サガ家の訓練場にて対峙するネクサスとゴウキ。
「見せてもらうぞ、小僧。リオ殿の隣に立つに相応しいかどうかを!」
「別にあなたの許可はいらないでしょうに」
「いや、某にも相応の理由がある!」
「そうですかい。なら、こっちも本気でいきますよ!」
「そうでなくては困る!」
ネクサスとゴウキが対峙しながらもそんな風に言い合っていると…
「リオ殿。実際のところ、ネクサス殿の力量はどうなのだ?」
ハヤテがネクサスと入れ替わるように隣に来たリオに尋ねる。
「そうですね。少なくとも私と互角くらいだと思っています。旅の中で何度か真剣に模擬戦もしましたが…決着が着かなかったこともありますし…」
「そ、そうなのか…」
リオの答えにハヤテは先のリオとゴウキとの手合わせを思い出して表情がちょっと引きつる。
(ただ、ネクサスが剣だけを使うのは珍しいからな…)
リオと模擬戦をする時は、大抵体術での対峙がメインで、武器を使用する時も基本的にダガー二本で戦っているため、リオは剣一本で戦うネクサスの姿が少し想像しにくかったりした。
「それでは、始めっ!!」
そうこうしている内に手合わせが始まる。
「………………」
「む?」
ネクサスの気配が急に希薄になったことにゴウキが眉を顰めると…
「ッ!!」
即座に振り向き、木剣を振るう。
ブンッ!!
その木剣は空を斬ったが…
「流石ですね」
ズザァァァ!!
ゴウキの頭上から声が聞こえ、次の瞬間には地面を滑るような着地音も聞こえる。
「面妖な技を使うな。確かに目の前にいたはずだが…」
「精霊術の応用、とだけ言っておきますよ」
再びゴウキの目の前に立ったネクサスがゴウキの問いにそう答える。
「な、なんだ…? 今のは…?」
外野から見てたハヤテもネクサスの動きには驚いていた。傍から見ると、ゴウキの目の前にネクサスがいたはずなのに、ゴウキは振り向いて木剣を振るい、目の前にいたはずのネクサスも消えたかと思えば、次の瞬間にはまるでゴウキの頭上を飛び越えるように跳躍していたネクサスの姿があり、今に至る。
「奇襲失敗。となると、正攻法でいきますか!」
言うが早いか、ネクサスは即座にその場から飛び出し、ゴウキに迫る。
「ッ!!」
その速度はリオと同等だが、先程リオと対峙したゴウキからすると少し慣れてきた目によって簡単に対処されてしまう。
「ふむ…」
ゴウキの対応を見てネクサスも即座に後退するが、それを見逃すほどゴウキも甘くなく、逆に怒涛の攻勢に出る。木剣による鋭い連続突きを繰り出したのだ。
それをネクサスは最小限の動きと木剣を用いて回避・防御していく。
(旅の間、リオ様と鍛錬してきたと聞いたが…なるほど。リオ様が一目を置くのも頷ける)
ネクサスの動きや反応を見て、ゴウキもそれなりにネクサスのことを評価しているが…
(だが、それはそれ。これはこれ。某が遅れを取らぬ限りは…)
腕前を認めるのと、リオの隣に立つに相応しいかは別問題としてゴウキは攻撃の手を緩めなかった。
しかし、ネクサスは冷静にゴウキの攻撃を対処してみせた。
先程のリオとゴウキの手合わせでゴウキが防戦一方になっていたように、今はネクサスが防戦一方に見えるが、どこか違和感を覚えていた。
(こちらが攻めている。そのはずだ。しかし、これは…!)
ゴウキもその違和感を覚え、ネクサスに有効打を決め切れていないことに気付く。
(こやつ…!)
リオとは別の意味で心躍る戦いができそうだと、ゴウキは口の端を少しだけ吊り上げる。
(あまり手札は晒したくないが…致し方ないか…)
防戦一方だったネクサスも頃合いを見計らい…
「ッ!!」
攻勢に転じる。
「むっ!」
それを察し、ゴウキも仕切り直そうとその場から飛び退くが…
(そのくらいの距離なら、十分詰めれる!)
