ゴン達の処遇が決まった2日後。
ユバ達の村から王都に向かう交易隊が出発する日がやってきた。
時刻は早朝にも関わらず、村の広場には大勢の人が集まっており、何台もの馬車が停留していた。ちなみにハヤテ達検税官一行も交ざっている。
王都に向かう途中までは一緒に行き、途中でハヤテ達は他の村に寄るが、ハヤテの従者と部下数名が奴隷となったゴン達の護送で交易隊に同行して王都に向かうことになっていた。
その際、ハヤテはルリの手作りのお守りを受け取り、そしてユバからも
そして、準備が整うとハヤテ一行と交易隊は村を出発する。
道中は何事もなく、途中でハヤテ率いる検税官の部隊と別れ、交易隊は王都を目指す。
それから数日後に交易隊は王都に到着することとなる。
………
……
…
王都に到着した交易隊は国が運営している共同宿泊所という施設に滞在することとなる。一度に数十人の宿泊が可能で、村の交易隊のような団体や各地を転々としている商隊などがひっきりなしに利用するので、それなりに需要があるらしい。
ちなみに場所を借りるだけなので、宿泊中の炊事洗濯などは自分達で行う必要があるのだとか。
「よし。ここが今日から泊まることになる場所だから、しっかり覚えておけよ。迷子になったら戻れねぇからな。外出する時は、ちゃんと王都に来たことのある奴に同行してもらうようにな?」
交易隊の代表みたいな感じでドラが冗談めいて釘を刺すが、若い衆は笑っていた。しかし、笑った若い衆の何人かは年配の者から小突かれていた。
実際、王都は大通りならともかく、下手に小道に入ったら迷ってしまうこともあるくらいには複雑なのであながち冗談とも言い切れなかった。
「うっし。じゃあ、俺はちょっくら出かけてくるから積み荷の保管と留守を頼むぞ? リオ、それとシンは一緒に来い。ネクサスは残って留守を頼む。まぁ、大丈夫だろうがな」
「はい、わかりました」
「俺もか?」
「あいよ。いってらっさい」
ドラに呼ばれたリオとシンがドラについて行き、留守を任されたネクサスも返事をしていた。
ドラの用事とは、ハヤテの部下と共にゴン達を収容所へと引き渡すための手続きが必要そうなので代表して同行することだった。そのため、軽い報告が必要になるかもしれないので、主犯格を捕らえたリオと、サヨの代わりにシンを連れていくことにしたのだろう。
そして、留守役の方はと言うと…
「留守を任されたとはいえ、特に俺がやることもなぁ…」
初めて同行した者の1人としてネクサスも積み荷を降ろしたりするくらいは手伝えたが、それ以外の勝手がわからないので少し途方に暮れていた。
そんな風にネクサスが手伝いながらも適当に過ごしていると…
「お~い、ネクサス」
「はいはい?」
年配組の1人がネクサスに声を掛けてきた。
「何か御用で?」
「いや、別に大したことじゃねぇがよ。そろそろいい時間だし、順番に飯でも食いに行こうと思ってよ。お前も来るか?」
「お、いいですね。そういや、そろそろ腹も減ってきた頃合いだし。なんか名物的な食べ物でもあるんで?」
その話を聞き、年配の方について行く気満々のネクサスが尋ねる。
「名物か。なら、カムタンがいいだろうな」
「カムタン?」
「お、ネクサスは食ったことねぇのか? なら、カムタンでも食いに行くか」
そうしてネクサスも飯を食べについていき、カムタンを食べることになった。近場の店でカムタンを注文し、出された料理を目にしたネクサスは…
(カムタン…麺料理だったのか。ラーメンぽくもあるが、微妙に違う…?)
