七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第72話 計算よりも大切なもの

「シャイン殿ーーーーッ!!」

 

 

 自律兵器の集中砲火に晒される“天狐盛(てんこも)り”を見て、叫びを上げる1号氏。

 

 

「わかってるよ、そりゃそうするよね!!」

 

 

 しかしスノウにとってはそれは予測済みのこと。いや、勝つつもりがあるなら絶対にそうするだろうと考えていた。

 【騎士猿(ナイトオブエイプ)】にとっての切り札となる“天狐盛り”さえ沈めてしまえば、しょせんは非力な人間に過ぎない。いつもどおり狩りとって終わりだ。

 

 なめるなよ、とスノウは唇を歪めた。

 ……どっちが狩られる側か教えてやる。

 

 

「どっちが狩人として秀でているのか、本気の勝負といこうか!」

 

 

 そう叫ぶと、スノウは前方……つまりウィドウメイカーに向けてフルスロットル! 巨体に見合わない敏捷さで突っ込んでいく残像を追って火線が轟き、そしてある一点で戸惑ったようにその攻撃が鈍る。

 兵器群にとりついた子蜘蛛たちが、母体であるウィドウメイカーへの誤射をためらっているのだ。

 

 

「随分と親孝行な子供を持ってるじゃん、ママ冥利に尽きるだろ!」

 

 

 そのままスノウはウィドウメイカーの背中に向かって突っ込む。

 スノウの考えた戦略は、非常にシンプルなもの。遠距離攻撃はダメ、ミサイルもネットで阻まれて通じない。となれば、接近戦に持ち込むしかない。

 背中に空いた弱点に向かって、至近距離からのヘビーガトリングをありったけブチ込んで無理やりHPを減らす!

 

 だがそんなシンプルな行動を、ウィドウメイカーが読んでいないはずもない。このゲームの敵AIは、最低でも人間と同程度の知能を持つ。

 “天狐盛り”に接近されたウィドウメイカーは巣の上を跳躍。“天狐盛り”の頭上を越えて、反対側へと移動する!

 巨体に見合わない素早いジャンプ、そして着地の衝撃すらも受け止める強靭な蜘蛛糸の性能にスノウは舌を巻いた。

 

 

「……さすがに短絡だったかな?」

 

『き、騎士様! まずいですっ!!』

 

 

 これしか打開策はなかったとはいえ、うかつだった。いや、これしか打開策がなかったからこそ、相手にとっても読みやすい行動と言える。

 すかさず“天狐盛り”に向けて腹を持ち上げたウィドウメイカーが、大量の蜘蛛糸を噴出する!

 強靭な蜘蛛糸に絡め取られ、繭に包まれてしまう“天狐盛り”。

 ウィドウメイカーの8つの瞳が、ギラギラと紅く輝いた。

 

 ――狩り勝負はこちらの勝ちのようだな?

 

 そう言わんばかりに瞳を灯らせ、牙を剥き出しにするウィドウメイカー。

 蜘蛛の狩りの本質は“待ち”。得意分野にうかうかと入ったまぬけなキツネと嘲笑わんばかりに、鎌のように鋭く尖った前脚を持ち上げる。

 あれで貫かればストライカーフレームといえどひとたまりもあるまい。

 

 ウィドウメイカーが前脚を振り下ろすのを、繭のわずかな隙間からスノウは眺める。

 そして唇の端を歪めて、呟いた。

 

 

「蜘蛛の狩りの真髄は確かに“待ち”だ。だけどキツネの真髄は“騙し”。そして……狼の真髄は“群れ”だ」

 

 

 その瞬間、“天狐盛り”を仕留めることに意識を向けていたウィドウメイカーの背中に鋭いダメージが走る。

 

 

「テメエら、俺をのけ者にして狩り勝負なんざしてんじゃねえよッ!!」

 

 

 ウィドウメイカーの背中に忍び寄ったブラックハウルが、その弱点の真上に立って足元へショットガンを連射! 至近距離からの接射を何度も何度もブチかまし、ありったけの弾丸を叩き込む。

 

 

「狩りは狼の十八番だろうがよおおおオオオオッッッ!!」

 

 

 咆哮を上げる魔狼のようにアッシュが猛る。

 たまらず悲鳴を上げたウィドウメイカーが暴れるも、それをロデオのように乗りこなしてしがみつき、攻撃を継続していた。

 

 

「やあアッシュ。狼はむしろ狩人に狩られる側じゃないのかい?」

 

「ハッ! ぐるぐる巻きにされてて何を強がってんだよッ!!」

 

