七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第103話 人間の証明

「「いざ、尋常に!!」」

 

 

 その叫びと共に、シャインと“八裂”の2つの機影が交錯する。

 手にするのは互いに一撃必殺の高振動ブレード、今の満身創痍の両騎にとっては当たれば即撃墜の大ダメージを受けることは必定。

 

 

「はああああああああッ!!」

 

 

 “八裂”の右からの2本同時のブレードが、オクトの裂帛の気合と共に襲い来る。

 それを予測した瞬間に、シャインは高振動ブレードと“ミーディアム(ビームライフル)”を投げ捨てた。

 

 

「“スパイダー・プレイ”!!」

 

 

 代わりに両腕から放つのは、ウィドウメイカーから得た腕パーツの特殊技!

 白い粘糸と共に噴出されたワイヤーがオクトの右側の二腕を絡め取り、がっちりと固定する。ナノ単位での緊密な結合力を誇る繊維は、いかに剛力を持つ機体であってもそうそう簡単には外せないはず。

 

 

「獲ったぁっ!!」

 

 

 相手の腕を奪ったことにスノウが笑みを浮かべる。

 この大一番で相手に当てることを前提としてがむしゃらに剣を振り抜くつもりなんて、スノウの頭には最初からない。

 ただでさえ技量はオクトの方が圧倒的に格上。加えて相手のブレードは4本もあるのだ。四刀流などというふざけた戦い方をする相手に、近距離レンジでチャンバラなど愚の骨頂。絶対に相手の土俵で戦ってはいけない、かつて虎太郎にそれを教えてくれたのは他ならぬtakoだった。

 

 このまま壁面に投げ付ければ……!

 シャインがワイヤーを通じて“八裂”の重力を操作して投げようとした矢先に、オクトがぽつりと呟いた。

 

 

「なるほどな、バーニー仕込みの柔術か。随分とそれをアテにしているようだな。確かに私が教えた剣術よりは、お前に合っていた」

 

 

 まるで意にも介していないようなその口調に、スノウの背中が総毛立つ。

 

 

「グラビティ・一本背負……!」

 

「投げ技が通用するのは、相手の不意を打ったときだけだ」

 

 

 オクトがそう口にするなり、“八裂”は絡め取られた2本の右腕をぐいっと引っ張り、腕2本分の凄まじい膂力でシャインを()()()()()

 

 

「ぐっ!?」

 

『き、騎士様! まずいです、パワー負けしてますよっ!?』

 

 

 元より高機動型のシャインと、パワー重視の“八裂”では出力が違う。

 それでもこれまでシャインが投げ技を切り札として戦ってこれたのは、重力を操作する銀翼“アンチグラビティ”と、まさかロボット同士の機動戦で投げ技を使われるわけがないという固定観念が相手にあったから。

 だが。

 

 

「お前の切り札は既に知っている。お前は配信などすべきではなかったぞ。自らの手の内を不特定多数に明かすなど愚かにも程がある」

 

 

 その言葉と共に“八裂”の左の二腕が振りかぶられる。

 じりじりと引き寄せられているシャインの首を刎ねようと待ちわびるかのように。

 その様は捕食者そのもの。蜘蛛の糸に絡め取られたのは、オクトではなくシャインの側だとしか言えなかった。

 

 

「固定観念に囚われたのはお前の方だ、シャイン。戦闘において視野を広く持て、ひとつの戦術に囚われるなと……私はあれほど教えたはずだが。まだ骨身に染みていなかったか?」

 

「まさか。tako姉のスパルタ教育は忘れたくても忘れられないよ」

 

「とてもそうとは思えんがな。高機動がウリの機体に乗っておいて、この無様……!」

 

 

 そう口にして、オクトはハッと頭上を見上げた。

 

 

「まさか!」

 

「今だ、シロ! タマ! やっちゃえ!!」

 

『ラジャーー!!』

 

 

 スノウの合図に応えて、シロとタマは一斉に起爆装置を起動した。

 

 シャインとオクトが戦っていたのは、“マガツミ遺跡”の大ホール。

 平均10メートルもの全長を持つシュバリエをもってしても、なお見上げんばかりの巨大な白亜の石柱が立ち並んでいるエリア。

 その中央で動きを固定された2騎に向かって、根元から爆破された石柱が一斉に倒壊する!

