精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第三十話『お留守番』

 朝食を終えた後、リオはアイシアとネクサス、それとネクサスの契約精霊を連れて外に出ていた。

 

「アイシアは、精霊術で空を飛べるよね? 他に得意な系統とかはある?」

 

 こちら側の世界の言葉で、リオはアイシアに尋ねていた。軽くストレッチをしてる辺り、アイシアの強さを確かめたいのかもしれない。

 

「うん。飛べる。得意な系統は、春人と同じ」

 

「万能型かよ。確か、滅多にいないはずだが…まぁ、目の前の奴が既に万能型だしな」

 

 アイシアの言葉にネクサスが特に驚いた様子もなく呟く。

 

「そういうお前も万能型に近いだろう?」

 

「きっと俺らがおかしいだけさ」

 

 リオのツッコミにネクサスは肩を竦ませる。

 

「ということは、こいつも万能型か?」

 

 そう言ってネクサスは自らの精霊を見る。

 しかし…

 

『(フルフル)』

 

 予想に反して、精霊は首を横に振る。

 

「ふむ? そうなのか?」

 

 ネクサスが精霊とそんなやり取りをしていると…

 

「私も戦える。春人を守れる。春人の傍にいられる」

 

 アイシアがそのようにリオへ向けて言葉を発していた。

 

「アイシア…」

 

「ふむ…?」

 

 アイシアの言葉にリオは目を丸くし、ネクサスも何か引っかかる様子だった。

 

「春人が必要なら、いつでも私を頼ってくれていい」

 

「良い協力者ができたな? もちろん、俺も協力は惜しまないがな?」

 

 アイシアの言葉に張り合うようにネクサスもリオにサムズアップする。

 

「2人共…ありがとう」

 

 リオは素直に2人にお礼を言うと…

 

「しばらくは美春さん達にこの世界の言葉を教えるけど、今日は買い物に行く。色々と足りないものもあると思うんだ。そこで、美春さんを連れて行くからアイシアは一緒に来てくれ。ネクサスは亜紀ちゃんと雅人君の護衛を頼む」

 

「わかった」

 

「あぁ、わかった。俺もこいつと対話したり、名前を考えないとだしな?」

 

 リオのこれからの予定に2人は首肯する。

 

(ついでだし、デートでもしてくりゃいいのに…)

 

 などとネクサスは考えていたが、口にすることはなかった。

 

「あとは…アイシア。軽くだけど、手合わせしてくれるかな? どのくらい出来るか、確かめておきたいんだ。但し、精霊術は使わないで」

 

「うん、わかった」

 

 リオの言葉にアイシアが頷き、軽く後方に下がる。

 

「近接戦もできるのか?」

 

「できる」

 

 ネクサスの疑問にアイシアは淀みなく答える。

 

「なら、手短にな。両者、準備はいいな?」

 

 審判役を買って出たネクサスがリオとアイシアを交互に見ると、どちらも軽く頷いていた。

 

「では、始め!」

 

 ネクサスの開始の合図と同時にアイシアが一気にリオの間合いへと入り、投げ技を仕掛ける。

 

「「ッ!?」」

 

 その行動にリオとネクサスがギョッとしたように驚く。しかし、リオの対応も素早く、アイシアの手をいなしていた。

 

(おいおい、マジか!? リオと同等レベル…というよりも、これはリオの動きをトレースしてるのか!?)

 

 ネクサスがアイシアの動きに既視感を覚えて分析していた。おそらくリオの方も同じ分析をしていて、且つアイシアの手を捌き切っているが…。

 

(リオの方が流石に一日の長があるか。だが、対人戦の経験値を積めば、リオ並みの使い手になるな)

 

 アイシアのポテンシャルに末恐ろしいものを感じつつ…

 

「そこまでだ! もういいだろ?」

 

 ネクサスが手合わせを止めに入った。その声に攻めていたアイシアも手を止めていた。

 

「…全部、捌かれた」

 

 そして、リオに全部攻撃を捌かれたことをぽつりと呟く。別に悔しそうではなさそうだが…感情表現が乏しいのだろうか? それとも長く眠っていた影響か?

 どちらにせよ、判断がつきにくい。

 

「驚いたよ。まさか、あそこまで戦えるなんて…」

 

「だな。少なくとも、即戦力にはなるだろうよ」

 

 リオが苦笑しながらアイシアの戦闘力を認め、ネクサスもまるでリオがもう1人いるような不思議な感覚を味わっていた。

 

「じゃあ、戻って準備しようか」

 

「うん」

 

「ま、俺は留守番役だがな」

 

 そんなことを言い合いながら外に出てた面子は岩の家の中へと戻るのだった。

 

………

……

 

『それじゃあ、行ってくるよ。俺達がいない間はシノブの言うことを聞いてね?』

 

 家の中に戻ったリオは美春を呼び、アイシアと共に出発の準備をし、亜紀と雅人に注意事項を伝えていた。

 

『おう、わかってるよ。ハルト兄ちゃんの方こそ、美春姉ちゃんのことを頼むな!』

 

