七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第77話 頭にメイド妖精乗せたクッソあざといケモミミ配信者

 『七翼のシュバリエ』には動画配信機能が存在する。

 

 これは自分が撮影した映像をそのままライブで流すこともできれば、録画した映像を編集して配信することも可能である。しかも動画編集アプリまでゲーム内に標準で実装されているというサービスの良さだ。誰だってその気になれば即日で動画配信者デビューできる環境が整っている。

 

 そして数百万人もプレイヤーがいるのだから動画投稿をやってみようという者は多く、毎日無数の動画がアップロードされている。

 そういった動画のなかでもよく視聴されるものはスタープレイヤーや有名実況者の実況プレイだ。他では真似できないような華麗なテクニックや、見る人を楽しませるようなしゃべりができる者が人気を博していた。

 

 とはいえ以前にも述べたとおり、攻略情報はこの界隈ではあまり衆目に晒されない傾向にある。それは動画でも同じで、攻略テクニックやレイドボスの情報が動画として配信されることはめったにない。

 倒し方が一般に広まったレイドボスのRTAなどはよく配信されているが、中堅どころ以上のレイドボスについてはさっぱりだった。運営の想定よりも攻略が進んでいないのはこういった秘匿傾向にも原因があるのだろう。

 

 さて、そんな有名プレイヤーや人気実況者がひしめく、生き馬の目を抜く動画界隈に今ひとりのプレイヤーが足を踏み入れようとしていた。

 

 

「こ、こんにちわー。スノウでー……す」

 

『はいカットォ!!』

 

 

 仮想の視聴者に向かってぎこちなく笑うスノウに、カメラを手にしたディミが容赦なくカットを入れた。

 メイド服の上から黄色いトレーナーを腰に巻いた、業界人風スタイルのディミちゃんである。いや業界人ってそんなんだっけ?

 

 ディミはメガホンを振り、全然なっちゃいないという風に顔をしかめた。

 

 

『スノウちゃんさぁ。これリハだよ? そんなガチガチに緊張した笑顔じゃ見てる方も辛いっていうかさぁ。こんなんで数字獲れると思ってる? 甘いよそんなんじゃ』

 

「いや、ボクは別に数字とかそういうのは……ただみんなに攻略テクニックを教えようと」

 

『数字が獲れない動画なんて存在しねえのと変わんねえんだよォッ!!!』

 

「えぇ……」

 

 

 ディミPの危険な叫びに、ドン引きするスノウである。

 地の文的には決してそんなことはないと思います、はい。

 

 

「というかディミ、キャラが違わない?」

 

『そういう騎士様のキャラこそ、いつもと全然違うんだよなあ……』

 

 

 ディミはとんとんとメガホンで肩を叩いて頭を振る。

 

 

『なんです? そのいかにもカメラ慣れしてない気弱な顔は。素人モノか!』

 

「素人……?」

 

『チッ、ネンネめ! 清純派気取りか……!?』

 

 

 小首を傾げるスノウのピュアな様子に、思わず悪態を吐くディミ。

 ネンネなのはお前も同じなんだよなあ。

 

 

『いつもの強気なメスガキキャラはどうしたんですか! もっと挑発的にカメラに向かって挨拶してくださいよ! 普段の騎士様の第一声なら『はーい、カメラの前のよわよわお兄ちゃんたち♥』とかでしょう!!』

 

「ボクそんな口調してる!?」

 

 

 思わず目を剥いて突っ込むスノウである。

 してる時もあるけど気付いてないの?

 

 

「だ、だって初対面の人たちだし……あんま失礼なこと言ったら即切りでいなくなっちゃうかもしれないし……。動画を見てもらうんだから、少しくらいは丁寧に振る舞った方が……」

 

 

 目を背けてツンツンと人差し指を突き合わせるスノウ。

 それに合わせて柔らかなキツネ耳がぴこぴこと揺れる。

 思わずその耳に向けてダイブしたい衝動にかられつつ、ディミは叫ぶ。

 

 

『あざとさの塊みてーな耳しておいてよくそんなこと言えますね!?』

 

「え、ええ……?」

 

 

 キツネ耳をつまんでおろおろと困惑するスノウ。

 その仕草があざとい。しかし本人はそれに気づいていない天然ぶりであった。

 なんという純国産天然素材。こいつはやべぇ素材を見つけちまったぜ。

 

 

『そもそもなんだその耳! もういらないでしょ!?』

 

「配信者としてなんか特徴があった方がいいからって付けさせたのディミだよね!?」

 

『そうだったわ! クソッ! 感情に合わせて勝手に動くとかなんだそのテクノロジー!? 何のために発展した!? 人間め!』

 

 

 頭を抱えて人類の業について突発的に悩み始めるディミ。

 今日のディミはちょっとバグり気味であった。

 

 

「え、これ勝手に動いてるの……?」

 

 

