七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第46話 お嬢様型チンパンジー

「恋様、押されておりますわ!」

 

「エースが強いですわ! 大人気ない奴らですわ!」

 

「どうしましょう、勝てそうもないですわ!」

 

「マジでおF【この単語は表示できません】ですわ!!」

 

 

 【白百合の会】と【俺がマドリード!!】が激突した最前線では、【白百合の会】のクランメンバーのお嬢様たちが悲鳴を上げていた。

 【白百合の会】とて決して弱小クランというわけではない。

 大手クランを名のるだけの装備を備えているはずだったが、【俺がマドリード!!】に一時編入されたエースプレイヤーの質は彼女らを上回っている。

 

 同程度の装備を備えたアマチュアとプロなら、プロの方が勝るのは自明の理である。【俺がマドリード!!】のプレイヤーはまさに企業間闘争を勝ち抜いてきた、ゲームという名の戦争のプロなのだから。

 

 恋は自分たちの実力不足に歯噛みしながら、その現実を受け入れる。

 

 

「耐えてください、皆様! 基本を忘れてはいけませんわ! タンクで反撃! ガンナーはタンクを守って防衛網を構築です! 私たちの戦術は守って勝つことにあるのですから」

 

「でも恋様、これではジリ貧ですわ!」

 

「待ってください、貧乏って言葉は私たちにふさわしくありませんわ。縁起悪いですわ!」

 

「クソくらえですわよッ!! じゃあ徐々に不利ですわ!!」

 

 

 貧乏はダメでクソくらえはいいのか。

 

 

「大丈夫ですわ、今は耐えるのです! 待てば海路の日和ありですわ!」

 

 

 恋の言葉に、お嬢様たちが顔を見合わせる。

 

 

「カイロってなんですの?」

 

「冬に使うあったかいアレではなくて?」

 

「わたくし知っておりますわ。エジプトの首都でしてよ」

 

「エジプトがどう関係してくるのかしら?」

 

「かつてモーセという人がエジプトでやべーヤマに関わってとんずらぶっこくときに、海を割ってそこから逃げたのですわ! 聖書にもそう書いてありますの!」

 

「まあ! さすがお詳しいですわ! インテリジェンスの誉れ高き香りを感じますわ!」

 

「えっへんですわ」

 

 

 インテリジェンスの欠片も感じないお嬢様たちってアホさが際立つなあ。

 

 恋はそこに突っ込むのはあえてスルー。

 

 

「強力な助っ人を用意していますの! 耐えていればきっと逆転できますわ!」

 

「まあっ! さすがは恋様!」

 

「でもその助っ人というのは、敵のエースプレイヤーを蹴散らせるほどなのですかしら……?」

 

「それは……」

 

 

 恋が口を開いたとき、敵の背後で連続して爆炎が上がった。

 それと同時に敵の傭兵部隊に動揺が広がり、慌てて背後を振りむこうとする敵機体が続出する。それをリーダー機が制止しているようで、敵軍は軽い混乱状態に陥った。

 

 恋は高貴な顔立ちににんまりと笑みを浮かべる。

 

 

「キタキタキタキタキタッ!!! きましたわ、援軍です!! 今が好機ですわッ! みなさん、逆撃ですッ!! 一気呵成に攻めかかりますわよっ!」

 

「恋様! いっきかせーってなんですか!」

 

「つまりぶっ殺せってことですわァァーーッ!!!」

 

 

 それを聞いたお嬢様たちは、顔を見合わせて歓喜と共に腕を振り上げた。

 

 

「「ヒャッハーーーですわァァッ!!」」

 

 

 お嬢様かと思ったらチンパンジーであったか。

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

 【俺がマドリード!!】の傭兵部隊の背面を突いて襲い掛かったスノウは、まず初手として抱えていたボムを高高度からありったけ投下。

 ここぞという場面で使うために貯蔵されていた高火力ボムは、本来の持ち主であった傭兵部隊に対してその威力を余すところなく発揮した。

 

 突然巻き起こった爆炎によって10騎ほどが消し飛び、混乱する傭兵部隊。さらにスノウは高度を落とすと、“レッドガロン”にて爆撃を続行する。

 

 

「イイイィィィヤッホオオオオオオゥ!!!」

 

 

 水平方向には弾速が遅すぎて使い勝手の悪い“レッドガロン”だが、上空からの爆撃として使用するならば話は別だ。

 人間は真上から降り注ぐ攻撃を正確に回避できるようには生まれついていない。予想外の爆発半径の広さもあって、不意打ちで繰り出されるこの攻撃を回避するのは至難の業。さらに数騎の傭兵たちが爆風に飲まれていく。

 

 

『相変わらず“レッドガロン”は対地攻撃に使うとてきめんに効きますね!』

 