「そりゃそうだ」

 

 

 軽口に牙を剥き出して笑うアッシュに、スノウは笑い返す。

 そして眼下のショコラに向けて声を掛けた。

 

 

「ショコラ! 悪いけどもう一度そのナパーム弾を撃ってくれる? どうせこれも熱で溶けるだろうからさ!」

 

「アンタって自分の機体を燃やさせる趣味でもあんの……?」

 

 

 呆れながらもショコラが再び武器を持ち換え、焼夷弾を“天狐盛り”に向けて撃ち放つ。

 たちまち炎に包まれた“天狐盛り”が、そのパワーを振るって結合が弱くなった繭を引きちぎった。

 

 

「アッシュ、流れ弾に当たるなよ!」

 

「誰に言ってやがる! テメエこそ誤射すんじゃねーぞ!!」

 

 

 ヘビーガトリンガンを全力でぶん回しながら、ウィドウメイカーに向けて“天狐盛り”が突進!

 それを待っていたかのようにアッシュがウィドウメイカーから飛び降り、頭上へと飛翔しながらレーザーガンで弱点の穴を狙撃する。

 そしてアッシュとの入れ替わりで至近距離に到達した“天狐盛り”が、ヘビーガトリングガンを弱点へと接射!

 

 

「『いっけええええええええええええええ!!!』」

 

 

 スノウとディミの叫びが唱和し、ありったけのヘビーガトリングガンを叩き込む!

 

 

「あの2騎だけに手柄を持っていかせるな! 私たちも続けーーーーッ!!」

 

 

 スノウとアッシュに負けじと、ネメシス率いるスナイパー部隊もまたビームライフルを連射して弱点の穴を狙う。残り4騎となったスナイパーだが、2人の働きに発奮して果敢な戦いぶりを見せていた。

 

 

「ンンンwww これは以心伝心、大したものです。シャイン氏とアッシュ氏が最初から同じクランにいれば、無敵のコンビになっていたやもしれません。そうでなくてこちらとしては重畳でしたが……しかしそのコンビを見れないことが、少し残念にも思いますな」

 

 

 自分の機体を囮にしてのアッシュとの連携プレイに、1号氏が感心した声を上げる。

 そんな独り言を通信越しに聞いたアッシュが唇を歪める。

 

 

「ハッ。このガキとコンビだと? 笑わせんなよ。こんなワガママなクソガキのお守りなんかしてられるか」

 

「こっちこそ、こんなよわよわなお兄ちゃんのフォローなんてしたくもないね」

 

「あ!? なんだとこのガキ!?」

 

 

 その瞬間だった。

 弱点を集中攻撃されたウィドウメイカーが、咆哮を挙げてその場で大回転!

 

 

「なっ……!?」

 

 

 猛烈なスピンに“天狐盛り”が振り落とされ、慌てて空中で姿勢を立て直す。

トドメを刺されるのを前にした悪あがきかとその場の誰もが思ったが、ウィドウメイカーは前脚を大きく掲げると尻から無数の鱗粉を撒き散らした。

 

 ……いや、鱗粉ではない。母体と比較して相対的に小さく見えただけだ。

 

 焼き尽くしたはずの無数の子蜘蛛が、数千匹単位で再び出現していた。

 今度は1匹当たり1メートルもない大きさだが、その数が凄まじい。高速回転した空飛ぶノコギリとなり、まるで雲霞の群れのような密度で集まっていた。

 

 

「なるほど、子蜘蛛ですからな。戦闘中に産むことも可能……というわけですか」

 

「は!? 何それ、インチキじゃん!?」

 

 

 1号氏が苦い表情で呟き、ショコラが目を丸くする。

 

 子蜘蛛とはいえ、そのダメージが軽いわけではない。あの数の子蜘蛛に集られれば、ストライカーフレームといえど一瞬で解体されてしまうことだろう。

 そしてウィドウメイカーの奥の手はそれだけではない。

 

 

「おい、見ろ! 子蜘蛛が背中に集まって……修復してる!?」

 

「いや……修復というより、あれは……」

 

 

 子蜘蛛の一部がウィドウメイカーの背中の穴に這い寄り、自らその穴に被さって蜘蛛糸で固着していく。みるみるその数を増し、元通りに……いや、元以上に強固な装甲へと変化していく子蜘蛛たち。

 

 その様相はまるで“同化”。

 自らの身を犠牲にして母体を生かす行為だった。

 見る者がみれば、それは麗しくも献身的な自己犠牲と呼んだだろう。

 