『ハルトさん達も気をつけてくださいね』

 

『土産を期待してるぞ~』

 

 雅人と亜紀がそれぞれ見送りの言葉を返す中、ネクサスが土産を期待するようなことを言う。

 

『別に遊びに行くわけじゃないんだが…』

 

 そんなネクサスの言葉にリオは若干頭を抱える。

 

『では、行きましょうか。美春さん』

 

『あ、はい』

 

『行ってくる』

 

 リオが美春を呼び、アイシアもそう言うと…

 

『そういや、今日中に帰ってこれるのか? この辺、草原ばっかで都市とか見てねぇけど?』

 

 不意に雅人がそのような疑問を呟く。

 

『あぁ。そういえば、移動手段のことは言ってなかったね。少しだけなら大丈夫かな? 2人も外に出ておいで。面白いものが見られるから』

 

『『?』』

 

 リオの言葉に亜紀と雅人が首を傾げる。

 

『百聞は一見に如かず、ってな。ま、俺は面白いというよりも驚きの方が強いと思うが…』

 

 そう言ってネクサスが2人の背を押して外に出るよう促す。

 そうして揃って外に出ると…

 

『じゃあ、アイシア。君がどのくらい飛べるか確認したいから、見せてあげてくれる?』

 

 リオがアイシアにそう言うと…

 

『わかった』

 

 アイシアは静かに頷くと、地面から少し足を離す。すると、重力を無視するかの如く、空へと上昇していく。

 

『『『えっ?』』』

 

 当然、その光景に美春達は面食らっていたが…。

 

『す、すっげぇ!! これも魔術なのか!?』

 

 いち早く正気に戻った雅人がはしゃぐ。

 

『その説明はシノブに任せるよ。どうせ、留守番を任せているんだし。ついでに言葉も習うといいかもね?』

 

『ハルトが人に丸投げとは珍しい。だが、まぁ…いいぜ。どうせ、暇になるし、雅人と亜紀の勉強を見てやるよ』

 

 そんな風にリオとネクサスが会話していると、アイシアが降りてくる。

 

『どう?』

 

『完璧だよ。それじゃあ、改めて行きましょうか』

 

『は、はい!』

 

 リオがアイシアの飛行を問題ないと判断し、美春もリオの傍に行くと…

 

『じゃあ、アイシア……って、あれ?』

 

『あ~、ハルト。アイシアなら、先に行ったぞ?』

 

 リオがアイシアを再度呼ぼうとしたが、当のアイシアは飛行の慣らしも兼ねてなのか、既に飛んでいた。

 

『……美春さん。俺が運んでもよろしいですか?』

 

『え? あ、はい…だ、大丈夫です…』

 

 リオの言葉に美春がやや緊張気味に頷く。

 

『無理はしないでください。アイシアにもう一度降りてもらって、運んでもらうことも…』

 

『だ、大丈夫です。ハルトさんのことは信頼してますから…ど、どうぞ』

 

 リオの申し出に美春はそう答える。

 

『……では、失礼して…』

 

 そう言ってリオが美春をお姫様抱っこの要領で抱き抱える。

 

『お、重くないですか…?』

 

『大丈夫ですよ。むしろ、軽いくらいです』

 

 その姿を傍目から見て…

 

(やれやれ、だな…)

 

 ネクサスは肩を竦めて微苦笑していた。

 

『それじゃあ、行ってくる』

 

『おう。こっちは任せとけ』

 

 リオが美春を抱えて飛び上がると、ネクサスもそれに応えるように手を振った。

 

『いいなぁ~、美春姉ちゃん。なぁなぁ、シノブ兄ちゃん! 俺も飛んでみたい!』

 

 飛び立ったリオ達を見送りながら雅人がネクサスに飛びたいと言い寄る。

 

『ははは。雅人も飛びたいのか。いいだろう…と言いたいが、まずは言葉の勉強だな。その代わり、息抜きの時に飛んでやるよ』

 

『本当か!? 約束だぞ!』

 

『おう。なら、頑張って勉強しような?』

 

 ネクサスと雅人がそんな風に会話している中…

 

『………………』

 

 亜紀はリオと美春、アイシアが飛んでいった方をじっと見ていた。

 

『どうした、亜紀?』

 

『え? あ、いえ、何でもないです…!』

 

 ネクサスが声を掛けると、どこか慌てた様子で亜紀も首を横に振る。

 

『そうか? 悩みがあったら相談に乗るぜ?』

 

『だ、大丈夫ですから! でも…お気遣い、ありがとうございます…』

 

『ははは、気にするな。さ、中に入って勉強だ。少しでも学んで驚かせてやろうぜ?』

 

『はい…』

 

 そうして3人は家の中へと入る。

 

(さてと…それじゃあ、いっちょ俺も頑張りますかね?)

