七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第30話 BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB

『おめでとうございます、レイドボス撃破ですよ! しかも七罪冠位! JC(ジャンクコイン)とレアパーツも手に入りました、よかったですねっ』

 

 

 どんどんぱふぱふーっと太鼓とラッパを鳴らし、祝福するディミ。

 彼女が撒き散らす紙吹雪を、スノウは無言で髪の毛で受け止めた。

 

 クロダテ要塞での戦いを終えた翌日、ハンガーにログインした直後のことである。

 

「……今になって突然どうしたの? バグった?」

 

『バグってませんよ失礼な』

 

 

 素に戻ったディミは、すいっと指を宙にさまよわせる。すると掃除機がどこからともなく現れ、魔法で命を与えられたかのように床の紙吹雪を吸い取っていった。

 なんだか有名なアニメ映画のワンシーンみたいだなとスノウは思う。

 

 

『せっかくレイドボスを倒したのに、騎士様は戦場から戻った直後にログアウトしちゃってちゃんとお祝いしてなかったなーと思いまして。折角の初討伐なので、ちょっと頑張ってみました』

 

 

 えっへん、と胸を反らすディミ。

 小柄な体格の割にそこそこある胸が揺れるのを見て、スノウは目を逸らした。

 

 

「まあその気持ちは嬉しいけど……。個人的にはあれは敗戦なんだよなあ」

 

『定員オーバーはしましたけど、一応撃破は撃破ですよ?』

 

「ボクが納得してない」

 

 

 スノウはそう言って、はあとため息を吐いた。

 

 

「おかげで今後の課題が見えてきた。まず第一にパーツと武器が必要だ」

 

『さすがに初期機体では無理ですよねぇ……』

 

「とりあえず資金が貯まるまでは初期機体でもいいかと思っていたけど、ああいうのと頻繁に遭遇するなら換装しないとキツイな」

 

 

 スノウの言葉に、いやいやとディミが手を振る。

 

 

『あれはさすがにイレギュラーですよ? レイドボスとの遭遇自体はままあることですが、七罪冠位は大ボスですから。“慟哭谷の(アンタッチャブル・)羆嵐(ベア)”の場合は、そもそも名前にも冠されている“慟哭谷(どうこくだに)”という辺境の隠しエリアに行かなくては遭遇できないはずです』

 

「しぶといとは思ったけど、あれって大ボスだったの?」

 

『あ、初期機体で倒せちゃう大ボスって……って顔してますけど、あれはまだ本気じゃないですからね。がっかりしなくていいですよ。まだまだ苦戦できます(楽しめます)

 

 

 ディミもそろそろこの問題プレイヤーの扱い方がわかってきたようだ。

 スノウは口角を上げながら、小さく頷いた。

 

 

「あのクソ熊は定員で挑んで、今度こそブチ殺してやらないといけないからね」

 

 

 そう言ってから、まあ問題はそこなんだけど……とスノウは顔を曇らせる。

 

 

「第二の問題は、普通に挑むと邪魔者が入って定員オーバーすることだな」

 

『レイドボスは一撃でも入れれば勝利報酬がもらえますからね。そりゃみんな横殴りしたがりますよ。何しろ獲得できる素材は、技術ツリーの解放に必須ですし』

 

「クランに所属しているプレイヤーで、殴りたがらない奴はいないよね。となれば、定員以内の人数で狩る方法はひとつしかない」

 

 

 スノウは首元に親指を添え、シュッと横に滑らせる。

 

 

「横殴りしてくる奴は皆殺しだ。誰にも狩りの邪魔はさせない」

 

『わぁ、蛮族的発想ですね』

 

「でもこれが正攻法だよ、きっとね」

 

 

 このゲームはプレイヤー間の殺し合いや奪い合いを推奨している節がある。

 PvPならばそれは当然のことなのだが、特に武器が強奪可能であったり、横殴りが可能な割にバトルに定員が設けられていたりといった部分に、製作者のメッセージを感じられる気がしていた。

 それに則って言うのなら、定員を守るためにちょっかいを出してくる他プレイヤーを排除しろというのは正攻法だとスノウは考える。

 

 

「だけど、さすがにひとりでレイドボスと他プレイヤー全員の相手をするのは無理だ。可能ならレイドボスの相手だけに集中したい」

 

『そりゃそうですよね。騎士様が人間の範疇に留まっていてホッとしましたよ』

 

「となれば……仲間が必要だな。他プレイヤーを寄せ付けないためには」

 

『おお……! ついに騎士様も、クランに入るという当たり前のことをするときが来たんですね!』

 

 

 立派になって……とハンカチで涙を拭うディミ。アフリカで狼に育てられた少年が人間の言葉を覚え、社会の一員となったかのような感動であった。

 そのリアクションに、スノウは露骨に嫌そうな顔をする。

 