一足飛びにゴウキの懐に飛び込み、ネクサスは肘打ちを仕掛ける。
「これは…!?」
肘打ちを食らい、ゴウキは既視感を覚える。先程、リオが見せた超加速のようだと…。だが、何かが違う…。そんな直感がゴウキにはあった。
実際、リオとネクサスの移動法は異なる。
リオが風の精霊術と脱力して動く技術を組み合わせることで、この人外の移動法を編み出した。
対して、ネクサスは身体強化の精霊術で限界ギリギリまで引き上げることで人外の速度を出している。
その都合上、直線的な速度ではややリオの方が勝っている。しかし、小回りや柔軟性ではネクサスの方が勝っているのだ。
その違いにゴウキの直感は反応したのだが、それがどういうものかまでは理解の外だった。
だが…
「くっ…!」
リオよりも変幻自在に体術を繰り出してくるネクサスに、ゴウキは再び劣勢に陥ることになる。
リオが剣術と体術を組み合わせていたのに対し、ネクサスは剣を囮に体術でダメージを与えていったのだ。
「なんということだ。父上が連敗するというのか…?」
その光景にハヤテは開いた口が塞がらない様子だった。
(連敗は避けたいが…流石にこれでは…)
ハヤテの声が聞こえたのか、ゴウキも苦い表情をする。離れようとしても、ネクサスはずっと距離を詰めてきて、逆にこっちが詰めようものなら、さらに詰めて体術を使ってくるので、リオの時に使った奥義も容易には使えなかった。
「ッ!」
すると、ネクサスが両手で木剣を握り、大上段からゴウキに向けて振り下ろそうとした。
(ここにきて悪手?)
ゴウキが眉を顰めながら、ネクサスの木剣を迎撃しようと下から斬り上げる。
「………………」
ネクサスはそれを見ると、素早く両手の力を緩め、木剣が衝突する瞬間に手を離した。
「ッ!?」
ネクサスの木剣を弾いたゴウキがその一瞬に硬直した隙を見逃さず、ネクサスが手刀をゴウキの喉元スレスレに突きつける。
「……それまで! 勝者は、ネクサス殿!」
審判のカヨコからの宣言を受け、ネクサスは手刀を引き下げると、一歩だけ後ろに下がって一礼する。
「正攻法でなく、邪道で申し訳ないね」
そして、一言そう告げていた。
「此度の手合わせは実戦に準じたもの。殺し以外なら何でもありなのだから、それもまた一つの戦法だ。それに、某の負けには違いない」
ネクサスの一言に対し、潔く負けを認めるゴウキだった。
「父上が…また負けた…」
その事実にハヤテが愕然としていると…
「ゴウキ殿、大丈夫ですか?」
リオがゴウキに声を掛ける。
「む、これはリオ殿。かたじけない。ですが、勝負は勝負。この負けを糧に某もさらに強くなりましょうぞ」
「いえ、いつもネクサスと組み手をしてる身としては、心中をお察しすると言いますか…なんというか…」
「お~い、リオ。そりゃどういう意味だ?」
近くにいたネクサスにも話が聞こえていたのか、リオの会話内容に抗議していた。
「ネクサスの近接戦は本当に予想しにくいからな。武器だって簡単に囮に使ってくるし、投げたりもするし」
「リオだって似たようなもんだろうに。あの加速はマジで洒落にならないんだよ。だからこっちも近接戦で応じるしかないだろ?」
こんな風にリオとネクサスが互いの戦法のことを話している光景を見て…
(あぁ、そういえば…某とゼンも似たようなことはしていたな…)
ゴウキはゼンとの間にあった会話を思い出し、微かに笑みを浮かべていた。
すると…
「あ、あの!」
コモモの弾んだ声が響き、その場にいた全員の視線がコモモに向く。
「私とも勝負してください!」
リオとネクサスに向かってそう叫んでいた。
「えっと…?」
「ふむ…?」
突然のことにリオは言葉が詰まり、ネクサスはその真意を掴みかねていた。
「ふはは! コモモは強き者に惹かれるところがありますからな。某を任したリオ殿とネクサスに興味を持たれたのでしょう」
コモモの真意を察したゴウキがそのように言う。
「はい。お二方とも、素晴らしい戦いでした! 父上を負かした人が2人もなんて、凄いです!」
「あはは、ありがとう」
ネクサスの方は慣れたように対応してみせるが、リオはちょっと困ったように頬を掻く。
「だから、お願いします!」
コモモの頼みを聞き…
「そういうことなら、俺よりもリオの方が適任だな」
「ネクサス!?」
「俺の戦い方は変則的だからな。正直、剣のみってのは向かないからな。下手な癖でも付いたら困るだろ?」
そう言ってネクサスはリオをコモモの前に出した。
「それは…まぁ、言わんとしてることはわかるけど…」
リオもしばし逡巡した後…
「……わかりました。やりましょうか」