 スノウは耳をつまんで困惑した表情を浮かべる。

 

 

「これがあるとなんだかカンが冴える気がしていいんだけどな」

 

『特に何の性能もないただのスキンですよね?』

 

「そのはずなんだけど。F・C・Sとつながってるときの感覚が残ってるのかな?」

 

 

 

 実際にデータを見ても何の特記事項もないただのスキンであった。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 ディミはカメラを構え直した。

 

 

『騎士様、ちゃんといつも通りにやってくださいよ』

 

「いつも通りにって言われても……」

 

 

 カメラレンズを見つめて、小声でもじもじするスノウ。

 

 そもそも中の人の虎太郎からして、他人の目につくことが何よりも苦手な生粋の陰キャである。わざわざ無地の地味服を選び、前髪を伸ばして表情を読まれないように、目立たないようにふるまっているのだ。

 

 ゲームの中で美少女アバターのガワを被っているからこそ初対面の相手の前でも尊大な態度を取れているが、カメラを向けられるとつい注目が集まっていることを意識してしまい、ガチガチにアガってしまう。

 

 よくそんなんで動画配信なんぞやろうと思ったものである。

 ディミはため息を吐き、わかりましたと頷いた。

 

 

『じゃあもういいです。いっそカメラのことは忘れてください』

 

「え、いいの?」

 

『だってカメラを意識したら何もしゃべれなくなるじゃないですか』

 

「まあ……そうだけど」

 

 

 ディミはスノウの前にふわりと漂い、カメラを向ける。

 

 

『いいですか、私のことは完全に無視です。とにかくいつも通り、独り言でも言ってるつもりでプレイしてください』

 

「ボク、独り言とか言ったことある?」

 

『……そう言われると、常に私と会話してますね。まあでも、割といろいろ呟いたりしてますよ。大丈夫大丈夫』

 

 

 確かに普段から割と説明口調でいろいろ口走っているスノウである。

 それは無意識にディミにも情報を与えようとしての行動なのだが、はたして本人はそれに気付いているのだろうか。

 

 

『さあ! 私のことは空気と思ってどんとこい!』

 

「やたら存在感ある空気だな……」

 

 

 正直に言って目の前でカメラを持ってふわふわ漂っていられると画面が見づらくて邪魔なのだが。

 

 

「というか……ディミがカメラ持つ必要ってあるの? 他の配信者どうやってるの?」

 

『そう言われると……必要ないですね!?』

 

「ポンコツゥ!?」

 

 

 今更驚くポンコツ2人である。こりゃひでえや。

 

 改めてカメラを遠隔操作に切り替えたディミが、ちょこんとスノウのキツネ耳の間に座り込む。

 

 

『……私必要あります? これ騎士様の動画ですよ?』

 

「うるさいっ! こうなったらディミも恥ずかしい目にあえばいいんだ!」

 

 

 逃さん……お前だけは……! という執念を込めて、スノウは指先でディミの細いあんよを掴む。

 やれやれ、とディミは肩を竦めた。

 

 

『ま、いいですけどね。じゃあ配信はじめまーす』

 

「えっもう!? リハーサルは!?」

 

『だってリハーサルしてたら延々終わらなさそうですし。体当たりでいいんじゃないですか。騎士様大体何でも体当たりでしょ?』

 

「それはそうだけど……」

 

『どうせ素人動画だから誰も見ねえだろうし』

 

「ひどくない!?」

 

 

 ぼそりとしたディミの呟きにスノウが目を剥く。

 そんな会話を断ち切るように、ディミは無情に配信ボタンをタップした。

 

 

『はい、3、2、1、キュー』

 

「ふえっ!?」

 

 

 ガチガチに固まったまま、無言で前を向くスノウ。

 

『おっ、始まったぞ』

 

『ほほーこれが噂のシャインか。思ったより可愛いな』

 

『ケモミミキャラだったんか?』

 

『なんか言え』

 

 流れてくるコメント欄を横目に、ディミはぺちんとスノウの額を叩いて『挨拶』と小声で呟く。

 我に返ったスノウが、あうあうと慌てながら手を振った。

 

 

「こ、こんにちわ! スノウライトと言います。よろしくお願いします」

 

 

 早速いつもと違うじゃねーか。

 

『カワイイ』

 

『配信者特有の初回猫かぶりっすねえ』

 

『オメーそんなキャラじゃねーだろ』

 

『でも可愛いからいいや』

 

『騎士様、なんかいつもの騎士様を知ってる人たちいるみたいですし、マジで普段通りでいいですからね』

 

「普段通りって言われても……」

 

『はい、動画の趣旨を説明』

 

 

 無情に頭の上から指示出ししてくるディミPに促され、スノウは真っ赤になりながら説明する。

 

 

「え、えっと。ボクはこう見えてもちょっと腕に自信があるプレイヤーです。なので、きょ、今日はみなさんにもうちょっと……その、うまくなるためのテクニックを教えたいと思います」

 

『大きく出たなコイツ』

 

『うまいってどんくらい? 下級レイドボス倒せる?』

 

『スノウさんを知らないなら帰っていただけません!? ここはニワカの来る場所ではなくってよ!!!』

 

『初配信でニワカってなんだ!?』

 

『会長、知らない人にケンカ売っちゃダメッスよ! ステイ!!』

 

 つっかえつっかえ言葉を紡ぎ出すスノウ。

 そんな彼女の頭の上で、ディミは流れるコメントを見ながら視聴者数を眺める。ライブ150人か。無名配信者の初配信なのに開幕これってなかなかの数では?