 

「嫌だなあ……本当に嫌だ。クランなんか入りたくない」

 

『心底からのぼっちなんですか? 大丈夫。人間は怖くない、怖くないよ』

 

 

 人慣れしていない小動物を慣れさせようとするかのように手を差し伸べ、ちっちっと言いながら人差し指を動かすディミ。

 

 

「このAI、煽りスキル上がってやがる!?」

 

『最高の教材が目の前にいらっしゃるもので。AIは学習で進化するものですよ?』

 

「サポートAIが予想外の進化をしたらリセットする権利って、どのレイドボス倒したらもらえるんだ?」

 

 

 ディミの進化に釘を刺しつつ、スノウは顔を曇らせる。

 

 

「それはともかく、弱い連中といくら組んでも無駄なんだよな、やるなら強い奴と組まなきゃ。クランに寄生するつもりの奴なんかはもってのほかだ。上昇志向がある精鋭だけにしなけりゃ、結局のところはみんなが不幸になるだけだよ」

 

『強いクランを検索しましょうか? ガチクランの募集も出てますよ』

 

「うーん……。既成のガチクランって、割と上位層の特権意識が固まってる場合も多いからな。新参は意見をするな、俺たちの意見に従え。だが戦力だけは俺たちの言う通りに提供しろ……なんて言われたくない。ボクはゲームは自由にやりたいんだ」

 

『ワガママすぎませんか?』

 

「うん、ワガママだよ。ゲームはどこまでも自分の思い通りにやりたい。だから本当はソロで遊ぶつもりだったんだけど……。そういうわけにもいかなくなった」

 

 

 それならこうする他ないな、とスノウは言う。

 

 

「ボクの好きにやらせてくれる、優しくて強いメンバーでクランを組む……!! ボクが背中を預けられるほど強くて、ちょっと自由に暴れても笑って許してくれて、あとついでにお小遣いもくれたら嬉しいなっ。そういう仲間が10人ほどほしい!」

 

『そんな都合がいい人がいてたまるかああああっ!!』

 

 

 ディミはどんがらがっしゃーんと空中でちゃぶ台をひっくり返した。

 

 

『騎士様にそんな奴隷待遇で仕えなきゃいけないとか、前世でどんな重罪を犯したんですかその人たちは?』

 

「いや……だけどディミ、よく考えてくれ。ボクは世界一カワイイんだよ」

 

『……は?』

 

「ボクは世界一カワイイんだから、甘やかしてくれる“腕利き(ホットドガー)”も10人くらいはいると思うんだ。だって世界一だよ?」

 

 

 その瞳は真剣であった。

 

 

『ハハッ、寝言は寝てから言ってください』

 

 

 スノウの妄言を言葉のナイフでサクッと刺し殺し、ディミは肩を竦める。

 

 

『どれだけ貴方のガワが可愛かろうが、中身はクソオブクソなのですから寄ってくるのは望んでメスガキに踏まれたがるような変態くらいですよ』

 

「でもディミ、ネットゲームの世界では往々にして変態の方がゲームが上手いんだよ。本当に何故なのかわからないんだけど、そうなんだ。ボクはそういう変態を何度も目にしてきた。変態はゲームがうまい、それはこの世の真理なんだ」

 

『嫌な真理ですね……』

 

 

 貴方(ネカマ)もその変態のひとりなのでは? という言葉は、ちょっとシャレにならないくらい傷つけそうなので胸にしまい込む優しいディミちゃんである。

 

 

「とはいえ、今はそんなプレイヤーのアテもないし、とりあえず傭兵稼業のついでにいいプレイヤーがいないか探して回るのがいいかな」

 

『傭兵やってクランからお金をもらいながら、将来引き抜く人材を探すとかすごく不実ですね……』

 

「強いプレイヤーがより自分にあった環境にスカウトされるんだから、これは適材適所だよ。プレイヤーにとって悪い話ではないはずだ」

 

『引き抜かれるクランにとってはたまったもんじゃないんだよなあ……』

 

 

 まあこんなメスガキにメンバーを引き抜かれるようなら、そのクランの人材管理には深刻な問題があるとしか言えないだろうが。

 

 

「クランのことは置いておいて、とりあえずパーツだな。換装を進めたい」

 

『ああ、それならいいお話がありますよ』

 

 

 ディミはインターフェースを操作して、じゃんっとミッションのページを開いた。

 

 

【ミッション:レアパーツをパーツ屋さんに鑑定してもらおう!】

 

 

「これは?」

 

『騎士様はレイドボスを倒して、レアパーツを入手しましたよね』

 

 

 そう言いながら、ディミは所持パーツリストを示す。

 そこにはアンタッチャブルから入手した、“銀翼:アンチグラビティ”というパーツの名前が記されていた。

 

