七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第99話 じょうずに運転できるかな?

 通信越しに聞こえてくる部下たちの悲鳴と怒号を通信ごとぶった切って、オクトは舌打ちした。

 

 

「どいつもこいつも使えん……! やはり【シャングリラ】の他に信頼できる人材などおらんな」

 

 

 7人の上位メンバーのうち、誰か1人でも自分についてきてくれていれば。

 いや、いっそ上位メンバーでなくてもいい。数十人の構成員のうち誰か1人でも残っていれば、ここまで苦労をすることもなかっただろう。

 

 当時の【シャングリラ】と渡り合っていたゲーマーをかき集めて教育を施し、時には海外で戦闘機を乗り回していた元軍人に自ら指導をつけすらしたが、どれもこれもオクトが期待する水準には届かなかった。

 

 オクトの要望を満たす人材とは要するに【シャングリラ】のトップ7に匹敵するプレイヤーであり、いずれ劣らぬ超人じみたプレイスキルと悪辣な戦術眼を有するモンスターである。

 そんなものがそうそう培養できてたまるかよ、バイオハザード起こるわ。

 

 しかしシャインとかいう最初の成功例がいる以上、オクトは自分の育成法が正しいと信じて疑っていない。ぶっちゃけ世界がバグって生まれてしまったイレギュラーの可能性が極めて高いのだが。

 

 あれから有望そうなゲーマーや軍人を100人以上も弟子に取り、シャインより優れたプレイヤーを生み出そうと血眼になったが、未だにその試みは成功していない。

 だが、その努力も最早必要ない。

 

 オクトは全速力で逃げていく機影を見据え、身を乗り出しながら吼える。

 

 

「シャイン……お前さえいればいい!」

 

 

 最初に作った完成品さえ手中にあれば、それ以降に量産された失敗作などただの使い捨ての道具にすぎない。

 

 

「私の元に戻るのだ、シャイン! 私のナンバー9(右腕)にしてやる!!」

 

 

『何か言ってますよ、騎士様!?』

 

「知らないよそんなこと!」

 

 

 背後から凄まじい速度で猛追してくる機体からの通信にディミが反応するが、全神経を逃走と機体制御に割り振っているスノウにはただのノイズでしかない。

 

 

『わーっ!? 前、前! 騎士様、当たるッ!』

 

「当たらないからちょっと黙ってて!」

 

 

 今も回廊のど真ん中に設置された円柱が機体に接触するスレスレでかすめていき、ディミはヒュッと息を飲んだ。

 

 ちなみに内心でビビっているのはスノウも同じである。

 よりにもよってこのダンジョンは回廊のあちこちに柱やら石造やらが設置されており、その隙間を縫って全力で飛行するのはとんでもない危険行為だった。

 高速道路で大型トラックの群れをすり抜けながら全力で飛ばす方がまだ簡単だろう。

 

 それを潜り抜けるスノウは大したものだが、それをさらに上回る速度で追いかけてくるオクトはより異常であった。

 先ほどスノウが機体をかすった柱を悠々と避け、緻密なスラスター制御をもってより安定した加速をかけてくる。慣性が完全に再現されたこのゲームにおいては、スラスターをより上手く制御できる者ほど障害物レースで速度を出せるのだ。

 

 常人の限界をたやすく超えた機体制御を見せつけるオクトの姿に、ディミは引きつった悲鳴を漏らす。

 

 

『嘘でしょう!? あの人の反射神経とバランス感覚どうなってるんですか!? 私たち、なんでこんなところでレースなんてしなきゃいけないんです……!?』

 

「ボクが知るか! ただまあ……相手の方が難易度が高いのは確かだけどねッ!」

 

 

 そう言い放ちながら、スノウはスイッチを起動させた。

 

 その瞬間、先ほどスノウがかすった柱の裏に設置された炸薬が大爆発を起こす。

 

 

「むっ……!?」

 

 

 タマから借り受けた爆破工作用の炸薬が、オクトの機体に爆風を巻き起こして襲い掛かる。

 岩盤をも破壊する威力を持った爆薬である、至近距離で爆風を受ければいかに最高級パーツでビルドした機体であってもひとたまりもないはずだ。

 

 背後に巻き起こる爆風を見て、ディミはグッとガッツポーズを取った。

 

 

『やったか!?』

 

「やれるわけないんだよなあ」

 

