七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた

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第92話 胎動する機神の腹で

 “マガツミ遺跡”の地上部は、大理石造りの白亜の神殿で成り立っている。

 まるで在りし日のパルテノン神殿がこのような様相であっただろうと思わせるような、美しくも荘厳な巨大建築物だ。

 しかしその表層は、地下に広がる本来の祭神の神殿を隠すためのカモフラージュである。

 

 この遺跡に祀られている真の神とは“機械の神(デウスエクスマキナ)”。

 演劇に無理やり幕を下ろすご都合主義の化身と同名の名を持つこの神は、ロボットやAI同士の闘争を司る神性である。

 

 この狂神はロボット同士の死闘を何よりも好み、その過程で流れたオイルと断末魔と共に流出されたパイロットの電脳体()を供物として求める。

 それはあたかも古き蛮神が闘争の勝者の強い血と心臓を供物として求めたように。

 

 この“禍ツ神(マガツミ)遺跡”は、狂える機械神への供物として歴戦のパイロット同士の死闘が繰り広げられたという歴史を持つ地下神殿なのだ。

 のちにこの闘争を求める機械神は邪神と断じられて禁教とされ、地下神殿の上には正教の神殿が築かれた。

 機械の神への信仰は、黒歴史として抹殺されたのだ。

 

 だが。

 地下神殿はまだ生きている。

 

 びっしりとケーブルが張り巡らされた通路には未だ電流が流れている。

 人間大のアンドロイドの頭部が髑髏造りの彫刻のように並べられた地下墳墓(カタコンベ)では、頭部のカメラアイが蠢く。

 人間の判断基準では理解できない常軌を逸した建築物は、地下に封じたところで殺せはしない。

 電脳の神は今も、虎視眈々と復活の(とき)と新たなる(にえ)を待ち続けている……。

 

 

 というのが、“禍ツ神遺跡”の設定(ストーリー)だ。

 ディミちゃんが嬉々として語ろうとしていたこの設定は、無論架空のものに過ぎない。

 封じられた機械神などというものは存在しないし、こんな野蛮な儀式を信仰としていた古代人などというものも実在しない。

 

 ただし、その設定を反映した遺跡だけはここに()る。

 

 

 遺跡の地下にはいくつものケーブルが張り巡らされ、まるで巨大な生物の血管のように脈打っている。

 電脳の邪神を讃える碑文が壁の電光パネルに浮かび上がり、壁にずらりと並べられたアンドロイドの頭部は機械神を讃える祝詞を唱え続ける。

 

 

 そんな人類の理解を絶した遺跡の最深部。

 邪神を祀る広大な大聖堂にて、無数のケーブルに繋がれた巨大な神像とストライカーフレームが対峙していた。

 

 身の丈30メートルはある機械の巨人の頭部には、あるべき顔のパーツが何ひとつない。ツルツルとした無貌に、まるで蜘蛛のように伸びた細長い腕を数対伸ばし、そのひとつひとつにブレードやキャノン砲といった様々な兵器を握っている。

 

 しかしその腕の数本は途中からへし折れ、あるいは断ち切られ、焼き切られていた。それをやったのは、この神像と対峙するストライカーフレームだ。

 

 真っ赤なシュバリエを核とする厳めしい造形のストライカーフレームは、1時間にもわたる激戦の果てについに神像……この地に隠されたレイドボス“禍々しき機神像(メタ・オオマガツミ)”を追い詰めていた。

 

 

『賛美セヨ! 旧キ神、コノ星ノ真ナル神! 今ヤ外界ヲモ支配スル我ラガ神ノ名ヲ唱エヨッッッ!!』

 

 

 いくつもの兵器を抱えた腕を振り回し、架空の神を礼賛する言葉を紡ぐ巨神像。それに対抗するストライカーフレームのコクピットで、オクトは心底吐き気がすると言った顔付きでレイドボスを睨み付けた。

 

 

「その顔ももううんざりだ……いい加減に眠るがいい、ガラクタめが!」

 

『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!! 賛美セヨ! 賛美セヨ! 賛美セヨォォォッ!!』

 