 いいとこ3人もくれば上出来だと思っていたんですが、とディミは内心で首をひねった。

 

 無論ディミには、視聴者の中に混じっているスノウファンクラブ会長が焚き付けているとは知る由もない。ディミがせめてもの広告として匿名掲示板に書き込んだ配信予告を目ざとく見つけた彼女は、ファンクラブ全員に視聴を勧めたのである。

 そしてのっけから人が集まっている動画に気付いた物好きが、どれどれと覗いている。いわばブースト効果であった。

 まあそのブーストを焚き付けた奴がいきなり最前列彼氏面して縄張りを主張しているのだが。

 

 

「えっと……じゃあ何から知りたいですか?」

 

『ノープラン!?』

 

『マジかよ、視聴者参加型かこれ?』

 

『普通なんか説明したいこと用意してから始めるでしょ。やる気ないならやめたら?』

 

『は? スノウさんバカにしないでいただけません? 殺しましてよ』

 

『そもそもこの配信者に何ができるかわかんねーんだから質問のしようもねーべ』

 

 まあそりゃそうだよなーとディミも頷く。

 そう思って何か説明したいテクニックはありますかとスノウに聞いておいたのだが、スノウのプランは何もなかった。

 いや、そもそも一般的なプレイヤーにとって何がわからないのかがわかっていないかった。

 

 ゲーマー歴の最初も最初から廃人プレイヤーの巣窟にどっぷり浸かった虎太郎にとって、一般ゲーマーだった時期がないのだ。

 だから一般的なプレイヤーが上達するうえでどこでつまづいているのかわからない。スノウにとっていつものプレイはできて当然のことなのである。

 

 

『騎士様、とりあえずいつものプレイをみなさんに見せてはどうでしょう?』

 

「あ、うん。それでいいのなら」

 

『なんだプレイ動画か? まあよくある動画だな』

 

『いいじゃん、美少女アバターでプレイしてくれるの捗るわ』

 

『頭の上のペットAIは何? あんなよくしゃべるペットAIないよね。腹話術状態で一人二役?』

 

『あー、モジモジする本体とツッコミ役のペットAIってキャラ付けか』

 

『あの耳よく動くけど、どこで買えるスキンなのかな』

 

『ケモミミ最高』

 

「え、えーと……じゃあ適当にこの戦場に乱入してみましょうか」

 

 

 そう言ってスノウは戦場のひとつを指さした。

 

 

「ここはそこそこ大規模のクラン同士が競り合っている戦場ですね。エースプレイヤーもある程度はいるんじゃないでしょうか。ここに【無所属】で入って、両方ともやっつけようと思います」

 

『?』

 

『?』

 

『なにいってんだこいつ』

 

 そしてそのスノウの発言がまず事前情報皆無の視聴者たちにとって意味不明であった。

 このゲームに参加している大多数のプレイヤーにとって、このゲームは陣取り合戦である。クランに参加して他クランと支配地域を巡って戦争するか、フリーモードでレイドボスやモンスターと戦ってパーツや素材を集めるゲームなのだ。

 

 【無所属】で戦場に入るという行為には何のメリットもない。それを戦場を荒らし回るというだけのために乱入するという発言に、固定観念に縛られていた一般視聴者たちは意味を理解できず頭に「?」を浮かべた。

 

『荒らしってこと?』

 

『えっマジ迷惑……』

 

『通報する?』 

 

『だまらっしゃいですわ! 腕試しに乱入して何が悪いんですの? ルール上禁止されてないなら何でもアリなのですわ!』

 

『確かに……』

 

『いやいや』

 

 あわあわと頭が茹だっているスノウには、流れていくコメントも増減する視聴者数も見えていない。

 しかしそれでも戦場に出ようと操縦幹を握った瞬間、隠しようもない好戦的な笑みが浮かぶ。

 

 ディミはその笑顔を見下ろしながら、淡々とシステムメッセージを口にする。

 

 

『戦場へのアクセス完了。シュバリエ“シャイン”出撃スタンバイ。ゲットレディ』

 

『来るぞ……!』

 

『何が始まるんです?』

 

 流れるコメント欄の中で、スノウをよく知る1人のプレイヤーが答えた。

 

 

『大惨事だ』

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