精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第十話『模擬戦・後編』

 リオとウズマが下がり、今度はネクサスとサラが広場の中央で対峙することとなる。

 ちなみに武器はネクサスが右手に片手剣、左手にダガーを持った変則二刀流、サラがナイフを片手に持っている。

 

「そういえば、ネクサスさんが戦っている姿って、あまり見たことないかも…?」

 

 観戦していたオーフィアが思い出すように呟く。

 

「確かに…皆さんの前だと初めてかもしれませんね」

 

 近くにいたリオがオーフィアの疑問に答える。

 旅を共にしてきたリオは共闘していた関係上、その戦い方を近くで見てきたし、早朝と深夜の訓練で軽く模擬戦などもしていたが、こうして人前で戦うのは初めてだったりする。まぁ、裏組織の人間として生きてきたから、出来るだけ人前で戦わないようにしてきた、というのもあるが…。

 それでもこうして人前で戦おうとするのは、ネクサスなりの意思表明でもあった。過去に傷を負い、罪を背負っていても変われるのだと…。

 

「ただ、いつもと得物が違いますね」

 

 それは毎日のように手合わせしているリオだからわかる変化だ。

 ネクサスは普段ダガーの二刀流で戦っているのだが、今回の模擬戦では右手だけ得物を片手剣へと変えていた。

 

(ネクサスも…変わろうとしているのか?)

 

 リオはそんなネクサスの心情をそう察していた。

 

「さてと、準備はいいかい?」

 

「私はいつでも構いません」

 

 ネクサスの言葉に些か硬くなっているが、サラも頷いてみせた。

 

「では、始め!」

 

 ウズマによる合図と共に模擬戦が始まる。

 先に仕掛けたのは、サラだった。

 

(ネクサスさんには悪いけど…先手を取って、勝負を決めます!)

 

 身体強化で上げたスピードを活かし、一気にネクサスの懐へと入ると、サラはそのままナイフ(木製)をネクサスの心臓に向けて突きを放つ。もちろん、寸止めするつもりではあるが…。

 

ゾワッ!!

 

「ッ!!?」

 

 しかし、次の瞬間、サラは突き出そうとしたナイフを手放し、後方へと飛び退いた。心なしか、耳と尻尾の毛が逆立っているようにも見える。

 

「サラ、どうかしたか?」

 

 そう問いかけながら悠然と歩くのは、ネクサスだ。ちなみにネクサスは気さくな性格のため、リオと違って相手の名前を呼び捨てで呼ぶ傾向にある。

 そのネクサスの手にはまだ武器が握られているが、ダガーは逆手に持ち、片手剣の方も切っ先を下に向けている。とても模擬戦を行う姿勢とは見えず、隙だらけにも見える姿にギャラリーはサラが速攻を仕掛けたこともあってか、勝負は早々に着くと思っていた。

 しかし、サラは武器を手放して飛び退き、警戒するようにネクサスを見ている。その結果にギャラリーはウズマが負けた時以上の沈黙が渦巻いていた。

 

(なに? 今の悪寒は!?)

 

 サラは突然のことに困惑していたが、本能の部分が目の前の人物を危険だと察知していたのだ。

 

(いかんいかん。どうにも急所を狙われると昔の癖でついつい殺気をピンポイントで向けちまう。これは模擬戦なんだ。何も本気の命のやり取りじゃない…)

 

 かくいうネクサスもそう反省しながら足元に落ちてたナイフをサラに向けて蹴り上げる。

 

「っ!?」

 

 サラは驚きながらも強化された身体能力でナイフをキャッチする。

 

「手合わせはまだ始まったばかりだ。お互い、有意義な時間にしようぜ?」

 

「………は、はい」

 

 ネクサスは努めて明るく振る舞うが、サラの方は委縮してしまったようだ。しかし、それでも気持ちを切り替えたのか、サラが今度はネクサスの出方を見る。

 