「そりゃそうさ、バーニーも多分こうやって使うこと前提で渡してるんだから!」

 

 

 ここに至ってようやく背面方向の上空から攻撃されていることに気付いた傭兵部隊が、シャインを迎撃しようと武器を構える。

 

 

「げえっ! シャインだッッ!! 撃て! 撃墜しろッッ!!」

 

「バカ、何言ってんだ! お嬢様たちと接敵してる最中だぞ! たった1騎の敵なんてほっとけ、正面に集中しろ!」

 

 

 しかしそこでスノウの危険さを知る傭兵と、知らない傭兵の間で危機感のすれ違いが発生する。

 

 

「そっちこそ何言ってやがる、シャインの方が明らかにやべえんだよ!! あいつを放置してたら負けるわッ!!」

 

「許可できない!」

 

「見てわからねえのか、もう10騎以上やられたんだぞ!? せめて部隊を半分に分けさせろ!」

 

「駄目だ! そんなことすれば物量で押し負けるぞ!」

 

「クソがッ! 一転して袋のネズミじゃねえかッ!!」

 

 

 その傭兵の言う通り、彼らは前門にお嬢様、後門にシャインという包囲網に追い込まれてしまっていた。お嬢様たちは物量で、シャインは高高度爆撃で攻めかかる。

 そのチャンスを見逃すようなスノウではない。

 

 

「“レッドガロン”だけじゃ撃墜数稼ぎすぎちゃうからな……!」

 

 

 そう言って取り出したのは、先ほどトランスポーターから奪い取ってきたロケット砲だ。

 高威力だが無誘導で連射も効かないため、敵拠点などの動かない対象やレイドボスなどの巨大な敵に使われることが多い実弾兵器である。

 

 しかし高高度からの対地攻撃と、敵が混乱して身動きとれないという条件、抜群のエイム力があれば話は別だ。さらに今のシャインには実弾兵器に限り、それの有用性をより引き上げられる能力が備わっている。

 

 

「唸れ“アンチグラビティ”! 射的ゲームの開催だっ!!」

 

 

 シャインの背面の銀翼がひときわ白く輝き、ロケット砲へと光を伝播させる。

 機体を支える“重力操作”が武器に干渉し、射出されるロケット弾がその効果を受けて眼下の敵部隊へと降り注いだ。

 

 ドン!! ドン! ドン!!! ドン!! ドン! ドン!!!

 

 

「くそっ! 俺らが持ってきたロケット弾じゃねえか!!」

 

「避けろ! 所詮無誘導だ、スペックデータを参照すればオートパイロットで回避でき……ぐああああああああああっ!?」

 

「なんだ!? 弾速に差があるぞ!! スペックと違う、オートパイロットでの回避ができん!! くそっ、目視で避けろ!!」

 

「頭上からの攻撃を見て避けろだって? 無理をおっしゃる……!!」

 

 

 重力操作を受けたロケット弾は、弾によって落下速度に差が付けられていた。

 それがデータとの齟齬を生み出し、オートパイロットでの回避を阻害する。

 降り注ぐロケットの雨が、傭兵たちを着実に全滅へと導いていた。

 

 

「傭兵なんかに負けてはいられませんわ! 私たちの強さを見せてやりましょう!」

 

「お嬢様と見て侮ったことを後悔するのですわ!」

 

 

 さらに前面から調子付いたお嬢様たちの逆襲が加えられる。

 チンパンの本性を見せるお嬢様たちのタンク部隊は、火力に関して言えば申し分ない。何しろマネーパワーを背景に揃えた武器は折り紙付きだ。

 

 彼女たちに足りないのはエイム力と回避力、そして逆境に追い込まれたときの踏ん張りであり、逆に言えば有利な状況に持ち込めばそのポテンシャルを100%発揮できる。

 そう、彼女たちは守りの態勢で受け止めて、フルパワーで殴り返すタイプの令嬢たちなのだ!

 

 

「マネーパワーでボッコボコにしてやりますわ!」

 

「令嬢マッスルですわ!!」

 

「ウホ! ウホホ!! ですわーーー!!」

 

 

 歯を剥き出しにしてドラミングしてる奴までいるんだけどお嬢様という概念にケンカ売ってるんですかね?

