リオとネクサスが村に戻り、村長宅でユバと出迎えられ、ルリが帰宅した。
そこでリオは自らの出生についてを話すことにした。
もちろん、今からする話は秘密にすることを約束してもらわないとならない、と条件を出して…。
「俺はいいぜ。人の秘密を漏らす趣味もないしな」
「私も、知りたいかな。誰にも言わないって約束する」
ネクサスとルリがそれぞれ約束を守ると、頷いたのを確認してから…
「俺とルリさんは従姉弟になります。俺の父親がルリさんの父親の弟なんです」
リオがまずルリとの関係性を話す。
「………へぇ、そうなんだ。私とリオが従姉弟…」
微かに硬直したものの、ルリはその事実をすんなりと受け入れた様子だった。
「意外と驚かないもんなんだな?」
「あぁ、もっと驚くかと思ったよ」
ルリの反応に、ネクサスとユバが意外そうと言う。
「……いや、結構驚いてるんだけど…ネクサスだって驚いてないし」
「そこは俺も知ってたからな。別段驚くようなことじゃない」
矛先を向けられたネクサスは肩を竦める。
「なんだか、私だけ知らないみたいでやだな…」
「安心しろ。それ以上のことは俺も聞いてない。ここからが本題じゃねぇか?」
「そうなの?」
ムスッとした様子のルリにネクサスがそう言うと、少しだけ機嫌が直ったようになる。
「それで、俺の父…ルリさんにとっては叔父になる人の名前はゼン、母の名前はアヤメと言います。カラスキ=アヤメ。この国の王女だった人です」
リオが話を続けると…
「………………はい?」
「なっ…」
ルリは数秒かけて沈黙した後に首を傾げ、ネクサスも流石に絶句していた。
「流石にこっちはすんなり信じられないようだね。ネクサスの方もかなり驚いてるようだ」
ユバが愉快そうに笑う。
「いや…だって、冗談…だよね?」
「なるほどな~。それならゴウキ殿達の態度や俺への風当たりが妙に強かったのも納得だわ」
ルリは未だ信じられていないが、ネクサスはゴウキ達とのやり取りを見てたので、苦笑しながらも納得していた。
「なんでネクサスはそんな笑ってられるの!? もし、本当ならリオは王子様だよ!? わ、私、今までだいぶ馴れ馴れしかったよね…?」
「実際、非公式だが、リオはこの国の王族だからね。血筋的には間違っちゃいない」
ルリが狼狽する中、ユバがおかしそうに追撃する。
「あわわ!? お、お婆ちゃん!? 本当なの!?」
「あぁ。ここで嘘を吐いても仕方ないからね」
「り、リオ…様! 今まで数々のご無礼を…」
ユバの追撃に慌ててルリが平伏しようとする。
「待ってください! そういうのはやめましょう。今まで通りでいですから!」
そんなルリにリオが慌てて待ったをかける。
「で、でも…」
「いいんです。仮に王族の子が王族という理屈があったとしても、俺という存在は公にはできないですから。だからこれまで通りに接してください」
そう説明されると…
「俺は元からリオはリオとして接するつもりだぜ? 王族だからって、リオが急に偉くなった訳でもないし、何よりもリオがリオのままなら、俺が態度を変える必要もないしな」
ネクサスはいち早くそう伝えていた。
「本当にネクサスは達観してるね。それとも無知故の怖いもの知らずなのか…」
ネクサスの言葉にユバは苦笑している。
「そこはなんとでも…」
ユバの返しにネクサスは肩を竦ませてみせるだけだった。
「そういうことなので、ルリさんもあまり気にしないでください」
「…うん。そっか。私とリオは従姉弟なんだもんね」
「そうです。従姉弟です」
「私、お婆ちゃん以外にもまだ血の繋がった家族がいたんだね」
ルリもリオと従姉弟だと再認識すると、そんな風を呟く。
それからリオはルリとネクサスに両親がこの村…いや、国から離れた事情も話し、村人達にリオの素性を秘匿するように頼んでいた。
そこまで話した後…
「それと、少し気が早いかもしれませんが…来年の今頃には、この村を発とうと思っています」
リオがその場にいる3人に伝える。
「ん、わかった。じゃあ、それまでに心残りがないようにしとかないとな」
残りの期間がわかればやれることもあると、ネクサスは了承する。
「そうかい。寂しくなるが…仕方ないことだね。生まれ育った土地に戻るのかい?」
ユバがリオにそう尋ねる。
「そうですね。色々と立ち寄りたい場所はありますが…いずれは」
リオが決然とした表情で答えるのを見て、ネクサスも笑みを浮かべる。
「いつかまた…この村に来てくれるよね? それが一生のお別れじゃないよね?」
「あぁ、必ずきっと戻ってくる。そうだろ、リオ?」
