七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第117話 ショタコンお姉さんハッピーエンドに到達す

「さて、出かけるか」

 

 

 ウニクロで買った黒のTシャツにジーンズといういつも通りの普段着で靴を履こうとして、虎太郎はふと振り返った。

 六畳一間の狭苦しいボロアパートの部屋には、ユニットバスが備え付けられている。出かける前に洗面台で少し身だしなみを整えた方がいいかも、と思ったのだ。

 

 

「……まあ、必要ないかな」

 

 

 だって相手は年下の男だし。小中学生くらいの男相手なら、どんな服装で会ったって別に構いはしないだろう。

 ゲーム内のアバターには徹夜でこだわりまくる虎太郎だが、リアルでの自分の容姿にはまったく気を遣わない。自分はどこにでもいる地味顔の目立たない存在だし、自分がどんな身なりをしていようが誰も気にしていないと思っているのだ。

 

 だから前髪も伸ばし放題だし、Tシャツもちょっとよれているけど、登校日には気にせずその服装で大学に行ったりする。

 実のところ自分の童顔な顔立ちと身長を男として恥ずかしいと密かに思っていて、前髪を伸ばして顔を隠しているのはそのためでもある。

 

 そして彼本人も意識していないが、リアルでは目立ちたくないと思っている。【シャングリラ】が謎の火災で消滅してからしばらく、身の回りを怪しい男たちにつけ回された経験は、虎太郎の心に強い恐怖を植え付けていた。過去の経験から、虎太郎は目立つことを潜在的に恐れているのだ。

 

 

「……だけどまあ、師匠だしな」

 

 

 ジョンはスノウのことを尊敬してくれている。態度からそのことはひしひしと伝わってくるから、虎太郎だって悪い気はしない。

 年下の男子とはいえ、あんまりみっともない格好で行ったら幻滅されてしまうかもしれない。

 

 虎太郎だってちょっとは弟子の前で見栄を張りたいという意識はあるのだ。

 服はあまり持っていないからこのよれたTシャツと色褪せたジーンズで行くしかないが……せめて前髪くらいは整えていこうかな。

 そう思いながら、虎太郎は買ったきり一度も開封していないヘアトニックを開ける。

 

 

「なんか高校生の頃みたいな感じになっちゃったな」

 

 

 頭にきれいに櫛を通して整髪料を着けてから、虎太郎は鏡の前で苦笑した。

 いかにも誠実で生真面目な堅物風紀委員、といった風情の印象。

 いや、実際数か月前に高校を卒業するまで、虎太郎はそれで通していた。

 

 バーニーと出会ったあの日まで、虎太郎は盲目的に“特区”の規律を遵守する模範的な指導委員だった。それから【シャングリラ】で未知の世界を知ってからも……【シャングリラ】がある日消滅してしまってからも、虎太郎は模範的な指導委員の仮面を外さなかった。“特区”を脱出する日まで、周囲の目を欺き続けたのだ。

 

 まあ、でも真面目なジョンとならお似合いかなと虎太郎はクスリと笑う。

 その顔に、少しだけスノウと同じように意地悪そうな笑みが混じった。

 

 

「ふふ。あいつ、僕が男だって知ったらどんな顔するかな。案外スノウに惚れてて、ショック受けちゃったりして」

 

 

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 虎太郎がまさに鏡の前でニヤニヤしているとき、彼の隣の部屋では。

 

 

「うーん……これでいいかなぁ?」

 

 

 鈴夏は滅多に使わないドレッサーの鏡の前で、くるりと回りながら自分の服装を入念にチェックしていた。

 服装はよそ行きの勝負服。薄いピンク色のトップスに、花柄のフレアスカートを合わせた甘めのコーデ。三つ編みにした髪の毛をふんわりと肩から胸に流し、お姉さんらしさと可愛らしさを折衷した装いだ。

 

 いかにクッソ貧乏で普段ジャージで過ごしている鈴夏とはいえ、そこは女の子。よそ行き用のひとつやふたつは持っているのである!

