七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた

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第37話 オオカミさんお気をつけて

「シロ! もうじき助けに行くから、ビーコン出して場所教えて!」

 

「なんで来るんですか!?」

 

 

 大木が生い茂った雪深い森の中、襲い掛かる敵機の攻撃をいなしながらシロが通信に叫び返す。

 

 既に味方は1騎撃墜され、残る味方は自分含めて4騎。せめてギリギリまで応戦して、1騎でも多くの敵と刺し違えようという決死の戦いの最中でのことだった。

 

 森の中に逃げ込めば、木々が邪魔して追手のタンクタイプの重火器は使えない。その判断は正しかったが、それで追手が追撃を諦めるわけもない。

 

 ブレードを手に斬りかかってくるペンギン兵の斬撃を、苦しそうな表情でなんとか回避するシロ。その腕から射出されたワイヤーが敵機の右腕に絡みついて動きを止め、その隙に僚機が側面からライフルを撃ち抜く。

 

 HPゲージがゼロになった敵機が沈黙するが、こちらの集中力とHPも限界が近い。ぜいぜいと荒い息を吐きながら、シロは怒鳴るようにシャインに叫んだ。

 

 

「助けは不要です、そう言いましたよね! そんな暇があれば一刻でも早くペンデュラム様を……!」

 

「そのペンデュラムも承知だよ! この作戦にはキミが必要なんだ!」

 

「……ペンデュラム様が……!?」

 

 

 シロの胸が温かくなり、常人よりも白い頬にさあっと赤みが差す。

 自分の仕える主人(ペンデュラム)は、自身の危機を承知でシロを助けに行くように命令してくれたというのか。

 ああ、それほどまでに主人から愛されているという幸福感に動悸がしそう。

 そしておそらくはペンデュラムに“シロを助けさせてほしい”と願い出たであろうスノウに好意が芽生えるのも仕方ないことだった。

 

 スノウにポンコツ極まりない誤解をするあたり、完全に似た者主従である。

 

 

「わかりました! ご命令とあれば従いましょう! ビーコンを打上げます」

 

「よーし! 少し待ってなよ!」

 

 

 スノウの返事を聞きながら、シロは僚機に語り掛ける。

 

 

「みなさん、お聞きになりましたね? ペンデュラム様は私たちを見捨てません! 何としても生き残りましょう!」

 

「「「おおーーーーーっ! さすが私たちのペンデュラム様♪」」」

 

 

 主人から愛されている自覚に意気上がったメイドたちは、萎えかけていた闘志を新たにペンギン兵たちに立ち向かう。

 何としても生き残り、ペンデュラムの想いに応えるのだ!

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

 ビーコンでシロたちの位置を把握したスノウは、全力で飛翔しながら救援に急ぐ。

 

「シャインッ! いい加減に止まって俺と戦えやあああああッ!!」

 

「ちぇっ、思ったより早いな……! もう少し距離を稼ぎたいけど」

 

 

 上半身を反らし、後方のアッシュに向けてバズーカ“レッドガロン”を撃ち放つシャイン。しかしその弾速は遅く、ゆるゆるとした軌道を描いて迫るばかりだ。

 

 

「なんだそのヒョロヒョロ弾は! そんなもんに当たるかよぉ!!」

 

 

 案の定、追跡してくるアッシュには難なくかわされてしまう。回避したアッシュの遥か後方で、弾が爆発して広範囲に爆風を撒き散らした。アッシュの後方にいたペンギン兵たちは動揺しているが、その爆発光を背中に浴びるアッシュはまったく動じた様子もない。

 その光景にやっぱりね、とスノウはため息を吐いた。

 

 

「機体の飛行速度に比べて、あまりにも弾速が遅すぎるな……。塹壕の中で立ち往生するマヌケ相手ならともかく、動き回る敵に当てられるようなもんじゃない。バーニーは何を考えてこんなものボクに持たせたんだ?」

 

『まあ、無料の武器ですし……。ビームライフルと併用して、速度差で敵を攪乱するとか使い道があるんじゃ?』

 

「にしたって無理があるでしょ。いくら何でもそんなんで誤魔化されるわけが……いや。なるほど」

 

 

 スノウは苦笑を浮かべ、空中で反転。そのままアッシュへと向かって逆走を開始!