 しかしスノウは眉を寄せて、吐き捨てるように呟いた。

 

 

「気持ち悪い……! 反吐が出そうだ」

 

『……騎士様?』

 

 

 スノウは瞳に怒りを滲ませ、眼下の光景を睨み付ける。

 たとえゲームの中の敵AIの行動だったとしても、彼女にとっては許しがたいものがあった。

 

 

「親のために子に犠牲を要求する? ふざけるなよ」

 

『…………』

 

 

 ついぞなかったスノウの怒りに、ディミは言葉を失う。

 一方、スノウに同意したのはアッシュだ。

 

 

「同感だな。そもそも虫けらがウゾウゾ集まってんのも気に入らねえしよ」

 

「アッシュ……」

 

「ブッ殺してやろうぜ。今度こそな!」

 

 

 通信越しに瞳を交わし、頷き合ったスノウとアッシュは眼下の親蜘蛛に向けて手持ちの武器を斉射する。

 

 しかし……無傷!

 強化された親蜘蛛の装甲は、高威力のヘビーガトリングガンの弾丸も、SSR課金レーザーガンの熱線すらも通さない。

 あまりにも固すぎるガードに、アッシュがなんだそりゃと呟く。

 

 

「いやいやいや、ふざけんなよ……! なんだその防御力!? 倒させる気あんのかオメー!?」

 

「多分まったくないんじゃないかなぁ。ないよね、ディミ?」

 

『ま、まあ本人は倒されるつもりはないかと……』

 

 

 目を逸らしながら、スノウのふかふか耳に顔を埋めるディミちゃんである。

 スノウはため息を吐きながら、苦々しげに無敵の蜘蛛の背中を眺めた。

 

 

「やっぱりもう一度背中に穴を開けないとダメみたいだね」

 

「……どうやってだ? HEAT弾頭のミサイル、まだあるのか?」

 

「もうないよ」

 

「じゃあダメじゃねーか……!」

 

 

 そんなことを言っている間にも、黒い霧と化した子蜘蛛の群れがスノウたちに迫る。

 慌ててその場を離れて飛び回る“天狐盛り”とブラックハウルを、執拗に追跡する子蜘蛛たち。

 逃げ回りながらも手持ちの武器で応戦するが、止まる様子は一切ない。

 あまりにも数が多すぎた。

 

 

「クソッ! 数千匹もいると、ちょっとやそっと落とした程度じゃどうしようもねえ! おいシャイン、そのキツネ耳使ってまとめてロックオンして落とせねえのか!?」

 

「いやーさすがに数が多いかな……。それにロックしたとしても、マイクロミサイルを積んでないしね」

 

「チッ! じゃあ逃げ回るっきゃねーってかよ!」

 

 

 黒い霧の多くは直接痛手を負わされた“天狐盛り”とブラックハウルを狙っているが、一部は【騎士猿】をターゲットしている。

 遊撃部隊もスナイパー部隊も分け隔てなく襲い来る子蜘蛛たちには、ショコラもネメシスも打つ手がない。ただ逃げ惑うしかなかった。

 そんな中、1号氏は入り口付近を固めていた配下に離脱を命ずる。

 

 

「キミたちはここから離れなさい。あの子蜘蛛の攻撃がウィドウメイカーの攻撃だとみなされた場合、定員オーバーする可能性がありますからね」

 

「し、しかし……。定員内であれに勝てるんですか、リーダー!? もはや定員オーバーでも無理やり一斉で攻めて仕留めるべきでは!?」

 

 

 その言葉に、1号氏は苦笑を浮かべる。

 そもそも定員オーバーしても勝つビジョンが見当たらない。

 あまりにもあのレイドボスは強すぎる。無敵の装甲に、反撃不可能な範囲攻撃。クランリーダーとして口にはできないが、正直今回も勝ちの目はないという気がしていた。

 ならばせめて定員内で戦い続け、データを集めるべきだろう。

 

 ……予算が尽きた【騎士猿】の歴史がここで終わるとしても、いつかあのレイドボスを倒してくれる誰かに託すために。

 

 それをいかにマイルドにコーティングして目の前の部下に伝えようかと1号氏が考えていたとき、それを割って峡谷側から黒い影が突っ込んできた。

 

 

「……は!?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!! ロケットブースターを開発してたのは、テメーんとこだけじゃねえぞ1号ッッ!!!」

 

 