 

 

「シャイン! お前っ!!」

 

 

 ワイヤーをさらに引き絞り、“八裂”の腕を固定しながらスノウは口元を歪めた。

 

 

「折角のフィールドギミックだ! トラップに使わないと損だよなぁ、tako姉!? 罠は二重三重に張れって教え、ボクは忘れたくても忘れられないからさ!」

 

 

 罠に引き込まれたのは、やはりオクトの側だった。

 シロとタマを先行して地上に送り出したのは、このトラップを仕掛けるため。ほとんどの敵がスノウを追って地下に来ている状況なら、シロとタマが発見される可能性も薄い。

 最後の仕上げに自分を囮とすることで、スノウはオクトを仕留めるトラップを組み上げたのだ。

 

 白い蜘蛛糸に覆われた腕をギリギリと軋ませながら、オクトが舌打ちする。

 

 

「これで私を押し潰そうと? 私を道連れにするつもりか」

 

「ボクがしがみついたままじゃ、逃げようにも逃げられないだろう?」

 

「勝てぬと思って相打ちに逃げるか」

 

 

 オクトの言葉を聞いたスノウは、ニタァと笑みを浮かべた。

 

 

「あっれえ~? これってtako姉的には引き分けに入るの? ボクの主観なら完っ璧にボクの勝ちなんだけどなぁ?」

 

「なんだと?」

 

「だってそうだろ? こんだけの大人数をけしかけて、ボス部屋に大掛かりなトラップもシコシコこしらえて、そのうえでボクの罠にかかって撃墜とられるんだよ? こんなのどう見たってボクの勝ちじゃん! 残念でしたぁ!」

 

『……それもそうですね! 《ナンバーズ》100騎がかりでようやく騎士様1人を倒せるなんて、情けなさすぎますよねー!! ぷぷー!!』

 

 

 ここぞとばかりに煽り倒して口喧嘩に持ち込もうとするチームメスガキ。

 その煽りに、オクトの血管がブチ切れた。

 

 

「クソガキどもがああああああああああああっっっっ!!!」

 

 

 血を吐くようなその叫びが、降り注ぐ瓦礫によって埋もれていく――。

 

 

 

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「ど、どうニャ……!?」

 

「…………」

 

 

 大ホールの上空から、2騎のシュバリエが惨憺たる有様となった地上を見下ろす。

 

 自分ごとトラップで生き埋めにしてくれ、とスノウに言われたときはコイツ正気かと思った。

 だが、実際オクトの技量はあまりにも常人と比べて図抜けている。常軌を逸した反射神経、四腕のブレードをまったく同時に操るというどうやって操作しているのか理解不能な戦闘技術。

 数十騎の手練れと正面からやりあっても、確実にオクトが勝つだろう。

 あのスノウですら、奇計にかけなければ勝てないという。

 

 ならば相手の意表を突き、策を何重にも仕込み、必殺のトラップで仕留めるしかない。スノウの主張はまったく当然のことだった。

 

 もうもうと土煙が上がる地上は、先ほどまでの轟音とは打って変わって静まり返っている。

 さすがにこの大質量の瓦礫に覆われては、あのオクトとはいえ無事では済まないはずだ。“八裂”もここに来るまでに相当ダメージを受けていた。

 

 タマはこれフラグだしなーどうしようかなーと言おうかどうかすごい迷って、苦渋の表情を浮かべながら結局言った。

 

 

「……やったか!?」

 

「いえ」

 

 

 ソナーを地上に向けていたシロが、眉間に皺を寄せながら沈痛な表情で否定した。

 

 

「……まだ、健在です」

 

 

 その瞬間、瓦礫の一部が吹き飛び赤い機影が地上に姿を現す。

 瓦礫によって脚は押し潰され、肩も頭も無残にひしゃげてはいたが……。

 

 

「ハハハハハハハハハハ!!! 私は! まだ! 無事だぞッッ!!」

 

 

 そう叫びながら、“八裂”が両の四腕を広げて哄笑する。

 そして右腕の二腕には白く光る蜘蛛糸が未だに絡みつき……そしてそこから伸びたワイヤーには、根元から切り落とされたシャインの両腕がぶらりと力なく垂れ下がっていた。

 

 

「あ、……あああ……シャインさんが……」

 

「そんな……ここまでやって、まだ……」

 

「及ばないッ!! まだ私には全然及んでいないぞ、シャインッ!!」

 

 

 崩落の瞬間、オクトが選んだのはスノウと共に埋もれることではない。

 自分だけは生き延びることだった。

 