 

 

『ちょ、ちょっと騎士様!? 一体何を!』

 

「ボクの考えが浅かったって話だよ!」

 

 

 そう叫びながら、スノウはビームライフルを連射しながらアッシュへと迫る。

 その射撃を回避しながら、アッシュの顔に浮かぶドス黒い笑み。

 

 わかっている、わかっているぞシャイン。お前の狙いは一目瞭然だ。

 距離を一気に詰めての近距離戦、そうだろう? 今装備しているのはビームライフルとバズーカ砲だけなんじゃないか? それじゃ遠距離戦で埒が明かねえよなあ。

 だから俺と渡り合うには一気に近距離まで詰めるしかないもんなあ。

 

 だが、そのままだと俺の懐には潜り込めない。だから牽制に何か一手必要だ。

 

 

 中距離まで距離を詰めたシャインが、レッドガロンをアッシュに向かって放つ。

 

 そうだよなあ。そんな弾速が遅いバズーカじゃ、中距離以内の射程でしか使えない。でもその爆発半径は広すぎるから近距離だと自爆してしまう。だからそのバズーカが使えるのは、実質中距離に限られる。……だがそれじゃ俺には当てられねえ。

 

 アッシュがバズーカの弾を避ける。その隙を狙い、シャインが腕を伸ばす。

 接近してくるシャインに向かって、アッシュが右腕の武器を展開する。

 

 

「それはもう読めてんだッ!! 投げ技なんざ二度も食らうかよォッ!!」

 

 

 アッシュの左手に握られたガチャ産SSRショットガンがぶっ放され、シャインの胸部に命中して無数の火花を上げる! シャインのHPゲージがゴリッと減り、着弾の衝撃で後方に吹き飛ばされた。

 

 その隙を見過ごすようなアッシュではない。

 右手に握られたガチャ産SSR火炎放射器(フレイムスロアー)が文字通りに火を噴き、吹き飛ばされたシャインの白銀の装甲を焼き焦がす。空気に触れただけで炎上する発火性の燃料を射出するこの武器は、着弾した相手に継続(DOT)ダメージを与え続ける凶悪な性能を持つ。

 

 

「ギャハハハハハハハハッ!!! 燃えろ! 燃えろおおおおおッッッッ!!!」

 

 

 哄笑を上げながら、火炎放射器で追撃を加えるアッシュ。ついに叶った復讐の機会に、歪んだ愉悦がゾクゾクと背筋を走り抜ける。

 

 スノウはみるみるうちに減らされていくHPゲージを見つめ、口元を引きつらせた。

 

 

「参ったなあ……予想外だ。油断しないキミは、確かに強い。計画を練り、罠を張り、高い技量と計算で追い詰めてくる。ここまでやられるとは思わなかった」

 

「ハッ! 今更悔やんでも遅いんだよ!! このまま黒焦げになりやがれ!!」

 

 

 だがその眼は油断なくスノウに向けられたままだ。こいつは何をしてくるかわからない。まだ自分が知らない切り札を持っているかもしれない。

 今日のアッシュは絶対に油断なんかせずに、敵の行動を観察している。

 

 だから、炎上するシャインがこの期に及んでバズーカに弾を込めたとき、アッシュは若干拍子抜けした。またその武器か。

 威力の高さも広範な爆発半径も知っている。その弾速の遅さも。

 たとえ100回撃たれても、自分なら100回すべて避けきれる。

 となれば、自爆覚悟で近距離で撃つか、やけになっての無駄なあがきか。

 

 どちらでも関係ない、回避すればいい話だ。

 撃ってみろよ、ダボ虫がァ!!!

 アッシュは哄笑を上げながら、シャインの最後の抵抗を見届けようとする。

 

 

「キミは油断しなけりゃ強い」

 

 

 バズーカから発射される弾丸が、唐突に加速する。

 

 炎上するシャインの背中で、ひときわ白く輝く銀翼“アンチグラビティ”。

 弾丸にかかる重力の影響を軽減することで、弾速は1.5倍まで加速を付ける。

 

 予想とはまったく違う弾速に、アッシュが一瞬躊躇する。しかしそれでも、回避することに問題はない。足から回転して、流れるようなスウェーで避ける。

 

 その一瞬の躊躇の隙を突いて、シャインがブラックハウルの腕を握っていた。

 

 

「ほら、()()()()()

 

 

 ぞわっと悪寒がアッシュの背筋を走り抜けた。

 その手を振り払おうとしたアッシュの視界が逆転する。

 

 空中一本背負い。

 

 

「墜ちろ」

 

「シャイイイイイイイイイイイイイイイインッッッ!!!!!」

 

 

 重力の影響を()()されたブラックハウルが、凄まじい速度で地面に向かって転落していく。シャインの名を呼ぶ絶叫が、ドップラー効果で小さくなっていくのが何だか少し面白かった。

 

 みるみる小さくなる彼を一瞥して、スノウはふうと息を吐く。

 

 

「さすがバーニー。重力操作を武器や移動に使うことを前提にしたビルドか」

 

