精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第十五話『ヤグモ地方』

 リオとネクサスが里を発ち、早1週間が過ぎようとしていた。

 精霊術で空を飛べるようになり、それなりの飛行速度で飛んでいたため、そのくらいの期間でヤグモ地方へと辿り着いてしまった。

 

 しかし、問題はここからだった。

 というのも、リオの目的の1つ。即ち、両親の軌跡を探す、とは言うものの、リオは両親の名前しかわからず、具体的な出生地も教えられていない。幼い頃にした母親との約束を胸にこの地までやってきた、と言っても過言ではない。

 それにヤグモ地方にも大小30以上の国があるので、その中から目当ての国を特定するにも困難だった。

 

 それでもリオは諦めることなく、根気強く情報収集して西方面の国から順に回っていた。

 その間、ネクサスはと言うと、そんなリオに同行し、時に別行動をしてリオのご両親の名前に聞き覚えはないかと同じく情報収集を手伝っていた。

 しかし、1人よりもマシとは言え、たった2人で行う聞き込み調査には限度というものもある。

 

 そうこうしている内にヤグモ地方に着いてから早2ヶ月の月日が流れることになる。

 

………

……

 

 現在、2人は西寄りに位置する大国『カラスキ王国』という国の空を飛んでいた。

 

「あの村か…」

 

「らしいな」

 

 2人は手分けしてリオの両親の手掛かりを探していたが、これまで通り収穫はあまり期待できなかった。しかし、リオが1つ手前の村の村長に聞いたところによると『ユバ』という人物がこの辺では顔が広く、何かを知っているかもしれない、とのことだった。リオは別の村で聞き込みをしていたネクサスと合流すると、その『ユバ』という人物が村長をしている村へと向かうことになった。

 

「ん~…見る限り、良い感じの村じゃん」

 

 空を飛び、遠方からその村を観察していたリオにネクサスがそんな感想を漏らす。

 

「そうだな」

 

 リオもそこには同意していた。

 

「ま、これだけ外れを引いたのに自棄にならないお前さんには脱帽だがな?」

 

「言ってろ。そろそろ降りよう」

 

「了解だ」

 

 今までもそうだが、村のど真ん中でに着地して無駄な騒ぎを巻き起こすことはしていない。なので、2人は村から少し離れた西の街道に着地すると、村へと向かって歩き出す。

 村の周りは木の柵で簡単に囲われているが、入り口に見張りの人がいないから自由に出入りが出来る。ただ、農作業をしている村人からは外からの来訪者が丸わかりになるので、注目されるのは常だ。しかも部外者というのもあって警戒されるのも当然と言えた。

 

「ま、いつものことだわな」

 

「ネクサス」

 

「はいはい、わかってますよ」

 

 リオとネクサスがそんなことを言い合いながら一礼してから村の入り口を通り、村長宅のある中心地へと歩を進める。

 すると、脇の畑から質素な服を着た2人の少女がおずおずとリオとネクサスに近付いてきた。どちらも10代半ばで、片方は年上…おそらくはネクサスと同じくらいか?…の少女と、その少女よりも2、3年下くらいの少女だ。

 

「えっと、うちの村に何かご用でしょうか?」

 

 年上の少女の方が2人に尋ねてきた。

 

「初めまして。私はリオと申します」

 

「どうも。俺はネクサスだ」

 

 ヤグモ地方の言葉でリオもネクサスも軽い挨拶を行う。

 実はリオもネクサスもヤグモ地方の言葉は精霊の民の里で学習済みで、後はこの2ヶ月間の聞き込み調査という実地訓練で鍛えて日常会話に支障が出ないくらいには上達していた。

 

「実は、人捜しの旅をしていまして。この村の村長さんはご在宅でしょうか?」

 

 それでもまだ少し発音がぎこちないが、このくらいなら誤差の範囲内とも言えるくらいには流暢に聞こえる。

 

「あ、えっと…ど、どうも。ご丁寧に…旅人さんですか? 村長ならおります、です? えっと…ご案内しましょうか?」

 

「あはは、そうかしこまらないでくれ。こいつの口調はこれが素でな。ド丁寧だから、相手も緊張しちまうことがたまにあるんだよ。案内してくれるなら、頼みたいけど…大丈夫だったか?」

 

 年上の少女がリオの言葉遣いを聞いて、慣れてないだろう言葉遣いで聞いてくるのを見てネクサスが助け舟を出す。

 

