『“
「ふざけんなぁ!」「こんな思いしてまでサッカーしてなんの意味があんだよ!?」と喚く有象無象。
そこに集められた125名のストライカーたちが、絵心甚八のこの
その中で彼──士道龍聖は、ただただ落胆していた。
(あ?つまりここに集まってる全員が底辺だったって事か?なら1番スゴいヤツでも、西岡メッシレベルまでしか居ねぇってのか?)
だとしたら“
そこそこに過酷だった数日間のフィジカルトレーニングの疲れも相まって、士道はその場で寝始めてしまう。
その間、ある男のプレーが起こった。
それは糸師凛──彼が準備運動と称して2種類のキックを撃ち上げ、それらを空中で衝突させたのだ。こんな芸当は西岡初にも出来ないのだが、フテ寝してしまった士道はそれを知る由もない。
こうして糸師凛との邂逅は果たされず、悪魔は底辺も底辺へと堕ちていった。
「んあ?なーんか誰も居なくなってんな」
士道が起きた時には、部屋には彼が最後の1人だった。
説明を一切聞いていなかった士道は、とりあえず矢印の示すまま扉を潜り、通路を進む。
そして始まる、2次
全面をパネルに囲まれた正方形の部屋、そのパネルの1つから突如ボールが射出される。
「おっほい。ボールちゃん久しブリブリ」
10日ぶりのボールをトラップ。そのままリフティングしていると、真正面に人影が現れた。
瞬間、ギョロリと士道の眼が蠢く。
「おー、なにナニ?イカす奴が出てきたッじゃん!」
ドッ!と語尾とともに撃ち抜かれるシュート。
そのボールはBLMの真正面に放たれ、バシン!とキャッチされた。
「スッゲ!ボール触れんの!?」
パネル上部に制限時間と100GOALのカウントの文字が浮かぶ。それを視てココが何をする空間なのか察知した彼は、さっきまでの興奮は何処へやら、ため息を吐いた。
「はぁー、
ダラリと脱力する士道を余所に、左側パネルから射出口、右手にゴールポストとBLMが展開される。
ボシュ!とボールが放たれた。
「あーはいはい。さっさと終わらす……か!」
キーパーと1vs.1の
彼は次々とゴールを決めていき、レベルMAX時の初球以外、すべてを一撃で決めて1stステージをクリアした。ランキングこそ111位だが、その所要時間は糸師凛に次ぐ速さである。
これをモニタールームから視ていた“
「やっぱりスゴい得点能力ですね、士道龍聖くん。……でも、あまりにもマイペース過ぎて、このままだと脱落しちゃうんじゃないですか?彼」
アンリは背後の人間に語り掛けたつもりだったが、反応がない。彼女はジト目で振り返ると、話し掛けた人物──“
「別にいいんじゃない?それで落ちたらそれまで。逆に這い上がってこれたら、それこそ『スゴい』ことの証明でしょ。まぁ2次選考は長い、気長に視てなよアンリちゃん」
もぐもぐと行儀悪く、箸でモニターを指し示す絵心。あまり納得してない表情のアンリ。
どちらにせよこの2次選考、彼らに干渉することは出来ないし、しない。個人の能力を極めることを
……だが、絵心の胸中は穏やかではなかった。
(士道龍聖、コイツはすでに突出した
絵心の心境などいざ知らず、画面の中、100本のGOALを決めた士道が涼しい顔で通路を歩く。
そして辿り着く、2ndステージ。
「なんじゃ?ショボイ奴らしか居ねーな」
士道龍聖の第一声である。
この言葉にまだチームを組めていない人間たちの視線が突き刺さるが、なんのその。
登場から1歩で剣呑なムードだが、その中で一際明るい声が士道にすり寄った。
「
「んあ?んだ坊主」
やかましい輩──新BLランキング108位の五十嵐栗夢だ。
士道は興味無さそうに上の空だが、「なあ、俺らと組もうぜ!あと1人決まってねぇんだ!」とグイグイ来る。
士道が返事をする間もなくチームは結成され、彼らは3rdステージへ進出。そのまま流れるように3vs.3の“
──そこで惨劇は起こった。
「レベル低すぎっ。つまんねーのでちょっと激しめのプレイを開催しねー?」
「は?いきなりナニぐば!?」
