精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第二十五話『里への帰郷』

 神聖歴999年。晩秋。

 

 リオとネクサスは精霊の民が暮らす大森林の上空を飛行していた。

 

「ん~、実に久々だな」

 

「そうだな」

 

 2人は前方に聳え立つドリュアスの大樹を見ながらしみじみとした気分で会話していた。2人がヤグモ地方を出発してから実に2週間の時間が経っている。

 

ピリッ…

 

 すると、2人の身体にそんな感覚が走る。里を守る結界の内部へと侵入した証だ。これで2人の存在は里側にも伝わり、誰かが飛び出てくるのも時間の問題だろう。

 

(みんな、元気にしてるかな? ラティーファも…)

 

 その場で停止し、滞空しながらリオは里のみんなのことを考え、自然と笑みを浮かべていた。

 

「おっ、来たぞ」

 

 それからしばらくしてネクサスが里の方から集団が来るのを見つけてリオに言う。先頭を飛んでいるのは、鷲と鷹に似た巨鳥の2羽だ。その背にはそれぞれ何名か乗っており、その後続にも自力で飛べる者が多数いた。集団は武装しているが、剣呑な気配は微塵もない。

 

「お兄ちゃん!」

 

 先頭を飛ぶ巨鳥の内、鷲に似た方…オーフィアの契約精霊であるエアリアルの背に乗っていた子が大きく叫びながら手を振る。リオもそれに応えるように大きく手を振り返した。

 その直後、エアリアルが加速し、リオとネクサスに急接近する。そして、2人との距離を詰めてさらに上空に飛翔する。すると、その背から1人の少女が飛び降りた。

 

「っと…」

 

 反射的にリオが上昇し、その少女…ラティーファを抱き留める。

 

「お帰りなさい、お兄ちゃん!」

 

 ラティーファがリオに迎えの挨拶をする。

 

「ただいま、ラティーファ。でも、危ないから、飛び降りたらダメだろ?」

 

「えへへ、ごめんなさ~い」

 

 リオがラティーファに注意するも、屈託のない笑顔で謝られてしまい、仕方なく彼女の頭を優しく撫でていた。

 

「やれやれ」

 

 その様子を少し下から見ていたネクサスは肩を竦めていた。

 

「ネクサス…!」

 

 一方で鷹に似た巨鳥…フレイシアスの契約精霊であるスカーレットがネクサスの傍までくると、その背に乗っていた少女の内の1人が声を掛けてきた。

 

「よっ、ただいま。元気だったか?」

 

 声を掛けてきた少女…シンシアとスカーレットに乗るもう2人に向けてニカッと笑いながらネクサスは帰還の挨拶をする。

 すると、リオの方もネクサスの隣まで下降してきて…

 

「皆さんの方もお変わりないようですね。お久しぶりです。ただいま帰りました」

 

 同じく帰還の挨拶を集まってきた面々にする。

 

「「「………………」」」

 

 そんなリオとネクサスの姿にエアリアルとスカーレットの背に乗る約3名の少女達が呆然としている。

 

「お久しぶりです、リオ殿、ネクサス殿。お元気そうでホッとしました。2人共、随分と逞しく成長されたようで。さらに強くなられたのでは?」

 

 そんな中、翼獣人のウズマが代表して声を掛ける。

 

「本当、リオさんもネクサスさんも、凄く大人っぽくなったよ」

 

 自力で空を飛べるオーフィアも2人の姿にそのような感想を呟く。

 

「ありがとうございます。成長期ですからね」

 

「あはは。ま、それなりに経験も積んできたつもりだしな?」

 

 リオはこそばゆそうに、ネクサスは笑ってそれぞれ答えていた。

 

「ふふふ、お2人が大人っぽくなったから、サラちゃんもアルマちゃんもシアちゃんも照れてるみたいですよ?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながらオーフィアがエアリアルとスカーレットに乗るサラ、アルマ、フレイシアスの3人を見てそんなことを言う。

 

「ふぇ?! あ、あの、その…///」

 

 オーフィアに言われ、フレイシアスはスカーレットの上で顔を赤くしながらもじもじと視線をあちこちに向けている。

 

「?」

 

 同じくスカーレットに同乗しているシンシアはフレイシアスの挙動不審な行動に首を傾げる。

 

「べ、別に照れてませんよ!」

 

 同じくスカーレットに同乗していたサラはすぐさまオーフィアに反論する。

 

「……私は、リオさんの雰囲気がだいぶ変わったなと思っただけです。むしろサラ姉さんとシア姉さんはネクサスさんに見惚れてただけでは?」

 

 エアリアルの方に乗っていたアルマはそっぽを向きつつ言い訳をする。

 

「あ、アルマちゃん!?///」

 

「な、何を言ってるんですか!? アルマだってリオさんのことを…!」

 

 引き合いに出され、フレイシアスは狼狽し、サラはちょっと苦しい言い訳を口にする。

 

「ははは」

 

「くすっ…」

 

 そんなやり取りを見て、ネクサスは声を出して笑い、リオもくすりと笑みを浮かべる。

 