 咆哮と共に巨神像の顔に大きな穴が開き、青白い極太ビーム砲が吐き出される。

 オオマガツミの最強技“機神礼賛(ギシンライサン)”。

 横薙ぎに繰り出されるビーム砲は、大聖堂を支える柱を次々と蒸発させながら紅いストライカーフレームを追う。

 しかしオクトはそのビーム砲をかいくぐりながら大聖堂を飛び回る曲芸飛行を展開。サイズ的に到底避けられないはずのビーム砲の判定スレスレを維持した、驚異的な精密さを見せる。

 

 

「阿呆め、切り札を見せたな? それを待っていた……! ナンバー10から14までは下! 16から20まで上! 21から24までは腕を落とせ! かかれエッ!!」

 

「「ははっ!!」」

 

 

 オクトの号令を受けて、それまで控えていた【ナンバーズ】のシュバリエたちが一斉に巨神像に飛びかかる。

 オクトに命じられた3グループに瞬時に分かれたシュバリエたちは、オクトが敵の大技を引きつけているうちに、それぞれ巨神像の腹部、頭部、腕部へと狙いを付けて攻撃を仕掛ける。

 

 まるで同じ人間が複数の機体を操っていると錯覚するような、一糸乱れぬ整然とした動き。相当な練度がなければこうはならないだろう。

 

 【ナンバーズ】は100人を超えるその構成員の全員が“腕利き(ホットドガー)”であり、クラン内の序列をコールネームとする。10番から20番台ともなればその腕は最精鋭であり、その腕前は全プレイヤー中トップクラスと言っても過言ではない。

 

 そして序列のトップに君臨する者こそ、クランリーダーのオクト(8番)だ。

 なお、1番から7番と9番は欠番とされている。欠番とする理由を、オクトは誰にも語らない。

 

 

『不心得者ッ……!! 賛美ッ! 賛美ッ! 賛美ィィィィィッ!!!』

 

 

 一斉攻撃を受けた衝撃に大技を中断させられた巨神像が、憎々しげな呪詛を吐き散らしながら複数の腕を振るってシュバリエたちを撃墜しようとする。

 しかしシュバリエたちはそれを紙一重でかわし、接近戦を維持したまま銃撃を加え続けていく。

 

 

「悪いがこの後待ち人がいるのでな……貴様のような雑魚に構っている余裕はないッ!! 終わるがいい、ガラクタッッ!!」

 

『…………!!』

 

 

 オクトが駆るストライカーフレームがブースターを一気に噴射し、巨大なブレードを構えたまま巨神像の顔に突進!

 そして加速の勢いのまま、頭部にまだ開いたままのビーム砲門にブレードを突き立てた。

 

 

「爆ぜよ、雷霆(ケラウノス)ッ!!」

 

 

 オクトの絶叫と共にブレードが激しく発光し、刀身から数十万ボルトもの雷撃が巻き起こった。

 精密なビーム砲の砲門の中から直接高電圧を叩き込まれ、電流と共に放射される電磁パルスが内部から巨神像の電子頭脳を焼き千切る。

 

 

『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ…………………ンッ……!!!!』

 

 

 切り札となる極太ビーム砲を発射するその部位こそ、このレイドボスの最大の弱点。

 そこに最も効果的な電撃攻撃を叩き込まれた巨神像は、ブスブスと黒煙を上げながらその場に倒れ伏した。

 

 

『カ……神ヨ……我ガ身ヲ……供物……ニ……』

 

「不快だ。もう空言(そらごと)(さえず)るな」

 

 

 巨大なブレードを背負ったまま降下したストライカーフレームが、巨神像の首に斬撃を繰り出す。

 その一撃で、レイドボスの頭部がズシンと地響きを立てつつ切断された。

 

 シュバリエたちはレイドボスの遺骸に油断なく銃口を向けながら、無言で動向を伺い続けている。

 

 

『レイドボス“禍々しき機神像(メタ・オオマガツミ)”撃破を確認。定員30名内クリア。おめでとうございます、貴方がたが初討伐者です』

 

 

 やがてシステムメッセージと共に勝利が告げられると、シュバリエたちはようやく武器を下ろした。

 しかし内心はどうあれ、彼らは喜びに沸くことはない。

 リーダーであるオクトが未だに緊張を解いていないからだ。

 