 大学に入学する折に、コンパとか誘われたときのために買っておいたのだ。まあバイトとゲームと勉強で忙しくてまったくそんな機会はなかったし、友達もいなければサークルにも所属してないぼっちなのだが。

 

 でも買っててよかった! ちゃんと役立つ機会は巡って来たのだ!

 

 

「うーん……もっと前から会おうって言ってくれれば、美容院とか行ったんだけどなあ」

 

 

 栗色の前髪をつまみながら、鈴夏は小さく呟く。

 美容院に行く金でちょっとはマシなものでも食ったらどうなんだと言いたくなる食生活を送っているくせに、生意気なことを言うじゃないか。

 しかし鈴夏にとってはそこは出し惜しみしたくないところなのである。

 

 

「師匠かぁ……どんな子なんだろ」

 

 

 きっとまだ中学生くらいで、反抗期を迎えたばかりの生意気盛りの女の子に違いない。

 ジョンのことを年下の男の子だと思って好き放題言ってるけど、私が年上のお姉さんだって知ったらどんな反応するかな?

 そう思うと、鈴夏は思わずクスッと笑ってしまう。

 そんな悪戯心を、ぜひ試してみたい。だからこそ鈴夏は年下の女の子に会うというのに、気合を入れたコーデをしているのだった。

 

 それに、師匠からいつもジャージ姿の芋女だなんて絶対に思われたくない。

 弟子にしてもらい、高価な機体まで与えてもらったのだ。リアルでもそれ相応に好感の持てる相手だと思ってほしい。

 ともあれ、これなら大人に憧れてる年下の女の子相手くらいなら十分なはず。

 

 鈴夏はよし、と気合を入れると、これまた普段使いはしてない綺麗なポーチを手に玄関のドアを開けた。

 

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 

 ばったり。

 まったく同時に隣室の玄関のドアが開き、鈴夏と虎太郎は顔を見合わせた。

 

 

「お、おはよう虎太郎君」

 

「お、おはようございます鈴夏先輩」

 

 

(うわぁ今日の虎太郎君、かわいいーーーーーっ!!!)

 

 

 鈴夏はきっちりと髪をセットした虎太郎を見て、きらきらと瞳を輝かせた。

 いつものボサボサ髪の虎太郎もなんだかムク犬を連想させて可愛いのだが、髪を生真面目な感じにセットした虎太郎もトリマーで手入れしたばかりの小型犬のような可愛らしさがある。

 とりわけいつも前髪で隠れている意思の強そうな瞳が露わになっていて、育ちの良い雰囲気が表れていた。

 

 完全に鈴夏の好みドストライクであった。

 

 そもそもジョンは鈴夏の好みの男の子のタイプの具現化である。ああいう真面目そうな年下の少年がひたむきに頑張ってる姿が大好物なのだ。

 高校生のときには漫研でそういう男の子が頑張る少年マンガも描いていた。そしてそういう男の子が大人のお姉さんやおじさんの毒牙にかかるいけないマンガも描いていた。なお、同人仲間にはいけないマンガの方が好評だった。

 

 ヤべー女が隣に潜んでいやがった。

 

 

「……虎太郎君、これからお出かけ?」

 

 

 そわそわしながら鈴夏が訊くと、虎太郎はなんだか落ち着かなさげに頷く。

 

 

「ええ。友達に会いに行くんです。鈴夏先輩はデートですか?」

 

「え!? う、ううん! そんなデートとかじゃなくて、友達に会うだけ!」

 

 

 なんだか知らないが、鈴夏の中でちくりと胸が痛んだ。

 自分には虎太郎君というちょっぴり気になっている男の子がいるのに、スノウに会いに行くのがなんだか彼を裏切ってるみたいな気がしたのだ。

 

 

(ごめんね、虎太郎君。でも師匠に会いに行くのも私にとって大事なことなの……。許してね)

 

 

 別に虎太郎と付き合ってるわけでも何でもないのに、未来の恋人に対するような言い訳を心の中で思う鈴夏である。ちょっぴり悲劇のヒロイン気分であった。

 いやお前なんだかこれから付き合えるみたいなこと思ってるけど、ただの隣人なんだが?