 

 傭兵部隊にとってこの状況で最善の選択肢は、全力で後退して後詰めに控えるサッカーゴッドの本隊と合流することであっただろう。実際、傭兵部隊のリーダーもその選択肢を取るべきかどうかで悩んでいた。

 

 しかしその選択を選べなかった理由は、彼らがあくまでもサッカーゴッドの父親が経営する企業のサラリーマンであったという一点に尽きる。

 

 彼らは身命を賭してドラ息子のために血路を開けという命令を与えられていた。後退してサッカーゴッドの本隊に合流してしまうと、彼を危機に晒してしまう。それでは会社の命令に違反することになる。

 さらに曲がりなりにもゲームで飯を食っているプロゲーマーとしてのプライドが、みっともなく年下のお坊ちゃんにすがりつくことを拒絶した。

 

 それが彼らの命運を分けたと言っていい。

 

 

「隊長! 後退しましょう! この状況は不利です!!」

 

「いいや、死守だッ! ここで踏ん張って、1騎でも多く撃墜しろ! 坊ちゃんに極力負担をかけるなッッ!!」

 

「は!? 正気ですか……!?」

 

「狂ってるに決まってんだろ。そもそもガキどもの惚れた腫れたにいい大人が振り回されてる時点でどうかしとるわ」

 

 

 隊長は苦い表情を浮かべながら、口の端を歪めて笑った。

 

 

「だがいくら命令が狂っていようと、俺らはサラリーマンだからな。会社がそうしろというのなら遵守せねばならん。……もう陣形も維持できんな。ならば陣形は自由! やりたいように戦い、1騎でも多く道連れにして死ねッ!!」

 

「「了解ッ!!」」

 

 

 自由命令(好きにやれ)

 傭兵たちのうち、特にエースプレイヤーと名高い者たちはそれを聞くや否や飛翔し、頭上のシャイン目掛けて殺到する。

 

 HUDに表示される彼らの機体についたエースマークを見たスノウは、ちろりと唇の端から舌を出して操縦桿を握りしめた。

 

 

「フフッ、釣れた釣れた! 一番美味しい連中をお嬢様たちに譲るなんてもったいないことできないよねっ!」

 

『殺気をガンガンに向けられて、よくそんな呑気なこと言えますね……』

 

 

 そんな2人に向けて、まさに殺意の塊となったエースたちの言葉が叩き付けられる。

 

 

「スノウライトッッッ!! よくも頭の上から好き放題やってくれやがったな!!」

 

「ここで遭ったが百年目だ!! 俺の顔を忘れたとは言わさねえぞ!!」

 

「私の武器をロストした怨み、ここで晴らさせてもらおう!! 大会の褒章で得た記念品を消滅せしめたこと、けして忘れんぞ!」

 

 

 押しも押されもしない、大企業所属のエースプレイヤーたち。

 そんな彼らの機体を見たスノウが、こきゅ? と小首を傾げた。

 

 

「んー? 忘れたとは言わせない……というかそもそも覚えてすらないんだよね。誰だっけ?」

 

「「ああん!?」」

 

 

 彼らの殺意がさらに純度を増した。

 そんなエースプレイヤーたちに、シャインはへらへらと大人をバカにしきった笑みを浮かべる。

 

 

「悪いけど、キミら程度のプレイヤーなんて何度も戦いすぎて記憶に残ってもいないんだよ。十把一絡げの雑魚が思い上がらないでほしいなー?」

 

「ふ、ふざけやがって! †猫テイマー†だッ!! 俺を倒したあと、動画に挙げて晒し者にしやがって!! おかげで人事部に目を付けられて、減俸喰らったんだぞッッ!! 責任取れッッ!!」

 

「ブラー伯爵だッ!! キサマのインチキ臭いムーブを真似たせいで、俺は負けがかさんで1軍を降ろされたんだッッ……!! キサマを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? キサマが皆をこんなウラ技で騙し、勝率を破壊したからです! 覚悟の準備をしておいてくださいッッ!!」

 

「私はゴッスン釘だッ!! 私の思い出が詰まった武器を返せっ!!」

 

 

 スノウはにっこりと微笑み返す。

 

 

「ごめん、覚えてない♥」

 

「「「貴様アアアアアアアアアアアッ!!!」」」

 

 

 メスガキに煽られ、ヒートアップするエースたち。

 彼らを怒らせるだけ怒らせ、ミスを誘うもよし、怒りのあまりポテンシャルを発揮させるもよし。どちらに転んでもスノウにとっては美味しい展開だ。

 

 

「ところで聞きたかったんだけど、腕を一生懸命磨いた結果あんなチャラ男にいいように顎で使われるってどんな気持ち?」

 

「………………」

 

「来る日も来る日もシコシコと頑張って腕を磨いて、行きつく先が苦労知らずのボンボンのお守りなんてカワイソー♥ ボク子供だからわかんないけど、オトナって大変なんだねえ。せいぜい同情してあげるー♥」

 

「「「マ……マジでわからせてやる、このメスガキ……!!」」」

 

 

 一番触れてほしくないところに遠慮なく触れられて殺意に燃える彼らを見ながら、ディミは呟いた。

 

 

『ところで真ん中の人、自業自得じゃないです?』

 

 

 恐ろしく冷静な判断力、地の文じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 


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