精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第二十四話『別れと旅立ち』

 ホムラ達との密会から数週間後。

 

 村にコモモが滞在することとなり、随分と賑やかになった。

 この冬の間、コモモはリオとネクサスに武術の稽古をつけてもらったりしていた。

 

 それからさらに一ヶ月の月日が経ち、年が明けたばかりの新年早々、サガ家…ゴウキ、カヨコ、ハヤテがお忍びで村へと来訪していた。

 新年の挨拶や村で暮らすコモモの近況などを行い、サガ家の面々は3日ほどの滞在を決めていた。

 そんな中、リオがホムラとシズクに新年の挨拶をしたいと申し出て、ゴウキ達もそれを聞いて喜んでいた。

 

 そうしてリオがサガ家と共に王都に向かう間、ネクサスは村に残ることにしていた。

 リオがいない間に水車と水路の設置作業を可能な限りやっておいてほしいと頼まれていたのだ。

 

「土系の精霊術はあんま得意じゃないんだが…ま、基礎工事くらいはしとくか」

 

 と言ってネクサスは作業へと向かい、ルリは久々にシンとサヨの家に行ってのんびり過ごしていた。

 

 

 

 それから季節は冬から春へと変わり、コモモやアオイが村に溶け込んで生活するようになってからしばらく…。

 リオが帰還してから水車と水路は完成し、今は必要に応じて水汲み水車が稼働している。

 また、リオはユバから村の畑の一つを貸し与えられており、そこで農作業の指揮をとるように依頼されていた。

 ネクサスは引き続き、狩猟を行っていてリオのいない分を補うようにしていた。リオ程、思い入れが強いわけではないが、それでも関わった以上は、と考えを改め、今年の秋くらいには自分達がいなくなることも踏まえ、ドラ達に簡単な狩猟用の罠を教えることにした。

 

(これがいいことかはわからない。だが、農業の方は実はサッパリだしな。そっちはリオに任せるとして…前世でサバイバルしてた知識を活かすくらい、許されるだろうさ)

 

 そう考え、ネクサスはドラ達に罠のことを相談するのだった。

 成果が出るには少し時間が必要だが、それでもないよりはマシだと思い、ネクサスは罠の注意点なども話していた。

 この頃になると、ネクサスは若い男衆との距離も近くなっていて気軽に話しかけるような間柄になっていた。その中にはシンもいて、ぶっきらぼうに対応しつつも何かと話をしていた。

 

「じゃあな、シン。また明日」

 

「おう。またな、ネクサス」

 

 そうして狩猟から帰ってくる時もそんな風にして別れて帰宅していた。

 

 

 

 だが、さっき別れたシンが急に村長宅にやってきたのは、そのすぐ後のことだった。

 

「リオ! リオはいるか!?」

 

「シン?」

 

 ちょうど外にいたネクサスがシンの来訪に訝しんでいると…

 

「リオに何の用だい?」

 

 玄関からユバが出てきてシンに用向きを尋ねる。

 

「頼む! 村に残ってくれ!!」

 

 シンはその場に土下座してそんなことを言う。

 

「なっ…!?」

 

 その言葉にリオもネクサスも、ユバ達も驚いていた。

 

 それからすぐにサヨも来てシンの行動を謝罪していた。ユバは事情を深くは聞かずにおり、サヨはシンと共に帰っていく。

 

(リオの奴…またやらかしたかね?)

 

 シンとサヨの背を見送りながらネクサスはリオを横目に見て嘆息していた。

 

………

……

 

 その日の晩。

 

 皆が寝静まったタイミングで、ユバとネクサスがリオの部屋へと向かい…

 

「あ、ユバさん」

 

「おや、ネクサスもかい?」

 

 リオの部屋の前で鉢合わせる。

 

「えぇ、あのおバカに一言、申してやらんと思ったんですが…」

 

「ふふ、本当にアンタは面倒見が良いね」

 

「よしてくださいよ」

 

 リオの部屋の前で小声で話していると…

 

「だが、ここは私に任せな。シンとサヨには私からそれとなく話をしておく。だからアンタもいつも通りに振る舞っておやり」

 

「……了解。ここはユバさんに任せるよ」

 

「あぁ」

 

 そう言ってネクサスは自室に戻り、ユバがリオと話すことになった。

 

 話の内容は先のシンの行動にどういう意味があったのか…。この件に関してリオは悪くなく、必要以上に自分を責めないこと。それと向こうから踏み込むようなら向き合ってほしいとも…。

 

 ユバは諭すようにリオに伝えていた。

 

 

 

 そして、それからしばらく表面上は穏やかな日常が戻った。

 狩りで一緒になることの多いシンとは、比較的あっさりと元の関係に戻ったものの、サヨとの関係は…プライベートでの会話が皆無になっていた。というのもサヨの方からリオと距離を置いていたのだ。

 

 そうして夏に入る頃にはリオとネクサスも村を出る折を村人達に話し、惜しまれつつも秋の収穫祭で送別会も兼ねて盛大に祝おうと準備を進めていたくらいだ。

 

