精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第十三話『兄としての役目』

 精霊大祭があった日。

 未開地の西部にあるとある山脈地帯にて、ちょっとした出来事が起きていた。

 それはグリフォンを駆って2人の人物がシュトラール地方からこの地帯までやってきていて、とある洞窟を巣にしている生物の卵を盗み出していたのだ。

 その日の晩、それを知った巣の主の慟哭が周囲に響き渡っていた。

 ちなみに卵を盗み出した2人の人物は、精霊の民の里がある東へと逃亡していたのだった…。

 

………

……

 

 一方、精霊大祭を終えた翌日のこと。

 

「ふわぁ~…おはようさん、リオ」

 

「あぁ、おはよう。ネクサス」

 

 盛大な欠伸をしながらリビングにやってきたネクサスを先に起きていたリオが迎える。

 

「もう朝飯の準備か。手伝おうか?」

 

「いや、作ってるのはお粥だからそれほど手間でもない」

 

「そうか。ま、今朝は胃に優しい方がいいかもな」

 

 昨晩の宴特有の騒がしさを考え、ネクサスもリオの作る朝食のメニューには賛成だった。

 

「「………………」」

 

 しばらくして人数分のお粥を準備したリオはネクサスと共に先にお粥を食べていたが、特に会話らしい会話はなかった。

 

「なぁ、ネクサス」

 

「うん?」

 

 すると、リオの方からネクサスに声を掛けていた。

 

「……いや、ちょっと外に出てくる」

 

「そうか。ま、少しゆっくりしてくるといいさ」

 

 が、すぐに外に出る折を伝え、ネクサスに見送られながらそのまま玄関から外に出ていた。

 

「……そろそろ俺も決めないとな…」

 

 リオを見送った後、ネクサスは1人、そんなことを呟く。

 それから少ししてラティーファが起きてきて、ネクサスにリオのことを聞くと、家から飛び出すような勢いでリオを捜しに向かった。

 

「………………」

 

 それを見送った後、ネクサスはデッキに出て柵に両腕を乗せて身を預けると空を見上げる。

 

(おそらく、リオはそう遠くない内に里を出て、ヤグモ地方に行くだろう。その時、俺は…どうすべきかな?)

 

 選択肢は現状で思いつく3つがある。

 このまま里に残ってシンシアやサラ達と共に過ごすか、リオに同行してヤグモ地方に向かうか、はたまた里を出てどこか別の場所でひっそりと余生を過ごすか…。

 

 里に残る道を選べば、少なくとも生きることには不自由がないし、里の戦士として色々と手伝いをしながら過ごすことになるだろう。それはそれで充実した日々を送れそうだが…。

 

 里を出てリオに同行した場合、ヤグモ地方へと向かうことになるが、その後はおそらくリオは復讐のために動くことになるだろう。それを承知の上で同行すべきかどうか…。

 

 純粋に里を出て余生を過ごす場合、どこに住まいを構えるかによって大きく変わることになる。少なくともガルアーク王国は除外する。かと言って他の地域で暮らすとなると、余所者扱いで色々と大変になる。なら、未開地でひっそりと暮らすのもありと言えば、ありな選択肢だが…。

 

 ネクサスが思いついた選択肢を吟味していると…

 

「ネクサス殿!」

 

 突然、デッキの眼前にウズマが飛翔してきた。

 

「ウズマさん? 血相変えてどうした?」

 

「それが……サラ様達は?」

 

「まだ寝てるはずだが…?」

 

 そう言ってネクサスがリビングを見ると、まだサラ達の姿はなかった。

 

「すぐに呼んできてくれ。緊急の案件だ」

 

「わかった」

 

 そのウズマの言葉に頷くと、ネクサスは急いでサラ達を呼びに向かった。

 

(何かが、起きたのか?)

 

 そう思いながらもネクサスはサラ達を呼びに行き、ウズマの元へと戻ってきた。

 

「早朝から申し訳ありません。ですが、再び侵入者が現れたので、早急に対処しなくてはならなかったもので」

 

 『侵入者』。その言葉にサラ達の眠気が吹き飛ぶ。

 

「わかりました。すぐに準備して向かいましょう」

 

 サラ、オーフィア、アルマ、フレイシアスが準備を進める中…

 

「さて…なら、俺も行きますか。盟友とまで言われたんだ。このくらいは働かんとな…」

 

 密かにネクサスも準備を進め、サラ達とは別に動くことにしていた。

 

「………………」

 

 そこにシンシアが遅れてリビングにやってきた。若干まだ眠そうな雰囲気だったが…。

 

「シンシアは待機な。帰ってきた時に誰もいないんじゃ、寂しいからな」

 

「?」

 

 ネクサスの言葉にシンシアが首を傾げる。

 

 

 