「……なんで、笑うんですか? ネクサスさんにリオさんも…」

 

 笑われてしまい、ちょっとジト目でネクサスを睨むサラは不満そうだ。

 

「いや、相変わらず仲が良いと思ってな。それにしばらく見ない内に綺麗になったよ。なぁ、リオ?」

 

「そうですね。皆さん、雰囲気が大人びいてきましたね。素敵ですよ」

 

 ネクサスとリオの褒め言葉を聞き…

 

「うっ…あ、ありがとうございます…///」

 

「はぅぅ…///」

 

「……どうも」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 サラ、フレイシアス、アルマ、オーフィアと照れた様子を見せる。

 

「もちろん、ラティーファも綺麗になったね」

 

「うん、ありがとう!」

 

 リオは追加でラティーファのことも褒めていた。

 

「帰って、きたんだなぁ」

 

「あぁ」

 

 すると唐突にネクサスが呟くと、リオも頷いていた。

 

 

 

 その後、リオとネクサスがサラ達の案内で里の広場に降り立つ。

 

「あっ! リオ兄様にネクサス兄様! お帰りなさいなのです!」

 

 広場では里の子供達が遊んでいて、降り立った面々に気付いて集まってくる。その中にはサラの妹であるベラや、獅子獣人のアルスランの姿もあり、ベラがリオとネクサスに出迎えの挨拶をしていた。

 

「ただいま、ベラちゃん。相変わらず元気そうだね」

 

「アルスランもデカくなったじゃねぇか。ちゃんと鍛えてるか?」

 

 リオがベラに挨拶を返していると、ベラの近くにいたアルスランにネクサスが声を掛けていた。

 

「あぁ、頑張ってるよ。それと…久しぶり、ネクサスの兄貴にリオの兄貴」

 

 ちょっと照れくさそうにアルスランも挨拶を返してくる。

 

「リオ兄、おかえり!」

「ネクサス兄ちゃん! お土産は!?」

「里の外に行ってたんでしょ? どんなとこだった?」

「2人とも、背伸びた?」

 

 すると、広場にいた子供達が2人に群がり、こぞって話し掛けていた。

 

「ははは! 元気が有り余ってるな! それでこそだ!」

 

 ネクサスが笑って対応していると…

 

「ネクサスさん! あまりこの子達を甘やかさないでください! あなた達ももう日が暮れるんだから、そろそろ帰りなさい」

 

 サラがお姉さん風を吹かせて注意をするものの…

 

「え~! もっとお話ししたい!」

「どこ行くの!?」

「わたしたちも行きたい!」

 

 と、子供達がサラではなく、オーフィア、アルマ、フレイシアスに頼み込む。

 

(あはは…サラも好き好んで怒ってる訳じゃないのは承知してるが…なかなかの貧乏くじだな)

 

 ネクサスがその様子を内心で苦笑しながら見ていると…

 

「もう! これから最長老様達の所に行くの!」

 

 サラがこれから向かう場所を言うと…

 

「げっ、大人がいっぱいいるじゃん!」

「むぅ…」

「仕方ないから帰ろうぜ!」

 

 流石に子供達も大人達のつまらない会話を聞きたいなどとは思わず、引き下がったようだ。

 

「ベラ、アルスラン、あなた達が小さい子達をちゃんと送り届けるのよ?」

 

「は~い、なのです!」

 

「わかってるよ、サラ姉ちゃん」

 

 ベラとアルスランもサラの指示に頷くのを確認すると…

 

「では、行きましょうか。ネクサスさん、リオさん」

 

「おう」

 

「はい」

 

 そうして一行は最長老達のいる里の庁舎へと向かった。

 

………

……

 

 その日の晩。

 リオとネクサスは里の長老陣に帰還の挨拶を済ませた後、最長老達からちょっとした歓待を受けることになった。

 参加者はゲストであるリオとネクサス、ホストである最長老の3人(ハイエルフのシルドラ、エルダードワーフのドミニク、狐獣人のアースラ)、リオの義妹であるラティーファ、ネクサスの連れであるシンシア、さらには里にいた頃に同居してたサラ、オーフィア、アルマ、フレイシアスの計11人だ。

 

「それにしても、リオの小僧もネクサスの坊主もすっかり大人びいちまいやがったな。2人共、装備の調整が必要かどうか見てやるから、明日にでもまた顔を出すといい。何か不満とかあったか?」

 

 最長老の内、ドミニクが2人の装備類のことについて尋ねてくる。

 

「ありがとうございます。最高の使い心地でしたよ」

 

「そうだな。抜く機会は少なかったが、良い感触だったのは間違いない」

 

「不満は…強いて言うなら、上質な装備すぎて人目につきやすかったことでしょうか」

 

「贅沢な悩みだと思うけどな? でも、確かに何処に行っても目立っちまってな…」

 

 リオとネクサスがそう答えると…

 

「うはは、なるほどな。そうかそうか。そうだろう、そうだろう」

 

 ドミニクは上機嫌に笑う。

 