 

「ああ、それね。換装できるのか気になってたんだ。そもそも銀翼って何?」

 

『銀翼はシュバリエの部位パーツのひとつですね。シュバリエは“頭部”“胴体”“腕部”“銀翼”“脚部”“ジェネレーター”“センサーモジュール”“F.C.S.(火器管制装置)”“ブースター”“オプションパーツ”の10部位のパーツを換装することが可能です』

 

 

 ディミがインターフェースを操作すると、画面にシャインが表示され、それぞれのパーツの位置が色分けされていく。

 その中でもシュバリエの背部にある、銀色に輝く機械の翼を拡大表示。

 

 

『この背中にある翼が“銀翼”です。主に飛行速度や旋回能力のスペックに関わってくるパーツですね』

 

「なるほど。レアパーツなら、それに加えてさらに特殊な効果が発動するとか?」

 

『その通りです。装備するだけで発動(パッシブ)だったり、任意発動(アクティブ)だったりとモノによってまちまちですが、装備すれば特殊な能力を使えますよ』

 

 

 ただし、とディミは続ける。

 

 

『レアパーツが具体的にどんな能力を持っているのかは、ハンガーでは確認できません。確認するにはパーツ屋さんで鑑定を受ける必要があります』

 

「めんどくさい仕様だな……ハンガーで直接見せてくれればいいのに」

 

『まあまあ。運営的にはパーツ屋さんに通ってもらいたいという事情があるので』

 

 

 ディミの言う事情について少し考え、ああとスノウは頷く。

 

 

「課金要素かな?」

 

『えへへ……』

 

 

 『七翼のシュバリエ』では現金でゲーム内通貨のJC(ジャンクコイン)を購入できる。

 JCはパーツの強化や武器の購入に使うほか、VRフードを購入して食べ歩くといった娯楽にも利用することが可能だ。

 

 

「鑑定に来たプレイヤーにいろんなパーツを見せて購買意欲を煽り、ゲーム内通貨を持っていない奴には課金させるというわけか……阿漕だなあ」

 

『あ、阿漕じゃないですよっ! ちゃんと戦争に勝ったり、レイドボスを撃破したらJCを配るようにしてますし! さらに勝てない人にもちゃんとJCを獲得できる救済措置を残しているのですから、これは神ゲーです!!』

 

 

 運営を批判すると、途端に目からハイライトが消えて神ゲーを主張する運営の手先ちゃんである。ちょっと怖えな……とスノウは密かに引いた。

 

 

「まあ、さすがにソフトの買い切りだけでこの規模のゲームの運営費を賄えるわけもないもんね。そこはしょうがない。ボクは課金しないけど」

 

『さすが騎士様、話がわかるぅ! 課金してくれたらもっと素敵ですが!』

 

 

 それはさておき、とディミは続ける。

 

 

『初めてレアパーツを入手したら、それを鑑定するミッションが発令されることになってるんです。ミッションをこなすとJCももらえてお得ですから、チュートリアルを兼ねてぜひ行ってみましょう』

 

「なるほどね。強制されるのはあまり好きじゃないけど……」

 

 

 スノウは腕を組んで顎を撫でる。

 

 

「ちょうどパーツの換装もしたかったし、行ってみようかな。ディミ、一番空いているパーツ屋へ案内してくれ」

 

『えっ、いいんです? 閑古鳥が鳴いてるってことは、つまり品ぞろえが悪いか接客態度に問題があるってことですけど』

 

「いいよ別に。どうせこっちだって持ち合わせに余裕があるわけじゃないし。初期機体よりマシ程度なら、閑古鳥が鳴いてる零細ショップで十分だ。……何より、ボクは待たされるのが大嫌いなんだよね」

 

『なるほど。では問い合わせます』

 

 

 軽く目を閉じたディミは、営業しているパーツ屋を手早く検索。その中から手が空いているパーツ屋を選別し、ついでにできるだけ品ぞろえが多い店舗を選んだ。

 

 

『検索完了。パーツ屋“因幡の白兎(ラッキーラビット)”へご案内します』




TIPS【レイドボス】


―公式オンラインマニュアルより抜粋―

レイドボス戦は技術ツリーの成長に必要な素材をゲットできるチャンス!

みんなで協力してレイドボスを倒そう!

1発攻撃するだけで報酬がもらえちゃう親切設計なので、気軽に参加してね♥




―傭兵クラン【ナンバーズ】の裏マニュアルより抜粋―

レイドボス戦で最大の利益を得るには、定員を守って戦う必要があります。

そのためには横殴りしてくるハイエナどもの存在を許してはいけません。

レイドボスと戦う精鋭メンバーとは別に、対プレイヤー用の戦闘メンバーを組織して迅速にハイエナどもの排除にあたってください。

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