第8話
「うーん‥‥この辺りで大丈夫かな?」
俺とイリヤは人目のつかない林の中に来ていた。
「林の中で特訓とか・・・・魔法少女にしてはずいぶん地味だよね」
「何事も地道な努力が大切なんだよイリヤ」
『詩織さんの言う通り、舞台裏なんてそんなものですよー。それではチャチャッと転身して特訓開始といきましょうか!』
そうしてイリヤは転身し俺は
『ではまず飛行をマスターしましょうか。今回は完全に空中戦となりそうですし』
「とりあえず素早く動けるようにするとか?」
『それもありますが魔力の効率運用も大事ですね。飛行は大量に魔力を消費しますから、魔力は無制限に供給できますが一度に使える量は個人の資質次第なんです』
「水道の蛇口みたいな感じね・・・・」
『より少ない魔力で飛びつつ自在に攻撃できるようになりましょう!』
「ん、了解」
「なるほどな」
そう言って2人は返事をし空へと浮かび上がる。
「あ・・・・とそうだリンさんからこれ預かってきたんだけど試しに使ってみていいかな?」
『あらカードですかいいですよー』
「アーチャーっていうくらいだから弓だよね。どんな必殺の武器が・・・・えーと・・・・
イリヤがカードをルビーにかざしたらルビーがステッキから黒い大きな弓の姿に変わった。
「ほんとに出た!これあれば勝てちゃうんじゃない!?」
その見た目からすごく強そうだと思ったのかイリヤは興奮しているが、
「・・・・イリヤ。矢は?」
「え?確かに無いね。ルビー矢は?」
『ありませんよ』
まるで無いのが当たり前のように答えるルビー。
「えええ弓だけ!?全然意味ないよコレ!」
『そういえばこんなんでしたね。凛さんが試した時は手近にあった黒鍵を矢の代わりにして使ってましたが・・・・』
「あ!戻った!」
「時間切れか?」
『その通りです。地道にやっていくしかありません。がんばりましょう!美遊さんも今ごろ特訓してるはずですよ』
「ミユさんかー・・・・どんな特訓してるんだろうね?」
「さあな」
そんなことを思いながら俺たちは特訓を始めた。
「・・・・無理です」
「美遊。あなたが飛べないのはその頭の固さのせいですわ」
「・・・・・・不可能です」
「最初から決めつけていては何も成せません!」
「・・・・ッ・・ですが・・・・ッ!」
詩織とイリヤが特訓を始めた頃美遊はヘリコプターの中から突き落とされそうになっていた。
『おやめくださいルヴィア様。パラシュートなしでのスカイダイビングなど単なる自殺行為です』
「こうでもしないと飛べるようにならないでしょう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
あまりの高さそしてここから落ちることをイメージをしたのか震えている。
「美遊はなまじ頭が良いから物理常識に捕らわれているんですわ。魔法少女の力は空想の力・・・・常識を破らねば道は拓けません」
『付き合う必要はありません美遊様。拾っていただいたおんがあるとはいえこのような命令は度が過ぎています』
「さぁ一歩を踏み出しなさい!あなたなら必ず飛べます!できると信じれば不可能など無いのですわ」
「‥‥‥‥ッ!」
ルヴィアの言葉に感化されたのかゆっくり美遊は振り返った。
「いえやはりどう考えても無理で「いってらっしゃい」・・・・すっ・・・・」
美遊が真顔で話したがルヴィアはそんなの聞きもせず美遊を蹴落とした。
「■■■■■■■■■■■■■■■
ーーーっっ!!?」
「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすと言いますわ・・・・見事這い上がってみせなさい美遊・・・・・・!」
「なんだ?」
「どうしたの詩織君?」
叫び声が聞こえた気がして上を見たら人が落ちてくるではないか。
「まずい!」
「『詩織君(さん)!!?』」
俺が上に向かって飛ぶとイリヤたちがふっ飛んだ。
「(このままだと間に合わない!)」
私はヘリコプターから突き落とされて混乱していた。肌から伝わる冷たい荒々しい風そして上から落ちる浮遊感、あまりの恐怖に何も考えられない
「(・・・・どうなっちゃうんだろう・・・・誰か・・・・助けて・・・・!)」
目を瞑って衝撃にそなえたが急に何か抱かれている感覚があり風もまるでそよ風のような優しい風を感じた。
「大丈夫かな?」
聞いたことのある声がした気になって目を開けるとそこには天精 詩織がいた。でも普段の学校の時の服装でも戦闘の時の紫色の鎧をした格好ではなく橙色の腰まであるふんわりした髪にサイドはゆるい縦ロール瞳の色は水銀色に変わっていた。そしてなにより目を惹くのはその服装だ。暗色の外套を纏い、体の各所をベルトのようなもので締め付けられていて、左右の手首と左右の足首と首に南京錠が施されそこからちぎれた鎖が伸びまるで咎人のような格好だった。そしてなぜ・・・・女性の体をしているの!?