「あ、はい。案内だけならすぐなんで…こちらです」

 

「ありがとさん」

 

 ネクサスが年上の少女とフランクな会話をしていると…

 

「………………」

 

 年下の少女はどこかボーっとリオの顔を見ていた。

 

「? どうかしましたか?」

 

 リオが年下の少女に尋ねると…

 

「……へ? あ、いえ、その…! な、何でもないです!」

 

 年下の少女が頬を赤く染め、ブンブンと勢いよく頭を左右に振った。

 

「サヨ? 何してるの? 一緒においで」

 

「う、うん! ルリさん!」

 

 『ルリ』という年上の少女の呼びかけに、『サヨ』と呼ばれた年下の少女が追い掛ける。その背を追ってリオとネクサスも再び歩き出す。

 ただ、村長宅までの道中は微妙な雰囲気が支配していた。サヨの方はチラチラとリオを見ており、ルリの方もサヨ程ではないにしろ、後ろの2人を見ていた。

 

(ん~、サヨって娘の方はリオに一目惚れでもしたのかね?)

 

 ただ、ネクサスからしたら下世話な発想を思い浮かべてしまったが…。

 

(余所者が珍しいのかな?)

 

 かく言うリオも別方向の勘違いをしてそうだが…。

 

 そうして4人が村長宅に辿り着くと…

 

「お婆ちゃん、お客さんだよ! なんか人を捜してるんだってさ!」

 

 ルリが大きな声を出して家屋の中へと入っていく。

 

「ルリ。うるさいよ。そんな大きな声を出さなくても聞こえとる。……おや?」

 

 ややあって1人の老婆が奥から現れる。玄関に突っ立っているルリとサヨの背後に控えているリオとネクサスを見て、スッと眼を細める。

 

「初めまして。私はリオと申します。村長様に少しお話を伺いたく、参上しました」

 

「初めまして。俺はネクサス。リオの旅の相棒ってとこです」

 

 リオから自己紹介をし、ネクサスも続く形で軽い感じの自己紹介を行う。

 

「ほぉ、随分と礼儀正しいね。それにしては見慣れない格好で、少し訛りのようなものもある。ふむ…2人共、余所の国の者かい?」

 

 老婆は素性を探るかのようにジロリと2人を見る。

 

「えぇ、この国の者ではありません」

 

「訳あって色んな国を巡ってましてね。ここにも相棒の目的のために来た次第ですよ」

 

 リオが頷き、ネクサスが簡単な事情を話した。

 

「ねるほどねぇ。っと、申し遅れたが、私はユバという。知った上でここにきてるんだろうが、一応この村の村長をしているよ」

 

「よろしくお願いします」

 

 老婆…『ユバ』の言葉にリオがお辞儀する。ネクサスも軽く会釈していた。

 

「ま、よろしくするかはともかく、立ち話もなんだ。ルリ、サヨ、茶でも淹れてきな」

 

「は~い! 行こ、サヨ」

 

「は、はい」

 

 ユバに言われて、ルリとサヨは台所に向かい…

 

「アンタ達は居間に上がるといい。…よいしょ」

 

 リオとネクサスは居間に上がるように言われる。ユバは囲炉裏の前に敷かれた座布団に腰を下ろす。

 

「「失礼します」」

 

 リオとネクサスは履物を脱ぎ、フード付きの外套を脱ぐと、丁寧に畳んで横に置き、装備してた武具…リオは鞘に収まった剣、ネクサスは2本1組の鞘に収まったダガー…を畳んだ外套の横と上に置いてユバの対面に座る。

 

「外套の下はこの辺りじゃまったく見ないものだね。剣や短剣も立派だが、変わった形をしている。どうやら、本当にこの国の人間じゃないみたいだね」

 

「えぇ。武器にしろ、装束にしろ、この国で作られたものではありませんからね」

 

「ま、流石に目立つんで、普段は外套を羽織って隠してるんですが…どうにもそれでも目立っちまってね。俺の場合、この髪色もあると思うんですが…」

 

「確かに、2人してそんな格好してたら目立つだろうね。それに、銀に黒が混じってるのかい? この辺じゃ見かけない色の髪だし、それに瞳の色も異なるようだし…」

 

「たはは。これは生まれつきでして。ま、自分としてはわりと気に入ってるんで気にしてないんですが…」

 

「そうかい。ちょっと踏み込み過ぎたかね。茶も出てきたし、そろそろ本題に移ろうか」

 

