精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第十六話『朝の光景』

 リオとネクサスが村長宅に住まうことが決まって迎えた翌日。

 

「おはようさん、リオ」

 

「あぁ、おはよう。ネクサス」

 

 2人は日の出前に起床し、互いに挨拶をしながら居間へと向かっていた。

 

「おや。2人共、随分と早い起床じゃないか。おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはよう、ユバさん」

 

 先に起きていたユバが挨拶してきたので、2人も挨拶を返す。ユバは囲炉裏に火を入れ、座布団に腰を下ろしていた。

 

「今日から村の仕事のお手伝いをするわけですから、その前に朝食のお手伝いでもしようかなと」

 

「リオはマメだからな。かと言って俺も何もしないってのも悪いしな。俺も手伝いますよ」

 

「ふふ、そうかい。やる気があるのは大歓迎さ。期待してるよ?」

 

 そんな風に3人で会話していると…

 

「う~ん…お婆ちゃん、おはよ~」

 

 その声に3人がそちらを向くと、ルリが寝間着を兼ねた肌着姿のまま寝惚け眼で居間にやってきていた。リオは咄嗟に視線を逸らし、ネクサスはあちゃ~とでも言うように目元を手で覆い隠した。

 

「おはよう。ところで、アンタ……リオやネクサスがいるのを忘れとりゃしないかい?」

 

 ユバがくつくつとおかしそうにルリに言う。

 

「へ? ……あっ、っ!?///」

 

 ユバの言葉に一瞬何のことわからなかったようだが、2人の姿と自分のあられもない姿を確認したルリは顔を真っ赤にして…

 

「き、着替えてくる!!///」

 

 慌てたようにそそくさと自室へと戻っていく。

 

「いやはや、驚いた。まぁ、昨日の今日でいきなり対応しろってのも酷な話だけどな?」

 

 ルリが去った後、ネクサスがそんなことを呑気に言う。

 

「まぁ、ルリには良い薬さね」

 

 ユバは未だ面白そうにしていた。

 

(ま、精霊の民の里で暮らしてた時にも起きたハプニングだしな。リオもその辺は心得てるだろうが…この後の空気がな~)

 

 ネクサスは精霊の民の里で暮らしてた時のことを思い出す。ラティーファやサラ達と同居しているということは、つまるところそういうハプニングもあった。幸いと言うべきか、同居してた少女達は無闇に怒り散らす性格ではなかったものの、それでもその後の気まずい空気が居たたまれなかった記憶が強かった。

 リオはその空気に耐えていたようだが、ネクサスは空気を変えるように振舞っていた。

 

 それからルリが着替えて居間へと戻ってくると、当然のようにリオとネクサスにジト目を向けてきたが…。

 

「ところでユバさん。ここでの食事ってのはどうすればいいんだ? 村でのやり方を知っておきたいんだが?」

 

 この空気を変えるべく、いつものようにネクサスが動き出す。ユバに質問するという形でさっきのことは忘れようって魂胆だ。

 

「ん? そうさね。リオとネクサスは料理も出来るのかい? 朝食を手伝うとか言ってたが…」

 

「え、えぇ、任せてください」

 

「これでも旅をしてたからな。旅の間は交代したり、共同で作ってたんだぜ?」

 

 未だバツが悪そうなリオと、さっきのことを気にした素振りを見せないネクサスがユバの質問に答える。

 

「なら試しに今日の朝食はリオに頼もうかね。ネクサスは夕食にでも腕を振るっておくれ。ルリ、顔見せを兼ねて2人と一緒に朝の食材交換に行ってきな。村の女衆にこの子達を紹介してやんな」

 

「はい」

 

「うっす」

 

「え? う、うん、わかった」

 

 ユバがテキパキと分担を決めると、それぞれ返事をして支度する。

 

「あぁ、それとシンと一緒に来るよう、サヨにも伝えとくれ。朝食もうちで食べるといいってね」

 

「は~い。じゃあ、行こっか、2人共」

 

 追加の言伝も受けると、ルリは2人を連れて裏の家庭菜園へと向かう。

 

「村の中だと物々交換が基本だからね。まずは朝に家庭菜園で育ててる野菜を収穫して、広場に持って行くの。そこで他の家で育ててる野菜と少しずつ交換してもらって1日のご飯の材料にするんだよ」

 

「なるほど」

 

「お互いに支え合ってる感じがいいねぇ」

 

