リオ、ネクサス、サラ、ウズマによる模擬戦が終わった数日後。
リオとネクサスが行っている早朝と深夜の訓練にサラ達が混ざるようになっていた。
そして、まだ寝てる人が多い早朝での訓練のこと。
「サラ。そろそろ休憩しないか?」
「ま、まだまだやれます!」
「やる気があるのはいいが…無理は禁物だぞ?」
「無理はしてません! せめて少し掠るくらいには…!」
今、サラはネクサスと手合わせしており、息が荒くなってきたサラに息がほとんど乱れてないネクサスが休憩を持ち掛けたが、どうにもサラはまだ続けたい様子だった。ちなみにリオは朝が弱いのか遅れてやってくることの多いアルマやラティーファの面倒を見ていた。
(やれやれ、熱心なのは良いことだが…負けん気が強いのかね?)
ネクサスは軽く肩を竦めながらサラの大振りな突きを躱すと、突きを放った方の腕を掴み、軽い足払いで体勢を崩すとそのまま投げ飛ばしてしまう。しかし、サラはその高い身体能力で空中でクルリと身体を回転させて地面に着地する。
「お見事」
その華麗な着地に賛美を送るが…
「こ、このくらい普通です」
サラは簡単に投げられたこともあって素直に受け入れることはなかった。
余談だが、里の戦士達の戦闘スタイルは、未開地という人間族が滅多に来ないのと、同族同士で争うことなく穏やかに暮らしているためか、自然界に生息する生物を相手取ることに特化し過ぎていた。なので、対人戦闘は試合形式の模擬戦でしか経験がなく、それも個々の身体能力の高さから技術よりも力押しで制する傾向にある。精霊の民の身体能力は人間族よりも遥かに高く、精霊術で身体強化を行えば、それだけで優位となりえるため、良く言えば勇猛果敢、悪い言い方だと猪突猛進になりやすい。そういう事情もあり、単純な力やスピードに頼った戦い方を好むようだ。
だからこそ、先日行った模擬戦で見せたリオやネクサスの戦い方は少し珍しがられていた。
そうして朝の稽古が終わり、皆でオーフィアとフレイシアスの作ったサンドイッチで朝食を取る。
「はぁ~…今日もリオさんやネクサスさんに攻撃を当てられなかった…」
サラがわかりやすく落ち込みながらサンドイッチを食べていた。心なしか、狼耳もいつもより萎れてるような気がしないでもない。
「そう気を落とすなよ。俺達とサラ達とじゃ対人戦での心構えや経験値が違うんだし、何よりそんな簡単に成長されたら俺達の立場もないしな。徐々に改善してけばいいのさ」
ネクサスがそう言ってサラの頭をポンポンと、まるで子供に言い聞かせるような感じで撫でる。
「っ!?///」
頭を撫でられ、ボンッと音を立てそうな勢いで顔を真っ赤にするサラ。が、撫でられて驚いたせいでサンドイッチが喉に詰まりそうになって慌てる。
「はい、サラちゃん。お水です」
そこにフレイシアスが水の入ったサラのカップを手渡し、それを受け取って飲み下す。
「ネクサス。サラさんが驚いてるだろう?」
「っと、悪いな」
リオに注意され、ネクサスも少し無遠慮だったかと反省しながら謝罪する。
「い、いえ…ちょっと驚いただけですから…///」
サラも平静を装って大丈夫だと答える。顔の赤みは全然引いてないが…。
「そうだ。リオさん、ネクサスさん、2ヵ月後に精霊大祭があるのはご存じですよね?」
話題を変えるため、オーフィアが思い出したようにリオとネクサスに尋ねる。
「えぇ、伺っていますよ」
「あぁ」
2人が頷くのを見て…
「実は…最近、お2人の作った料理が里の上層部の家庭で評判になっているんですよ」
「え? そうなんですか?」
「ほぉ? そりゃ知らんかった」
オーフィアの言葉にリオは目を丸くし、ネクサスも興味深そうな表情を見せる。
「はい。前に長老会議の昼食をシアちゃんと一緒に作らせていただいたんですけど、その時に作った料理がお2人から教わった料理だったんです。それが大好評で」
「はい。皆さん、大変喜んでいました」
フレイシアスも当時のことを思い出したのか、微笑みながら答える。
「なるほど」
「で、それと精霊大祭がどう関わってくるんだ?」
リオが納得して頷いたところで、ネクサスが疑問を投げる。
「精霊大祭の後に晩餐会が開かれるんですけど、そこでお2人の教えてくれた料理を作ってみたいなと思いまして」
