七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた

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第5話 キャラメイク職人の朝は早い(徹夜)

「できた……!!」

 

 

 チュンチュンと小鳥の(さえず)りが木霊する中、虎太郎は満足げに完成したアバターを眺めた。

 

 年齢は十三、十四ほど。

 幼げだが整った顔立ちは、光の加減で青にも紫色にも見える髪色と相まってどこか神秘的な印象を受ける。瞳を閉じた姿は、まるで眠りの呪いを受けた神話の巫女姫のようだ。

 スレンダーな体つきだが、それが一層妖精的な美しさを醸し出していた。

 

 

『はあ、やっとできましたか……』

 

 

 せめてもの抗議にチュンチュンと囀る小鳥のSEを鳴らしていたサポートAIがアバターの前に降り立ち、腰に手を当ててしげしげと見つめる。

 

 

『ふーむ……なるほど。これは……』

 

「どう? 僕の理想を100%再現できたと思うんだけど」

 

『一言で言うと、素晴らしすぎて気味が悪いですね』

 

「もっと素直にほめろや!?」

 

 

 寝不足もあって瞬間沸騰でブチ切れた虎太郎に、いやだって、とサポートAIは手を顎に当てて首を傾げた。

 

 

『これを3DCGデザイナーにやらせたら、普通に高額の工賃取られますよ。騎士様、本当に素人ですか? 大抵のユーザーって力入ったの作ろうとしますけど、途中で諦めてほどほどの出来にするかプリセットキャラにするんですよね』

 

「地元の友達にこういうのが上手いのがいたんだよ。昔コツを聞いてたんだ」

 

『なるほど。ウチのスタッフに勧誘したいくらいですね、その方』

 

「それはそれとして、これどうやって動かすの?」

 

『あ、普通に重なってくれたらいいですよ』

 

「こうか?」

 

 

 虎太郎は瞳を閉じたまま直立不動のアバターの背後に立ってから、すっと前進する。まるで器に魂が宿るかのように、影法師だった虎太郎はアバターに溶けて混じり合い、ひとつになった。

 

 

「お?」

 

 

 やがてぱっちりとアバターが瞳を開く。

 

 

 

 

 ロールアウトしたばかりの自分の白魚のような手を握ったり開いたり、軽く跳ねたりして使い勝手を試してみる。

 

 

「あー、あー……。うん、声もバッチリ女の子だ」

 

 

 声帯もイメージ通りの透き通ったソプラノボイス。

 

 バーチャルアイドルが出始めた頃、ボイスチェンジャーソフトを使って男の演者が“バ美肉”するのが流行った。それから20年が経過した現在では、性別に関係なくまったく違和感なく理想の声帯をリアルタイムで作ることが可能となっている。

 

 

『これで満足なさいましたか?』

 

「うん、大変結構! 僕の理想のヒロインって感じだよ」

 

『男の理想を30時間かけて見せつけられる側にもなっていただきたいです』

 

「男の理想が長時間かけて実現する過程だぞ。2時間スペシャルで特番にしてもいいくらいじゃない?」

 

『見るのはフィギュアオタクぐらいでしょう、視聴率は取れそうにありませんね。

 さてキャラクター名はどうなさいます? 次は何時間もかけないでくださいね』

 

 

 端正な顔立ちのサポートAIがじろりと白い眼を向けると、なんとも言えない迫力があった。

 それを軽くスルーして、虎太郎が宿ったアバターは指を立てる。

 

 

「それはもう決めてるんだ。名前は“スノウライト”。淡い髪色にピッタリだろ?」

 

『どこか儚げな印象を受けますね。はっきり申し上げて、騎士様のご人格には不釣り合いでは? もっとドギツくて自分勝手な感じがよろしいかと思いますよ』

 

「“シャイン”じゃ眩しすぎるからな」

 

 

 スノウは肩を竦めて小さく笑った。

 そんな少女に、メイド姿のサポートAIはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

『さて、それじゃいよいよ本題のシュバリエの操縦チュートリアルに移りましょう! ふふふ、ちゃんとできるまでビ・シ・バ・シ!! 鍛えてあげますよ!! あははははっ!! 覚悟してくださいねえっ!!』

 

 

 これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らさんと、壮絶な笑い声を上げるサポートAI。額には青筋が浮かび、その機能いる? ってくらい怒りと喜びを表現していた。

 

 

「ああ、それカットでいいよ」

 

 

 ばっさり。

 

 

『は!?』

 

「いや、別にそういうチュートリアルいらんて。めんどいからスキップで」

 

『……もしや騎士様、このゲームの経験者ですか? アカウントを複数お持ちとか? いえ、別に複垢は禁止してはいませんけどぉ……』

 

「うんにゃ、初心者だよ。プレイはこれが初めて」

 