 そこでオクトは即座にブーストをかけてシャインに突撃し、自分の身動きを封じるその両腕を健在な左腕の二刀で切断。

 そのままスノウにトドメを刺そうとしたが、腕を落とされたシャインがすかさず後退したためにその場を離脱。

 そして降り注ぐ瓦礫を左の二腕を使って「すべて叩き切った」。

 

 率直に言って人間業ではないが、かつてtakoは【シャングリラ】が焼き芋大会を開いたときに、降り注ぐ落ち葉すべてを真剣で切断する余興を披露したことがある。takoはふふんと得意満面だったが、正直全員ドン引きしていた。素で人間以上のスペックを持つガチ超人と正面からゲームで勝てるわけないだろいい加減にしろ。

 

 そんなオクトにとっては降り注ぐ瓦礫をすべて叩き落とすことは決して不可能なことではない。いくつかの瓦礫の破片で機体は傷付いたものの、直撃は免れたまま瓦礫でドームを作って生き延びていた。

 

 

「どうだ? 引き分けでも私の負けだ、などと言っていたが……」

 

 

 “八裂”が右腕を持ち上げ、ぶらりと垂れ下がったシャインの腕を引き寄せる。その腕の残骸に向かって、オクトはニヤリと笑った。

 

 

「これならば完全に私の勝ちだろう、シャイン?」

 

「ひええ……サイコ師匠だニャ……!」

 

 

 その光景に、タマがぶるっと体を震わせる。

 

 そんな有象無象の雑魚の呟きに、ついっと“八裂”が視線を向けた。

 

 

「ペンデュラムのお付きの参謀か」

 

「ひいーーーっ!? こ、こっち見たニャーー!?」

 

「正直無視してもいい虫けらだが……偽物のシャインの入れ知恵とはいえ、私の“八裂”に傷を付けたのだ。しっかりと制裁はさせてもらわねば、怒りが収まらんな」

 

「あわわわわわ……よ、弱い者イジメ反対ニャーー!?」

 

 

 あわあわと右往左往するタマ機を見て、オクトは鼻を鳴らす。

 横にいるシロ機はショックで何もできないのか、諦めてしまったのか、ただ立ちすくむばかりだ。

 

 そんな2機を仕留めてこの戦場を終わらせようと、オクトは四腕を広げる。

 

 

「……」

 

 

 オクトはわずかに眉をしかめた。

 ぶらりと垂れ下がったシャインの腕が邪魔で、右腕を思うように振るえない。

 さっさとワイヤーを切断してしまいたいが、まあいい。

 とりあえず目の前の雑魚を始末してからゆっくりと取り外そう。

 

 そう思いながら銀翼を広げ、タマとシロに向かって飛翔してから……。

 

 そこでやっと違和感に気付いた。

 

 

 ……何故、まだシャインの腕がぶら下がっている?

 

 『七翼のシュバリエ』では、撃墜された機体はリスポーンと同時にいったん戦場から消失する。機体がどれほど損傷していても、リスポーン後にはダメージはすべて全回復するのだ。たとえ腕が千切れ飛んでいようが。

 なのにまだシャインの腕が自分の機体にぶら下がっているということは。

 シャインがリスポーンする気力も失っているか、あるいは……。

 

 

「まだ、この戦場に……」

 

「終わって、ないッッッ!!!」

 

 

 その瞬間、シロが後方に向かって展開していたステルスフィールドを解除。

 シロの背後に潜んでいたシャインが、全身を回転させながら“八裂”に向かって飛び蹴りを繰り出した!

 

 

「ご武運を!」

 

「グラビティ・キリモミ・『メスガ』キーーーーック!!」

 

 

 スノウとディミの叫びが重なり、重力操作による旋回で破壊力を増したキックが“八裂”のヘッドを粉砕する!

 

 

「ぐあああああああっ!? な、なんだと……!?」

 

 

 頭部のメインカメラを封じられたオクトが、必死の姿勢制御で衝撃を軽減する。

 

(一体どうやってあの瓦礫を……そうか、重力操作!)

 

 

 シャインに装備された銀翼“アンチグラビティ”は接触した物体に働く重力をある程度軽減することができる。

 それを利用して、自機に石柱が覆いかぶさった瞬間に石柱の重量を軽減。その状態で一気に飛翔して、瓦礫の雨を突破したのだ。石柱と接触したタイミングがほんの一瞬でもずれていたらそのまま押し潰されていただろう。

 

 そしてオクトよりも先に地上に出るとシロの背後に回り、彼女の機体が装備しているステルス機能でオクト機のレーダーから身を隠した。

 シロがまるで動かなかったのは、少しでも動くと身をかがめて丸まっているシャインに気付かれてしまうためだ。

 

 

(よくもこの短時間で次から次へと……!)