「天精なんで・・・・それに///その格好は・・・・///」
「霊装を纏うと体が女の子になっちゃうんだよね///まぁー・・・・もうなれたけどね。大丈夫だったかな美遊さん」
その時の顔はなにか悟った表情だったので深くは聞かなかったがその後の笑顔はとても綺麗に思った。
「あ、ありがとう///」
『ありがとうございます詩織様。全魔力を物理保護に変換しても不安でしたので』
サファイアも安堵したような声を出し感謝していた。
「無事ならよかったよ。この格好気になるだろうけどこのまま下ろすよ」
「う、うん」
俺は美遊さんを横抱きしながら地面に降りた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
美遊さんを下ろすと上から俺を呼ぶ声が聞こえた
「詩織君急に飛び出してどうしたのって、なにその格好///それになんで美遊さん・・・・!?なんで空から・・・・?」
「あ・・・・飛んでる」
『はい。ごく自然に飛んでいらっしゃいます。美遊様ここはやはり・・・・』
「・・・・昨日の今日で言えたことじゃないけど‥‥空が飛べなくちゃ戦えない・・・・その・・・・教えてほしい・・・・飛び方・・・・」
昨日戦わなくて言い宣言したのに教えをこうのはかなりきついだろうな。
「と、飛び方?えーとそう言われても」
『イリヤ様は[魔法少女は飛ぶもの]とおっしゃいました。その元となった何かがあるのでは?』
「元・・・・あーーーーー・・・それなら・・・」
[雲の中に逃げても無駄だ!この空で散れ!!]
「こ・・・これ・・・・・?」
今俺たちはイリヤの空飛ぶイメージを知るためにイリヤの家でテレビを見ている。画面の中では魔法少女が空を駆け回ってステッキを振り回している。
「う・・・うん。わたしの魔法少女のイメージの大本だと思う。・・・恥ずかしながら・・・」
「確かにこれはイメージしやすいかもな」
美遊さんはぶつぶつ呟きながら食い入るようにテレビをみている。
「航空力学はおろか重力も慣性も作用反作用すらも無視したでたらめな動き・・・」
「いやー・・・そこはアニメなんで固く考えずに見てほしいんだけど・・・・・」
『実体験に依らないフィクションからのイメージのみとは思いも依りませんでした』
『イリヤさんの空想力はなかなかのものですよー』
「・・・ほめてるの?」
イリヤはルビーをジト目で睨む。
『空想というか妄想というか、夢見がちなお年頃の少女は
「・・・・ほめてないよね」
「まあまあ、そのおかげで飛べるんだから」
そう言って俺がイリヤをなだめていると美遊さんがテレビを見終わったようだ。
『このあを全部見れば美遊様も飛べるようになるのでしょうか』
「ううん・・たぶん・・・無理。これを見てもとゆでる原理がわからない。具体的な飛行イメージには繋がらない。必要なのは揚力ではなく浮力だってことまではわかる・・・けどそれだけではただ浮くだけだから移動するにはさらに別の力を加えるか重力ベクトルを制御するしかないんだけど・・・でもそんなことあまりに非現実的すぎてとてもじゃないけどイメージなんて・・・」
「ああああああのっ・・・!」
「落ち着け!?」
『ルビーデコピン!』
「はフッ!?」
美遊さんがぶつぶつ呟きながら自分の考えを早口で話している途中ルビーが羽を使っておもいっきり美遊さんのおでこをデコピン?をした。
「な・・・・何を・・・?」
『姉さん?』
『まったくもー、美遊さんは基本性能は素晴らしいみたですがそんなコチコチの頭では魔法少女は務まりませんよー?イリヤさんを見てください!理屈や行程をすっ飛ばして結果だけをイメージする!そのくらい能天気で即物的な思考の方が魔法少女に向いているんです!』
「なんかさっきからひどい言われようなんだけど!?」
『いえいえベタ褒めしてるんですよ。頭からっぽの方が夢とか詰め込めるらしいですし』
「か、勝手に人をおバカキャラにしないでよ!これでも学校の成績はかなり良い方なんだからね!詩織君も笑わないで!!」
「ふふっ、ごめんイリヤ」
イリヤには悪いと思うが我慢しきれず思わず笑ってしまった。
『そうですね・・・美遊さんにはこの言葉を贈りましょう。』
『《人が空想できること全ては起こり得る魔法事象》わたしの想像主たる魔法使いの言葉です』
「・・・物理事象じゃなくて?」
『同じことです。現代では実現できないような空想も遠い未来では常識的な事象なのかもしれません。それを魔法と呼ぶか物理と呼ぶかの違いです』
「まぁ・・・つまりアレでしょ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルビーの話しは真剣に聞いていたがイリヤの例えを聞いた瞬間美遊さんの顔つきが変わりどうしようもない奴を見ているような顔になった。
「・・・・・そう。あまり参考にはならなかったけど・・・少しは考え方がわかった気がする」
「あ・・・帰るの?」
そう言いながら美遊さんは立ち上がりリビングから出ていこうとし顔を向けず最後に声をかけてきた。
「また・・・今夜」
それだけ言うと美遊さんは玄関から出ていった。
『行っちゃいましたね』
「また今夜・・・・・・・か。「あなたは戦うな」とか言われた昨日よりだいぶ前進?」
「そうかもね。さて俺たちも準備しよう、今度は俺たちが勝つリベンジだ!」
「うん!そうだね!」
そうして間もなく訪れる戦いの夜光輝く月はまるで勝利が決まった祝福のようだった。