七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第69話 フォックス&ハウンド

 音速で峡谷内を飛行するストライカーフレーム“天狐盛(てんこも)り”。

 まるで巫女装束を着たキツネ耳の少女のようにも見えるその尻尾部分のワイヤーパーツに、ブラックハウルが大顎を開けて噛みついていた。

 

 

「俺を出し抜いたと思ったか? 逃がしゃしねえぞシャインッ!!」

 

『な、なんてしつこい……!』

 

「いやいやいや……もうさすがに今日は十分堪能したから、降りてくれない?」

 

 

 呆れ返った調子でスノウが通信ウィンドウに言うと、アッシュががるるっと犬歯を剥き出しにした。

 

 

「ざっけんな、テメエが十分だろうが俺は全然()りたりな……」

 

 

 叫び返そうとするアッシュが、じっとスノウの顔を見つめる。

 まじまじとこちらを見てくるアッシュに、スノウが怪訝な顔をした。

 

 

「お前、その耳……」

 

「あ、これ? なんかF・C・Sのおまけでついてきた」

 

 

 そう言いながら、スノウがキツネ耳をぴこぴこと跳ねさせる。

 触れもしないのにぴこっとする自然な動きに、アッシュが顔を赤らめさせながら鼻を抑えた。

 

 

「くそっ……! なんだそれ、可愛いな……! シャインのくせに生意気な!」

 

「何言ってんの? ボクはいつでも世界一カワイイですけど。ま、このキツネ耳によってただでさえ無敵なボクの可愛さが、さらに引き立っている感は否定しないけどねっ!!」

 

「お待ちいただきたい、F・C・Sのおまけではありませんぞ! むしろこちらが本題ですな!!」

 

『何言ってんだこいつら……』

 

 

 萌えるアホとナルシストなメスガキとマッドエンジニアなチンパンで3種のアホが集まってしまい、ディミは思わず白目を剥いた。

 

 

「くっ! 俺はこんなケモミミなんかに騙されねえぞ!!」

 

 

 アッシュは頭をぶんぶん振り、スノウに食って掛かる。

 

 

「シャイン! 俺との決着を付けろッ!!」

 

「ああもう、くどいなあ! さすがにそのしつこさには飽き飽きしてきたぞ! 何度も何度も出てきて、夏場のGかキミは!?」

 

「は!? お前言っていいことと悪いことがあんだろうが! さすがに傷付くぞ!!」

 

「えっ……ご、ごめん?」

 

 

 いつもの調子で煽ったらマジトーンでキレ返され、怯むスノウ。

 しかしすぐに怯んでる場合じゃないと考え直す。

 

 

「じゃなくて! アッシュ、降りろよ! そこに噛みつかれたらバランス取りにくいんだけど?」

 

「うるせえッ! てめえの都合なんざ知るかぁッ!!」

 

「あーそうかい! 降りないって言うなら力づくで降ろすけどね!」

 

 

 そう言いながらスノウはシャインを峡谷の壁面に近付け、ブラックハウルを壁面に叩き付けようとする。

 音速で飛びながら壁に叩き付けられれば、大根おろしのようにガリガリと装甲が削られるであろうことは言うまでもない。装甲と壁面がわずかに擦れ、音を立てて火花が飛び散る。

 

 

「うおおおおおおおおおおお!? チュンってゆった、チュンってゆったあぁぁあ!?」

 

「うーん、うまいことぶつけられないなあ……。ディミ、ボクは飛ばすので精いっぱいだからちょっと尻尾を操作して壁にぶつけてくれる?」

 

『人になんてこと頼むんですか、あなたは……!?』

 

「ミサイルのスイッチは押せて、他人を壁にぶつけることはできないっていうの? 1騎すり潰すより100騎撃ち墜とす方が被害でかいじゃん、今更だろ!」

 

『グロさが違うでしょ、考えてみてくださいよ! サイコパスか!?』

 

「ってお前ら口喧嘩してる場合か! 前見ろ、前ーーーーーッ!!」

 

「『へっ?』」

 

 

 アッシュの叫びに、スノウは口喧嘩を止めて前を向き直す。

 峡谷内に陸橋のように天井が低くなっている部分が、凄まじい速度で迫ってきていた。

 

 

「うわああああああああっ!?」

 

 

 スノウは慌てて機首を下げる。

 キツネ耳部分が危うく擦れかけたが、なんとか無事だったようだ。

 

