七慾のシュバリエ ~ネカマプレイしてタカりまくったら自宅に凸られてヤベえことになった~   作:風見ひなた

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今回は主人公がひっでえムーブしますのでご注意ください。


第79話 子ぎつねスノウちゃんの炎上生配信講座

 攻め手側のリスポーン拠点を破壊し尽くしたシャインが、全速力でその場を離脱して空を駆けていく。

 敵が前線からまっすぐにリスポーン地点へと殺到することを見越して、敵の進行方向とは垂直になるように横方向へと移動していた。

 

 

「うーん、さすがに自爆してリスポーン地点まで戻ってくるようなヤツはいないか……。リスポーン地点まで行くなら自殺が一番早いだろうに」

 

『また何か頭のおかしいことを言い始めたぞコイツ』

 

『そりゃそれが一番早いだろうけどさぁ』

 

『コスト考えろよォ!!』

 

 スノウの呟きにドン引きした反応を見せるコメント欄。

 ディミはそんな視聴者たちの声を代弁するかのようにスノウに突っ込んだ。

 

 

『騎士様、そうそう自死なんて選べるわけないですよ。だって撃墜扱いになって総コストが減っちゃいますもん』

 

「前回のレイドボスだと自爆推奨だったけど?」

 

『あれはフリーモードだったからですよ。あのときは総コスト関係なかったでしょう? クラン対抗戦とは勝手が違いますよぉ』

 

「そっか。でも本気でボクを潰すつもりなら、自殺くらいためらいなく選んでほしいもんだよね」

 

 

 そう言って、ちょっと残念そうな顔でスノウは後方を眺める。

 敵機が追いついてくる気配は未だにない。

 

 それもそのはず。お前の機体が多分この戦場で一番速いのに、それが全速力で逃げたらマトモな手段で追いつけるわけないんだよなぁ。

 

 

「はあ……残念だな。ボクと戦いたいなら、常識を捨ててかかってこないと挑戦権すら得られないよ? こっちは【シャングリラ】仕込みのゲリラ屋だってのに」

 

『ゲリラ屋wwww そうだな、マトモな戦い方じゃねえよお前!!』

 

『待て、今【シャングリラ】って言った?』

 

『知らないクランだな。どこのマイナークラン? 聞いたこともないようなクランの名前を引き合いに出されてもなー』

 

『↑無知乙』

 

『マジか!? 【シャングリラ】のメンバーは全員引退したって聞いたぞ!?』

 

 スノウは流れゆくコメントを見る余裕もなく、思い出したかのようにカメラに向かって告げる。

 

 

「あ、攻め手側のリスポーン拠点はズタズタにしたので、今度は防衛側を攻めますね。片方だけ叩いたら、タダで味方したみたいで申し訳ないので」

 

『申し訳ない……申し訳ないってなんだ……?』

 

『知らない単語ですね。異世界語かな?』

 

『それより【シャングリラ】の連中ってどこ行ったんだ? そっち教えてくれよ! おーい!!』

 

『この娘コメント欄まったく見てねえぞ』

 

『スパチャにすら最初のアッシュ以外反応してないからな……どんな配信者だよ』

 

『くっ!! 悔しくなんてありませんわ!!』

 

 相変わらずコメントをまったく無視しながら、スノウは90度ターンして防衛側へ向かって突撃する。

 戦場の外周を大きくぐるりと迂回するように軌跡を描き、シャインが“アンチグラビティ”の重力操作を駆使した静音機動で空中を駆け抜けていく。

 

『このパーツすごいな。ほとんど音が出てねえぞ。急制動かけたときのエアブレーキくらいじゃないか?』

 

『【トリニティ】と【アスクレピオス】が入手したっていう重力操作パーツだな。最近じゃ【氷獄狼】も【トリニティ】に恵んでもらったって話だが』

 

『…………』

 

『回避軌道が滑らかでロックオンされにくいのが特長ですな。さらに移動時に音をあまり出さないので、隠密行動にも向いているのですぞ』

 

『忍者ですの!?』

 

『こんなのが拠点の背後から忍び寄ってくるとか怖すぎる』

 

 スノウがふと横を向き、目を細める。

 遠くで戦国武者が着る和風甲冑のような風体の機体群が、攻め手側に向かって飛び込んでいくのが見えた。

 全体的に体格が小さく、それぞれ全高7メートルほどだろうか。デフォルメをかけたようなずんぐりとしたデザインで、厳めしさよりもどこか愛嬌が感じられた。

 

