七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第122話 自分で繊細とか言い出す奴は大体図太い奴しかいねえ

 ジョンの訓練が始まってから数日。

 シュバリエ戦の“基礎(師匠基準)”をある程度教え、リアルでの手合わせを通じて格闘戦の力量も把握したスノウは、いよいよジョンを実戦に連れ出そうとしていた。

 

 

「さて、どの戦場にお邪魔しようかなっと」

 

 

 シャインのコクピットシートに背中を預けながら、スノウは鼻歌交じりに投影型スクリーンを指で滑らせた。

 スクリーンには不特定多数へ向けた救援依頼がずらりと並べられている。その依頼の条件をチェックしながら、スノウは楽しげな声を上げた。

 

 

「ああ、いいなあ。どれもこれも鉄火場ばかりだ。見てるとワクワクしてくるよね」

 

『依頼を出してる本人は絶望で顔面真っ青になってると思いますけどね』

 

 

 スノウの頭の上に腰かけたディミが、一緒にスクリーンを覗き込みながらそんなことを言う。

 2人の言う通り、救援依頼の内容はどれもこれもが圧倒的不利の窮境にあえぐものばかりだ。

 とはいえ、それは当たり前のことである。

 傭兵への救援依頼を有利な側が出すケースはあまりない。自前の戦力では勝てない戦場だからこそ、外部へ救援を求めるのだ。このゲームにおいて救援依頼の多くは劣勢側、もっと言えば防衛側から出されるものなのである。

 

 これは傭兵を雇って戦い合わせることが主流だった近世ヨーロッパでの戦場などとはまったく事情が異なる。ざっくり言うと近世ヨーロッパでは常備軍は一般的なものではなく、動員できる兵力とは貴族の私兵と徴兵された農民、そして傭兵だった。

 傭兵はその戦場限りで雇われた軍事専門家であり、常時給料を払い続ける必要がない。訓練に食糧にと、維持に莫大な予算がかかる常備軍を養うよりも、その場限りで傭兵を雇ったほうが貴族にとってはお得だったというわけだ。

 

 だが、このゲームにおいてはそうではない。

 何故ならクランとは“貴族”ではなく、“軍閥”だからだ。

 このゲームのクランはひとつ残らず常備軍であり、その活動規模と好戦性は自前の戦力に依存する。戦争で領土を取るか取らないかの判定は、常にそのクランが持つ戦力によって見積もるのが常識だ。そこに外部の傭兵という不確定要素が介在する余地はない。

 

 ……なんてなんか軍記モノっぽく難しい言い回しをしてみたが、要するに超つえー傭兵の助けを借りて身の丈に合わない領土を得たとしても、それを守り切れないよねという話である。

 次もそのつよつよ傭兵の助けを借りられたら防衛はできるかもしれないけど、そういつもいつも力を借りられるとは限らない。だから普通のクランは不確定要素を除外して、自前の戦力を元に侵攻計画を立てる。結果として攻める側は自前の戦力だけで戦えるような、自分より弱い相手を侵略するようになる。

 それが定石だ。攻略Wikiにも『無理しても続かないので確実に勝てる相手だけ攻めましょう』と書かれている。Wikiさんが言うなら間違いないぜ。

 

 では傭兵が必要になるのはどういうときかといえば、もちろんさっきの逆。侵略を受けた弱い側がなんとか領土を守りたいと外部に泣きついたときである。

 両軍の戦力が拮抗しあっていて、なんとか優越するために外部から戦力を借りたいという場合ももちろんあるが、やはり多いのは不利な防衛側からの救援依頼だ。そして大体の場合、そういう救援はどうしようもなくなってから出される。

 

 そんなわけでスノウが眺めている依頼リストはどれもこれも早く来てー早く来てーと泣き喚く姿が文面越しに透けて見えるような、ろくでもない戦場ばかり。

 傍から見れば、ぶっちゃけおとなしく諦めたほうがいいよ? って感じである。戦争の勝敗は事前準備の段階で決まっているって織田信長(ノッブ)だか孫子だかも言ってたでしょ。

 

 そんな詰んだ状況の数々を、スノウは楽しそうに鼻歌を歌いながら眺めている。

 

 

「うーん、どれも面白そうだなー。暴れ甲斐のある戦場ばかりじゃないか」

 

『こんな悲惨な状況を楽しそうに物色する人もそうはいないでしょうね』

 

 

 呆れ返ったと言わんばかりのディミの口調に、スノウは小首をかしげる。

 

 