 そんな風に軽い世間話をした後、ルリがユバとネクサスに、サヨがリオに茶をそれぞれ差し出すと、2人は居間の隅に移動していた。

 

「実は…私が、亡くなった両親のことを知っている人を捜しています」

 

「この村に来たのも、近隣の村でユバ殿が一番顔が広いという情報を頼りに来た次第でして。詳しい話はやはり当事者のリオから…」

 

 リオの言葉に、ネクサスがこの村に来た簡単な経緯を説明する。

 

「ふむ、なるほど…」

 

 ユバも用向きを理解したのを確認し、リオが話を続ける。

 

「父と母は少なくとも15年以上前にヤグモ地方のどこかで暮らしていたと思うのですが…詳しいことまでは私も知らないのです。ユバ殿は、『ゼン』と『アヤメ』という名に聞き覚えはおありですか?」

 

 リオが両親の名を口にした時…

 

「……ゼンに、アヤメ……だって…?」

 

 ユバはハッと目を見開き、素早く顔を上げるとリオの顔をまじまじと見つめだす。

 

「……ご存じ、なのですか?」

 

 その反応にリオも目を見張って尋ねる。

 

「あ、いや…その2人の特徴を詳しく聞いてみないことにはなんとも…。ルリ、サヨ。少し話が長くなりそうだ。アンタ達は作業に戻りな」

 

 少し狼狽えた様子で返事を濁すと、近くで聞いてたルリとサヨに命じた。

 

「えぇ~…なんでさ?」

 

「人様の身の上話に無闇に首を突っ込もうとするんじゃないよ。いいから、早く行きな。あと、今ここで聞いたことは村の連中には言うんじゃないよ?」

 

「は~い。ちぇ、ちょっと面白そうだったのに…行こ、サヨ」

 

「う、うん」

 

 ユバの反論を許さぬ物言いにルリは口を尖らせるが、すぐにサヨを連れて外へと出て行った。

 

「それで、そっちの…ネクサスだったかい?」

 

「あ、俺も出てった方がいいです? それなら、別に構わないですけど…」

 

 ユバの矛先が自分に向かったのを感じ、ネクサスが自ら退室を申し出たが…

 

「いえ、ユバ殿。ネクサスにはある程度、事情を話しているので…」

 

「リオ。いいのか? 俺がいることでユバ殿も話しにくいかもしれないぞ?」

 

「今更だろう? それにネクサスにも聞いていてほしいんだ」

 

「とは言えな…」

 

 ネクサスはチラッとユバの方を見る。

 

「……いいだろう。お前さんがそこまで信頼を置くなら、私もこのまま話を続けよう」

 

「ありがとうございます」

 

 ユバのお許しが出たことにリオが頭を下げる。

 

「それで、アンタの両親のことを詳しく聞かせておくれ」

 

「わかりました」

 

 そして、リオはユバに両親のことを話した。主に母から聞いた話だったが、それでもリオは両親の特徴や母親との暮らしも語った。両親の死も…。

 それらを聞いたユバの反応は…

 

「ありがとう。辛いことを思い出させちまったね。……間違いない。2人共、私が知っている人物だ。言われてみれば、確かにアンタには2人の面影がある。……いけないね。歳は取りたくない。いや、歳を取ったからこそ、アンタに出会えたとも言えるか」

 

 そう語るユバの表情は、やるせなさと申し訳なさが同居したような複雑なものだった。

 

「失礼ですが…ユバ殿は、リオの…?」

 

 まだ少しだけ緊張してるリオに代わり、ネクサスがユバに尋ねる。

 

「あぁ。私は、ゼンの母で、リオの祖母に当たる。初めまして、と言うべきなのかね?」

 

「ぁ…その。初めまして…」

 

 どこかぎこちない空気が漂う中…

 

「よかったな、リオ。これで両親のこともわかるじゃないか」

 

 ネクサスがその空気を払拭すべく、リオの肩に手を置いて元気づけようとする。が…

 

「……すまないが…私の口から真実を告げれることは少ない。というよりも、今は難しい」

 

 しかし、他ならぬユバの口からネクサスの言葉が否定される。

 

「え? それってどういう…?」

 

 思わず、ネクサスがユバに問い掛ける。

 

「ちょっとした事情があるのさ。でも、そうさね。2人の墓には案内できるよ」

 

「墓、ですか? でも、2人は生きて…」

 