 

 

 頭がいい子だった。

 何でも教えたことはスポンジが水を吸い込むように吸収した。

 それが面白くて、みんながよってたかって技術を教え込んだ。

 だけど、ただ物覚えがいいからトップ7になれたわけではないのだ。

 技術など所詮は知識に過ぎない。扱う者次第でそれは在り様を変える。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 スノウは喉の奥から、魂の底から迸る絶叫を上げながら、“八裂”に向かって蹴りを繰り出す。

 普段のスノウならここでいったん逃げることを選んだだろう。

 

 何しろ根が臆病なのだ。

 チキンで、弱虫で、怖がりなのだ。

 だからいつも仮面を被って偽っている。ビビリで臆病な大国虎太郎ではなく、国内最強のクラン【シャングリラ】のトップ7に相応しい、傲慢不遜なスノウライトを。

 

 だけど今は逃げる時ではない。

 両腕をもがれた。策はすべて使い切った。仲間に頼るだけ頼り尽くした。

 ここで逃げても、もう勝ちの目は拾えない。

 

 それならもう、攻めるだけだ。

 弱っているのは自分だけじゃない。たとえ格上のオクトでも、どれだけ相手に近接戦の分があっても、万に一つの勝ちを拾うには攻めるしかない。

 

 

「ボクは! ここで! 師匠に打ち勝つッッ!!」

 

「吠えたな小娘が!!」

 

 

 稲葉恭吾(バーニー)が虎太郎に仕込んだのは柔術だけではない。彼は日本武術界の二大最強流派と謳われる“稲葉流古武術”をきっちりと叩き込んだ。その中には徒手空拳の格闘技も含まれている。

 いや、古武術にとっては徒手空拳こそが一番大事なのだ。刀折れ、矢尽きとても、人間にはまだ二本の腕と二本の脚があるのだから。

 

 その二本の腕すら失っても……闘志さえ折れなければ、まだ脚がある!

 

 シャインが繰り出す連続の脚技が、怒涛の嵐となって“八裂”に叩き込まれる。

 

 メインカメラを失ったオクトは不自由なサブカメラでその動きを捉えるしかない。

 だが、オクトとてそれでなすすべもなく負けはしない。

 たとえ相手の動きが完全に見えなかったとしても。

 

 

「お前の動きはすべて把握している」

 

「……!」

 

 

 シャイン。私がすべてを教え込んだ、愛しい教え子。

 だからこそ、お前がどんな動きで襲ってくるのか、私にはわかる。

 

 “八裂”の右二腕はもう使い物にならない。

 だから左の上腕を振り上げて、シャインの頭部を刎ねた。

 シャインのメインカメラが潰れる。もう満足に敵を見据えることもできまい。

 

 だが、それでもスノウは諦めない。

 見えなかったとしても、敵の位置はまだわかっている。

 その方向に向けてハイキックを繰り出して……。

 

 

「それも読めているよ、シャイン」

 

 

 むしろ穏やかな声色と共に、“八裂”の左の下腕が、蹴り上げられたシャインの左脚を切断した。

 

 

「…………ッ」

 

 

 これで終わりだ、とオクトは内心で呟いた。

 もうHPもロクに残ってはいまい。武器もない、首も四肢も満足に残ってない。

 文字通り手も足も出るわけがない。

 

 何より、虎太郎(シャイン)は元より争うのが好きな子ではない。だからこれで闘志は挫ける。

 戦う意志が折れたとき、戦士は死ぬ。

 

 かつての経験の故にこれで十分と判断してブレードを納めようとしたオクトは、一瞬反応が遅れた。

 

 

「まだ……右脚とこの翼が残ってるだろッ!!!」

 

 

 ()()()()

 スノウは叫びを上げながら、シャインの銀翼を激しく発光させる。

 

 オクトは目を見開き、信じがたいものをただ呆然と見つめた。

 

 

「……何故、折れない。何故、屈しない。私のシャインは、これで諦めるはず」

 

()だってなあ、2年前のままじゃないんだよ……。tako姉の見てないところで戦ってきた。『特区』でゲームに触れなくても、ずっとイメトレは欠かさなかった。次にみんなに会ったら、tako姉と戦ったら、こうしようって考え続けてきた……。だから! こんなところで、まだ……負けられないんだよぉッ!!」