 

 スノウはまったくスピードを落としてはいない。

 そしてその言葉通り、爆風の中からほぼ無傷の虚影八式が先ほどとまったく変わらない速度で飛び出してきた。

 

 

『全然効いてない!?』

 

「ボクの師匠だぞ、あの程度のトラップで死ぬわけないだろ!」

 

『なんだその説得力があるのかないのかわからない理屈!?』

 

 

 機体の中で揉める2人を、オクトはギラギラと燃える瞳で見つめる。

 ニィッとごく自然に口元が歪んだ。

 

 

「シャイイイイイインッ……! お前が罠を仕掛けていることなど先刻承知よ。相手を自分のキルゾーンに引きずり込む、私が教えたとおりの戦い方だ。そうでなくてはなぁ……!」

 

 

 愉悦とも怒りともつかない、まるで地獄の底から響いてくるような身震いのする声色だった。

 

 

「それにわざわざ乗ってやったのだ、爆薬ごとき並大抵のトラップで私を倒せると思うなよぉ……!」

 

 

 そう言いながら、オクトは銀翼の間から取り出した大きなシールドを構えたまま再加速した。

 対衝撃性能が付与されたシールドは、爆風の方向に的確に向けることでダメージを激減させることが可能である。

 

 

『対爆シールド!? なんであんなもの持ってるんです!?』

 

「そりゃボクが爆破するのを見越してたに決まってるじゃん。個人メタくらいするでしょ」

 

『爆破が個人メタ……? 前作で何やったんですか貴方』

 

 

 その2人の会話を聞いているのかいないのか、オクトは愉しそうに大声で笑う。

 

 

「さあ次は何を仕掛ける? どの罠をもって私を襲う? 爆弾か? スパイクか? 矢か? 崩落する天井、隠し砲台、落とし穴、モンスター、何でもいいぞ! 私にお前がシャインである証を見せてみろおおおぉぉッッ! アーハハハハハハッハァッ!!」

 

『めっちゃノリノリじゃん……』

 

 

 ドン引きした顔のディミに、スノウはこともなげに呟く。

 

 

「ちなみに多分あれ全部、ボクがあの部屋に踏み込んだときに師匠が仕掛けていた罠だと思う」

 

『ヒエッ』

 

 

 高すぎる殺意にディミは最早言葉もない。

 お互いに相手を殺すことだけを全力で考える師弟関係とは一体。

 

 

『もうちょっと仲良くできないんですか……?』

 

「? 今まさに和気あいあいと交流してるところだけど?」

 

仲良死(なかよし)かよ』

 

 

 血なまぐさい戦場で結ばれた師弟関係であるからこそ、その交流は死闘という形でしか結実しないのか。世の中には戦うことでしか示せない師弟愛もある……!

 

 いや、そんなわけねーだろ。

 単にこいつらが救いのない戦闘狂なだけであった。

 

 

「シャインッ! AIとイチャつくのはやめろ! 今戦っているのは私だぞッ!! 私だけを見ろーーーッッ!!!」

 

 

 ほら、弟子との死闘に水を差したから師匠がヒートアップしてライフルを抜いて狙撃態勢に入っている。

 普通移動しながら狙いを付けて射撃するなどそうそう成功するわけもないが、そこを平然とこなせるからこそ化け物である。

 

 ライフルの砲口から噴出したレーザーが、大気中のオゾンを焼きながらシャインに向けて迫る。

 

 

『わーっ! 撃ってきた撃ってきた!!』

 

「わかってるよ、獲物が背中向けてりゃ普通撃つだろ!」

 

 

 スノウはディミが叫んだと同時に勢いよくレバーを倒し、それまで左右に不規則に揺らしていた軌道から大きく外れた動きを取った。

 

 間一髪で直撃を免れたレーザーがジュッ!! と音を立てて右肩の塗装を焦がし、残り少ないHPゲージをさらに削っていく。

 そのゲージ残量を横目に、スノウは舌打ちした。

 

 

「チッ、今の回避軌道でも当ててくるのか……!」

 

 

 左右に不規則に機体を揺らしていたのは、当然後方のオクトからの狙撃を避けるためだ。この不規則回避には相当自信があったが、ディミが悲鳴をあげて警告しなければ直撃されていた。

 つまりオクトはスノウが施した不規則な回避軌道すらも読み切って狙撃してきたということになる。

 