 

『ひえええええっ! チュンってゆった! チュンってゆったぁぁ!?』

 

「こ、こっわぁ……。そっか、天井はマップには表示されてないのか……」

 

 

 平面で表示されたマップには曲がりくねった道は表示されても、高さまでは表示されていなかった。少し意識を逸らした結果がこのピンチである。

 

 危ういところで激突を免れ、スノウとディミとアッシュはほーっと安堵の息を吐いた。バクバクと暴れる心臓を、スノウは左手でパイロットスーツの上から撫でてなだめる。

 アッシュはそんなスノウに、がるると声を荒げた。

 

 

「バカ! バカバカバカバカ!! ちゃんと気合入れて運転しろよ、ぶつかったらどうすんだ!?」

 

「あー、ごめんごめん」

 

「安全第一だぞ! 少しでも注意怠ったら死ぬんだからなこんなの!」

 

「アッシュってなんか、バイク好きそうなわりにまともなこと言うね」

 

「お前、バイク乗りをなんだと思ってんだ? 言っておくけどな、バイカーが全員“族”だとかチキンレース好きそうだとか思うなよ。世の中純粋にバイクが好きだって人間の方が多いんだからな」

 

『何の話ですか……』

 

 

 さすがに今のピンチで気を抜いたらまずいと感じたスノウは、アッシュを振り落とそうとするのをやめて運転に集中する。

 アッシュも暴れずに、“天狐盛り”の尻尾に噛みついたままぶら下がり続けていた。むしろここで暴れたらスノウ諸共に峡谷に衝突してしまう。

 

 

「くそっ、手が出せねえ……! こんな状況じゃなきゃ今度こそ決着をつけるのに!」

 

「何言ってんの? ストライカーフレームで【氷獄狼(フェンリル)】100騎墜とした時点でもうボクの勝ちでしょ。勝利条件どこに設定してんのさキミは」

 

「あん……!?」

 

「そもそもこのストライカーフレームが墜ちたら、キミたちの横殴りの計画もおじゃんになるわけだけど? もうキミとボクが戦うフェイズは終わってるんだよ」

 

 

 スノウの言葉に、アッシュはぽかんとした顔になった。

 彼女の言うとおりである。

 

 そもそも【氷獄狼】はウィドウメイカーと戦う【騎士猿】に横殴りするために拠点を制圧しようとしていた。だからアッシュはそれを阻もうとする【騎士猿】の防衛部隊に混じっていたスノウを倒そうとした。そこまではいい。

 

 スノウがストライカーフレームに搭乗するのを見たアッシュは、逃がすまいとする一心でその尻尾に噛みついた。気配を殺して必死に追跡しようとするその執念は褒められてもいいだろう。いやはやあの瞬間沸騰バカが成長したもんだ。

 

 だが問題は、()()()()()()()という話である。

 【氷獄狼】としては【騎士猿(ナイトオブエイプ)】の拠点を制圧してから、その後峡谷の奥の巣にいるレイドボスを集団で横殴りしなくてはならなかったわけで、スノウを倒すことは作戦の最終目的とはまったく関係ない。

 いや、それどころかストライカーフレームに乗ったスノウを撃墜してしまってはレイドボスに勝てなくなるかもしれないわけで、そうなってしまえば横殴りも何もない。

 

 それでも一応【騎士猿】の邪魔はできるが、スカルとアッシュの目的は寡占技術を手に入れて【トリニティ】に対抗できる地位を手に入れることにある。今回に限っては【騎士猿】の邪魔をすることよりも優先すべき事情があるのだ。

 

 

「……ほ、本当だ……! もうシャインと戦う理由がねえ……!?」

 

 

 スノウが言わんとしていることを理解して、愕然とした顔になるアッシュ。

 しかもスノウへの執着で頭がいっぱいになってつい噛みついたはいいものの、このままレイドボスの前まで運ばれたとして、さて無事でいられるだろうか。

 

 1軍はレイドボスの相手をしているものの、峡谷側から押し寄せる子蜘蛛や【氷獄狼】を排除するための後詰めはいるのだ。そんなところに単身手負いの状況でお届けされては、いくら何でも多勢に無勢である。

 いくらアッシュでも、その状況が読めないほど狂犬というわけではなかった。

 

 真っ青になって言葉を失うアッシュを見ながら、スノウはため息を吐く。

 