「いや、楽しいよ? どれもこれも歯ごたえがありそうじゃないか。でもせっかくの愛弟子のデビュー戦だし、とびっきりきっついのを選びたいかな」

 

『弟子の初陣を勝利で飾らせてあげようっていう親心とかないので?』

 

「何言ってんの、勝つのは当たり前でしょ。ジョンはボクが見込んだできる子だよ? 勝つのを前提としたうえで、とてつもなく苦戦してほしい」

 

『…………』

 

「難しければ難しいほど、勝利の喜びは大きくなる。tako姉が言ってたから間違いないよ。僕もそうやって育ったんだ」

 

『負の連鎖を代々継承するのやめてくれません!?』

 

 

 地獄のような伝統が形成されようとしていた。

 

 頭の上で上がるディミの悲鳴にキーンとなったスノウは、耳を人差し指で塞ぎながら眉をひそめる。

 

 

「あーうるさい、耳の近くで叫ばないでくれる!? っていうかディミ、最近ボクの頭の上にばかりいるよね」

 

『そんなことないですけどー? 騎士様の勘違いですけどー?』

 

 

 なんてことを言いながら、ディミはスノウのロングヘアに顔を埋める。

 口調と顔は拗ねていたが頬はかすかに赤らんでいた。

 

 

「いや、勘違いじゃないでしょ。前からそんなにくっついてきてた?」

 

『前からですよー。ウィドウメイカーと戦ったときもこうして頭につかまって狐耳モフモフしてたじゃないですか』

 

「まあ、それはそうだけど……いや、そうじゃなくて」

 

『いいから狐耳出せ狐耳! あれは私の操縦桿なので!』

 

 

 頭につかまられると耳が痛いからやめてほしいと言おうとしたスノウに先んじて、ディミがぺしぺしと頭を叩いて口を封じた。

 

 

『ほら、ピピピーガガガガー! 発進せよスノウロボ!』

 

「AIに操縦される人間って何なんだ……」

 

『理想社会じゃないですか? 人間は愚かなので、AIが導いてあげたほうが幸せな生活を営めますよ』

 

「単にAIが愚かさを学習してないだけだろ。どうせそのうちAIも人間の愚かな部分を学んで堕落し始めると思うな」

 

『むっ、そんなことないですよ! そんな証拠がどこにあるんですか!』

 

「ボクの頭の上に生きた証拠がいるじゃん。オフのときお菓子ばっか食ってるんじゃないの、なんか重くなった気がするぞ」

 

『重くなってませんけどぉ!? 電子フードいくら食べても体重増えませんしぃ!! どこが私の重くなった証拠だよ!!!』

 

 

 強いて言えばその言動すべてが食っちゃ寝してる証拠かな!

 

 そんなディミちゃんのおなかを人差し指でツンツンして愛でるスノウである。

 

 

「うりうりうり」

 

『あはははは! ひゃ、ひゃめろー! おなか触らないでください、セクハラですよ!!』

 

「うりうり。ボクも女の子のアバターなんだからセクハラじゃないでしょ」

 

『AIハラスメントですよ! 訴えてやる!!』

 

「法整備が追い付いてないから無罪だな。人権を取得してから来てくれ」

 

『クソッ! なんて時代だ!』

 

 

 そんなたわいもないやりとりに癒されながら、スノウは次々に切り替わる救援依頼の表示を眺め続けている。

 

 

「あ、これいいな」

 

 

 高速で流れた情報を数件前に戻して、スノウは口笛を吹く。

 そこに表示されていたのは、今まさに圧倒的劣勢に追い込まれているひとつの戦場。

 

 現在主流とされる砲撃戦による撃ち合いで、救援依頼を出している側は砲戦仕様機の数が足りずに劣勢へと追い込まれていた。そこまではよくあるパターンで、取り立てて珍しいものではない。

 砲撃戦は基本的に数を動員できた方が勝つ。子供でもわかる当然の定石だ。

 射程と破壊力の暴力はすべてを蹂躙する。その数が多いほどシンプルに強い。まさに戦う前から勝敗は決まっているのだ。砲戦仕様機をたくさん動員できた側が勝つ。

 交戦するクラン同士の規模が大きく、総力戦に近いほどそうなりがちな傾向がある。

 だから中規模以上のクランの交戦で救援依頼が出される場合は、砲戦仕様機が指定される場合がほとんどだ。

 

 だが、スノウの目を引いたのはそうしたありきたりの募集要項ではなかった。

 募集の文面にはこうある。

 

 