 

(ディミが悲鳴をあげなければ今の一撃で勝負がついていたかもな)

 

 

 そう思いながらちらりとディミを見上げると、当の本人は自分の警告のおかげで避けられたということに気付いてもいないらしく、はわわわわと震えている。

 

 

『わぁーん! もうダメだー! あの鬼みたいな化け物に撃たれてここで死ぬんだー!!』

 

 

 その醜態を見て、スノウはニヤリと唇の端を歪めた。

 ディミの慌てぶりのおかげで、ちょっと冷静になれた。

 

 後方でライフルを構えたオクトは、再び不規則な軌道で回避するシャインをじっと睨んだまま銃口を向け続けている。すぐに撃ってこないのは、シャインの『自分では不規則なつもりの回避軌道』の中の規則性を読み取ろうとしているためか。

 

 

 ……彼女の悲鳴のおかげで先ほどの狙撃は避けられた。

 ということは、『ディミにはオクトの攻撃の前兆が読み取れた』ということだ。

 

 

「いいね、ここに来て悪くない」

 

 

 そう呟きながらスノウは愛用のレーザーライフル“ミーディアム”を抜いた。

 主人の行動を見て、ディミが目を剥く。

 

 

『お、応戦するつもりなんですか!?』

 

「そうだよ。じゃないと一方的に撃たれてゲームオーバーだからね」

 

『無茶ですよ! 高速で前方から迫る障害物を避けながら飛行して、さらに機体制御もして、さらに追いかけてくる“凄腕(ホットドガー)”と銃撃戦なんて! 人間は前か後ろのどちらかしか見えないんですよ! 不便な生き物ですね! 可哀想!!』

 

「うんうん、AI様はすごいね。高性能な知性体だね。じゃあそんなハイスペックなAIちゃんにちょっと聞きたいんだけど」

 

 

 混乱してあらぬことを口走るAIに、スノウは尋ねた。

 

 

「前方の障害物を避けながら飛行するのと、後方の師匠と銃撃戦をするの、どっちを担当したい?」

 

『は?』

 

 

 ありえない質問に一瞬ディミは目を丸くする。

 

 

『……何をおっしゃってるんです?』

 

「いや、前方の回避と後方の銃撃戦を同時にこなすのは無理だって自分で言ったじゃん。じゃあどっちかディミが担当してサポートしてくれるよね?」

 

『む……無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィィィ!!!』

 

 

 ディミは後方カメラからの映像越しに濃密な殺気を叩き付けてくる赤い鬼を指さして悲鳴を上げた。

 

 

『あんなのの相手なんてできるわけないでしょ! 完全に人間の領域を踏み越えてるバケモンじゃないですかアレ!』

 

「じゃあ前方の回避がいいか。そうだね、ボクもそう思ってたんだ。この気の合い方、ボクたちやっぱり相棒だね!」

 

『ざっけんなあああああ!! できてたまるかそんなもん! 私オートパイロットのために作られたAIじゃないんですけどぉ!?』

 

 

 無理難題をふっかけられて喚くディミを不思議そうに見上げて、スノウはちょこんと小首を傾げた。

 その邪気のない仕草に、ディミは戦慄した表情を浮かべる。

 

 

『なんだその心底不思議そうな顔……。サイコパスか……!?』

 

「だってディミはボクが前に音速で峡谷飛行したのも、今だってボクが高速で障害物避けるのも間近で見てんじゃん。ディミもAIなんだし、学習機能くらいあるでしょ? じゃあそれくらいもう覚えてて当然だよね?」

 

『なんだその“門前の小僧習わぬ経を読む”みたいな理屈……!? 見ただけで実演できてたまるかぁ!!』

 

「え? できないの? 普段から自分のこと高性能って言ってるくせに意外とポンコツなんだね」

 

『あ゛? 今なんつったぁ!?』

 

 

 メスガキにナチュラルに煽られたディミは、ビキィとこめかみに青筋を立てた。

 

 

『私のことポンコツって言いました!?』

 

「えー、だってMAPがあるからどこに障害物があるかも、自分で爆弾仕掛けた場所だってわかってるんだよ? それこそ人間のボクの記憶なんかより明確じゃん? それで避けられませんとか……フフッ。何のためのサポートAIなの?」

 

『チュートリアルのためなんですけどねぇ、本来は!!』

 

「でも今はボクのためのサポートAIでしょ? じゃあできるよね! それとも……やっぱりボクの真似とか無理ですぅって泣いちゃうダメダメAIちゃんなのかな?」

 

『できらぁッ!!!』

 

 

 えっ!? 操縦とか初経験なのに接近する障害物を避けながらの超高速飛行を!?