『じゃあいるじゃないですか! 受けてくださいよチュートリアル!!』

 

「操作方法とか多分カンでわかると思うんだよね。わかんなかったらリアルタイムで訊くから教えてよ」

 

 

 ニコニコと笑うスノウに、サポートAIは不満顔を浮かべた。

 

 

『そりゃまあ、既にロボットもののアクションゲームをプレイされたことがあれば、さほど複雑じゃないかもしれませんけどね? それでもこのゲームの独自要素とかいっぱいあるんですよ?』

 

「ボクはやりながら覚える主義なんだよね。説明書とか読まないし。あまり細かいことも気にしないから……」

 

『まあそういうプレイスタイルがあることは否定しませんけどね』

 

「だからキミがやたらボクのことを騎士様と呼ぶのも、なんか設定とかあるんだろうなーと思ってるけど別に訊くつもりはないんだ」

 

『その疑問、30時間ほど口にするのが遅いんですけどぉ!? 私、質問されるのを今か今かと待ってたんですけどねえ!?』

 

「“シュバリエ”ってフランス語で騎士のことだし、どうせ人型ロボットのシュバリエに乗るプレイヤーはゲーム中でNPCから騎士として扱われている、とかそんな設定なんでしょ?」

 

『しかも自己解決された! やめてくださいよネタ潰すの! そうですね!!』

 

「まあそこらへんの設定はPVで見たんだけどね」

 

 

 スノウはクスクスと笑い声を上げる。その姿がまた、生まれつきの女の子のように似合っていた。

 サポートAIは若干いじけながらも、じゃあ次は自機設定しまーすと話を進める。

 

『シュバリエは主に<フライト>、<タンク>、<ガンナー>の3タイプに分類されます。それぞれ得意とする戦術が異なりますので、ご自身に向いた戦術によって初期タイプを選んでください』

 

「RPGでいう職業(クラス)みたいなものかな?」

 

『そうですね。まああくまでそういう分類というだけで、パーツや武器を換装して後からタイプを変えたり、複数のタイプを折衷することもできますよ』

 

「なるほど。それぞれ何が得意なの?」

 

 

 サポートAIはモニターをどこからともなく出現させると、ようやく説明らしいことができます、と言わんばかりに嬉しそうに語り始める。

 

 

『<フライトタイプ>は空中戦に特化しています。シュバリエは基本的に飛行能力を持ちますが、<フライト>は特にスピードが高く、空中戦でそのポテンシャルを発揮しやすいです。武器によっては地上への爆撃を行うこともできますよ。

 その反面、火力は3タイプ中でも控えめになりがちで、中でも実弾系武器の反動を受けやすいですね』

 

「スピード特化の航空戦仕様か」

 

『<タンクタイプ>は地上戦特化ですね。大火力の砲戦を行うことができますよ。火力で敵を殲滅したいなら、これ! 

 その代わり回避性能は犠牲になってしまっていますが、装甲で持ちこたえられます。本作の花形と言える、陣地攻略の要です』

 

戦車(タンク)タイプってことね。じゃあ<ガンナー>は?」

 

『<ガンナータイプ>は武器メモリを大量に積むことで、強力な武器を戦場に持ち込めます。人型兵器の強みを活かしたタイプですよ。本作には実弾・光学系の射撃兵器をはじめ、多彩な武器が登場します。それを一番うまく扱えるのは<ガンナー>!

 実戦的には<タンク>を補佐する運用が多いですね』

 

「つまり歩兵ってわけだね。第一次世界大戦の騎兵やら銃士みたいに、戦車を守って敵陣地を叩ける位置に誘導しろ、と」

 

『ええ、まさに銃士が語源なんですけど……意外と詳しいですね! 騎士様のこと、もっと無学なのかと思っていましたよ!』

 

「失礼だな!? 受験勉強したんだよ、これでも!」

 

 

 このサポートAI、どんどん口が悪くなっているような気がする。

 

 

「ちなみに初心者にはどれがオススメなの?」

 

『やはり初期装備が強力な<タンク>でしょうね。<ガンナー>はできることが多いのですが、序盤は無課金だとなかなか強力な武器が手に入らないので。

 

 それに<タンク>はやることが明確ですから、戦場で熟練者に従って動いていればまずチームの勝利に貢献できますよ』

 

「<フライト>は?」

 

『やめたほうがいいです。<フライト>はちょっと運用の幅が広すぎますし、何より操縦がピーキー。さらに都市戦ともなると、初心者が敵を倒すのは至難の業です。

 指揮官もなかなかうまく指示を出すのは難しいですからね。

 チームに貢献することは難しいと言えるでしょう』

 

 

 なるほど、とスノウは頷いた。

 

 

「<フライト>にしよう」

 

『人の話聞いてましたぁ!?』

 

 


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