(こりゃマズったかな…)

 

 昔の癖が抜けきってなかったのに模擬戦を受けたのは失敗だったかと、ネクサスはダガーを逆手に持った状態の左手の人差し指で器用にポリポリと頬を掻く。

 

(みんなのいる夜にでも謝っとくか…)

 

 と自らの行いを悔いつつも、模擬戦で手を抜くわけにはいかないとネクサスも頭を切り替え、サラを見据える。

 

(とは言え、さっきのリオとウズマさんの戦いが白熱し過ぎたんだよ。地味かもしれんが、速攻で決着を着けに来たサラの選択は間違ってない。ただ…ちょっと動きが直線的というか…素直過ぎるよな…)

 

 だからピンポイントで殺気を当ててしまった、とネクサスは思いつつも表情から感情を抜くと…

 

「………………」

 

 無言で歩き出すと、徐々にペースを上げて走り出し、サラに接近しようとする。

 

「っ!!」

 

 それを察してサラもネクサス以上のスピードでネクサスの背後へと回るが…

 

「………………」

 

 それを予測していたのか、その場で足に力を込めてバク転の要領で跳躍すると、そのままサラの背後を取り…

 

「…………ぇ…?」

 

 サラの首筋に向けてダガーを寸止めで突きつけていた。

 何が起きたのかわからず、硬直して呆けたような声を漏らすサラ…。

 ギャラリーの方も沈黙に支配されていると…

 

「しょ、勝者、ネクサス殿!」

 

 我に返ったウズマが宣言する。

 

「サラ…悪かった」

 

「え…? あの…?」

 

 何故謝られたのか…訳が分からず、振り返ってネクサスを見るサラだったが、いつもの笑みを浮かべているものの、どこか罪悪感が滲んだような雰囲気のネクサスの表情に何も言えずに立ち尽くしてしまった。

 

「さて、ベラちゃんには悪いが、次はリオとか~」

 

 だが、それも一瞬のことで、すぐさま何もなかったような口調でリオの元へと向かうネクサスに…

 

「ネクサス、さん…」

 

 サラはなんだか妙な気持ちでその背を見つめていた。

 

 

 

 サラも観客側に戻り、サラが負けたことで涙目になったベラのことをサラが慰めつつ、小休止を挟んでからリオとネクサスの模擬戦に移ることになった。

 広場で対峙するリオとネクサス。武器はどちらも同じものを使っている。

 

「ネクサス。さっきのは…」

 

「何も言わないでくれ。俺もまだまだ未熟ってことさ」

 

 サラに向けたピンポイントの殺気のことを言っているのだろうことはわかっていたので、ネクサスは飄々と答えていた。

 

「夜にでもまたちゃんと謝るさ」

 

「…ネクサスがそう言うなら、これ以上は何も言わないよ」

 

「ありがとよ、リオ」

 

 リオの優しさに感謝しつつ、ネクサスは全身の力を抜いた。それを見てリオも少しだけ張り詰めた空気を出す。

 

「「………………」」

 

 無言のまま互いの動きを見逃さないようにする2人を見て…

 

「始め!」

 

 ウズマが合図を出す。

 

「「………………」」

 

 だが、2人共…身動き一つさせない。というよりも2人から発せられる鬼気迫る気配にギャラリーの誰もが静まり返っていた。

 同じ転生者で、お互いにそのことを知っている。しかし、経験した修羅場はどっちもどっちと言えることから、これが模擬戦だとわかっていても、2人は互いにどれだけ腕が上がったのか、上限はどのくらいにまでなったのか…無意識のうちに考えており、それが気配となって周囲に独特の緊張感を生んでいたのだ。

 

「………ぁ…」

 

 すると、誰かが耐えきれず声を漏らし、持っていた物を落としてしまう。

 

コトン…

 

 小さな音だったが、対峙している2人にはそれだけで十分だった。

 

「「ッ!!」」

 

 リオとネクサスは同時に身体強化を施した肉体で駆け出し…

 

バコンッ!!