『……地面にぶつけて撃墜できますかね?』

 

「無理だね、すぐ上がってくるよ。でも立ち直るまで時間はかかるから、距離を稼ぐなら今だ」

 

『随分とHPが減りましたよ。距離を稼ぐためだけにしては、いささか費用対効果が悪いのでは?』

 

「そうでもないよ」

 

 

 スノウはにっこりと笑って、シャインの両手を掲げた。

 雪原の光を受けて、キラリと輝くSSR火炎放射器。

 

 その手癖の悪さに、ディミは呆れた声を上げる。

 

 

『また盗んだんですか!? いったいいつの間に……』

 

「右腕を掴めたんなら、そのまま投げるついでにいただくでしょ。ボクがこれまでこれを何度練習して、実践してきたか聞きたい?」

 

『犯罪自慢の聞きたい度は、数ある他人の自慢の中でワースト1ですね』

 

「そりゃよかった、ボクもさすがに回数を覚えてないんだ。何せ得意技すぎてね」

 

『ほーら自慢した!』

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

「あの野郎ッッ、またやりやがったッッッッッッ!!!! 俺の武器がああああーーーーーーッッッッ!!!!」

 

 

 地面に激突する前になんとか態勢を立て直したアッシュは、右手に握られていた火炎放射器をなくしたことに気付いて咆哮を上げた。

 

 あの火炎放射器はショットガンをガチャで天井するついでに出たものなのでそこまで惜しいものではないが、威力が高く何かと重宝する武器だ。さらに相手を炎上させ、じわじわとHPゲージを焼き焦がすことで絶望を与えられる点が気に入っていた。

 

 加えて武器をロストさせられた復讐戦で、またしても武器を奪われたことが怒りに拍車をかける。

 

 ……落ち着け。怒りに身を任せちゃ奴は殺せねえ。クールに、クールになるんだ。

 

 

 アッシュは何度も深呼吸して、頭に血が上るのをなんとか抑えた。

 

 そうだ、俺はアッシュ。

 怒りに燃える心を持ちながらおだやかな理性を宿すことで新たな境地に目覚めたスーパーアッシュだ。感情を動かすのはシャインに完全勝利してからでいい。

 奪われた武器だって、シャインから取り返せばいいんだ。

 

 

 浮上してペンギン兵と合流したアッシュは、状況を再確認する。

 

 

「おい、シャインの仲間を追い詰めていた奴らはどうなった。もうシャインの仲間は全滅させたのか?」

 

「いえ……それが、突然敵が発奮して猛烈に暴れ始めたらしく。てこずっている間にシャインまでもが合流したので、距離を置いているようです。森に隠れられているようですが……」

 

 

 弱兵と罵りかけ、アッシュは口にするのを止める。

 兵の士気をいたずらに下げてどうする。

 

 

「いや、まあいい。足手まといがいた方がシャインを仕留めやすいかもしれん。そいつらと合流して、森の中を追い立てるぞ」

 

「はっ」

 

 

 ……そして数分後。

 全力で空中を駆けたアッシュたちは、【トリニティ】の偵察特化機体を追いかけていたペンギン兵と合流していた。

 

 10メートルを超える大木が生い茂る鬱蒼とした森は、昼間でも薄暗く光がなかなか届かない。しかし、スノウたちを追跡するのはさほど難しくはなさそうだ。

 何しろ森の中にも雪が降り積もっていて、足跡はくっきりと残されている。

 そもそもが巨大なシュバリエの足跡なのだ、隠して隠せるものではない。

 

 これならスノウたちを狩るのに手間はそうかかるまい。

 魔狼の狩りの真髄を見せてやろう……とアッシュは口角を吊り上げる。

 

 

 そうしてしばらく足跡を追いかけた頃。

 追跡者たちは少し広まった木々の狭間、広場のようになった空間に複数の足跡を発見した。足跡は5方向に分かれており、追われているシュバリエたちが1騎ずつ別々の方向に逃げたことを物語っている。

 

 さて、どれがシャインの足跡だ……?