 

 

「なーんだ。そうなんですね」

 

 

 虎太郎はちょっとほっとしたように微笑む。

 そんな笑顔に、鈴夏はさらに胸をソワソワさせた。

 

 お前そういうところやぞ。

 こんな感じで気を持たせるような仕草をするから、年上が自分に気があるんじゃないかと勘違いするのである。魔性の合法ショタであった。

 

 

「僕、これから新宿に行くんです。鈴夏先輩はどちらに?」

 

「えっと……うん、まあ私もその近くかな。でもちょっとコンビニに寄るから」

 

「そうですか。じゃあ、また」

 

 

 愛想良く笑って虎太郎が足早に去っていくのを見送り、鈴夏は小さく胸を撫で下ろした。

 別に「そうなんだ! 私も新宿に行くの、一緒に行こうよ」なんて言っても構わなかったのだが……。

 なーんかやだ。そういう気分にはなれなかったのだ。

 その感情は罪悪感に似ていた。

 

 

(スノウちゃんに会うために気合入れたコーデで、虎太郎君と楽しくおしゃべりなんてできないよ)

 

 

 スノウと虎太郎、両方に心惹かれる乙女心であった。

 

 

『ただの隣人がなーにを酔っぱらってるんだか』

 

 

 そんな2人を見つめる街頭の監視カメラの向こう側で、誰かが毒づいた。

 メイド妖精ちゃん、カメラをハッキングして何してるのかな?

 

 

 

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=====

 

 

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 

 新宿のショッピングビル向かいの広場。

 大きな街頭ディスプレイを眺められるその場所は、何度かのビルの建て替えはあったにせよ、2038年になっても待ち合わせスポットとして愛され続けていた。

 

 そんなショッピングビルの向かいの広場で、虎太郎と鈴夏はばったりと出会ってしまう。

 

 

『いや、全然ばったりじゃないんですけどね』

 

 

 しかし当の2人にとっては偶然の出会いである。

 なんだか慌てながら、2人は互いの顔を見つめた。

 

 

「す、鈴夏先輩……どうしてここへ?」

 

「あ、うん。ここで待ち合わせしてるの」

 

「そうなんですね。奇遇だな……あはは」

 

「えへへ」

 

 

 そんな感じで笑い合いながら、鈴夏は内心でドキドキしていた。

 

 

(ええええーーーっ!? なんでここに虎太郎君が? ……まさか!?)

 

『おっ、気付きましたか』

 

「私が誰と会うか心配で、ついてきちゃった……とか!?」

 

 

 すてーん!!

 監視カメラの向こう側で、メイド妖精がすっ転んだ!

 

 顔を赤く染めてちらちらと横目で見てくる鈴夏に、虎太郎はあわあわと両手を体の前で振る。

 

 

「ち、違いますよ! そんなストーカーみたいなことするわけないじゃないですか!」

 

「あ、そうなの……。それはそうだよね」

 

 

 そう言って、鈴夏は小さく息を吐く。なんだか安心したように聞こえる溜め息だが……。

 

 

『心なしか残念そうな顔してるのは何なんですかね……!?』

 

 

 そう言って自分の爪をがじがじ噛むディミちゃんである。

 おやおや、何をカリカリしてるのかな? 面白いものが見れそうだってひとりごとを言いながらカメラをジャックした割には、あまり面白そうじゃないですねえ。

 

 

「あの……じゃあ、僕、ちょっと向こう見てますね」

 

「う、うん」

 

 

 虎太郎がそっぽを向いてしまうのを、鈴夏はちょっと残念そうに眺めた。

 

 鈴夏と一緒にいたら待ち合わせに見えないだろうから、当たり前だ。鈴夏としてはもうちょっと目の保養をしたかったのだが……。

 

 

(虎太郎君、今度私とデートするときにあの髪型してくれないかな?)