 

 家の中に入りながら、ネクサスが軽く両手を組んで腕を伸ばす。

 

 

 

 それからしばらくはネクサスが亜紀と雅人のシュトラール地方の共通言語に関する教育を行っていた。

 

 まずは基本的な挨拶の単語…『おはよう』や『こんにちは』、『こんばんは』、『おやすみなさい』といった単語をネクサスが紙に書き出し、それらの発音の仕方を実践も交えて教えていた。

 そうしてしばらく勉強を続けていたが、そろそろいい時間だろうと、発音の仕方を確かめるようにお互いに言い合いながら注意していくように2人に言ってから、ネクサスは昼食の準備をしていた。

 

 そして、昼食の最中…

 

『なんか、シノブ兄ちゃん。教えるの上手くね?』

 

『確かに…どうして、そんなに上手なんですか?』

 

 ネクサスの教え方が丁寧で妙に上手いことに興味を抱いた様子で、日本語で尋ねてくる。

 

『うん? そうさな。俺の前世も日本人だったのは覚えてるな?』

 

 ネクサスがそう切り出すと、2人も頷く。

 

『ま、その前世にも関係あるんだが…俺には妹が2人いてな。そいつらに勉強を教えることもあったんだよ』

 

 ネクサスは優しい笑みを浮かべながらそう答える。

 これでも前世では、妹達に勉強を教えていたりもしたので、教え方にはちょっと自信があったりする。特に上の妹の呑み込みはあまりよろしくなかったので、根気よく丁寧かつわかりやすいように噛み砕いた教え方も習得していたのだ。

 

『妹さんが2人も…?』

 

 亜紀が驚いたようにネクサスを見る。

 

『おう、双子の妹でな。これが性格が正反対で、得意教科もバラバラだったから苦労したぜ』

 

『いいなぁ~。俺には兄貴と姉ちゃんしかいねぇから、なんか羨ましいぜ』

 

 ネクサスの話を聞き、雅人が羨ましそうなことを言う。

 すると…

 

『あの、シノブさん…』

 

『うん? どうした、亜紀?』

 

 ちょっと真剣そうな表情で亜紀がネクサスに声を掛ける。

 

『帰りたい、と思ったことはないんですか? 地球に…』

 

『………………』

 

 思い切った質問をしてきた亜紀に対し、ネクサスはしばし眼を閉じて考えてから…

 

『そうだな。正直、帰りたいと思ったことは、何回かあったな』

 

『あった…?』

 

 ネクサスの答えが過去形なのに、亜紀は首を傾げる。

 

『ま、これでも既に死んだ身だからな。帰ったところで、俺に居場所なんてないのさ』

 

 ネクサスはどこか達観した様子で、そのように言って肩を竦める。

 

『ぁ…す、すみません! 変なことを聞いちゃって…!』

 

『気にするな。亜紀の疑問はもっともだろうからな。ただ、未練がない…と言えば、嘘になるが…まぁ、前世の記憶があっても、今の俺はこの世界の人間だからな。帰ろうなんて考えても仕方ない、って思ってるだけさ』

 

 亜紀が謝罪の言葉をするが、ネクサスは気にしてないと答え、自分なりの見解も伝えていた。

 

『よし。じゃあ、食べ終わって俺が洗い物を済ませたら空中遊泳に連れてってやろう』

 

 ちょっと暗くなった雰囲気を払拭すべくネクサスがそう提案する。

 

『本当か!?』

 

 ネクサスと亜紀の小難しい話を聞き流してた雅人がその話に食いつく。

 

『あんたってやつは…』

 

 そんな雅人に亜紀は呆れていたが…。

 

(ま、前世での詳細は伏せたし、話したのも俺のことだからハルトも許してくれるだろ)

 

 そんな2人の様子を見ながらネクサスは内心そんなことを思っていた。

 

 

 

 それからネクサスは約束通りに雅人を連れて空を飛び、近くをぐるりと回るのだった。ちなみに亜紀にも飛ぶかと尋ね、恐る恐るだが亜紀にも空中遊泳を体験させていた。

 空中遊泳が終わり、家の中で言葉の勉強する中、ネクサスは2人に魔術と精霊術の違いも教えていた。

 

 ただ、ネクサスも自分の精霊のこともあったので、休憩の時に名前を考えた結果…

 

『よし、こいつの名前は「ファング」にしよう』

 

『ファング?』

 

『どういう意味なんだ?』

 

 精霊の名前を決め、日本語で呟いていると、亜紀と雅人が名前の意味を聞いてくる。

 

『「牙」とか、そういう感じだな。お前もそれでいいかい?』

 

 ネクサスが精霊に確認すると…

 

『(コクリ)』

 

 ネクサスの近くを浮遊してた精霊が頷き、ネクサスの精霊の名は『ファング』に決まった。

 

『そうか。改めてこれからよろしくな、ファング』

 

『………………』

 

 浮遊してた精霊…ファングがネクサスの頭に乗っかる。どうも、そこがファングの定位置になりそうだった。精霊には霊体化する能力もあるので、別に問題もないのだが…。

 

(どう捉えたものかね?)

 

 そんなファングの態度にネクサスは苦笑していた。

 

 

 

 そうして時間は過ぎていき、日が暮れる前にリオ達が買い物から帰ってくるのだった。

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