「うん、思った通り攻め手側に向けて侵攻してくれてるね」

 

 

 そう言ってスノウが満足そうに頷く。

 

 

『騎士様の予測どおりなんですか、これ?』

 

「そうだよ。防衛側にとっては、攻め手側が突然退却して守りを固めたように見えるだろうからね。となれば包囲して攻めるが上策と考えるんじゃないかな。まあ警戒はするかもしれないけど、とりあえず包囲して様子見くらいはするだろう」

 

『なるほど』

 

「すると攻めに回った分戦列は伸びて、本拠地が手薄になるからね。そこにこっそりと奇襲すれば安全に襲えるってわけ」

 

 

 そこまで言って、スノウはこれが配信だと思い出したようでカメラに向かって微笑みかけた。

 

 

「こうやってボードコントロールして戦況を操作すると、自分の思ったように戦えます。安全マージンも自分の力量に合わせて取れるし、何よりとっても楽しいですよ! ぜひみなさんもやってみてくださいね!」

 

『できるかあああああああああぁぁぁぁ!!!』

 

 視聴者たちの心の叫びが今ひとつになった!! これが奇跡か……!?

 

『何この子こわい!!』

 

『お前みたいな腕前のプレイヤーしかできねえよ!! いや、腕前があってもちょっとこれは真似できんわ!!』

 

『人間を操る術を熟知してやがる……妖怪じみてるぞオイ』

 

『これは確かに“魔王の寵児”と呼ばれたシャイン本人かもしれん……。人間心理を読むことにかけては化け物じみてたからな、あの“魔王”は』

 

『ほうほう。他人を操れば、有利な戦況に持ち込める……大変勉強になりますわ』

 

『ボードコントロールは指揮官に必須の技術ッスからね。それを自分1人でやってしまえるのは驚異的ッスが……これサッカーにも応用できるな。1配信に投げ銭1回の縛りがなければ、もう1回お布施したいッスわ~』

 

『ふえぇ……なんか理解を示してる奴が2人ほどいるよぉ』

 

 そうこうしているうちに防衛側の本拠地の背面に回り込んだスノウは、周囲を素早く見回してニヤリと笑う。

 やはりスノウがにらんだとおり、本拠地周辺の守りが薄い。

 これなら奇襲は成功間違いない。いや、たとえ敵がガチガチに守っていたとしても構わず奇襲を仕掛けるのだが。

 

 

「さてさて。今回の狙いは弾薬庫です。何でかというと防衛側のリスポーン拠点は固定配置なので、攻め手側よりも守りが固いからですね。むしろそこを狙うよりも弾薬庫を狙うべきです」

 

『でも弾薬庫もしっかり守られているのでは?』

 

 

 ディミが尋ねると、スノウはそうだねと頷く。

 なんか教育番組のお姉さんとマスコットの妖精キャラみたいだなお前ら。

 

 

「それはそうなんだけど、攻め手側と違って防衛側は他から武器や弾薬を持ってきづらいからね。どうしても弾薬庫の中身をあてにして戦うしかない。同じ堅いガードで守られているなら、弾薬庫を焼き払って継戦能力を奪った方が効率的ってわけです」

 

『なるほど~』

 

 

 いや、こんな硝煙の臭いしかしない教育番組とかあるわけねーわ。

 

『む せ る』

 

『確かに完全にゲリラ屋の発想』

 

『活かされない方がよかった才能』

 

『こんな奴を平和な日本に野放しにしておいていいのかなあ』

 

 

※※※※※※

 

 

 

「というわけでどーん!!」

 

 

 シャインの肩に背負われた、赤いバズーカ砲が火を噴いた。

 これまで使われてきた“レッドガロン”よりも、さらに一回り大きくゴテゴテとしたフォルムを持つ兵器である。

 

 ミッションの仕様を悪用して1000体の敵を撃墜するまで無制限に使えるクエストアイテムと化した“レッドガロン”だが、つい先日スノウはとうとう1000体撃破してしまったのだ。

 それで“レッドガロン”は手元からなくなったのだが、バーニーは悪びれもせずさらなる強化版のバズーカ砲の試用ミッションを課したのである。

 

 その名を“ドレッドガロン”。

 

 より爆発半径と威力を増したバズーカ砲が、弾薬庫に直撃!