 ルリの説明を聞いてリオは納得し、ネクサスはそんな感想を漏らす。

 それから収穫を終えると、リオとネクサスが野菜を半分ずつ持ってルリの後を追って広場へと向かう。

 広場には既に村の若い女衆…10代前半から20代後半が中心…がちらほらと集まっており、朝の挨拶も含めた姦しい世間話をしていた。

 

(どこの世界も女子が姦しいのは変わらんのだな~)

 

 ネクサスがそんな風に広場の光景を観察していると…

 

「みんな、おはよう!」

 

 ルリがその輪に入ろうと元気よく挨拶していたのだが…

 

「あ、ルリ。おは、よう…?」

 

 ルリの背後にいる見知らぬ少年2人に女衆は硬直する。そして、女衆は一斉にルリへと説明を求める視線を向けた。

 

「えっと、この子達はリオとネクサス。こっちの黒髪の子がリオで、もう1人の方がネクサスね。リオの方はお婆ちゃんの古い知り合いの息子で、各地を旅してたんだってさ。その頃にネクサスとも出会ったらしくて、色々あって一緒にいるんだって。ちょっと見慣れない服装なのは、それが原因。しばらくの間、家で暮らすことになったから、みんなに紹介しにきたんだけど……ほら、リオにネクサスも」

 

「ご紹介に与りました、リオと申します。まだこちらの生活に慣れていないもので、ご迷惑をかけるかもしれませんが…皆さん、よろしくお願いします」

 

「相変わらず、リオは堅いな~。あ~、俺はネクサスだ。リオともまだ短い付き合いなんだが、こうして一緒にいるのもなんかの縁ってな。この村にもしばらく滞在するから、何かあったら気軽に声を掛けてくれ。よろしくな!」

 

 ルリから紹介され、リオがド丁寧に、ネクサスは軽い感じでそれぞれ自己紹介をする。

 

「えっと、よろしく…お願いします…」

 

「よ、よろしく」

 

 リオのド丁寧な自己紹介と、ネクサスの軽い感じの自己紹介でちょうどつり合いが取れたのかはわからないが、それでも挨拶を返してくれる。

 

「ネクサスはともかく、リオはそんな畏まった喋り方でなくても大丈夫だよ?」

 

「リオはこれが素だからな。直せって言って、直るもんでもないのさ」

 

 ルリの言わんとしてることはわかるが、ネクサスは短いながらもリオの性格を知っているので、やれやれと肩を竦めてみせた。

 

「使い慣れた言葉遣いなんですが…おいおい努力します」

 

「俺とはわりと普通に接してるけどな?」

 

「え、そうなの?」

 

 そんなフランクな感じで話をしているルリとネクサス、さらにはリオに女衆は無言の圧力をルリに向ける。

 これは仕事の時間に質問攻めにあうな、と思いつつもルリはテキパキと仕切りだして、野菜の交換を行っていく。ルリがテキパキと交換していく間、女衆はリオやネクサスと話したそうにしていたが、互いに牽制やタイミングを見計らっていたのもあって、なかなか切り出せなかった。

 

(ん~、ここはこっちから話すべきかね?)

 

 ルリの仕事時間での集中砲火を考え、少し自分から話してもいいか、とネクサスが考えているが…

 

(とは言え、話題がな…)

 

 これといって提供できる話題がなかったので、少し難しい表情を作ってしまっていた。

 

「ネクサス、どうかしたの?」

 

 それに気づいたルリがネクサスに尋ねる。

 

「うん? いや、なに…彼女達も何か話したそうだが、俺から提供できそうな話題がなくてな。少し困ってた」

 

 素直にそう答えると…

 

「そんなこと考えてたんだ?」

 

「ネクサスはこう見えて周りをよく見てますからね」

 

 ルリが意外そうにネクサスを見て、リオが補足してくれる。

 

「意外とは失礼な。自分でもそう思うがな」

 

 そのネクサスの受け答えに女衆の一部がクスクスと笑っていた。

 

「あ、そうだ。サヨ!」

 

 ふと思い出したようにルリが声を上げる。

 

「……へ?」

 

 まさか、呼ばれるとは思っておらず、昨日ルリと一緒にいたサヨという少女が驚く。

 

「お婆ちゃんがシンと一緒に家においでってさ。朝ご飯は家で用意するからって」

 

「え、あ、うん。わかった」

 

 サヨが返事するのを確認した後…

 

「それじゃあ、また後でね。ほら、リオもネクサスも行くよ!」

 

 そう言ってルリが村長宅へと歩いていく。

 