………

……

 

 そして、季節は秋となり、収穫祭の当日となる。

 

 今年もまたリオはルリ、コモモ、アオイ、カヨコと共に村長宅の台所で料理を作っていた。ネクサスは去年と同じく適当な料理を作っては宴に参加して騒いでおり、時たま料理を作りに戻ってくる、というのを繰り返していた。

 

 そんな中、今年の村の収穫祭にはサガ家も加わっており、ゴウキなどは…

 

「無礼講である! 腕に覚えのある者は某にかかってくるがよい!!」

 

 上半身裸になって、相撲に似た競技で連勝を飾っていた。

 

「いいぞ、ゴウキの大将!」

 

「ドラ! おめぇの出番だ!」

 

「無茶言うなよ! 勝てる訳ねぇだろ!?」

 

 ドラ達が酒盛りして騒いでいた。

 

「よっしゃあ! 俺がやってやるぜ!!」

 

 そう言って勢いよく立ち上がったのは…ネクサスだ。

 

「おお!? ネクサス、お前がやるのか!?」

 

「体格が違うだろう!?」

 

 村人達から無理はするなと言われるが…

 

「な~はっはっは! まぁ、見ててくださいよ!」

 

 自らも上半身裸になってゴウキの前に立つ。

 

「ネクサス殿か。よかろう! かかってこい!」

 

「応ッ!!」

 

 そうして始まったゴウキとネクサスの取り組みは、意外な程に白熱して一進一退の攻防を続けていた。

 

「おお~! 行け、ネクサス! そこだぁ!」

 

「ゴウキの大将! 若造に負けたとあっては鬼神の名が泣きますぞ!?」

 

 そんな2人の取り組みは大盛り上がりを見せる。

 正にどんちゃん騒ぎである。

 

 

 

 そんな中、リオがサヨから話があると、2人で少し離れた道端の方で向き合っていた。

 そこで春先に起きたシンとの出来事を話し、しばし雑談で場を繋いでいたが、サヨが意を決したようにリオに向き直ると…

 

「…私…リオ様のことが、好きです!」

 

 真正面から告白していた。

 

「………………」

 

 その告白を聞き、リオの答えは…

 

「……ごめんなさい。サヨさん、あなたの気持ちに応えることはできません…」

 

 しばしの逡巡の後、リオはサヨの告白を断っていた。

 

 それでもサヨはリオの傍に居たいと申し出た。だが、それでも…リオはサヨの気持ちに応えられることはないと言って謝罪する…。

 

 そして、リオはサヨの前から立ち去った。

 その場に蹲って泣くサヨに、どう声を掛ければいいのか…わからず、何も言わずに去ってしまった。

 

 

 

 その様子を木陰で見ていた人影が一つ…

 

「………………」

 

 シンだ。

 

「くそっ」

 

 シンはサヨの方へと歩いていき、サヨの前でリオを貶した。しかし、サヨの想いが本物ならと、サヨに『諦めるな!』と喝を入れる。

 しかし、シンでは良い策が思いつかず、ちょっとした兄妹喧嘩っぱくなる。

 

 そんな時だ。

 

「まったく…そなたら、いささか声が大き過ぎるぞ?」

 

 ネクサスと競っていたはずのゴウキがその場に姿を現したのだ。

 そして、ゴウキはサヨの想いの強さを計り、とある提案(・・・・・)をしていたのだった。

 

………

……

 

 その数日後。

 

 リオとネクサスが村を出発する日がやってきた。

 村の西門付近に見送りの村人やサガ家の人間がリオとネクサスに各々挨拶をしていた。

 その中にはシンやサヨの姿もあり、リオに別れの挨拶をしていた。

 

「2人共、いつでもここに帰ってくるといい。アンタらはもう立派にこの村の一員なんだからね」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとよ、ユバさん。それに皆も元気でな!」

 

 最後に代表してユバが2人に向けて言葉を贈ると、2人も嬉しそうに礼を言っていた。

 

「それじゃあ、2人共…気を付けて行ってきな!」

 

「「はい!」」

 

 声を揃えて2人が返事をすると、踵を返して村から離れていく。

 その途中で…

 

「皆さん! 行ってきます!」

 

「次来る時は土産を用意しとくぜ!!」

 

 2人は振り返りながらそれぞれ村人達に手を振っていた。

 

 その後、村人達も大きな声で別れの挨拶を叫び、リオもネクサスも手を大きく振って応えた。

 

 

 

 それから村が見えなくなるまで歩いていくと…

 

「さぁ、リオ。次はどこ行く?」

 

「シュトラール地方だ。その前に精霊の民の里にも寄ってかないとな」

 

 宙に浮いて空へと飛翔しながら次の目的を話し合う。

 

「そうだな。じゃ、先に精霊の民の里だな。どうせ、通り道だしな?」

 

「あぁ」

 

 そして、2人は西の方角…未開地へと飛ぶ。

 

 

 

 時に神聖歴999年、秋のこと。

 運命の時は刻一刻と迫っていた。

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