 もちろん弾薬庫を守っていた防衛設備や敵機を蹴散らしつつ、高速で接近しての一撃である。強襲からの一撃離脱なら、過剰な戦力など必要ない。こちらは単騎で一点突破を狙えばいいだけなのだ。

 

 多数の敵が攻め寄せることを想定して守っている相手も、まさか単騎で強襲してくるようなバカがいるとは思いもしない。

 それでいて持っている武器は、折り紙付きの高火力。パーツの山に埋もれて暮らす頭のおかしなパーツ屋が1人のために用立てた武器なのだ。

 

 たちまち弾薬庫に満載された火薬が引火して、爆発炎上を引き起こす!

 

『わあ~綺麗な花火だなぁ~(白目)』

 

『1 億 J C の 輝 き』

 

『ほんまに1億JCなん?』

 

『いや、言ってみただけッス……』

 

『このガキまた新しい武器を! どこのガチャで手に入んだよォ!!』

 

 鼻歌を歌いながら押し寄せる敵機を捌いたスノウは、爆発を背に高速で飛翔!

 

 

「奇襲に成功したら、さっさと移動しましょう。不利な状況で戦ってあげる必要はありませんからね。とくにこうした場合、時間が経つとどんどん援軍が来ます。逆に言えば、こうやれば敵の動きをコントロールできますね! 戦いは迅速に、これを頭に入れておいてください」

 

『テロリスト育成講座かな?』

 

『だから真似できんって……。前提として、敵の誰よりも高速移動できねーとダメじゃねーか。パーツ揃えるのにどんだけ手間と予算かかるんだよ』

 

『というか、これどうなってんの? フライトタイプでこの速度で移動しつつ、ヘビーウェポンまで使えるっておかしくない? チート?』

 

『ヘビーウェポンを使えるのは“関節強化”を積んでるからでしょうな。そして恐らくヘビーウェポンを展開するときに重力操作を行い、荷重を軽減している。ンンン……なんとピーキーなビルドでしょうか! 芸術的ですらある! 組んだ方www 天才www ぜひ一度お会いしたいものですなwwww』

 

『重力操作かー。ウチもぜひ取らなきゃな、そのツリー。このビルドは流行(はや)る!』

 

『流行るかぁ……? この娘と同じレベルで使いこなせるの、それ?』

 

『これ見てる“腕利き(ホットドガー)”が真似しないわけねーよ。試すくらいするだろ』

 

 クソ熊さん乱獲のヨカーーン!!

 

 それはさておき、シャインは素早く弾薬庫を離脱すると全速力で移動を開始する。

 

 

「待てぇ! 逃がすかああああ!!」

 

「テメェどこの組のモンじゃああああ!!!」

 

「ワレェいてまうどおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 背後から罵声を飛ばしながら剣や槍を握った機体が追いかけてくるが、全力で移動するスノウには追い付けずにいる。

 

 

「なんだかやたらガラが悪いね、あの人たち。あんなに怒らなくてもいいのに」

 

『怒らせることしかしてないと思いますけど……! というか、どうするんですここから!?』

 

「決まってんじゃん。本来の敵のところまで案内してあげるんだよ」

 

 

 そう言ってスノウはニヤリと笑い、戦場の全員に向けたパブリック通信で映像を送り付ける。

 両手の中指と薬指を曲げ、親指とくっつけたジェスチャーでにっこりと微笑んだ。頭のキツネ耳がピコピコ揺れる。

 

 

「はーい、こんにちわー。みなさんの戦場にいたずら子ぎつねちゃんがやって来ましたよ♥」

 

「……は?」

 

「な……なんだテメエ!?」

 

 

 両陣営のトップが、突然の乱入者に目を剥く。

 攻め手側はごくオーソドックスなパイロットスーツに身を包んだ、二十代半ばごろの男。大手クランの指揮官のはずだが、あまり印象に残るタイプではない。

 

 防衛側は頬に大きな傷が入った二十代後半の強面の男。パイロットスーツを直用せず、引き締まった筋肉質の長身にサラシを巻き、着流しの着物を羽織っていた。一言で言えば任侠映画に出てきそうな、迫力のある姿。

 