「あ、ルリさん」

 

「あいよ。じゃ、また機会があれば」

 

 ルリを追ってリオが会釈してから先に歩いていき、ネクサスも女衆に一言告げてから2人の後を追った。

 

 

 

 その後、村長宅ではリオが調理を始めていた。その際、バックパックの中に入ってる、という体で時空の蔵から干し肉や塩を取り出していたりもした。

 

(まぁ、結構な量を貰っちまったしな。腐らないとは言え、少しずつでも消費しとかないともったいないしな…)

 

 その様子を居間の方から見てたネクサスは、『これも日本人の性なのかね?』と考えていたが…。

 ちなみにルリはリオの採点係も兼ねて一緒に台所にいる。手伝いはしないが、その手際をチェックしているのだ。

 

「夕飯は俺が採点されるのか…」

 

「まぁ、気楽に構えな。その腕前がどれくらいなのか、リオ共々見てやるよ」

 

「言いましたね? じゃあ、ちょっと夜は俺も本気出しますよ?」

 

「ふふ、楽しみにしておくよ」

 

 居間にてユバとネクサスがそんな風に談笑交じりの話をしながらリオの作った朝食を待つこと約1時間程度。

 

「お婆ちゃん、はい。リオが美味しそうな朝ご飯を作ってくれたよ!」

 

「ほぉ、確かに美味しそうだ。これなら今晩のネクサスも期待できるかもね?」

 

「伊達にリオと一緒に旅してないことを教えてあげますよ」

 

「どんな張り合い方だよ…」

 

 リオの作った朝食をルリがユバの前に配膳し、ネクサスも自分から朝食を持ちに台所へと向かう。その際の言葉にリオは苦笑してネクサスを見ていたが…。

 すると…

 

「あの、ごめんください」

 

 開けっ放しの玄関から可愛らしい声が響く。

 そちらを見れば、サヨがおり、その後ろにネクサスとルリくらいの年代の少年がいた。

 

「あ、いらっしゃい、サヨ。さ、上がって上がって。シンもね」

 

 ルリが笑顔で玄関にいた2人を手招きする。

 

「う、うん。お、お邪魔します」

 

「おう。邪魔するぜ」

 

 サヨがペコリとお辞儀してから入ってきて、その後に少年…『シン』も続いて入ってくる。

 

「よく来たね、2人共。ちょうど朝食が出来たところだ。上がるといいよ」

 

 ユバが2人を出迎えると、ルリも台所へと向かう。

 

「悪いな、婆ちゃん。朝飯、ご馳走になって」

 

「ご馳走になります。ユバ様」

 

 シンが囲炉裏の座布団に座ると、ユバに礼を言い、サヨも続く形でお辞儀する。が、サヨは少しそわそわした様子だった。

 と、そこに残りの朝食を持ってリオとネクサス、ルリが戻ってきた。

 

「おはようございます、サヨさん」

 

「お、お、おはようございます、リオ様! 何か手伝うことはありますか?」

 

 リオがサヨに挨拶すると、妙に過剰な反応を見せていたので…

 

(あ~、これはアレだ。惚れられたな、リオ…)

 

 ネクサスは内心でニヤニヤしながらリオを見る。ただ、配膳の手は止めなかったが…。

 

「?」

 

 ネクサスの視線に気付くリオだが、いまひとつその意図が読めなかったらしく首を傾げる。

 

(やれやれ。素で鈍感なのか、目的が目的だからなのか…判断に困るんだよな…)

 

 リオの復讐の件は知っているネクサスだが、それ故の鈍感を装ってるのか、それとも素で鈍感なのか…少し判断に困る事案だった。まぁ、表立って突っつく真似はしないが、それでも心配であるのも変わりない。

 

(今後の行動次第だが、リオには自由に生きてもらいたいもんだ…)

 

 そう考えながらも配膳を終え、ユバに声を掛けられてそれぞれ囲炉裏の周りに腰を下ろす。

 

「リオとネクサスはシンとは初対面だったね。シン、黒髪の方がリオ、もう1人がネクサスだ。リオは私の古い付き合いの息子でね。ネクサスはリオの旅仲間だと思えばいい。リオ、ネクサス、そいつはサヨの兄でシンという」

 

 初対面同士なのでユバが簡単な紹介をする。

 

「リオと申します。どうぞ、よろしく」

 

「ネクサスだ。よろしくな、シン」

 

「……おう、よろしく」

 