 

 木製の片手剣と片手半剣がぶつかり、鍔迫り合いになったかと思えば、ネクサスが持ち直したダガーをリオ目掛けて繰り出す。それをリオは顔スレスレで躱すと、ネクサスの腹を蹴って先程のネクサスのようにバク宙の要領で後ろに跳ぶ。

 蹴られたネクサスは特に気にした様子もなく、低い姿勢でリオへと突進して着地の瞬間を狙う。

 

「フッ!!」

「ハァッ!!」

 

 リオのバク宙で得た遠心力を利用した下からの斬撃とネクサスとの上段からの斬撃は一瞬だけ拮抗するものの、遠心力を加えたリオの方が勢いが勝っていたのか、ネクサスを軽く吹き飛ばす。

 だが、ネクサスは吹き飛ばされながらもダガーをリオに投擲しており、リオもそれを難なく片手半剣で払い落とす。

 そこから互いに地面に着地すると、再びリオもネクサスも同時に駆け出すが…。

 

ヒュッ!!

 

 ネクサスは駆け出すと同時に自ら片手剣をリオに投擲した。

 

「ッ!!」

 

 リオは少し驚いたものの、冷静にネクサスの投げた片手剣を薙ぎ払う。

 

「シュッ!!」

 

 その僅かな隙を突いてネクサスは加速し、リオの懐に入ると右拳でリオの腹部を殴りつける。

 

「ぐっ!?」

 

 身体強化している拳を受けながらも後ろに跳んで威力をある程度殺したリオだが、続くネクサスの後ろ回し蹴りを片手半剣で防いでいた。

 

「ちっ!」

 

 軽く舌打ちしながらネクサスがすぐさま体勢を立て直そうとするが、それを許すほどリオも甘くはなく…

 

ガッ!!

 

 リオが空いていた左拳でお返しとばかりにネクサスの腹部を殴る。

 

「っつ…!!?」

 

 体勢が悪かったこともあり、まともに喰らったネクサスは地面をバウンドしながら吹き飛ぶのを見てリオが追撃しようと着地と同時に駆け出す。

 

ヒュッ!!

 

 だが、ネクサスはバウンドしながらも地面に落ちていたダガーを拾い、遠心力を加えて投擲する。

 

「っ!」

 

 流石にリオも迎撃せざるを得ず、ダガーを片手半剣で弾く。その間に、ネクサスも体勢を立て直して立ち上がる。

 片や武器を持ったまま、片や武器を捨てるのも厭わない戦法の応酬に広場に集まったギャラリーは固唾を飲んで見守っていた。

 

「ふぅぅ…」

 

「はぁぁ…」

 

 お互い、同じタイミングで深呼吸を挟んで息を整える。どちらもまだまだ体力と余力を残していそうな雰囲気だった。

 

「「………………」」

 

 お互いにそれなりに手の内を知っていて、尚且つこうして何も考えずにぶつかり合っているせいか、2人の口角が少しだけ上がって笑みを浮かべているようにも見えた。

 しかし、これ以上長引くのはお互いにベストではないと考え、それぞれ足に力を込めていた。

 

「「………………」」

 

 そして…

 

バッ!!

 

 再三、2人同時に駆け出して互いに距離を詰めると…

 

「「………………」」

 

 ネクサスの手刀がリオの首を正面から捉え、リオの片手半剣がネクサスの首筋に当たる寸前でそれぞれ止まる。

 

「り、両者…ひ、引き分け!」

 

 ウズマの宣言が響き、ギャラリーのあちこちからホッとしたような吐息が漏れる。

 

「引き分け…」

 

「みたいだな…」

 

 どちらともなく手刀と片手半剣を引くと、リオもネクサスも顔からブワッと汗が噴き出る。どちらも真剣だったため、今になって疲労が出たのだろう。ネクサスはその場にへたり込み、リオもその場で片膝を着く。