 攻め手側のクラン名は【シルバーメタル】、防衛側は【桜庭組(サクラバファミリア)】か……とスノウは今更クラン情報を読み取る。どうせすぐ忘れるだろうけど。

 

 

 スノウはニコニコと笑顔を作ると、こきゅっと小首を傾げた。

 

 

「よわよわおにいちゃんのみなさん、何やら大変そうですねぇ。後方で何かありましたかぁ? みなさんの大事なリスポーン拠点や弾薬庫を焼き払ったのは、ボクの仕業でーす!」

 

「…………な、なんだそれは…………」

 

「テメエどこの組のもんじゃああああ! おい、【シルバーメタル】の! よくもこんなメスガキに弾薬庫を焼かせてくれたなあ!!」

 

「し、知らんっ! というかウチの方が被害甚大なんだが!? トランスポーターどころかリスポーン拠点まで焼かれたんだぞ!! 一体キミは何だ!? 何の目的で乱入してきた!!」

 

「いや、別にとくに理由はないよ。今生放送中なんだけど、ちょうどそこらへんにいたので両方ぶん殴ろうと思ってやってきました! ボクの技術をみんなに見せる試金石になってください!」

 

「「…………は?」」

 

 

 ぽかんとした顔で呟く両クランの指揮官。

 ついで、その顔が怒りで真っ赤に染まる。

 

 

「な……なんだそれは!? 生放送だと!? そんなもののために……!!」

 

「ワレなめとんかあああああ!! こっちの事情を考えろやボケが!!」

 

「知らないよそっちの事情なんて。キミたちだってボクの事情なんて知らないでしょ? お互い様だよね。だから好きなようにするよ! というわけで、正々堂々と挑戦を申し込みます! 今からよわよわお兄ちゃんたち全員をボコボコにするのでヨロシクねッ♪ えへへっ」

 

『炎上系配信者かこいつ!?』

 

『迷惑すぎる……!』

 

『いや、俺が同じ腕前持ってたら同じことやってみたいぞ。こんなには煽らんけどな!』

 

『ゲームなんだし無茶やってもええやんか。まあ絶対にこの後囲まれて撃墜待ったなしだと思うけど』

 

『大手企業クランの【シルバーメタル】が中堅どころの【桜庭組】に侵攻してた感じか。こりゃ【桜庭組】は守り切れねーだろうな』

 

『このメスガキ笑いがなんか癖になってきた……病気かな、俺……』

 

ようこそこちら側へ(ウェルカム)

 

 あまりにも傍若無人な言い草に沸騰するコメント欄、罵詈雑言を浴びせかける両クランのメンバーたち。

 そんな非難の嵐の中、スノウはにっこりと笑うとフリフリと両手のキツネジェスチャーを振った。

 

 

「まあまあ、カワイイ子ぎつねちゃんのイタズラじゃない。おにいちゃんたちもそんなに“おコンないで”よ、コンコーン♥」

 

『(審議中)』

 

『やっべ、これやられて怒らねえ自信が一切ない』

 

『下手に可愛いだけに余計に腹が立つ』

 

『人を煽る才能ってあるんだな……いらないですそんなの』

 

『目の前でやられましたわ、私……』

 

『ああああああああああああ!!!! オイゴラァ!! てめえ誰にでも煽ってんのか!! クソがッ、許せねえ!!』

 

『アッシュさん!? それはどういう感情がもたらす罵声なんです!?』

 

 当然めっっっっっちゃ怒りを買った。

 

 

「コケスッダラァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「すっぞゴルアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ウチの会社の命運がかかっとんじゃガキがああああああああ!!!!」

 

「@:お・いおぅktjyrhgsdz!!!!!!!」

 

 

 殺意のあまり人語にすらならない叫びを上げ、限界までブースターを噴かしながらデフォルメ和風甲冑の武者たちが得物を手に追走してくる。

 

 そんな殺気を浴びながら、スノウはクスクス笑って彼らを誘導していく。

 目指すは最前線、両陣営が激突するホットスポットへと!

 

 

「こんにちわーーーーーー!! 子ぎつねスノウの突撃生放送でーーーーーーす!!」

 

 

 そんな叫びと共に、ド迷惑配信者が最前線に乱入!

 

 

「「ブッ殺せええええええええええええええええええええええッッ!!!!」」

 

 

 それを待ち受けていた両陣営のシュバリエたちが、奇声を上げてシャインに飛びかかった!!

 


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