結局、リオもコモモとの手合わせを承諾するのだった。
とは言え、リオとコモモの実力差はかなり開いている。手合わせと言っても、リオがコモモに好きに木剣を振るわせ、稽古をつけてやる形で行われた。
10分程度も続けていると、コモモも息が上がり、その場にへたり込むように座ってしまうが、その表情は満足げだったりする。
………
……
…
その翌日。
リオは再び王城へと向かった。
その間、ネクサスはというと…
「ネクサス様。相手がこうしてきたら、ネクサス様ならどういたしますか?」
「ふむ。そういう時はな」
サガ家の訓練場にてコモモに体術の指導を行っていた。ただ、指導と言っても、先のネクサスとゴウキの手合わせで見せていたネクサスの挙動…もしも相手がこういう攻撃をしてきたら、ネクサスならどう返すのか、という質問をコモモがして、それにネクサスが答えるというものだ。
「なるほど。ならば、こうした場合は?」
「そうだな。今のを踏まえると、ここで防御してもいいが…相手の剣の威力を殺しながら懐に飛び込むのも手だ。そうして意表を突くことで、相手の選択肢を減らせる」
「選択肢、ですか?」
ネクサスの言い方にコモモが首を傾げる。
「あぁ。例えば、相手が中段の構えから斬りかかってくるとしよう。すると、相手側の選択肢は、剣を振り上げて振り下ろすか、突きを放つか、薙ぐか。とりあえず、3つの選択肢があるだろう?」
「はい」
「この3つの内、相手がどれを行うか。それを見極めるのも重要だ。例えば、相手が突きを放ってきたとしよう。そうすると、こちらは後退するか、真横に避ける。でもそれだと、相手はさらに追撃を仕掛けてくるだろう?」
「そうですね…」
「だけど、さっき言ったように懐に入り込むように距離を詰めたらどうなる?」
実践も交えて…コモモに突きを打たせながら、ネクサスはゆっくりとコモモとの距離を詰める。
「あ、追撃が難しいです!」
「そ。あと、相手は突きを放ってるから剣をすぐに引き戻そうとするだろう?」
「あ、確かに…隙ができてしまいます」
「それが選択肢を潰すということだ。俺の考えは、相手の選択肢をどんどん削っていき、自分が有利に働けるように誘導するのが重要なんだ。隙を作るためなら、わざと悪手だってやるさ」
そう言ってコモモから距離を置く。
「あ、だから昨日は父上の前で大上段に構えて…」
「あぁ、あの場面ならゴウキ殿に悪手と思わせられたと思ったからな」
昨日の手合わせを思い出し、コモモも納得している。
「凄いです! あの攻防の間にそんなことも考えてたんですね!」
「あはは、あまり褒められた戦法じゃないがね?」
コモモのキラキラした眼が眩しくて、ネクサスがちょっとだけ自虐的に返す。
そうして、コモモがネクサスの指導を受けていると、リオがサガ家に戻ってきて翌日に村に帰ることになった。
それを聞き、コモモはたいそう残念がっていたが…。
ゴウキ達が送迎を申し出てきたが、リオがそれを断ってネクサスと共に精霊術で空を飛んで村へと戻る。
………
……
…
そして、村へと帰還した2人は村人達から暖かく迎え入れられる。村人から「おかえり」と言われる度に2人も「ただいま戻りました」「ただいま~」とそれぞれ返していた。
それから2人揃って村長宅へと帰っていくと…
「2人共、おかえり」
「ただいま戻しました、ユバさん」
「ユバさん、ただいま~」
居間のござに座ったユバが2人を出迎える。
「リオ。ちゃんと話はしてきたのかい?」
「えぇ」
「俺は何も聞いてねぇけどな~」
ユバとリオがなんだかわかり合ってる風だったので、ネクサスが口を尖らせて文句を言う。ただ、本気で文句を言ってる訳じゃないのは、この短い付き合いでもわかる。
「ふふ、そう言いなさんな。リオにも事情があるからね」
「わかってるって」
ユバの言葉にネクサスもそれ以上は何も言わなかった。のだが…
「大丈夫だ。ルリさんやネクサスにも話せるようにちゃんと許可を取ってきた」
リオがそう告げる。
「許可?」
「おや、ルリにもかい?」
ネクサスが首を傾げ、ユバも意外そうに聞いてくると…
「家族ですからね。ネクサスにも聞いてほしいんだ。大事な仲間だし…」
リオはそう言って2人に視線を向ける。
「そうかい。ルリも2人が戻ってきたと知ればじきに戻ってくるだろうさ。アンタらが急に村を出ていったから、心配してたしね」
ユバがそのように言っていると…
「たっだいま~! 2人共、おかえり! どこに行ってたのよ、もう!」
噂をすればなんとやら…ちょうどルリも帰ってきた。
そして、揃ったところでリオは語る。
自らの出生の秘密を、家族と仲間に…。