 

「ちょっと見直したのに、所詮は頭アッシュだったか」

 

『この人、本当に何も考えずに噛みついてきたんですねえ……』

 

「う、うるせえッ! 俺は今度こそお前と決着を付けたかっただけだッ!」

 

「もうついてるんだよねー。はいはい、ボクの勝ちボクの勝ち」

 

「アアッ!?」

 

 

 煽るスノウに、アッシュの瞳に危険な色が宿る。

 

 

「なんなら今ここで()るかッ!? 諸共に壁にぶつかってもいいんだぞ俺は!!」

 

「はー? できもしないことで脅しになるわけないんですけど?」

 

「できるかできねえか、やってみせたろうじゃねえかッ!!」

 

『き、騎士様煽らないで! ハイジャック犯みたいなものですよこの人!!』

 

 

 あわあわと割って入るディミ。

 その言葉に、スノウは顔をしかめる。言わなけりゃ自分の立場に気付かせずに済んだのに。

 ディミの言葉で、自分が取引できる立場にいることを知ったアッシュはニヤリと笑う。

 

 

「なるほど。俺がここで自殺覚悟で暴れてストライカーフレームが壊されちゃ、そっちも困るよな」

 

「はぁ……。見ろ、ディミが余計なこと口走るから調子に乗り始めたよ」

 

『私のせいですか!? そもそも騎士様が煽ったんですよね!?』

 

 

 でも実際に余計なこと言ったのはディミちゃんだよね。

 

 スノウはディミに言い返すことはせず、1号氏に問いかけた。

 

 

「ねえ、この尻尾って分離(パージ)できないの? 今すぐアッシュごと捨てたいんだけど」

 

「本気で容赦ないなお前!?」

 

「んんんー……残念ですが、そんな機能はありませんぞー。パージできるのは“バスターランドセル”とレーザーキャノンだけですな。あとはストライカーフレーム丸ごとパージするほかありません」

 

 

 1号氏の言葉に、アッシュはほっと胸を撫で下ろす。

 できたら秒も考えることなく即座に実行していただろう。

 

 

「じゃあ別の手段で切断するしかないか……。なんとかシャインだけ動かせないかな? 高振動ブレードなら尻尾も切れるだろうし」

 

「わああああああっ!? やめろやめろ!!」

 

「やめる理由もないんだよなあ。邪魔者は排除しなきゃ……」

 

 

 ほら、こんな物騒なこと呟いてるし。

 スノウの目に本気を感じ取ったアッシュは、あわあわと両手を胸の前で振る。いや、まあ本気どころかこのメスガキは常に狂気しかないんだが。

 

 

「わ、わかった! じゃあ協力する! 俺もレイドボス狩りに付き合う、それなら邪魔じゃないだろ!!」

 

 

 そう言って命乞いするアッシュに、スノウは呆れたようにため息をついた。

 

 

「いや、邪魔だろ何言ってんの? 要するに横殴りじゃんか」

 

「横殴りってのは1発殴ってトンズラこくことを言うんだよ! ちゃんと最後まで付き合ってやらぁ、助っ人として参戦するならいいだろ!」

 

「全然良くないでしょ。それじゃ【氷獄狼】も技術ツリー解放できちゃうじゃない。そんなの認めるわけないんだよね」

 

 

 スノウがそう鼻で笑うと、アッシュがギラリと目を光らせながら機体のバーニアを噴かせる。

 

 

「なら俺と一緒に壁にぶつかって死ねぇぇぇぇぇッッ!!」

 

「うわーーーーーっ!? やめろ、尻尾を揺さぶったらバランス取れないだろ!!」

 

 

“天狐盛り”が姿勢を崩し、音速で飛翔しながら危うく地面に突っ込みかける。

 それをなんとか持ち直しながら、スノウが悲鳴を上げた。

 

 

『な、何がやりたいんですかこの人……』

 

 

 もはやアッシュが何がやりたいのか傍目には意味不明だが、彼の申し出にはそれなりの理由がある。

 アッシュ的には、何が何でもレイドボスから寡占技術を持ち帰りたい。寡占技術を手にすることで、【トリニティ】に傾倒しようとするヘドバンマニアを止められると信じているのだ。だから彼はここで排除されるわけにはいかない。