 そして、サラ達を見送った後、ネクサスも里の外へと走り出した。

 その途中で…

 

「リオ?」

 

 広場で立ち尽くしているリオを見つける。

 

「どうかしたのか?」

 

 そんなリオにネクサスが声を掛ける。

 

「ネクサス……俺は…」

 

「? そういや、ラティーファちゃんは? お前さんを捜しに出てったはずだが…」

 

 不思議そうにネクサスが辺りを見回すが、ラティーファの姿はなかった。

 

「何か、あったのか?」

 

「……実は…」

 

 そこでリオはネクサスにラティーファにこの里を出ることを伝えたこと、それを知ってラティーファが逃げてしまったこと、それを追うべきかどうかを考えていたことを話した。

 

「そうか…」

 

 話を一通り聞いたネクサスは…

 

バコッ!!

 

 リオを思いっきり殴りつけた。

 

「っ!? な、何を…!?」

 

「この大バカ野郎がッ!!」

 

 殴られたリオはネクサスに戸惑いの視線を向けるが、先にネクサスの怒号が響いてリオの胸倉を掴む。

 

「テメェはあの子の兄貴だろうが! 兄貴なら、妹を追わないでどうする! それで話が拗れようと、追うのが兄貴の役目だろうが! 義理の関係だとしても、兄貴なら兄貴らしい振る舞いをしろ!!」

 

「…ッ」

 

 ネクサスが怒鳴るのは、初めてかもしれない。前世で双子の妹がいた関係上、ネクサスは妹想いな部分があった。だから、リオとラティーファの…義理とは言え、兄妹の関係を見て微笑ましく思っていた部分も少なからずあったし、どこか共感する部分もあった。

 しかし、リオの話を聞き、それでも追うのが兄の役目だと説いた。それは、もう2度と自分があの双子の妹達には出来ない行いだと…永遠に寂しい思いをさせてしまった、『忍』としての心からの叫びだった。

 

「今は緊急事態の真っただ中だ。急いでラティーファちゃんを追え!」

 

「緊急事態?」

 

「侵入者だと…何が起きるかわからん以上、お前はラティーファちゃんを急いで捜せ!」

 

「ッ…ラティーファ!」

 

 それを聞き、リオがネクサスの手から解放されると、すぐにラティーファが逃げた方へと加速した。

 

「兄貴としての行動が遅いんだよ。バカが…」

 

 そう呟くと共にそれを見上げ…

 

『俺はもう…妹達(あいつら)を追うことさえ出来ないんだよ…』

 

 日本語で、どこか悲しい声音で…小さく呟いていた。その頬には一筋の跡が残っていた。

 

………

……

 

 一方、里の周辺を調査していたサラ達を含めた里の戦達は不審な人間族の少年を見つけた。

 彼は何かの卵を抱え、その傍らにはグリフォンがいた。

 半年前の反省(リオ達との遭遇)を踏まえ、サラが交渉しようとするも、少年はグリフォンに跨り逃走を図る。しかし、空を飛べる里の戦士達が追い掛ける最中…"それ"は突然やってきた。

 

 ワイバーン。

 亜竜の中でも純粋種の竜に最も近いとされる種類の飛竜の群れがやってきたのだ。

 おそらくは少年の抱えていた卵の…。

 

 ウズマを筆頭とした里の戦士達は飛竜の群れを相手取ることにし、残ったサラ、オーフィア、アルマ、フレイシアスは群れのリーダー格と思われる大型の個体『ブラックワイバーン』を相手取ることとなった。

 しかもブラックワイバーンは空に1匹、地上に降りた1匹の計2匹がいた。

 

 空の個体は空を飛べるオーフィアとフレイシアスが担当し、地上の個体をサラとアルマが担当することになった。

 しかし、ここで問題が発生する。

 地上の個体が、その場に偶然居合わせたラティーファが卵を割ったとして怒りの咆哮を発し、それに呼応するように飛竜達が怒り狂ったのだ。

 しかもサラとアルマはラティーファを保護しながら戦う羽目になる。

 

 だが、ここで思わぬ援軍がやってくる。

 ネクサスに怒鳴られながらも意を決しててラティーファを追ってきたリオと、空を飛んできた(・・・・・・・)ネクサスだ。

 

「こいつは、またとんでもないもんが来たな…!」

 

「ネクサス様!?」

「ネクサスさん!?」

 

 ネクサスの登場に空で戦っていたフレイシアスとオーフィアが驚く。

 

「助太刀する!」

 

 言うが早いか、ネクサスは空中を縦横無尽に飛び回るブラックワイバーンに追いつき、その顎下を蹴る。

 

『グギャア!?』

 

「硬っ!?」

 

 ネクサスもそれなりの力を込めて蹴ったが、ブラックワイバーンは少し苦しげな鳴き声を漏らして仰け反ったくらいだ。

 だが、ブラックワイバーンもすぐさま炎のブレスを吐いてネクサスを迎撃する。

 