 

 

 はっ。

 鈴夏はごく自然に虎太郎とデートすることを考えてる自分に気付き、ほのかに顔を赤く染めた。

 

 

(何考えてるの、バカバカ。虎太郎君とまだ付き合ってもないのに)

 

 

 まだってことはやっぱりそのうち付き合うつもりなんじゃねーか。

 とんだムッツリですよこいつはぁ!

 

 

(それに今日はスノウちゃんと会うんだから、気持ちを切り替えないとスノウちゃんにも失礼だよね)

 

 

 いや、別に男とデートすることを考えていても、年下の女子相手に失礼にはならないんじゃないでしょうか。

 つまりそれは無意識のうちにスノウも攻略対象として見ているということなのだが、本人は自分でも気づいていない。果たしてそれはジョンを演じている影響なのか、元々本人にそういう気があるのか。

 

 

(それにしても、それらしき女の子がいないなあ……。師匠っていろいろいい加減だし、時間にもルーズなのかな?)

 

 

 そう思っていると、ブルブルと鈴夏のスマホが震えた。

 

 

『ねえ、まだ来ないの? 師匠を待たせるなんて弟子失格だよ!』

 

 

 スノウからのお叱りのメッセージが表示されるのを見て、鈴夏はきょろきょろと周囲を見渡すが、相変わらずそれらしき少女は見当たらなかった。

 

 

『師匠、もういらっしゃってますか? どこにも見当たりませんけど』

 

『いるよぉ! ……あ、もしかしてボクがちょっと意外な姿だから気付かないかも?』

 

『ああ、なるほど。実は僕もちょっと意外な姿かもしれませんよ』

 

『へえー、そりゃ楽しみだ。でもこのままじゃラチがあかないし……じゃあちょっと右手を挙げてみてよ。ボクも挙げるから』

 

『わかりました』

 

 

 ひょいっ。

 

 

 右手を挙げた虎太郎と鈴夏の目が合った。

 

 

「え……?」

 

 

 ぽかんとした目で、鈴夏先輩の顔を見つめる虎太郎。

 そして、その視線の先で鈴夏の顔がみるみる綻び、頬が紅色に染まっていく。

 

 その時、鈴夏に電流走る――!

 

 虎太郎=スノウ。

 鈴夏の脳内で、愛情を向ける対象だったふたつが統合される。

 心のどこかでいっそそうだったらいいなーという願望が現実のものとなり、唯一無二の愛玩対象となっていく。

 

 鈴夏は熱病に浮かされたような熱い息を吐きつつ、虎太郎に視点を合わせてしゃがみ込んだ。

 ……虎太郎はなんだか、肉食獣の前に晒されたような錯覚を覚えて、かすかに身震いする。

 

 

『逃げてー!! 逃げて騎士様ーーーー!!』

 

 

 そんなカメラの向こう側からの声が届くわけもなく。

 

 

「そうですか。そうなんですね。師匠は、虎太郎君だったんですね」

 

「あっ……え……? ジョンって、もしかして鈴夏先パ……」

 

 

 そう口に仕掛けた虎太郎は、すべてを言うことはできなかった。

 

 

「やったぁーー!! お会いしたかったです、師匠~~♥♥」

 

「むぐううっっ!?」

 

 

 抱き着いてきた鈴夏の巨乳に顔を埋められた虎太郎は、酸素を求めてじたばたともがいている。

 そんな虎太郎の反応を気にせず、鈴夏は喜色満面で彼を固く抱擁し続けた。その力強さたるや、サイズ差を気にせずに小学生の主人に甘えかかる大型犬のごとし。

 

 鈴夏の脳みそは今ドーパミンでびしょびしょ、見えない尻尾は全力大回転で愛情をぶつけまくっていた。

 

 

(虎太郎君が師匠だったなんて! 虎太郎君にいくらでも甘えても大丈夫なんて幸せ過ぎるっ♥♥♥ これからずーっとずーっとず~っと一緒ですよ、師匠♥♥♥)

 

「むぐううううううーーーー!!?」

 

 

 お前の大事な師匠、手足痙攣してますよ。

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