 部下たちが見守る中、オクトは年輪が浮かんだ顔をわずかに緩めると頷いた。

 

 

「うむ……よくやった、お前たち。これで今回の作戦目的の半分は達成した。ボーナスは期待していろ」

 

 

 その言葉に、部下たちが安堵のため息と共にわあっと沸き上がった。

 【ナンバーズ】の構成員はオクト以外の全員が同じ制服とバイザー付きのヘルメットを被っている。ヘルメットの下の表情はほとんど表れることがないが、みな一様に喜んでいるのは声から分かった。

 

 この地下神殿に潜むレイドボスを討伐することが、今回の【ナンバーズ】の目的のひとつだった。

 上級レイドボスの1体でありつつも、隠しキャラ的に配置されたこのレイドボスは、発見するのが非常に難しい存在だ。

 

 フレーバーテキストの割にはぎっしりと作り込まれた設定を隅から隅まで読まなければ封印された地下マップには入れず、その最深部に配置されたレイドボスには気付けない。

 【ナンバーズ】の解読班は、設定や現地の碑文に隠された暗号を解読して最深部の位置を特定するのに1カ月をかけていた。

 

 しかしこうした地道な作業の積み重ねを、オクトは決して軽視していない。

 【ナンバーズ】が最強の傭兵クランとなりえたのは、オクトの超人じみた戦闘センスやさまざまなクランから“腕利き”をかき集める手腕のためだけではない。

 

 どのクランよりも先にレイドボスを倒して技術ツリーを進めることで、【ナンバーズ】はアドバンテージを得ていた。

 

 その大部分はカイザーに“献上”しているが、オクトは密かに技術の一部を秘匿し続けている。

 

 

「ふん……何が“機械の神”だ。怖気が走るわ。GMめ、よくもこんな悪趣味なモノを設定したものだ」

 

 

 オクトはストライカーフレームから自分の機体“八裂(ヤツザキ)”を分離させると、倒れ伏したレイドボスの頭部の上に降り立った。

 足元のレイドボスの残骸を睨み、憎々しげに踏みにじる。

 

 

「たかがAIごときが賢しらに神を名乗りおってッ! ああ、腹腸(はらわた)が煮えくり返るッ! ああああっ、腹が立つッッッ!!」

 

 

 そう叫びながら、ストライカーフレームが装備している巨大ブレードを背負い、裂帛の気合と共にレイドボスの頭部をさらに二つに割った。

 それでも飽き足らず、オクトは狂ったかのように頭部への執拗な攻撃を繰り返す。

 

 

「八つに裂いても収まらぬッ!! AIごときが何様のつもりだああッッ!!!」

 

 恐るべき執拗さで物言わぬレイドボスの残骸を攻撃するオクト。

 その狂乱の中にあってもオクトの攻撃は精密を極めており、レイドボスの頭部を的確に分割していく。

 

 配下たちはその姿と卓越した技量に言葉も出ない。固定していないスイカに牛刀を振り下ろして連続して断ち割るといえば、その難しさがわかるだろう。

 ましてやシュバリエの全高と同じサイズのブレードで、硬いにもほどがあるレイドボスの残骸を切り刻んでいるのだ。

 

 

 やがてレイドボスの頭部だったものに8度斬撃を叩き込み、粉々に断ち割ってからようやくオクトは処刑を終了した。

 まだ収まらない体の余熱に身を震わせながら、ぶるぶると頭を振る。

 

 

「クソッ……苛立ちを御しきれん。“宿業(カルマ)”というものはつくづく厄介なものだ。この感情の迸り、ヤツとの戦いで鎮められればいいが」

 

 

 その言葉を聞いた配下が、恐る恐るといった感じで尋ねる。

 普段は鷹揚なところがある上司だが、苛立っているときは何が地雷になるかわからない。とくにこうした大きな戦闘の後は。

 

 

「ボス。ヤツ……スノウライトというのは、それほどまでに重視すべき存在なのですか?」

 

「無論だ。アレがシャインかどうかを確かめねばならん。とはいえ、私の勘では十中八九シャイン本人だが……」

 