「えぇ…許されるなら、戻ってきたいな」
ルリの言葉にネクサスが答えつつリオに話題を振り、リオもそう答える。
「そんなの許すに決まってんじゃん!」
「あぁ。いつでも戻ってきな。もうアンタらもこの村の一員だし、リオにとっては故郷でもあるしね」
「ありがとうございます」
「俺まで数えてもらえて感謝だな」
ルリとユバの温かい言葉に、リオもネクサスもはにかみながら礼を言う。
「ところでさ。立ち寄りたい場所があるってことは、2人のことを待ってる人がいるってこと? もし、そうなら聞きたいかも。ね、教えてよ?」
ルリがさっきのリオの言葉の中から興味を抱いた単語について聞いてみる。
「……血は繋がってないけど、俺のことを兄と慕ってくれる子がいてね。他にも色々とお世話になった人達とかも…」
「ん~…あいつを妹分と言っていいものか微妙なとこだが、俺も似たようなもんだな。久々に顔を見ておきたい奴等もいるし」
「へぇ~、そんな人達がいるんだ?」
「あぁ。天涯孤独の身としては、この縁には感謝してるんだよ」
「天涯孤独?」
リオとネクサスがそんな風に話していると、ネクサスの言葉にルリが引っ掛かる。
「おうよ。俺も元々は村人だったんだが…まぁ、ちょっと波乱な人生を歩んでな。今はこの素晴らしき出会いに感謝してるのさ」
「ふ~ん?」
ネクサスのちょっと意味深な言葉にルリはそれ以上は突っ込まず、他の話も聞くのだった。
………
……
…
リオがルリやネクサスに自らの素性を明かしてから数日後。
秋の収穫祭が終わると、村は冬が明けるまで農閑期に突入する。
現在、村人達はのんびりと冬ごもりの準備と並行して翌年の農作業に向けての準備も開始されていたが、猟師にとっては今が一番忙しい時期となる。というのも、保存食の材料となる獲物を狩りに行かなくてはならなく、普段なら午後に農作業を手伝っているリオやネクサスも日が暮れるまで狩猟に勤しんでいるのだ。
そんなある日の朝。
「おい、リオ。お前、村に帰ってからサヨに会ったのか?」
シンが猟師小屋で狩りの準備をしていたリオに尋ねていた。
「え? 狩りが忙しくて、まだ会ってませんが…」
リオも素直にそう答えると…
「あぁ、やっぱりか。ここ最近、お前の様子を聞かれててな。狩りは忙しそうにしてるのかだの、元気にしてるかだの…面倒だからいっぺん会ってやってくれよ」
「そういうことなら。ネクサスはどうする?」
そう言ってリオがネクサスに話の水を向けると…
「あん? そんなん既に終わらせたが?」
何を今更、と言いたげにネクサスは首を傾げる。
「え?」
「そういや、ネクサスは帰ってきたぞとか言いながら、うちに来てたな」
リオは鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情をし、シンも最近ネクサスが訪ねてきたことを思い出す。
「い、いつの間に…」
「やれやれ、リオよ。朝の食材交換や帰りにちょっと寄るくらいは出来ただろうに。案外、抜けてるよな?」
肩を竦めてネクサスは驚くリオにそう説明する。
「ぐっ…」
さしものリオも今の一言には苦い表情を見せる。
「あとで、親方にでも頼んで挨拶回りでもしてくれるんだな」
「……そうするか…」
そうして、お昼ぐらいにリオはドラから許可を得て、村の人達に帰ってきたことを改めて言いに向かうのだった。
その時、ルリとの何気ない会話でちょっとした騒ぎ、とも呼べぬ事態が起きたりもしたが…。
………
……
…
そんなこんなで冬が到来し、村は冬ごもりし始めたある日のこと。
村にゴウキが来訪した。用向きは、リオに国王陛下と王妃殿下に会ってもらえないかということだった。しかも今回は何故かネクサスも来るようにとのことだった。
お呼びとあれば、ということでネクサスも同行し、王城へと向かうことになった。
「すまぬな。寒い中、突然の呼び出しに応じてもらい」
そう言うのは、この国の国王『カラスキ=ホムラ』、その隣には王妃の『カラスキ=シズク』がいた。
「いえ。冬の間は村での仕事は特にありませんでしたから…」
リオは落ち着いたように話に応じる。数度の密会を通じてある程度落ち着いているのだろうが…
(おいおい…俺は流石に場違いでは?)
ゴウキとカヨコに挟まれた形で同席しているネクサスは自らの場違い感に居たたまれなくなっていた。
「ゴウキよ。そこの者が?」
すると、ホムラがゴウキの隣にいるネクサスを見ながらゴウキに尋ねる。
「は。リオ様の旅仲間、ネクサス殿です。以前、リオ様以外で某に打ち勝った猛者でございます」
(なにその言い方!?)