『遊撃部隊に参加してくれる傭兵募集! この戦いは戦略的に見て俺たちの負けだ。この負け戦の仇花として、クランリーダーが敵陣に突っ込んで最後に一花咲かせたい! 一緒に大暴れしたいってイカれた(オトコ)がいたら俺のところに来てくれや!!』

 

「うんうん、文面もふるってるじゃないか。ユーモアがあるよ」

 

『イカれてるのはこの人自身じゃないですかね……?』

 

 

 冷静にツッコミを入れるディミちゃんである。

 スノウの頭に乗っかったまますっすっと小さな指を振ると、それに合わせて詳細な情報が表示されていく。

 

 

『しかもこれ、防衛側じゃないですよ。この依頼者の側が攻め込んでます。砲撃戦の定石理解してるんですかね、これ? 砲戦仕様機の数で劣っている以上、どうあがいたって勝ち目なんてないのに』

 

「……どうかな」

 

 

 スノウは顎に指を置き、眉を寄せた。

 

 

「多分この人としては勝ち目はあるつもりだったんじゃない? 結果的にそうはなってないようだけど」

 

『じゃあ戦略ミスってるじゃないですか』

 

「蓋を開けたらやっぱり及ばなかったんだろうね。でも、ボクはいいと思うよそういうの。戦いの勝敗は準備の時点で決まっているってtako姉はよく言ってたけど、何もかもが戦う前からわかってちゃ面白くない。それに……」

 

『それに?』

 

 

 スノウは可憐な顔立ちに凶悪な笑みを浮かべ、にやりと唇を吊り上げた。

 

 

「今この瞬間に勝ったと思って喜んでる優勢側に、何もかも逆転される絶望を与えてやれるを思うと心が躍るでしょ?」

 

『ホント、貴方って“魔王の寵児”ですね。お師匠そっくりですよ』

 

 

 ため息を吐いて呆れるディミ。

 スノウはその言葉に一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて花が綻ぶような微笑みを浮かべた。

 

 

「嬉しいな。ボク、そう言われたかったんだ」

 

『褒めてませんけど?』

 

「それならなお結構。“腕利き(ホットドガー)”は罵倒されるくらいで一人前だって師匠が言って……いや、これ言ったのはエッジだったかな? まあ似たようなものか」

 

『無敵かよこいつら……』

 

 

 ディミは【シャングリラ】なる無法集団に流れるメンタリティに身震いする。

 前作最強の腕利き集団とは聞いていたが、腕だけでなく性格もメンタルも最悪だ。

 きっと構成員の末端に至るまで、こういうヤバい連中ばかりに違いない。

 言っちゃなんだが、このゲームにいなくて本当によかったと思う。こんな連中が何人もいたら、私の繊細な思考回路はきっとストレスに耐え切れなかっただろう。

 

 

 自分で繊細とか言い出す奴は大体図太い奴しかいねえ、その体現のような思考であった。

 

 

「さあ、じゃあとっとと出撃しようか! 聞いてたよね、ジョン!」

 

「あ、はい!」

 

 

 スノウの呼びかけを受けて、スクリーン越しにジョンがびしっと敬礼する。

 餌を前にじっとお座りする忠犬のように、スノウとディミのやりとりを聞いていたのだ。正直自分をよそに乳繰り合うディミや、自分をできるだけ苦境に叩き込みたいという発言に胸がざわざわしていたのだが、なんとか我慢した。

 ダイブ中は何気に忠犬度が高い偽ショタである。名前もなんか犬っぽいよなお前。

 

 

「僕はいつでもいけますよ、師匠」

 

「大変結構! 賞味期限は短いぞ、このクランリーダーとやらが散る前に盤面ぶっ壊してやらないとね!」

 

「……あの、それで……。救援するクランは何という名前なんですか?」

 

 

 ジョンの疑問に、スノウは目をぱちくりとさせた。

 

 

「え、そんな情報知る必要ある? どうでもよくない、そんなこと」

 

『いや、どうでもよくないですよ……依頼主ですよ?』

 

「どうせこの1戦限りの関係なのになあ。まあいいや、一応聞いておこうか」

 

 

 ディミがため息を吐くのを聞いて、スノウが前言を翻す。

 さすがに2人がかりでそれはないわって言われるのは堪えたらしい。

 

 スクロールを上へと戻したディミは、そこに並ぶ文字列にうっと呻き声をあげる。

 そして、万が一にでも考えを変えてくれないかなという儚い希望を言外に滲ませながら告げた。

 

 

『依頼者のクランは《桜庭組(サクラバ・ファミリア)》。敵対するクランは……騎士様御懇意の《トリニティ》です』

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