その夢の続きは空高く舞う龍へ託し……いや、その血肉となって、世界へ轟く。

 

「うおおーー!?士道すげー〜!!」

 

イガグリの間の抜けた声が、いやによく響いた。

世界選抜戦が始まり、開始5分。

ゴール前にて寝転ぶ士道、その隣で呆然と立ち尽くすジュリアン・ロキ。

そしてゴールネットを揺らし転がる、ボール。

 

GOAL!!【BL(ブルーロック):1-0:WF(ワールドファイブ)

 

──5分前。

完全にナメて掛かる世界(トップスター)たちにまず一矢報いたのは、以外にも五十嵐栗夢(イガグリ)だった。

彼はボールを取りに動いたレオナルド・ルナ相手に派手に転び、ファウルをもぎ取ったのだ。

 

「ッしゃあファウル取ったァ!俺のずる賢さ(マリーシア)は世界にも通用するぅ!」

 

『ん?あぁ、ファウルしてた?ゴメンゴメン。全然気付かなかったよ、君の存在に』

 

お互いに言語を理解してないからスルー。

そこから曽倉、黒名とワンタッチパス。左サイドで玲王がパブロ・カバソスと対峙(マッチアップ)するが、迫られる前に一気にゴール前へセンタリングを打ち上げた。

そこへ駆ける、1匹のストライカー。士道龍聖。

 

「キタキタ!レッツ爆発チャンス!」

 

『良い反応(レスポンス)です。自由にはさせないけど』

 

それに並走するはジュリアン・ロキ。士道の敏捷性(アジリティ)に余裕で追いつく速度(スピード)で、シュート阻止に動く。

これには士道も「うおっ、チョッ(ぱや)マン!」と驚くが、すぐに獰猛な笑みを浮かべた。

 

「イイネ!かつてない強敵に俺のハートがよぉ……ッ」

 

ゴール前、ボールの落下地点へ競うこの瞬間(シーン)

士道が方向転換。ロキの周囲を走る、駆ける、裏を取る。

 

『っな!?』

 

「ッドキドキで爆発すんぜ!」

 

裏、と魅せかけ正面。士道が翔んだ。

──頭点越蹴弾(オーバーヘッドキック)

炸裂したシュートは、完全にロキを出し抜いて放たれた。

 

GOAL!!【BL:1-0:WF】

 

『ほーん。小僧が出し抜かれるたぁ、最後の最後にマシなのが来たなぁ』

 

アダム・ブレイクが無表情で呟く。

その言葉に同調するように、ダダ・シウバが豪快に笑った。

 

『ガハハ!してやられたなロキ!』

 

『……すみません。ちょっと行動が意味不明で混乱しました』

 

肩を落とすロキの背を、パブロ・カバソスが軽く叩く。

 

『アイツの動き、演出力はないけど代わりに派手さがあるね。油断してたらしょうがないよ。……1度目は』

 

その言葉を皮切りに、彼らの纏う空気が変わった。

どうやらもう、手を抜くつもりはないらしい。レオナルド・ルナが音頭をとった。

 

『じゃあちょっぴり気を引き締めて……フットボールをやろっか』

 

 

 

 

 

──30分後。

青い監獄(ブルーロック)”3次選考(セレクション)、1stノルマ『世界選抜戦』。

TEAM BLUE LOCK【1-5】敗北。

 

「……あれが世界か」

 

トップスターたちが居なくなり、人工芝の上で倒れ込む汗だくの士道。

他の4人も消耗しているが、特に士道は1人食い下がったので、尋常ではない疲労を蓄積していた。

だが世界最高峰との戦いは、彼にとって多大な感情を巻き起こした。

 

「サイッッッコーじゃん!このまま上り詰めていけば、またヤりあえんだよな!?」

 

彼は絶望するでも悔しがるでもなく、また憧れでもなく、素直に悦んだ。

完膚なきまでに蹂躙され、1ミリもへこたれぬこの精神(メンタル)

『絶望する才能』とは真逆……──『享楽の才能』とでも言うべき生態。

これが士道龍聖。これが彼の強さの根幹。

 

「うへぇ、あんなにボコボコにされて喜んでるぅ……っ。超ドMじゃん、士道」

 

その様子を見たイガグリがドン引きするが、これが凡と非凡の違いである。いつだって突出した人間は狂人の類と認識されるのだ。間違ってはいないが。

 

「ここまで生き残ってきたヤツらもこの試合ヤってんだろ?んなら、少しは骨のあるヤツが居そーだな」

 

青い監獄(ブルーロック)”への期待値が上がる士道。果たしてその予感は数日後、現実となる。

 

『それではラスト7thクリアチーム、入場してください』

 

3次選考に進出する7チーム──計35名が一堂に会する場。そこに満を持して登場した彼は、全員の注目を一身に受けながら悠々と言い放った。

 

おしまい(ザッツ・オール)。」

 

 

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