「おっと…!」

 

 風と氷の精霊術を掛け合わせた冷気でそのブレスを相殺する。

 

「流石に手強いな」

 

 飛竜の群れのリーダー格というのもあって、ネクサスもしばし考えるが…

 

「でもま。こういう手合いには…」

 

 そこでふと思い出したようにブラックワイバーンに向けて突貫する。

 

『グアアア!!!』

 

「一寸法師戦法だろ!!」

 

 口を開けて噛みつこうとしてきたブラックワイバーンの口内へと、わざと(・・・)入り込む。

 

「ネクサス様!?!?」

 

 その光景にフレイシアスの悲痛な悲鳴が木霊するが…

 

「中から爆ぜろ!!」

 

 口を閉じようとしたブラックワイバーンの喉へと右手を向け、ネクサスが炎の精霊術を繰り出すと共にその勢いを利用して口の中から飛び出る。

 

『グギャ…!?!?』

 

 その異物を吐き出そうとブレスを吐こうとした矢先…

 

「口は閉じてろ!!」

 

 ネクサスは口の中から飛び出て空中で回転しながらその遠心力を加えた踵落としでもってブラックワイバーンの口を強制的に閉じさせる荒業に打って出た。

 

『ッ!?!?!』

 

 内部で爆発でも起きたのだろう、ブラックワイバーンの怒りに染まった瞳からどす黒い血流が流れ、そのまま墜落する。

 それと時を同じくして、地上にいた個体もふらついて地へと倒れ伏すのだった。

 

「およ? 向こうも終わったのか?」

 

 そう言いながらネクサスが地上にいたブラックワイバーンのところまで降りると、そこには呆然とするサラとアルマ、それにリオとラティーファがいた。

 

「よぉ、リオ。そっちはお前さんがやったのか?」

 

「となると、さっき墜ちたのは…?」

 

「おう。俺が仕留めた」

 

 自信満々に胸を張るネクサスだが…

 

「ネクサス様!!」

 

 同じく地上に降りてきたフレイシアスがネクサスの名を呼びながら抱き着いてきた。

 

「ちょっ、シア!?」

 

 それに対し、呆然としてたサラが驚いたようにフレイシアスを見る。

 

「よかった…本当に…」

 

 フレイシアスは眼に涙を溜めながらネクサスの無事を確認していた。

 

「お前はお前で何をしたんだ?」

 

「ん? ちょっとあいつの口の中に飛び込んでな」

 

 リオの怪訝な視線を受け、ネクサスがさっきの自称『一寸法師戦法』の概要を軽く言うと…

 

「な、なんて危ないことをしてるんですか!?」

 

 今度はサラが声を荒げた。

 

「いやぁ~、外がダメなら内側からって言うじゃん? それに何ともないんだから別にいい…」

 

「「良くありません!!」」

 

 ネクサスは軽く言うが、それを聞いた途端、サラとフレイシアスから同時にお叱りを受ける。

 

「ネクサスさんはもっと自分を大事にしてください!」

 

「さっきの光景を見て心配するな、という方が無理です! 何を血迷ったのかと、本当に驚いたんですから!!」

 

 サラに続き、珍しくフレイシアスもかなり怒っている様子だった。

 

「いや、でもな? 結果的にはこうして無事な訳なんだし…」

 

「結果の問題じゃないです! 過程の問題です!!」

 

 そう言われてしまうと、ネクサスも次の句が告げられず、困ったように頬を掻く。

 

 そうこうしている内に飛竜の群れはリーダー格のブラックワイバーン2匹を失ったことで散り散りに退散していくのだった。

 そして、事の発端となった少年はと言うと…遂に発見は出来なかった。未開地の動物に襲われたのか、それとも逃げおおせたのか…いずれにせよ、こうなった真相は闇の中に消えてしまった。

 

………

……

 

 翌日。

 リオはラティーファと共に朝から出掛けていた。

 

『雨降って地固まる、かね?』

 

 デッキから外を眺めていたネクサスが夕方になって帰宅してきたリオとラティーファを見ながら日本語で静かに呟く。様子を見る限り、もっと仲が良く…いや、確かな絆が育まれていたように見え、ネクサスは優しい笑みを浮かべていた。

 

(夜琉(よる)雪絵(ゆきえ)…俺がいなくても元気で、そして強く生きてくれ。俺もこっちで頑張るからよ)

 

 心の中で前世の双子の妹達へと届くはずもないメッセージを送ると、ネクサスはそのままリビングの方へと歩いていった。

 

(俺も、そろそろ本気で身の振り方を考えないとな…)

 

 そう考えながら、帰ってきた2人を出迎えるべく玄関の方へと向かう。

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