初めて見たカムタンをまじまじと見ていると…
「どした? 食べねぇのか?」
「あ、いや、なんでもないです。いただきます」
とりあえず、冷めない内にズズーっと啜る。
「うん、美味い」
「だろ?」
年配の方がそう言うと、ネクサスも頷きながら食事を続ける。
その後、ネクサス達が食事を終えて宿泊所に戻り、夕暮れ時になる頃にドラ達が戻ってきた。
ドラはゴン達の売却金を仲間に預け、リオとシンを連れて食事に出かけた。この3人もカムタンを食べに行ったようだった。
………
……
…
翌日。
この日は交易品の売却に向かうグループ、大量の生活必需品を買い出しに行くグループ、留守番のグループ、そしてちょっとした嗜好品の買い出しに行くグループに分かれて行動していた。と言っても、最後の嗜好品の買い出しはリオとサヨの2人きりなのだが…。ちなみにネクサスは生活必需品の買い出しに同行していた。
「皆、お節介だね~」
生活必需品の買い出しに来ていたネクサスがそんなことを呟くと…
「そういうお前さんだって反対しなかっただろ?」
生活必需品の買い出し担当になった年配の方が笑いながらネクサスに言う。昨日、一緒にカムタンを食べに行った人だ。
「まぁ、否定はしませんがね。ただ、リオは他人の好意に無頓着というか、なんというか…」
「? 難しいことはわからんが、これもいい機会ってやつだな」
「そうなんですよね~」
傍から見ててサヨがリオを好いてるのは誰が見ても明らかだ。しかし、その好意を向けられているリオはというと…。
(本当に無頓着なのか、それとも意識的に避けているのか……ふぅ…短い付き合いだから、その辺がちょっと曖昧なんだよな…)
リオは紳士的で礼儀正しく真面目で堅い性分だ。そして、故意か無自覚かは判断がつきにくいが、他人の好意を避けているようにも感じられていた。おそらくは復讐に関することかもしれないが…。大切に想う者を危険に晒したくないだろうか、とネクサスは密かに考えていた。
(ま、これはリオ自身がどうするべきか決めることか……もう少し我儘に生きてもいいだろうに…)
などと考えながら買い出しの荷物を運んだりするネクサスだった。
また、この時はネクサスが知る由もなかったが、リオがサヨに贈り物をしたり、ちょっとした大立ち回りをしていたのだが…リオは面倒事を避けるべく早々に退散して宿泊所に戻ってきていた。
それから数日後、交易品の売却成果が上々だった村の交易隊は王都を出発するのだった。
それと時を同じくして、ハヤテが王都に戻ってきていた。
ハヤテは実家であるサガ家へと足を運ぶと、どうも妹が誘拐されそうになったらしく、家の中がピリピリとしていた。
その話を聞き、ハヤテも父であるサガ家当主『サガ=ゴウキ』の元に参じて詳細を聞く。
話によれば、妹を誘拐しようとした者を取り押さえたのは見ず知らずの少年だったらしく、礼も出来ぬと困っていたそうだ。
すると、ハヤテはユバから預かった手紙をゴウキへと直接渡していた。
手紙の内容を読み、ゴウキはハヤテにリオのことを尋ねていた。
そして、ゴウキは妻である『サガ=カヨコ』と共に
その様子を見てハヤテは首を傾げるだけだったが…。
………
……
…
それからさらに数日後。
交易隊が村に戻り、村では来年の豊作を願い、恒例の収穫祭が行われていた。
村の広場で村の男衆が酒盛りをし、料理自慢の女衆がそれぞれの家や集会場で料理を作って振る舞っていた。
料理をする中にはリオやネクサスもおり、村長宅で色々と作っていた。特にリオは料理に集中していたが、ネクサスは料理しつつも時折酒盛りに混ざって味の感想なんかを聞いたりもしていた。精霊の民の里で霊酒を飲んだせいかどうかは知らんが、なかなか酔わないようになっていたので、問題なく料理も作れている。もちろん、自分で作っていた料理が仕上がった頃合いで、リオも宴に参加していたが…。
そんな中、夕刻が近付いてくる時間帯で、リオが宴を抜け出した。それを見たネクサスも周りに一言断ってからスッと抜け出してリオに合流した。
「リオ、どうかしたのか?」
「あぁ…念のため、結界を作動させてたんだけど、東側から反応が…」
「反応? こんな時間にか?」
「一応、警戒はしておこう」
移動しながらそんな会話をした後、リオは時空の蔵から鞘に収まった剣を取り出し、ネクサスもその後を追う。
そして、東側の村の出入り口に到着すると、そこには旅装束を纏った十数人ほどの男女がいた。敵意こそ感じられないが、全員が武装していて武芸者なのか、隙らしい隙が見当たらない。
「村に何か御用ですか?」
リオが代表して団体に声を掛ける。剣を携えているリオを見て団体も警戒するが、先頭に立つ壮年の男女だけは別の意味でリオを見つめていた。
「…某の名はサガ=ゴウキと申します。失礼ながら、あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか? もしや、リオ様でありませぬか?」