 対照的な挨拶のリオとネクサスに、シンもぶっきらぼうに答える。まだ余所者を警戒しているってところだろうか。

 

「まぁ、せっかくリオが作ってくれた朝食だ。冷めないうちにいただくとしよう。話はそれからだ」

 

 そうして6人での朝食が始まる。

 

「いただきま……って、おい、婆ちゃん。この炒め物、肉が入ってるぞ!? 朝から贅沢だな。村長だからって余分に蓄えてたのか? ずりぃぞ!」

 

 食べようとした矢先、シンが炒め物の中に肉があるのを目ざとく発見し、ユバに抗議していた。

 

「そう慌てなさんな。別にずるくもないしね。それはリオが持ってきてくれた肉だ」

 

 その抗議をユバは苦笑しながらも事情を軽く説明していた。

 

「あぁ、そういうことか。ま、肉が食えるならいいや。って、美味ぇな!?」

 

 シンがその説明に納得して炒め物を食べると、目を丸くして驚きつつも口の中にその味が残ってる内にご飯をかき込む。

 

「お兄ちゃん、お行儀が悪いよ?」

 

「いいから、お前も食ってみろよ。美味ぇぞ。おお、この味噌汁も美味ぇな!」

 

「もう……あ、美味しい!」

 

 シンの態度にサヨが困ったようにしながらもリオの作った朝食を食べると、眼を見張って驚く。

 

「あはは。でも、確かに美味しいよ、リオ」

 

「あぁ、良い腕だ。大したもんだよ」

 

 リオの料理が初めての4人は口々に美味しいという中…

 

(これ、俺へのハードル…絶対に上がってるよね?)

 

 夕食担当になったネクサスはちょっとだけ恨めしそうにリオを見ていた。

 

「? どうした、ネクサス?」

 

「いんや…ちょっと夕食は本気でも出そうかと思ってな…」

 

「? そう、か?」

 

 そんな中、朝食は進んでいき、全員が食べ終わって食後の茶を飲んでる時だ。

 

「さてと、すっかり朝食に夢中になってたが、そろそろ本題に入ろう。シン」

 

「ん?」

 

 お茶を飲んでいたシンがユバに呼ばれ、そちらを向く。

 

「アンタを呼び出した理由だよ。リオとネクサスに猟師業をやらせてみるから、この後ドラのところに連れてってやんな」

 

「……っ…は? こいつらが猟師? 本気か?」

 

 その用件を聞き、シンは飲んでいた茶をごくりと飲んでからユバに問い返した。

 

「本気さね。この子達が村の仕事の手伝いを申し出てくれてね。何が出来るのか、一通り聞いておいた。随分と多芸な子達で、狩猟も出来るそうだ。ドラがもう少し人手が欲しいと言っていただろう?」

 

「そう、だけどよ。過酷だぞ?」

 

 言ってからシンは姿勢を正してるリオと、寛いでるネクサスを見る。

 

「大丈夫。嘘を言う子達じゃないよ。ネクサスはともかく、リオの精霊術と料理の腕は確認したしね。この歳で旅をしてたんだから、それなりの武芸者でもあるだろう。立派な武器も持ってるし、アンタなんかよりも強いかもね?」

 

 シンに向かって軽く挑発めいたことを言うユバ。

 

「ま、まぁ…俺だって精霊術くらい使えるけどな。そこまで言うなら、お手並み拝見といこうじゃねぇか」

 

 シンは一瞬怯みそうになるも、すぐに平静を装って返事する。

 

「ま、そういうわけだから、ドラに説明を頼むよ。2人の腕前を見て、時間に余裕が出来そうなら、若手の中から後進を選んで、その育成に充てるといいってね」

 

「わ~ったよ。ま、余計に時間がかからなきゃいいがな」

 

 ユバの言葉に舐められてると感じたのか、シンは不服そうに返していた。

 

「お、お兄ちゃん!」

 

 そんなシンにサヨが怒ったように言うが…

 

「あ~、うるせぇうるせぇ。おい、リオにネクサス。時間がないんだ。さっさと行くぞ」

 

 シンはサヨの言葉を聞かず、スッと立ち上がって玄関へと歩いていく。

 

「了解だ、シン」

 

 それに続くようにネクサスも立ち上がると、軽く身体を伸ばしてからシンの後を追う。それに続くようにリオも2人の後を追っていった。

 

 

 

 こうして、村での生活が始まった。

 リオとネクサスは、この村の生活でどんな体験をし、何を得るのだろうか?

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