それを横で聞き、一瞬ゴウキを横目で見つつも、すぐさま姿勢を正す。
「お初にお目にかかります。リオ……様の旅仲間のネクサスと申します。国王陛下と王妃殿下に置かれましては…」
「よい。リオが心を許しているのなら、そんなに固くならなくてもよい」
「い、いえ、しかし…流石に国王陛下達を前にして態度を改めないのはマズいかと…」
ネクサスの挨拶にホムラはそう言うが…
(それに両脇の眼が怖い…)
ネクサスは両脇から注がれるゴウキとカヨコの視線が厳しいのを感じ、『粗相があったら、たたっ斬られるのでは?』と思い、言葉遣いには気を付けていた。
「リオが我らの秘密を教えるといった者がどういう者なのか、気になった故に此度はまかり越してもらったのだ。だから、あまり気にすることはない」
「……そ、そういうことでしたら、リオ…の友人として、傍に控えさせてもらいます…」
ホムラの言葉にネクサスは委縮しながら答える。
「リオよ。良き友に恵まれているな」
「はい。ネクサスが友人で俺も感謝してる面もありますので」
(恥ずいからやめてくれない!?)
ホムラとリオの会話に割って入ることはないが、ネクサスは微妙にやきもきした表情をする。
「それで、今日はどのような用件で?」
「うむ。本当なら用件などなくても会いたいくらいだが…此度呼んだのは、そなたの復讐の件じゃ」
それを聞き、リオもネクサスも表情を硬くする。
「なんでしょうか?」
「まず、余もルシウスという男のことは憎い。心情的にはそなたの手伝いをしたいくらいほどにな。だが、生憎と王である以上は国を離れるわけにもいかない」
「それは、当然かと」
リオも話を聞いて流石にそれはマズいと思ったふぁ、次の言葉も十分にマズかった。
「そこでだ。少数ながらそなたに家臣を与えようと思っている。余やシズクに代わり、そなたに力を貸してくれる存在だ。好きに使ってはくれぬか?」
「は……え?」
ホムラの爆弾発言にリオもネクサスも唖然とした。
ホムラ曰く、リオに与える家臣は十数名になる予定だとか。それを率いるのはゴウキとカヨコ。さらにはその家臣団にネクサスも勧誘したいと言ってきた。気心の知れた者が1人でもいた方が安心するだろうとの配慮だ。
しかし、リオは難色を示し、色々と質問するが、ホムラやゴウキ、カヨコ達は本気のようで既に国を出る覚悟までしていた。しかも政治的な根回しや家族への事情説明なども既に済ましているという…。
(リオ、どうすんだ?)
視線でリオに問い掛けると、意を決したようにリオが発言する。
「侮っているわけではありませんが、ゴウキ殿達では私についてこれぬかと…」
「む? それはいったいどういう…?」
「こういうことです」
リオの発言に首を傾げるホムラ達の前でリオは宙を浮いてみせた。
「なっ…う、浮いているのか?」
「浮いてるだけではありません。私と、そこにいるネクサスも空を飛ぶことが出来ます。なので、精霊術で身体能力を強化したところで、ついてくることはできないでしょう」
リオはホムラ達にそう告げていた。
「なんと…ゴウキ。そなたは風の精霊術も得意だったはずだが、同じことが出来るか?」
「むぅ…できませぬな」
ホムラからの問いにさしものゴウキも悔しそうに答えていた。
「ふむ…わかった。リオよ。とりあえず、今は引き下がるとしよう。だが、この件は頭の片隅に置いておいてくれぬか? そなたの出発のまでに気が変わるやもしれぬからな」
とりあえず、その場は引き下がることにしたホムラはそのようにリオに言っていた。
「……承知しました」
そう答えるリオだが…
(多分、考えは変わらないと思うけどな…リオは頑固な面もあるし)
ネクサスはそのリオの背を見てそう考えていた。
その後、家臣団の下賜を断ったリオと、なんか密かに勧誘の魔の手があると知ったネクサスの2人はサガ家で宿泊することになり、そこでコモモに一緒に行ってはダメかと誘惑されるが、ダメだと言い張った。
ただ、誘拐の件もあって屋敷の中に籠っていたコモモの気分転換にと、リオとネクサスが滞在するユバ達の村にコモモが滞在することが決まってしまったとか…。ちなみにコモモのお付きの女性『アオイ』も一緒に…。さらには暇ができたら、ゴウキ、カヨコ、ハヤテ辺りがちょくちょく様子を見に来るというおまけ付きだ。
(どうしてこうなった…)
リオは1人、頭を抱えたくなったとか…。
(さてはて、どうなることやら…)
ネクサスはネクサスで妙な胸騒ぎを覚えていた。