 予想外のことに目を丸くする1号氏の“森の賢人(ウッドセージ)”の鼻先を掠めて飛翔するストライカーフレーム。

 いや、それはストライカーフレームと呼ぶのもおこがましい。ただ単に増加装甲にロケットブースターを付けただけの、速く跳べる以外何の能もないエアバイクのような何か。

 

 それに跨って峡谷を飛翔してきたのは、頭蓋骨の頭部をした【氷獄狼(フェンリル)】のシュバリエ……“ヘッドバッシュ”だった。

 

 

「血髑髏スカル、推参だああああああッ!!」

 

「ダメだ、終わった!?」

 

 

 【氷獄狼】が峡谷を抜けてきたことに、頭を抱える1号氏。

 これでもうせめてものデータ取りも何も、プランがめちゃめちゃである。

 

 しかし1号氏は、目の前を横切る彼がたった1騎だけという点に目を疑う。

 

 

「……スカル氏、部下はどうしたんです?」

 

「エアバイクがこれしかなかったんでな! で、1号よぉ! まだ定員には余裕持たせてんだろうなあ!?」

 

「あ、ありますけど……何する気なんですかスカル!?」

 

「決まってんだろうが……!!」

 

 

 スカルはカタカタとアバターの顎を鳴らして笑みを浮かべた。

 

 

「男の花道ってヤツを見せてやろうかと思ってなァッ!!」

 

「……スカル!?」

 

 

 呆然とするアッシュに目もくれず、スカルはエアバイクに跨ったまま超スピードでウィドウメイカーに接近する。音速とはいかずとも、その速度に黒い霧は付いては来れない。

 そのまま子蜘蛛たちをぶっちぎって母体に迫り、スカルはエアバイクから飛び降りしてウィドウメイカーの背中にしがみついた。

 

 

「うおおおおおおおおおッ!! “グラビティ錫杖”出・力・全・壊ッッッ!!!!」

 

 

 そう叫びながら錫杖を装甲と化した子蜘蛛たちの隙間に突き立てて、思いっきり引っぺがす!

 本来ならばびくともしないはずの結合力。しかしスカルが手にする錫杖は、【トリニティ】から供与された“怠惰(スロウス)”系統の特性、重力制御が搭載されている。

 ミシミシと音を立てて崩れていく子蜘蛛たちの装甲。いや、壊れていくのはウィドウメイカーの装甲だけではない。限界以上の負荷がかかっている錫杖も、スカルの腕もまた同じだ。

 

 

「や、やめろスカル!! 自壊するつもりかよ!?」

 

 

 頭上から叫ぶアッシュを見上げ、スカルがにいっと笑いを深める。

 

 

「可愛い妹分が頑張ってるのによぉ! 兄貴が体を張らずにどうすんだッ!!」

 

「……!? スカル、後ろ!」

 

 

 ヘッドバッシュの後ろから、子蜘蛛が忍び寄る。装甲の一部となっていた子蜘蛛が身を起こし、邪魔者を排除しようと動き出したのだ。

 錫杖を突き立てて踏ん張っているヘッドバッシュは両腕が塞がっており、背後からの敵に対抗することができない。

 

 

「スカルーーーーーーッ!!」

 

 

 アッシュが目を閉じてながら叫んだとき、猿声としか言いようがない雄叫びが響き渡った。

 

 

「ウホオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 凄まじい勢いで叩き付けられるダッシュパンチを受け、ボディをべこべこにへこませながら吹っ飛んでいく子蜘蛛。

 さらに周囲に群がる子蜘蛛をダブルラリアットでなぎ倒すのは……1号氏の駆る“森の賢人”であった。

 

 

「おい1号ッ!? テメエ指揮はどうしたよッ!!」

 

「フフッ……そんなもの、この期に及んでは意味ありませんからな」

 

 

 目を丸くするスカルに、1号氏が笑い返す。

 そしてパァンッと音を立てて巨大な両腕を打ち鳴らし、見守る一同に叫んだ。

 

 

「諸君! よくぞここまで戦ってくれました!! 後は自由ッ!! 諸君らが思ったように戦いなさいッ!!」

 

 

 そう言ってヘッドバッシャーの横に並んだ彼は両腕に力を込め、持ち上がりかかった子蜘蛛を掴んで投げ飛ばした。

 

 

「私も……思ったままにやるぞおおおッッ!!」

 

「「ウキャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」

 

 

 その宣言に、チンパンたちが一斉に歓声をあげる。

 もちろん、スノウとアッシュも含めて。

 

 スカルと1号氏の無謀な決死行が開いた穴に、最後の攻撃が繰り出される!

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