「不躾なお願いだと承知してますが、お2人に里の女性達にその料理をお教えしてはいただけないでしょうか?」
オーフィアとフレイシアスの言葉にリオとネクサスは顔を見合わせると…
「えぇ、構いませんよ」
「いつも世話になってるしな。問題ない」
軽く頷き合ってからそう答えていた。
「ありがとうございます! それじゃあ、近日中に料理教室を行わせていただきますね」
「詳細はまた後日お伝えします」
2人からの承諾を得てオーフィアは喜び、フレイシアスも嬉しそうにしながらお辞儀していた。
………
……
…
精霊の民が暮らすこの里には、ユーフィリア大陸の古今東西を原産とする様々な食物が栽培されている。元々、精霊の民は大陸各地に散らばって住んでいたが、人間族からの迫害という形でこの未開地へと移り住むことになった歴史がある。そのため、移住の過程で各地から様々な食物が持ち込まれていた。
精霊の民は高度な農業技術を持っていたのに加え、大樹の精霊であるドリュアスが管理する大森林は植物にとっては天国のような土壌であり、あらゆる作物が最高の状態で生長するのだ。
その恩恵は里で暮らし始めたリオやネクサスにも十二分に授かっていて、修行が休みの日などは2人揃って料理研究に没頭することもあった。リオもネクサスもお互いに作れる料理…もっぱら前世でレシピを覚えているもの…を出し合い、味の好みや改善点などを指摘し合っていた。
そこに世話役を仰せつかった4人の中でも、特に料理が得意なオーフィアとフレイシアスが加わり、それぞれリオとネクサスは精霊の里の美食料理を、オーフィアとフレイシアスは2人の作り出す地球産の料理を教え合うような関係になっていた。
そういうわけで、リオ達が暮らす家では、双方の料理が食卓に並ぶことが多く、時折アースラや一部の長老陣が来訪することもあり、リオやネクサスの料理に舌鼓を打つこともあった。それが次第に噂となって広まっていき、遂に長老会議でオーフィアとフレイシアスが地球産の料理を提供したのだが…。
結界はかなりの好評であり、2人に料理教室を開いてほしいとの話に発展する。それが先日のオーフィアから挙がった話題である。2人共、承諾したので料理教室が開催されることになったのだが…。
料理教室当日。
参加者は若年層の女性が主体で、総勢で50名は超える規模になっており、里の公民館にある大調理場にはエプロン姿の女性陣が集まっていた。
「………………」
「リオがいてくれて、ホントによかったよ」
その中に男が2人だけ、という状況にリオはしばし絶句していたが、ネクサスはリオの隣で苦笑いを浮かべてそんなことを言っていた。
「…そうだな」
リオも自分1人ではないのだと意識して気を引き締める。引き受けたからにはしっかりと役目を果たす、という気概で…。
「ホント…リオって真面目だよな」
そのリオの姿勢にネクサスは引き続き苦笑いを浮かべていたが…。
そうして始まった料理教室。リオとネクサス以外では、同居してて料理も教え合っているオーフィアとフレイシアスが2人のアシスタントとして手伝っていた。手伝うと言っても、それぞれバラけて、グループごとの調理台で料理を作る作業を見守り、質問や行き詰っていたらその都度近くにいる誰かが解決していくスタイルだ。
それからしばらくして料理が続々と出来上がり、ダイニングで料理を待つ男性陣の元へと運ばれていく。
リオやネクサスもグループの数が減っていくのを見ながら簡単な片付けと余った食材の回収を行っていき、自分で食べる分の料理を作ることにした。ちなみにこの時点でオーフィアとフレイシアスもサラ達のグループに合流していたりする。
「リオはなに作るんだ?」
片付けをしながらネクサスがリオに問う。
「ん~…この食材なら…オムライス的なのかな?」
「そっか」
「そういうネクサスは?」
逆にリオもネクサスに尋ねると…
「俺はTKGだ!」
自信満々に言うネクサスに…
「………料理か? それ」
もっともな疑問を投げかけた。
「堅いこと言うなって。俺なりにアレンジするから問題ないし」
「……まぁ、そういうことなら…」
ネクサスの言い分にリオは微妙な表情をしながらも自らの作業に移る。