 腕と脚が際立って大きいシャインのフォルムを思い返しながら、アッシュは真剣な顔で足跡を検分する。

 

 あまりにも真剣に見入りすぎていて、アッシュは彼の後方でペンギン兵たちが話し込んでいたのに気付くのが遅れた。

 

 

「なあ、あそこに落ちてる赤いの……もしかして、シャインって機体が持ってたバズーカじゃないか? 逃げる途中で落としたのかな」

 

「あっホントだ……。おいおい、拾いにいくのか? やめとけよ、勝手なことしたらアッシュさんがうるさいぜ」

 

「でもさ、あのバズーカの威力見ただろ? うちのクランじゃ逆立ちしても生産なんかできない業物だった。あれが手に入るなんて悪くないじゃないか」

 

「そりゃそうだが……」

 

「なーに、こっそり拾えばバレないさ。アッシュさんは足跡に夢中だからな」

 

 

 そう言った若いペンギン兵が、レッドガロンを拾い上げる。

 雪の中に埋もれていたそのバズーカは、砲塔にもパンパンに雪が入り込んでいた。

 

「へへっ、ゲーット! ちゃらりら~♪」

 

 

 思わぬ拾い物をしたペンギン兵は、嬉しそうにレッドガロンを頭上に掲げる。

 それを一目見ようと、周囲に集まってくる僚機のペンギン兵。

 

 彼らの声を聞いたアッシュが振り向き、真っ青な顔で絶叫を上げた。

 

 

「バカ野郎! 今すぐ捨てろ!!」

 

「へっ?」

 

 

 ペンギン兵は気付かなかった。雪の中に埋もれていたのは、バズーカだけではない。

 そのバズーカの引き金に括りつけられた対シュバリエ用ワイヤーもまた、雪の中に埋もれていたことを。シロの機体に取り付けられていたその武器は、シュバリエの腕力によって引っ張られてもなお切れることはない靭性を持つ。

 

 そしてワイヤーが引っ張られ、トリガーが音を立てた。

 シュバリエの力で砲塔にカチカチに詰め込まれた雪と弾頭が接触し、暴発する。

 

 

 

 ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!

 

 

 

「「「ペギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?」」」

 

 

 

 悲鳴と共に爆風に飲み込まれ蒸発するペンギン兵たち。

 

 

「馬鹿野郎が……! あんな見え見えのブービートラップに引っかかりやがって! これだから弱小クランにたまってる能天気な雑魚は……!」

 

 

 そう毒づきながら、アッシュは腕を上げて頭部を爆風から守る。

 だが、その口元はニタリと昏い歓喜に緩んでいた。

 

 

 あのバズーカはシャインが持ち込んだ武器だ。

 武器としてのスペックは、自分がガチャで手に入れたSSR武器に匹敵するはず。【トリニティ】があのバズーカを使っているのを見たことはない。ということは、あれはシャインがガチャを回して手に入れたSSR武器のはず。

 

 それをシャインはブービートラップとして使い捨てざるをえなかった。いや、使い捨てさせたのだ、俺が! あいつを追い込んで!

 

 俺は、あいつに同じ悔しさを味わわせてやったんだ!!

 やったぞ! 俺の屈辱を! 苦しみを! あいつにも与えてやったんだ!!!

 

 

 歓喜に打ち震えながら頭上を見上げたアッシュは、そこに5つの騎影を見つけてニヤリと嗤う。なるほどな。逃げたふりをして、全員で頭上に隠れていたか。

 

 

「上だ! 上にいるぞ、撃ち落とせ!!」

 

「ペギーーッ!!」

 

 

 生き残ったペンギン兵たちが、アッシュの声で頭上に視線を向ける。

 

 シャインめ、俺たちがブービートラップにかかるか、行き過ぎたところを狙って奇襲をかけるつもりだったようだが……そうはいかない。俺にかかれば、貴様らの稚拙な策などお見通しだ。

 

 

「さあ、シャイン! お気に入りの武器を失い、奇襲まで見破られて……今どんな顔をしているのか、俺に見せてみろ!! フハハハハハハハーーーーッ……ん!?」

 

 

 アッシュはぽかんと口を開いた。

 

 

 シャインの手にあるのは、先ほど暴発して消滅したはずの赤いバズーカ砲。

 それが蒼い光に包まれながら再生成され、シャインの手に握られていた。

 

 

「な……何故だ!? その武器はさっき確かに消し飛んだはず……」

 

「なんだ、キミはまた武器ガチャなんかに無駄金を突っ込んだの?」

 

 

 ホログラム通信を送り付け、スノウはニヤリと嗤い返した。

 

 

「これはクエストアイテムだ。キミが血と汗を流して手に入れた天井課金武器なんて、ボクにとってはいくらでも使い捨てできる()()()()()()なんだよ?」

 

「ッッッッ…………!!!!」

 

 

 頭上から降り注ぐバズーカの弾丸と、先ほどまで自分のものだった火炎放射器の発火燃料の雨。

 見えてはいた。見えてはいたが……あまりのショックに脱力したアッシュには、最早それを避ける気力など残されてはいなかった。

 

 爆炎に飲み込まれながら、魔狼(アッシュ)の断末魔が木霊する。

 

 

「くそったれがああああああああアアアアアアアアアアアアアッッッーーーッ!!!」


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