突然の膝蹴り。そして警笛が鳴るより早く次の獲物へ襲いかかる士道。あまりにもレベルの低いサッカー内容に、彼のガマンが限界を迎えたのだ。
その暴挙で彼は退場。2vs.3で勝てるワケもなく、そして実力のないイガグリも選ばれず、彼らは後退した。
そして出会い、蹂躙する。國神錬介と御影玲王を。
「自分を壊せない人間に、爆発は起こせないぜ」
新BLランキング50位と10位という格上のタッグであるが、数値では測れない士道の実力は彼らを大きく凌駕した。
危なげなく勝利を掴み、そのまま3vs.3、4vs.4と立て続けに勝っていく。
それぞれランキング20位曽倉哲、4位黒名蘭世を指名し、迎えるは3次
『よーやくコレで最後か。後半は特に面白みのない試合だったからキツかったぜ』
『ホントそれな!糸師冴の弟とトラップ小僧くらいしか覚えてねぇぜ!』
『大目に見てあげなよ。僕らが期待し過ぎただけだし』
“ゲットゴールジャンキー”アダム・ブレイクと、“重戦車”ダダ・シウバ、それと“そばかすベイビー”パブロ・カバソスが言葉を交わす。
彼ら世界選抜組はこれまで6組のブルーロック選抜を査定してきて、いささか辟易していた。
それがいけなかった。
以降のチームへ、彼らは最初からヤル気を出してしまったのだ。凛でさえ、その気になった彼ら相手に手も足も出なかったのだ。以降のチーム
そうして次々と試合を消化していく内に、彼らのヤル気はすっかり鎮火していった。それが今の彼らの心境である。
それでも彼らを唸らせる才能の原石は少なからず転がっていた。凪誠士郎、烏旅人など……つまり、
その最後の1人が、気の抜けた世界に対して目を輝かせていた。
「おー、強そー。ナニナニ?アイツ等とヤっていいの?」
士道が興味津々な様子で世界選抜組を見やる。その反応にチームメイトは「トップスターを知らないのか?」と視線を向けるが、当然彼はそんな反応など気にしない。
士道は無造作にトップスターたちへ近づく。
『ん?なんか来たよ』
カバソスが士道に気付いた。士道はそんな彼を視ると「このチビもヤベェ……アイツもっコイツもヤベェ!」と次々に指を差してはしゃぐ。
その様子に“レ・アールの貴公子”レオナルド・ルナがニコニコと笑う。
『元気がいいなぁ。最後のクリアチームだし、底辺なりによっぽどここまで来れたことが嬉しいんだね!』
『ちょっとルナさん、失礼ですよ。……ま、これでラストですし、お互い頑張りましょー』
“神童”ジュリアン・ロキが士道へ手を差し出す。「おー、ナイスチューミーチュー!イッツエクスプロージョン!」とゴキゲンな士道は叫び、試合は開始された。
⬟
「葉隠。俺には何が足らなかったと思う?」
──士道が世界選抜に出会う、10数日前。
暗い通路の中。そこに、脱落となった敗者たちの岐路があった。
ゆらゆらと歩く巨漢──葛城当から零れた弱音に、質問された葉隠司は何も返答を返さなかった。
……いや、返せなかった。
その質問への回答は、自分の方こそ知りたかったから。
だから、これはただの独り言だ。
「……士道は、凄かった。弩級の身体能力に、常識に囚われない脳ミソもある。あーゆうヤツが、世界に行くんだろうな……」
自分は何ひとつ持っていない。肉体は凡、脳ミソも士道ほどブッ飛んでおらず、そして運もない。
葉隠が“
挑み、這い、よじ登り、そしてすべてをブチ壊された。もう、サッカーに未練は──……
「おい。なんだ、コレ……」
葛城の震える声がした。
彼らの足下に『
「どういう事だ?もう一度、挑戦できるのか?」
迷う葛城。
だが葉隠は、そんな彼を差し置いて1歩を踏み出した。
出口の方へ。
たまらず葛城が叫ぶ。
「その選択でいいのか?俺は……俺たちにはまだ、可能性がッ」
「あると思うか?あの士道のプレーを視て」
葉隠の力のない瞳……だが強い諦念の瞳に、葛城は息を飲んだ。
そして
押し黙る葛城に、葉隠は声を震わせながら言葉を紡いだ。
「俺はお前らを視て、悪魔に成ろうとした。けど、それが間違ってた。悪魔程度じゃダメなんだ……、悪魔すらも喰らうバケモノじゃないとッ」
実力がないから、使えるモノはすべて利用して生き残ろうとした。