 その様子に観戦してた同居メンバーとウズマ、アースラが近寄ってくる。

 

「どちらも鬼気迫るものじゃったのぉ。見てるこっちが冷や冷やしたわい」

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「ネクサスさんも、大丈夫ですか?」

 

 アースラの言葉に続いて、ラティーファがリオ、サラがネクサスに声を掛ける。

 

「平気平気。まぁ、この後にウズマさんとの模擬戦もあるけど、何とかなるっしょ」

 

「俺もサラさんとの一戦が控えていたので、力をセーブしようと思ったんですが…ネクサスが相手だと、どうも…」

 

 2人して微妙な苦笑いを浮かべ、そのようなことを言い合う。

 

「あんな戦いをしておいて、次の模擬戦も視野に入れていたのか?」

 

 ウズマが驚いたように2人を見る。

 

「えぇ、まぁ…」

 

「ただ、これが人間族の普通だと思わないでほしいですけどね」

 

 リオは微苦笑しながら答え、ネクサスも自分達が規格外なだけだと暗に伝える。

 

 

 

 そうして残りの模擬戦も消化していき、全ての模擬戦が終わる頃には日が暮れそうになってしまっていた。

 流石に模擬戦の疲れもあるだろうと夕食の準備はオーフィアとフレイシアスに任せ、他の同居メンバーはリビングで寛がせてもらっていた。

 

「あ、サラ」

 

 すると、ネクサスは皆の前でサラに声を掛けていた。

 

「なんですか?」

 

「さっきは悪かったな」

 

 ネクサスはサラに改めて頭を下げていた。

 

「えっと…さっきというのは…?」

 

 サラも突然のことに目をパチクリさせる。

 

「最初の模擬戦の時だよ。怖がらせたみたいだったからな。その謝罪だ」

 

「怖がる…?」

 

 警戒はしてたが、怖がるというほどでもなかったような気が…と思っていたサラだが、ネクサスの眼からは違ったものが見えたらしい。

 

「あの時、サラは俺の急所に寸止めして勝負を決めようとしたろ?」

 

「え? えぇ、確かにそのつもりでしたけど…」

 

「昔の癖でな。そういうとこを狙われると、ピンポイントで殺気を飛ばしちまうんだよ。しかもそれなりに強いやつを…無意識にやっちまったみたいだから、改めて謝りたくてな。本当、すまなかった」

 

 苦笑しながらもネクサスは再度サラに頭を下げて謝罪していた。

 

「いえ、私も驚いただけですから、大丈夫ですよ。でも、昔の癖、ですか? それってどういう…」

 

 サラが謝罪の言葉を受け入れ、質問を返す。

 

「なに、昔奴隷だった頃の名残さ」

 

「ぇ…?」

 

 そのネクサスの何気ない一言にサラの思考が止まる。

 

「その辺もコントロール出来るようにしないとな。子供相手にこんなことしたら泣かれちまう」

 

 ネクサスは笑い話だとでも言うように話を続けるが、サラの耳には入ってなかった。

 

(ネクサスさんが…奴隷、だった…?)

 

 サラの頭は今、そのことで一杯になっていた。

 

「ま、楽しくもない話だから、あんま気にしないでくれ。って、サラ?」

 

 ネクサスはそう言ってからサラの様子を見ると、心ここに在らずといった感じなので、声を掛けるが…

 

(ネクサスさんが、ラティーファと同じような境遇を…?)

 

「お~い、サラ~?」

 

 思考の海に浸るサラにネクサスの声は届かなかった。

 

 

 

 その後、サラは就寝するまでどこか上の空だった。

 「何かマズいことでも言ったか?」とネクサスは首を傾げるが、その答えは出ないままだった。

 それが何を意味するのか、それはきっと本人にしかわからないだろう。

 それに気づいた時、彼女はどうするのか…?

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