 

 そう言いながら、オクトは無精ひげに覆われた顎を撫でる。

 

 

「シャインを模したAI(偽者)という可能性がある。もしもそうなら、容赦はしない。確実にこの手で始末せねば」

 

 

 その表情から漂う隠し切れない殺意に、ぞくりと配下が顔を青ざめさせる。

 

 

「しかし……ありえますか? シャインというのは貴方の弟子で、人間なんでしょう? そんな実在の人間そっくりのAIなんて……」

 

「……エーテルネットワークに認証される魂のIDは常にひとつ。実在の人間と完全に同じ人格を持つAIは、決して作ることはできん。それがエーテルネットワークの絶対のルールだ。だがアイツはそのルールをすり抜ける方法を発見する可能性がある……」

 

 

 オクトが握りしめた拳が、ぶるぶると震える。

 これがリアルであれば、爪が手のひらを突き破って血を流すというのではないかというほどの激情を込めて。

 

 オクトが言うアイツとは誰か、配下は尋ねない。

 ボスは決してその腹に秘めた目的を配下に語ることはないとわかっていた。

 

 

「私の愛弟子を騙る者を、私は決して赦さない。八つ裂きにしても飽き足りぬ。この世から徹底的に抹消する」

 

「わかりました……。ですが、ボス。もしもそのシャインが貴方の弟子本人だとしたら……ナンバー9の座を与えるのですか」

 

 

 ナンバー10の言ったその言葉に、オクトは眉を上げた。

 

 【ナンバーズ】は徹底した序列社会だ。コールネームは序列の位と同じ。

 クラン内の待遇はその給料から通せる我儘の優先度まですべてが序列に準じる。何より、敬愛するボスからの寵愛が違う。

 

 オクトはナンバー1から7が欠番である理由を誰にも語らない。

 しかし、ナンバー9については違う。それは“片腕”の番号。

 いつかオクトが認める“片腕”に相応しい者が現れたときに与えられるナンバーであり、その座を争って団員たちは熾烈な争いを繰り広げていた。

 

 ある意味でクランメンバーたちが切磋琢磨する原動力ともなる、憧れの序列。

 

 

「だとしたらどうする?」

 

「……ッッ!!」

 

 

 オクトがそう返したのと同時に、その場の配下全員の闘志が燃え上がった。

 

 

「許せねえよ……! 許せるわけがねえだろうがッッ!!」

 

「ボス、俺たちゃナンバー9になりたくて(タマ)賭けてんだ。それを昔の弟子だからって、ポッと出のガキにくれてやれってんですか?」

 

「殺してやる……! 一生怨み抜いてやる……!!」

 

 

 バイザーの下に隠した爛々と赤く光る眼で、配下たちは口々にその怒りを訴える。

 その変化は突然で、ポットの中の水が一瞬にして沸騰したかのようだ。

 

 オクトはフッと笑うと、彼らに告げる。

 

 

「ならばその手でふさわしいかどうか確かめてはどうだ? あの子はもうじきここに向かってくるだろう。ナンバー30以降では止められまいよ」

 

 

 そんなことが可能なのか、と配下たちは訝し気な視線をオクトに向ける。

 確かに格下ではあるが、一般のプレイヤーに比べればいずれも一騎当千の“腕利き”ぞろい。そんな連中70騎以上がこぞって討伐に向かっているという。

 

 自分たちでも“腕利き”数騎をまとめて相手取ることなど不可能だ。

 それはもう人間業ではない。

 

 かといって常時AIが全プレイヤーのすべての操作を監視しているこのゲームでは、チートなど絶対に不可能。VRポッドの改造を含め、ハード・ソフトを問わずエーテルネットワークに接続した時点であらゆるツールの使用が禁止される。

 

 ならばもう、人間を殺すために作られた戦闘AIとしか思えないではないか。

 

 憤怒に苛まれながらも訝しがる配下たちに、オクトは笑い掛けた。

 彼の弟子が他人を煽るときに浮かべるものとそっくりの笑顔で。

 

 

「ではこれでどうだ? シャインを仕留めた者をナンバー9にしてやる」

 