だが違ったのだ。それだけでは足りなかった。
──利用し、喰らう。
喰らい、自らの血肉にせねばならなかったのだ。敵も、味方も。なにもかも。
「俺はいくら頑張っても“人間”の範疇から抜け出せる気がしない。サッカーは……、世界一のストライカーは、あの化け物に任せるよ」
出口が開き、外からの逆光で葉隠の顔は見えない。だがおそらく、その表情は自分と同じだと、葛城は彼の後に続いた。
「……そうか。そうだな。俺たちは……ストライカーとしての俺たちは、アイツに喰われて死んでしまったんだな」
これ以上の無様は晒せない。
彼らの夢は潰えた。その夢の続きは空高く舞う龍へ託し……いや、その血肉となって、世界へ轟く。
「うおおーー!?士道すげー〜!!」
イガグリの間の抜けた声が、いやによく響いた。
世界選抜戦が始まり、開始5分。
ゴール前にて寝転ぶ士道、その隣で呆然と立ち尽くすジュリアン・ロキ。
そしてゴールネットを揺らし転がる、ボール。
GOAL!!【
──5分前。
完全にナメて掛かる
彼はボールを取りに動いたレオナルド・ルナ相手に派手に転び、ファウルをもぎ取ったのだ。
「ッしゃあファウル取ったァ!俺の
『ん?あぁ、ファウルしてた?ゴメンゴメン。全然気付かなかったよ、君の存在に』
お互いに言語を理解してないからスルー。
そこから曽倉、黒名とワンタッチパス。左サイドで玲王がパブロ・カバソスと
そこへ駆ける、1匹のストライカー。士道龍聖。
「キタキタ!レッツ爆発チャンス!」
『良い
それに並走するはジュリアン・ロキ。士道の
これには士道も「うおっ、チョッ
「イイネ!かつてない強敵に俺のハートがよぉ……ッ」
ゴール前、ボールの落下地点へ競うこの
士道が方向転換。ロキの周囲を走る、駆ける、裏を取る。
『っな!?』
「ッドキドキで爆発すんぜ!」
裏、と魅せかけ正面。士道が翔んだ。
──
炸裂したシュートは、完全にロキを出し抜いて放たれた。
GOAL!!【BL:1-0:WF】
『ほーん。小僧が出し抜かれるたぁ、最後の最後にマシなのが来たなぁ』
アダム・ブレイクが無表情で呟く。
その言葉に同調するように、ダダ・シウバが豪快に笑った。
『ガハハ!してやられたなロキ!』
『……すみません。ちょっと行動が意味不明で混乱しました』
肩を落とすロキの背を、パブロ・カバソスが軽く叩く。
『アイツの動き、演出力はないけど代わりに派手さがあるね。油断してたらしょうがないよ。……1度目は』
その言葉を皮切りに、彼らの纏う空気が変わった。
どうやらもう、手を抜くつもりはないらしい。レオナルド・ルナが音頭をとった。
『じゃあちょっぴり気を引き締めて……フットボールをやろっか』
──30分後。
“
TEAM BLUE LOCK【1-5】敗北。
「……あれが世界か」
トップスターたちが居なくなり、人工芝の上で倒れ込む汗だくの士道。
他の4人も消耗しているが、特に士道は1人食い下がったので、尋常ではない疲労を蓄積していた。
だが世界最高峰との戦いは、彼にとって多大な感情を巻き起こした。
「サイッッッコーじゃん!このまま上り詰めていけば、またヤりあえんだよな!?」
彼は絶望するでも悔しがるでもなく、また憧れでもなく、素直に悦んだ。
完膚なきまでに蹂躙され、1ミリもへこたれぬこの
『絶望する才能』とは真逆……──『享楽の才能』とでも言うべき生態。
これが士道龍聖。これが彼の強さの根幹。
「うへぇ、あんなにボコボコにされて喜んでるぅ……っ。超ドMじゃん、士道」
その様子を見たイガグリがドン引きするが、これが凡と非凡の違いである。いつだって突出した人間は狂人の類と認識されるのだ。間違ってはいないが。
「ここまで生き残ってきたヤツらもこの試合ヤってんだろ?んなら、少しは骨のあるヤツが居そーだな」
“
『それではラスト7thクリアチーム、入場してください』
3次選考に進出する7チーム──計35名が一堂に会する場。そこに満を持して登場した彼は、全員の注目を一身に受けながら悠々と言い放った。
「