そうしてそれぞれ作った料理を手に移動しようとした時、最後まで残っていたラティーファ達のグループともう一つのグループの少女達に呼び止められ、一緒に食事する流れとなった。
「ねぇねぇ、リオ君、ネクサス君。君達の持ってる料理はなんていうの? 実習では作ってなかったはずだけど…」
もう一つのグループにいた猫獣人の少女が興味深そうに2人の持つ料理のことを聞いてくる。
「あ、『オムライス』だ!」
ラティーファがリオの持っていた料理を目にして興奮気味に叫んでいた。
「オムライス。それもシュトラール地方の料理かい?」
「えぇ。
「ぁ…うん」
リオが偽りの回答をしつつ、ラティーファをチラッと見るとラティーファも曖昧な相槌を打っていた。
(はぁ…やれやれ…)
リオが内心で嘆息していると…
「俺のは至ってシンプル。卵をご飯にかけて混ぜただけだ」
何故か得意げというか自信満々に自らの料理(?)を説明するネクサス。
「え、それって料理なの?」
猫獣人の少女からもリオと同じような疑問をぶつけられ…
「ちっちっちっ。たかが卵をかけて混ぜただけだと侮るなかれだ」
そう言うとネクサスは魚介スープをベースに、細かくした鳥肉や薬味を加えて作ったあんかけを見せる。
「こいつを上に乗っけてさらに掻き混ぜる。素材の味を引き立たせるにはこれが一番なんだぜ?」
「素材の味?」
「そうさ。これがちょっとした贅沢ってもんさ」
ネクサスの説明を聞いても、猫獣人の少女は何とも微妙な表情を見せていた。
「ネクサスのことはほっておいて、食事にしましょうか」
リオが呆れたようにこの場にいるネクサス以外の人にそう言う。
「リオさんや。少し冷たくないかね?」
そんなリオを追ってネクサスが少し追及するも…
「気のせいだろう」
リオはキッパリと言い切った。
「まぁ、前々からあしらわれる時は似たような感じだし、今更か」
当のネクサスも本気で気にしてる訳でなさそうだった。
(この2人…いつもこうなの?)
その様子に同居メンバー以外の少女達も少し目を丸くしていたが…。
まぁ、リオのネクサスへの扱いはともかくとして、食事は楽しいひと時となっていた。
「それにしても、リオ君も、ネクサス君も、サラ様達から聞いてた通りの子みたいで、お姉さんはちょっと安心かな?」
猫獣人の少女…『アーニャ』というらしいが…コロコロとした笑みを浮かべてリオとネクサスを見る。
「どのような風に伝わっていたのでしょうか?」
「そういや、傍から見ると俺達ってどういう印象なんだろうな?」
アーニャの言葉に興味を引かれたのか、リオとネクサスが食事の手を止めてアーニャを見る。
「そうだね~。リオ君もネクサス君も格好良くて、強くて、私達の言葉を覚えてくれるくらい頭が良くて、精霊術の腕も凄いってのがまず共通のベタ褒め要素でしょ? そこから2人の良いとこになると、リオ君は礼儀正しくて、優しいって評価で、ネクサス君は気さくで、なんだか頼り甲斐があるって評価だったかな~?」
楽しそうに語るアーニャに対し…
「あ、アーニャさん!///」
サラ、オーフィア、アルマ、フレイシアスの4名の頬が少し朱に染まり、代表してサラがアーニャに抗議する。
「なんだか、こそばゆいですね。お世辞でもそう言ってもらえるのは嬉しいです」
それを聞いたリオはそう答えるも…
「いや、リオ君。お世辞じゃないから…」
「リオは平常運転だな~」
アーニャが呆れたように呟き、ネクサスもそんなリオに苦笑していた。
(しかし、俺に頼り甲斐、ねぇ……まぁ、前世で妹とかの面倒なんか見てきたから、その影響かね? あんまそういう自覚はないけど…)
ネクサスはネクサスで自分の評価を客観的且つ自分なりに分析してから食事を再開し、少女達との会話に華を咲かせるのだった。
ちなみに…
(ん~…でも、ちょっと意外かな? サラ様も最初リオ君狙いかと思ってたんだけど…最近だと、ネクサス君の話が多い気がするんだよね~)
アーニャはアーニャでチラッとサラを見ると、サラは微妙にネクサスの方に寄っているような気がしていた。
(ふふっ。でも、まだ自覚はしてなさそう。はてさて、どうなるのかな~?)
アーニャは少し面白いものを見つけたように考えたが、すぐに食事を再開させるのだった。