「その辺の事情も含めて色々とややこしくてね。いずれ話せる時が来るだろうが…今はまだ、といったところだね」

 

「そう、ですか…」

 

 それを聞き、リオはしばし考えた後、その事情も考慮して今は何も聞かないことにした。そして、2人の墓があるという村の北外れに位置する小高い丘へとユバに案内されるのだった。一応、ネクサスも同行している。

 

「ここが2人の墓さ」

 

 そこには名もない石柱が2つ並んでいた。手入れが行き届いているのか、小綺麗であった。

 

「……はい」

 

 その石柱の前にしゃがみ、リオは自然と手を合わせていた。

 

「………………」

 

 ネクサスもその背を見ながら黙祷を捧げる。

 

「いずれ、2人に何があったのかを話せる時もくるかもしれない。その時まで、この村で暮らしてみるかい?」

 

 ユバはそんな2人を見ながらそのようなことを言う。

 

「よろしいんですか?」

 

「アンタは私の孫なんだ。孫が祖母に遠慮なんかするもんじゃないよ」

 

 リオの疑問にユバはそう答える。

 

「俺まで厄介になっていいんですか?」

 

「孫の友達を野に晒すほど、私も鬼じゃないよ」

 

「そうですか。なら、お言葉に甘えますよ」

 

 その言葉にネクサスは図々しくもあやかるらしい。

 

「どうせ、1人2人増えたところで変わりゃしないしね。部屋も余ってるから問題ない。身内は戦争や流行り病で死んじまって、今はルリと2人暮らしなんだ。少しは男手も欲しいところさ」

 

「ルリ…あぁ、さっきの…」

 

 ユバの元まで案内してくれた少女の片割れを思い出す。

 

「うむ。ゼンの兄の娘で、リオの従姉妹に当たる。今年で15になるね」

 

「となると、俺と同い年でリオより一つ年上か」

 

 そのネクサスの何気ない一言にユバが驚く。

 

「驚いた。アンタ達、まだそんなに若いのかい?」

 

 そうして、2人はユバの村に滞在することが決まり、細かい取り決めは帰ってから打ち合わせることにしたが、ひとまずリオの素性は隠すことが大前提だった。

 その際、ユバへの呼称も『殿』から『さん』に変更していたが…。

 

「さて、私は戻るが、アンタ達はどうする?」

 

「俺はもう少しここに残ります」

 

「なら、俺はユバさんと一緒に戻るよ」

 

 リオは墓前に残ると言い、ネクサスはユバを送るついでに少し話しもしておきたかったので、ユバと共に村長宅へと戻ることにした。

 

 その帰る道中…

 

「ネクサス。リオは…色々と抱えてないかい?」

 

 ユバは唐突にネクサスに尋ねた。

 

「えぇ。本人のいないとこで話すのは躊躇われるけど…それなりにね」

 

 しかし、ネクサスもそれに応じる形で軽く話す。

 

「そうかい。時にアンタはリオとは付き合いが長いのかい?」

 

「いや、出会って1、2年程度の付き合いさ」

 

「そうなのかい? それにしては随分と気を許してるようにも見えるが…」

 

「あはは、お互いに色々と抱えてるんすよ」

 

 流石にそれが何かまでは話さなかったが…。

 

「そうかい…」

 

 それからしばし沈黙が支配するが…

 

「リオは…色々と自分で抱え込み過ぎなんですよ。それを見てられないって部分も少なからずありますけどね」

 

 ネクサスが独白めいたことを言い出す。

 

「………………」

 

 ユバは何も言わず、それに耳を傾ける。

 

「もうちょっと肩の荷を下ろして生きてもいいと思うんですが…あいつの想いを聞いた今だと、それをやめろ、とも言えなんですよ。だから、俺は俺なりにあいつを支えてやるつもりですよ」

 

「そうかい。ありがとよ。あの子には、良い出会いがあったようだ…」

 

「あいつにとってもそうであってほしいですけどね」

 

 ネクサスはそう呟き、それから他愛のないことを話していると2人は村長宅に着いていた。

 

 

 

 それから1時間程度してからリオが帰宅する。

 そこに事情を聞いたルリから「おかえりなさい」と言われ、少しだけ面食らったリオだが、「ただいま戻りました」と言い直して村長宅に上がるのだった。

 

 こうして2人の新たな生活が始まるのだった。

 このヤグモ地方で、彼等は何を経験し、何を知るのか…?

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