 横殴りでも正式な協力でもなんでもいいから、とにかくレイドボスと戦って勝利を収めなくてはならないのだ。

 

 だがそんな勝ち馬にただ乗りするような真似を、【騎士猿】が許す道理がない。

 

 

「ふむぅ……」

 

 

 しかし1号氏は、唸り声をあげて顎をさすった。

 

 

「その申し出、一考してもよいかもしれませんな」

 

「えー? こんなムシがいい話に乗るの? ライバルに技術渡したくないって言ってたじゃん」

 

 

 スノウが口を尖らせるが、1号氏はちらりと画面の外に目を向けて苦笑いした。

 

「実のところ、想定より少々戦況が悪いのですよ」

 

「イッチ! 何言ってん、ウチらまだ全然いけるしっ!! そんな態度悪いアホ狼の手なんて借りなくたって……ってうわああっ!?」

 

 

 通信に割り込んで文句を言おうとしたショコラの姿勢が急激に崩れる。画面の向こうで起きている子蜘蛛との戦闘は、かなり緊迫した状況を迎えているようだ。

 

 

「ショコラ!」

 

「手を出すなネメっち! スナイパーは隠れるのも仕事っしょ! 大丈夫、ウチらはまだやれるから! ……クソッ、キモいんだよクモどもがぁ!!」

 

「……というわけでして」

 

 

 1号氏は続ける。

 

 

「【氷獄狼】からエースを借りられるのなら、それも悪くないかもしれません」

 

「いいの? 寡占技術じゃなくなるよ」

 

 

 スノウの問いに、1号氏は眼鏡をキランと光らせつつ口の端を歪めた。

 

 

「ウィドウメイカーを倒して技術ツリーの解放権を得たところで、実際に解放するには素材が必要です。そして素材の入手は人数割りですからね」

 

 

 アッシュ1騎が参戦しても、得られる素材は少ない。

 素材が足りなくて【氷獄狼】がすぐにツリーを解放できないなら、【騎士猿】の優位は当面の間守られるというわけだ。

 1号氏の言わんとすることを理解しながらも、アッシュは頷いた。

 

 

「わかった、その条件でいい。スカル、聞こえてるな?」

 

「ああ、聞いてる。アッシュについてはそれでいい、存分に暴れてきな」

 

 

 アッシュが横流しした通信を傍受していたスカルが、会話に割り込む。

 

 

「だが俺らについては別だ。参戦するのがアッシュだけとは約束できんぞ。せっかくこうして拠点にもタッチできたんだからよ」

 

 

 そう言って凄むドクロ頭の男に1号氏は涼しい笑みを返した。

 

 

「まあそうでしょうなあ。私でもそう言います。まあ、貴方がたがいらっしゃるのは自由ですよ。こちらもアッシュ氏以外は迎撃させていただきますので」

 

「チッ……相変わらず食えないヤツだ」

 

「ははは。お互い様というものです」

 

 

 にらみ合いながらもどこか通じる部分があるのか、ライバルクランの首脳部同士にしては棘が少ない気がする。

 もしかしたらお互いにスパイを送り合っているのは、この2人の同意があってのことじゃないのかな……とスノウは思った。

 

 まあ今はそんなことはどうでもいい。雇われたクランの事情など自分には関係ない。関係があるのはただひとつだけ。

 

 

「まさか共闘になるとはね。足を引っ張らないでよ」

 

「誰に言ってんだテメェ!? そっちが後輩だぞ、先輩を敬えや!!」

 

 

 言い争いながら飛翔するストライカーフレームの往く手にそびえるは、黒鋼の壁。どこから現れたものやら、凄まじい硬度をもつその壁は鋼鉄の門のようだ。

 だがそれをよく凝視したならば、決して鋼鉄だとは思うまい。

 スノウの網膜には、それは真っ赤な敵性反応の密集として映る。

 そう。それは鋼鉄の子蜘蛛が集まって築いたバリケードだ。

 

 いくら正面から飛びついても、機雷として設置しても、すべてミサイルによって撃墜されてしまうことを学習した子蜘蛛たち。

 いよいよ親蜘蛛の元へと近付く天敵への対抗策として彼らが考えたのは、数千匹にも及ぶ彼らが束となって分厚い壁となること。ミサイルでも決して破れはすまい。音速で飛翔するあの巨大な機体は、黒鋼の壁にぶつかって自滅する。