「リオ殿の旅の目的は果たせたと聞いたが、よければヤグモ地方での出来事を色々と聞かせてもらえないだろうか? その子達も気になっているはずだからのう」

 

 するとアースラがサラ達を見やりながらリオとネクサスにヤグモ地方でのことを聞く。

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「俺はリオについてっただけだからな。基本、行動は一緒だったし…とりあえず、話はリオから聞いてくれ」

 

 リオが承諾するのを見て、ネクサスは説明するのをリオに丸投げした。

 

「ネクサス…」

 

「いいだろ。別行動をしてたのだって最初の数ヵ月だけだったんだからよ」

 

「はぁ、お前ってやつは…」

 

 やれやれとリオがネクサスの言動に呆れつつも、その場の皆にヤグモ地方での出来事を伝えた。

 

 最初の数ヵ月はリオの両親の手掛かりを何も掴めず、数百に近い都市や村を転々としたこと、その末に祖母に出会えたこと、従姉がいたこと、そこから村での生活などをリオは語った。

 

「お兄ちゃんにお婆ちゃんや従姉がいたんだ…」

 

 ユバやルリの存在を伝えると、ラティーファが目を丸くして呟く。

 

「俺も世話になったが、良い人達だったよ。リオの旅仲間ってだけだが、俺のことも村の一員だって言ってもらえたしな?」

 

 そこにネクサスの補足が入る。

 

(ネクサス…)

 

(わぁってるさ。例の件は秘匿するから安心しろ)

 

 そんなネクサスにリオが視線を向けると、ネクサスの方も肩を竦めてみせていた。ちょうど補足したタイミングだったので、懐かしそうな雰囲気にも見える。

 

「?」

 

 が、シンシアだけはちょっと不思議そうにネクサスを見ていた。

 

「ところで、ネクサス殿」

 

「はい。何か?」

 

 シルドラがおもむろにネクサスに会話の矛先を向ける。

 

「少し気になっていたのだが…貴殿の髪色には黒も混じっている。ヤグモ地方ならいざ知らず、貴殿は確かシュトラール地方の出身だったな?」

 

「えぇ、まぁ…それが?」

 

 シルドラの意図を察せずにネクサスが首を傾げていると…

 

「なに。ちょっとした興味なのだが、貴殿の先祖はヤグモ地方の人間なのでは、と少し思ってな」

 

 シルドラはネクサスの先祖について聞いていた。

 

「あ~、そう言われてみると…でも死んだ父さんも母さんも別に黒髪って訳じゃなかったしな…」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。記憶が確かなら、どっちも銀とか灰に近かったような記憶がありますね」

 

「そうか。いや、すまなかったな」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 シルドラが軽く謝罪するも、ネクサスは気にした様子もなく両手を振る。

 

(そういや、前にも似たようなことを考えてたっけな。すっかり忘れてたぜ。でも…ぶっちゃけ、やっぱ興味ねぇや。ヤグモ地方からシュトラール地方に来た先祖がいたから今の俺がいるんだろうが…それはそれ、これはこれだろ。未開地を抜けるくらいだから、それなりに名の通った人だったのかもしれないが…今更、知ってもな…)

 

 シルドラに言われ、ネクサスがしばし思考の海に浸かっていた。

 

「と、そういえば、2人は今回里にはどれだけ滞在する予定なのだ?」

 

 ネクサスが思考の海に浸かってるのを見ながらシルドラがリオとネクサスに尋ねる。

 

「……あ? あぁ、それはリオに聞いてください。基本、俺はリオに任せるスタンスなんで」

 

 思考の海から帰ってきたネクサスがそう言うと…

 

「お前も別行動してもいいんだぞ?」

 

 リオがやや呆れたように言う。

 

「たはは。まぁ、特にやることもないしな。しばらくはリオに付き合うつもりなんだよ」

 

「まったく。長くとも数ヵ月ですかね。冬が明ける前には里を出て、シュトラール地方に向かう予定です」

 

 ネクサスがそう言うと、リオも諦めたようにしつつも姿勢を正して真面目な表情でシルドラに予定を伝える。

 

「お兄ちゃん、また行っちゃうの?」

 

「ごめん。今度はもっと早く戻ってくるから」

 

「約束だよ?」

 

「あぁ、約束だ」

 

 リオがラティーファとそんなやり取りをする中…

 

「………………」

 

 シンシアがネクサスを見つめている。

 

(家に戻ってから色々と聞くかな…)

 

 そんな視線に気付きつつ、ネクサスは帰宅してからのことを考える。

 

 

 

 それからリオは旅をしている間に思いついた案…『時空の蔵に格納できる家』について知恵を借りようとしたが、ドミニクの職人魂に火を点けたらしく、その格納できる家についてはドミニクやドワーフに任せることになり、リオやネクサスはラティーファやシンシア達の相手をするようにアースラから言われてしまった。

 ついでとばかりにネクサスの分も作ると言い、リオとネクサスから施設や間取りなどの設計面に関する要望を聴取した後、ドミニクは張り切って帰宅したとか…。

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