(リオ、
ゴウキが名乗ると、リオに名前を尋ねてきたが、その時に様付けされていたことにネクサスは訝しげながら首を傾げる。
「そうですが…。あなたは、ハヤテ殿のお父上でしょうか?」
リオもやや困惑しながらも答えていると…
「やはり、リオ様であらせられましたか! 御目通りが叶い、恐悦至極にございます!」
なんだか感極まった様子でゴウキがその場で跪くと、ゴウキの背後にいた集団も服が汚れるのも厭わず即座に平伏していた。
「はい…?」
そして、当のリオは困惑するばかりだった。
「ど、どういうこった?」
ネクサスも状況がわからず、リオとゴウキ達を交互に見る。
「リオ様。この者は?」
ゴウキの鋭い視線がネクサスを捉える。
「と、とりあえず、ネクサスはゴウキ殿達を村長宅に案内してくれ。俺はユバさんを呼びに行くから…」
「あ、あぁ…それはいいけどよ」
その何気ない会話に…
「貴様! リオ様に無礼であろう!?」
ゴウキが堪らず腰に差した刀を抜こうとしていた。
「ちょっ!?」
「ご、ゴウキ殿!?」
こんなとこで騒がれては困ると、リオが仲裁に入って実際にゴウキが刀を抜くことはなかったが…。仕方なく、村長宅にはリオも同行して案内することになり、案内が終わってからリオがユバを呼びに行くこととなった。
そして、ゴウキ達と共に取り残されたネクサスはというと…
(……視線が痛い…)
一応、ゴウキ達の相手をしていてくれとリオに頼まれてはいるものの、そのゴウキ達から向けられる鋭い視線に微妙に心が折れかけていた。
「………………」
(リオ~…速く帰ってきてくれ~)
内心で弱音を吐くほどゴウキ達の視線が痛かったらしい。
「えっと…」
とりあえず、会話の糸口くらいは掴まないと話にならないと口を開いてはみたものの、特に話題がなかった。
「なんだ?」
「あ~、いえ…」
リオに様付けしてた理由を聞こうと思ったが、なんだか地雷な気がして聞けなかった。
(どうしよう…)
ネクサスが変な冷や汗を流していると…
「お待たせしまして申し訳ありません、ゴウキ殿」
ユバがやって来て、その後ろからリオもきた。
「おお、ユバ殿」
「お久しぶりでございます」
ユバの登場にゴウキと隣にいた女性が頭を下げる。
「では、皆の者。大丈夫だとは思うが、盗み聞きされぬよう警戒してくれ」
『はっ!』
ゴウキと共に村に訪れていた者達がゴウキと隣の女性を置いて村長宅の外へと出ていこうとしたが…。
「そこの無礼者も連れ出せよ」
ゴウキの指示でその内の男2人がネクサスの両脇に立つと、両腕を掴もうとして…
「そこまで邪険にされなくても空気くらい読むっての…」
スッと移動し、それを避けると自ら立って家から出ようとする。
「ゴウキ殿! ネクサスは…」
堪らずリオがネクサスを弁護しようとしたが…。
「いいって、リオ。俺がいると話せないことかもしれないだろ?」
ネクサスがリオを制し、自ら出て行く姿勢を見せる。
「でも…」
「ユバさんの時とは明らかに違う。こういう空気は…部外者が立ち入ったらいけないんだよ」
「ネクサス…」
ネクサスの言葉に、リオは困ったようにしていたが…
「ほぉ、弁えてはいるようだな?」
「これでもリオのダチですから。初対面の人よりかはリオを知ってるつもりですよ」
ゴウキの言葉にネクサスが微妙に棘のある言い方で返す。
「「………………」」
その返しにゴウキがやや殺気立つが、ネクサスも負けじと睨み返す。
「ネクサスもゴウキ殿も落ち着いてください」
そこにリオが仲裁に入ると…
「ネクサス。悪いが、こればかりは私も許せないんだ。今は引いておくれ」
ユバが申し訳なさそうにネクサスに告げる。
「……あいよ」
ユバの言葉を聞き、今度こそネクサスは村長宅から出て行く。
「申し訳ありませんね、ゴウキ殿。ネクサスも悪気があった訳じゃないんだが…」
ネクサスが出て行き、ユバがゴウキに軽く謝罪していた。
「いえ…某も少し頭に血が昇っていたようだ。それよりも、あの小僧は?」
ゴウキも少し自分のことを省みてネクサスのことを聞く。
「リオの旅仲間です。短い付き合いながら、リオも随分と心を開いてますからね」
「それにしては、リオ様に馴れ馴れし過ぎではないか?」
「気心の知れた者が1人くらいいても、バチは当たりませんよ。それに、それを言ったら…」
「…でしたな。いささか失礼を申しました」
「気にしてませんよ。それよりも、ゴウキ殿達が来たということは…?」
そうした会話の後、ユバが本題に移ろうとした。
「うむ。然るべきお許しを得てこの場に参上した」
それを察し、ゴウキも頷く。
(いったい…どういうことだ?)
リオはリオで、やや話についていけずにいたが…。
「では、お話ししましょう。カラスキ=アヤメ様と、我が知己ゼンの過去について」
「!」
そして、語られる。リオの両親に何があったかを…。