 よしんば破られかけたとしても、そのときは自分たちが飛びついて破壊すればいい。

 

 

「はぁ? お互い前作やってるからタメでしょ。まさか自分の方が年上(オトナ)だから敬えなんて言ってるわけじゃないよねぇ、よわよわ大人お兄ちゃん♥」

 

「誰がよわよわだぁ? 実力をわからせてやらぁ、クソガキが!」

 

「へぇ~? じゃあ楽しみにさせてもらおうかなぁ~!」

 

「後悔すんじゃねえぞダボがッ!!」

 

 

 口汚く煽り合いながら、音速で飛翔する“天狐盛り”とブラックハウル。

 スノウは網膜に表示される無数の敵を瞬時にロックオンして、ランドセルからのマイクロミサイルを発射準備。

 アッシュは“天狐盛り”の尻尾に齧り付きながら、右手にアサルトライフル、左手にマシンガンを構える。

 

 

「準備はいいんだろうね、アッシュ!」

 

「待ちかねてるぜ! とっととやれよ、シャイン!」

 

「OK! パーティタイムだッッ!!」

 

 

 瞬間、“天狐盛り”がバーニアをフル稼働させて空中で急ブレーキ! 急激に速度を落としながら、ランドセルから発射されたマイクロミサイルが雨あられと……いや、まるですさまじい水圧がかかった鉄砲水のごとく黒鋼の壁の一点へと降り注ぐ!

 VRでなければ確実にGで意識を失う動き。それでもロケットブースターで音速に達した速度は殺しきれずに、前へ前へと黒鋼の壁に向けて進んでいく。

 

 だがいかに分厚く広く壁を作ったとしても、その壁を形成する子蜘蛛すべてを倒さなくてはいけないわけではない。水平方向に前傾したストライカーフレームが通れる点だけを開けば十分なのだ。

 そしてスノウの集中力ならば、その点となる部分だけを一点突破してミサイルをぶつけられる!

 

 

「いっけえええええええええええええええッ!!!」

 

 

 マイクロミサイルの鉄砲水が黒鋼の壁の一点をブチ破る!

 だが速度が落ちたのが子蜘蛛たちにとっては幸い。音速で飛翔するならいざ知らず、速度さえ落ちれば自分たちでも十分飛びつける。そして殺せるッ!

 

 

『KYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!』

 

 

 無数の子蜘蛛が高速回転しながら“天狐盛り”に飛びかかる。

 

 

「尻尾ってのはこのために使うんだったよね! ディミ!」

 

『わかってますよ! 相手が人間じゃないなら容赦なんかしませんとも!』

 

 

 “天狐盛り”の尻尾型ワイヤーが持ち上げられ、降り注ぐ子蜘蛛の群れを薙ぎ払う。急制動とミサイルで手いっぱいのスノウに代わってその尻尾を操るのはディミだ。

 

 だが子蜘蛛たちも諦めない。黒鋼の壁を通るとき、一気に上から降り注いで制圧するつもりだ。さすがのあのストライカーフレームも、頭上からの攻撃には無防備なはず。タイミングを合わせて一気にかかれば、今度こそ……!

 

 3・2・1……ゼロ!!

 

 

「させねえよ」

 

 

 尻尾に噛みついたままのブラックハウルが、降り注ぐ子蜘蛛に向けて両手の銃をぶっぱなした。凄まじい勢いで飛び出る銃弾、その一発一発が子蜘蛛に命中して爆散させる。その威力は必殺! 何故なら、その武器は!

 

 

「このクソガキをぶっ殺すための天井課金SSR武器だ! てめえらにゃちともったいねえが、ありがたく喰らいやがれやァァァァァッ!!!」

 

『GYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!?』

 

 

 ピンポイントで空いた穴を抜けて、“天狐盛り”とブラックハウルが黒鋼の壁を突破する。

 

 

「おっと! 追い掛けられたら面倒だ! お釣りはいらないよっ」

 

 

 そして“天狐盛り”が振り向いて、マイクロミサイルを全弾発射!

 何しろ数千匹にも及ぶ包囲網。これが彼らの乾坤一擲(けんこんいってき)の策となれば、ここで撃ち尽くしたって構わない。

 

 

「「『ヒャッハアアアアアアアアアアアアッ!!』」」

 

 

 真っ赤に燃える子蜘蛛の山を背に、3人は再び音速で峡谷を駆ける。

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