 

 その瞬間、ウオオオオオオオッと配下たちが熱狂の叫びを上げた。

 

 

「俺だッ! 俺がナンバー9になるッ!! 見知らぬガキなど認められるかよおッ!!」

 

「抜け駆けしないで! ナンバー9はアタシだッッ!!」

 

「どけ、雑魚どもッ! 俺より下の序列がイキるんじゃねえッ!!」

 

「下剋上だ、アホがッ!! テメエが俺の上なのも今日までだッッ!!」

 

 

 1も2もなく飛び出していく配下たち。

 何しろナンバー9といえば副クランリーダー。PMCである【ナンバーズ】にとっては副社長の座にも等しい。

 そんな栄誉と利益、そしてオクトの信頼というかけがえのない報酬が、下剋上のチャンスと共に転がって来たのだ。奮起しないはずがない。

 

 そんな配下たちの姿を、オクトは苦笑と共に見送った。

 

 

「まったく……“憤怒の種(ラース・シード)”は便利だが、少々制御が難しすぎる」

 

 

 “種”を植えることで感染する激情は他人への支配力を強めるが、強い感情であるが故に制御しづらい。植える相手も気性が激しい者でなくてはうまく根付かず、強力ではあるが扱いにくい“特典(ギフト)”だった。

 

 とはいえ、ボードコントロールはオクトの得意中の得意だ。

 他人の感情を操ることで勝利を得る、それが何よりの彼の特技。

 その秘訣を彼は愛弟子に繰り返し吹き込んできたものだ。

 

 さてここを目指す侵入者は、あの“腕利き”たちを突破できるだろうか。

 

 

「単純な腕前ではあの子を凌駕する者もいる。だが、戦闘とはエイムや機体制御が優れている者が勝つとは限らない。私の愛するあの子(シャイン)であれば……」

 

 そう呟いて、オクトはうっすらと笑った。

 

 そこに通信が入り、オクトは浮かんだ笑みを引っ込めて眉を寄せる。

 

 

「どうした? ……何? 【シルバーメタル】が積極的に攻勢に出てきた、だと? 先方の上層部は買収できたはずではなかったのか」

 

 

 わずかな計画の狂いに、オクトは苛立ちを感じた。

 

 

 空中戦が得意なシャインが不得意な屋内の戦闘に持ち込み、翼をもいだ。自分の愛弟子であればどんな不利であっても挽回できるはずだ。

 ペンデュラムの支配地域に潜むレイドボスへの挑戦もできる、一挙両得を狙った作戦は完璧に仕上がっていた。

 

 そしていよいよ愛弟子かどうかを確かめられる段階にきて、妙な横槍が入った。

 死にぞこないの老人どもが、何を粋がっている。

 私と愛する弟子との再会に水を差すなど、許されることではない。

 今すぐこの手で黄泉路へ送ってくれようか。

 

 だが燃え上がりそうになる激情を、まだ小さな火のうちに制御して抑え込む。

 

 すぐにカッとなるのがこの“宿業(カルマ)”の欠点だ。それで判断を誤って計画を破綻させては元も子もない。

 

 

「……構わん、ジジイどもが遊びたいのなら付き合ってやれ。我々との力量差を思い知らせてやるがいい。ナンバー70以下はシャインの追跡をやめ、【シルバーメタル】と交戦しろ」

 

 

 通信を終えたオクトは、ふうとため息を吐いた。

 まったく、多人数を支配するというのは本当に大変だ。

 昔はもっと気楽な立場だったし、その境遇を何より幸せに感じていたのに。

 

 しかし、もう後には戻れない。復讐を果たすまで、オクトは止まれない。

 

 だが……だが、せめて。あの子と戦っているときだけは。

 

 

「シャイン……早く来てくれ。私を一介のプレイヤーに戻してくれ。私を死闘に夢中にさせてくれ。お前の腹を裂いて、本物なのか確かめさせてくれ……!!」

 

 

 脈打つ機神の血管(ケーブル)の海の中で、オクトは好戦的な笑みを浮かべた。

 

 お前のヤバい笑顔、本当に弟子そっくりだな!


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