 

 

「その言葉が聞きたかった……! じゃあこれ、せめてもの気持ちね」

 

 

 そう言うとスノウはコンソールを操作して、ディミのスキンをちょちょいと付け替えた。

 

 ぱあっとディミの姿が白く輝き、すぐに収まる。

 果たしてそこには、頭にキツネ耳を付けたメイドが爆誕していた。ヘッドドレスを押しのけるようにしてピンッと立った三角形の耳が、ピクピクと生きているように跳ねる。

 

 

『……なんです、これ……』

 

「おまじないだよ。ほら、前にストライカーフレームで峡谷飛行して以来、そのキツネ耳付けると勘が鋭くなる気がするんだよね。それがあればディミもちょっとはうまく避けれるんじゃない?」

 

『それは貴方がストライカーフレームのセンサーと接続してたからでしょ! こんなもん私が付けたところで何の意味もないですよ! 何がおまじないですか! この最先端科学の結晶たるAIに向かって非科学的なッ!』

 

 

 頭の上でがるると牙を剥くメイド狐に、時間があればもっとゆっくり鑑賞するのになと思いながらスノウはいそいそとライフルを構え直す。

 

 そして後方のオクトに目を向けた。

 その瞬間飛来する、2発目のレーザー狙撃!

 

 

「だからAIと戯れるなと言っているッ!! シャインッ!!」

 

「tako姉ってそういうところあるよねッ!!」

 

 

 スラスターを制御して機体を大きく横にスライドさせ、レーザーを紙一重でかわしながら、スノウは“ミーディアム”を撃ち放つ。

 相手が狙撃した瞬間の硬直を狙うが、凡百の相手ならともかくオクトにそんな硬直時間などあるわけがない。

 当然のようにかわされるが、元から当てられるとも思っていない。

 

 重要なのは牽制だ。

 オクトに射撃を当てることではなく、オクトに射撃を当てられないためにこちらから射撃して妨害する。

 

 

「そういうところだと? 意味がわからんな!」

 

「わからないわけもないだろ、自分のことだぞっ」

 

「戦場では物事は明確に口にしろと何度言えばわかるッ!!」

 

 

 脊髄反射で会話しながら、全神経は射撃と回避行動に専念している。

 言葉と共にレーザーを放ち、返答と共に回避して、レーザーを撃ち返す。

 

 会話のドッジボールどころか、会話の銃撃戦であった。

 

 

『わーん! もうなるようになれーー!!』

 

 

 その一方で、ヤケになったメイド狐が涙目で機体をコントロールする。

 機体の速度を維持したまま、すさまじい勢いで迫る障害物を次々に避けていく超人レベルの曲芸飛行。

 優れたコントロール技術とマップ上の障害物を次々に認識する演算処理能力がなければ到底不可能な荒業である。

 

 いくらAIだろうが、他人がやっているのを見ただけでそれが可能になるわけもない。素人にハンドルを委ねた機体は、哀れ障害物を避けきれず、激突してゲームオーバー……。

 

 

『あ、あれ……?』

 

 

 機体に接触するスレスレのところで、巨大な神像が猛スピードで後方へと流れ去っていく。

 だが運よく避けられたとしても、次に迫るのは2本の円柱だ。シャインが通り抜けられるギリギリのサイズで並んでいる円柱の間を抜けることなど、素人のディミにできるわけがない。もうダメだ、これは避けられない! しめやかにゲームオーバー! 南無三!!

 

 他ならぬディミ本人がそう思ったのと裏腹に、シャインはまるで猫のようにするりと円柱の合間を抜け、まったくスピードを落とさないまま飛翔を続ける。

 

 

『な、なんで……!? どうして私、こんなあっさり抜けられるんです!?』

 

 

 まさか、とディミは頭の上に手を置く。

 そこでは独立した生き物のようにピンと立ったキツネ耳が、危機を本能的に察知するかのようにせわしなく小刻みに動いていた。

 

 いける。

 

 

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