 

「それが屈しない理由か? そうではないだろう。お前はそんなに心強い子ではなかった。他に理由があるはずだ。……そう」

 

 

 そしてオクトは目を細めて、見えないはずのシャインのコクピットを見つめた。スノウライトの頭の上に腰かけ、両手をぎゅっと握って祈るメイド姿の妖精を。

 

 

『騎士様、勝って!!』

 

「やらいでかぁあああああああああっ!!」

 

 

 ここで、勝つ。打ち勝ってみせる。昨日までの自分を越えるために。

 逃げたい、帰りたい、心の中で渦巻く恐怖を抑え付け。これまでだったら絶対に退くであろう死地の先へ、スノウライトは最後の一歩を踏み出す。

 

 それを眩しいものを見つめるように見て、オクトは微笑んだ。

 

 

「そういうことか。男の子だな」

 

 

 銀翼“アンチグラビティ”があらん限りの力を振り絞り、シャインを空中でぐるりと前転させる。

 その右脚に込められたのは、一撃必殺の重力加速。

 

 

「グラビティ・『メスガ』キーーーーック!!」

 

 

 “八裂”の残りHPすべてを吹き飛ばすこと必定のその重い一撃を、オクトは避けもせずに全身で受け止める。

 ミシミシと超重力の負荷が“八裂”の左肩にめり込み、まだ健在だった左上腕を崩壊させていくいく。

 

 

「ああ、間違いない。お前こそはシャイン。私の愛する弟子だ」

 

 

 オクトは穏やかな笑みを浮かべて呟く。

 シャインがシャインである証左を、しっかりとその身に受け止めた。

 

 人間にあって、AIにはないもの。

 それは輝ける意思。

 

 AIは人間と同じく技術を、知識を学習する。時には人間より上手に使いこなしもするだろう。

 だが、AIには輝く意思はない。前進したい、これまでの自分を塗り替えたい、這ってでも前に進みたい、そんな意思は持ち合わせていない。そんなものなくたって、学習速度に何の変わりもないのだから。

 

 だからこそ人間の持つ輝ける意思を、オクトは愛する。

 それこそが、今日まで人間をただの猿から霊長にまで押し上げてきたもの。ときにギラギラと欲望に歪み、他者を傷付けたとしても、それは人間だけが持つ宝。

 人間を人間足らしめるもの。ときに宿業(カルマ)と呼ばれ、ときに輝きと呼ばれる、前進する意思。

 それを【七慾】と称する。

 

 

(……負けてやりたい)

 

 

 自機の左の上腕を粉砕し、下腕までめり込むシャインの脚。

 それを感じながら、オクトは思う。

 

 素晴らしいものを見せてもらった。

 もう十分だ。愛する弟子にそう言って負けを認めてやりたい。

 

 

「だが」

 

 

 だからこそ。弟子を心から愛するからこそ。

 ここで負けてやるわけにはいかない。

 

 何故なら壁は高ければ高いほど、それを乗り越えたときに成長をもたらすのだから。

 

 

「やった……!」

 

 

 “八裂”の左下腕までもが粉砕され、スノウが顔を輝かせる。

 これでもうオクトのすべての腕はなくなった。仮にHPが残っていたとしても、戦闘は五分と五分に……。

 

 

「悪いな、シャイン。切り札は人に見せないものだと言ったぞ」

 

 

 オクトの言葉と共に、“八裂”の腹の横からもう一対の腕が飛び出し……青白く輝く左腕のブレードがシャインの右脚を刎ね、右腕のブレードがシャインのボディを刺し貫いた。

 

 

「……嘘だろ。6本の腕とか、どうやって操作してんのさ……」

 

 

 スノウが口元を引きつらせて呟く。

 そんな彼女がいるであろうコクピットに、オクトはじっと瞳を向けた。

 

 

「お前はまだ私に及ばない」

 

「みたいだね……今日こそはと思ったのに」

 

「だがよくやった」

 

 

 オクトの優しく穏やかな瞳。

 頭部が壊れ、通信機能が死んだ今はそれが見えるはずもないのに、スノウは満足そうに微笑んだ。

 

 

「そっか。じゃあ頑張ってよかったな」

 

 

 そしてシャインがバチバチと激しくスパークして……爆発を起こす。

 

 師弟対決はこうして、オクトの勝利に終わったのだった。

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