精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第三十二話『襲来する影』

 ネクサスが美春に少し踏み込んだ質問をした日から、さらに1週間後のこと。

 

 家の中で勉強していた美春達は小休憩しており、アイシアと雅人はそれぞれ部屋で昼寝をしていて、美春と亜紀はリビングで寛いでいて、ネクサスはファングを頭に乗っけたまま外に出ていた。

 

(……心なしか、森が静か過ぎる? 何かの兆候か?)

 

 森の気配を探っていたネクサスは、やや険しい顔つきで周囲を見ていた。

 すると…

 

ガチャ…

 

『はぁ…』

 

 家の中から亜紀が出てきた。どこか重たい溜息を吐いている。

 

『亜紀? どうかしたのか?』

 

 警戒度を上げているネクサスが亜紀が外に出てきたことに若干驚き、声を掛ける。

 

『あ、シノブさん…何でもないです。ちょっと頭を冷やしたくて』

 

 ぶっきらぼうに答える亜紀に対してネクサスは…

 

(中で何かあったのか? 確か、美春ちゃんとお茶してたと思ったが…)

 

 周囲を見回して異常がないか確かめつつ、亜紀に近寄る。

 

『美春ちゃんと何かあったのか?』

 

『何でもないです! 私がただ一方的に熱くなっただけですから…』

 

 そのことを言いたくなさそうに亜紀がネクサスに向かって怒鳴る。

 

『一方的に熱く、ね…』

 

 詳細は分からないが、亜紀にも何かしら事情があるのだろうと考えて何かを言おうとしたネクサスだったが…

 

『ッ! 亜紀、早く中に入るんだ』

 

 何らかの気配を感じ、亜紀に家の中に入るよう促す。

 

『え? なんでで……!?』

 

 亜紀がネクサスの方を見ると、今まで見たことのないような険しい表情で森の方を凝視するネクサスを見て、亜紀も息を呑む。そして、その視線の先を見てみると…

 

『な、なに…アレ?』

 

『ファング。亜紀を頼むぞ』

 

 ネクサスの視線の先には灰色の怪物が2体もいた。距離的にはざっと20メートル程だが、ネクサスは亜紀にファングを持たせると、一歩だけ前に出る。

 

(見たことないが…魔物か? にしては、人間にも見える)

 

 灰色の怪物の姿を観察し、人間にも見えるその姿に違和感を覚えていると…

 

『亜紀ちゃん、さっきは……えっ!?』

 

 亜紀を心配してか、美春も家から出てくる。

 

『美春ちゃん。アイシアを呼んでくれ』

 

『え? あ、は、はい!』

 

 ネクサスがアイシアを呼ぶように美春に言うが…

 

『大丈夫。もう、来た…』

 

 どこかまだ眠たそうにするアイシアがその場に顕現する。

 

『どう見る?』

 

 顕現したアイシアに早速ネクサスが聞く。

 

『魔物っぽいけど、人っぽくもある…?』

 

『やっぱ、そう見えるよな』

 

『とにかく、美春達を守らないと…』

 

 そう言ってアイシアが前に出ようとするが…

 

『おっと、まだ手を出すなよ?』

 

『なんで?』

 

『相手の力が未知数なのと、本当にあの2体だけなのか…それに美春ちゃん達の避難もまだ…!!』

 

 と、そこまで言ってネクサスが2つの気配を感じる。

 一方は空から急速接近してくる人の気配。もう一方は、森の中からまるで美春達を狙ったかのように接近する前方の人型魔物と似た雰囲気の気配だった。

 それを察知したネクサスは…

 

『随分とまぁ、タイミングのいいことで…!』

 

 そんなことを呟いていた。

 すると…

 

『グァアア…!!?』

 

 美春達に迫る黒い影は、同じく黒い影によって阻まれ、灰色の人型魔物っぽい2体の方へと吹き飛ばされる。

 

『ネクサス! 美春さん達を放って何してるんだ!?』

 

 美春達を守った黒い影…リオがネクサスに向かって珍しく怒った様子で叫ぶ。

 

『お前が来るのが分かったんでな。任せただけさ。それよりも…』

 

 飄々と言いながらも腰裏に装備してたダガーを2本とも引き抜き、ネクサスが臨戦態勢を取る。

 

『まだ、終わってなさそうだ』

 

『!?』

 

 灰色の人型魔物がこちらに気付き、吹き飛ばされたはずの浅黒い人型魔物も臨戦態勢を取っていた。

 

『美春さん、亜紀ちゃん。早く家の中に…』

 

『は、はい…!』

 

 そうして美春と亜紀が慌てて家の中に入るのを確認してから…

 

「こいつらは、なんなんだ?」

 

「さてな。魔物にも見えるが、人にも見える。正直、わからん」

 

「アイシアも知らない?」

 

「うん。見たことない…けど、強いて言うなら…魔物っぽい?」

 

 3人が軽く情報交換をしていると、向こうもこちらを警戒してるのか、一定の距離を取っていた。

 

「というか、ハルトの一撃を受けて立ち上がってるぞ? タフだな~」

 

「呑気なことを言ってる場合か」

 

「ま、あんなのを野に放すのもナンセンスだしな。ここでキッチリ狩りますか…」

 

 ネクサスが黒い個体のタフさに感心してると、リオから小言を言われる。なので、ネクサスも少々本気の目付きになる。

 

「灰色よりも黒い個体の方が強いと思う…」

 

 そんなアイシアの言葉に…

 

「じゃ、そいつはハルトに任せるわ。俺とアイシアで灰色のを確実に仕留める」

 

 ネクサスは軽い感じで分担を決めていた。

 

「……あとで言いたいことがあるからな?」

 

「わかってるよ」

 

「あ…」

 

 リオとネクサスがそんなやり取りをしていると、アイシアの声が上がる。

 どうやら3体の人型魔物は逃亡を図るらしい。

 

バッ!!

 

 だが、次の瞬間、リオ、ネクサス、アイシアの姿がその場から消え、それぞれ標的にした人型魔物の背後から肉薄していた。

 

(逃亡を図るくらいの知能は持ってるのか? だが、それにしては…)

 

 ネクサスが灰色の人型魔物の背後に出現すると、妙な違和感を抱いていた。

 

(まぁいい。今は、殺すのみ…)

 

 さっきまでの飄々とした態度ではなく、無表情と化して冷たい眼差しで標的を見る。それは、かつて暗部で磨いてきた暗殺術を行使する時の、無慈悲な暗殺者の姿を彷彿とさせる。まぁ、実際に任務に出たのはプロキシア帝国への潜入しかないのだが…人を殺す技術だけは無駄に磨き上げていたので、間違いではない…はず。

 

『ガァ!』

 

 ネクサスの気配を本能的に察知したのか、人型魔物が背後に向かって大振りに腕を薙ぐが…

 

(遅い…)

 

 その腕を掻い潜り、両手のダガーを逆手に持ち直し、背後からさらに接近して密着すると、右腕を魔物の正面に回して心臓を突き、左手に持ったダガーで魔物の首にダガーの刃を刺し込み、一気に手前に持ってきて引き裂く。

 

『ギィアア!!?!?』

 

 魔物が絶叫を上げ、暴れ出す。

 

(これで死なない? 急所を突いたはずだが…)

 

 暴れ出した瞬間に、ダガーを引き抜いて一旦後退したネクサスは眉を顰めて魔物を観察していたが…

 

(追撃するか…)

 

 藻掻き苦しむ姿を憐れんでか、違う意図があるのか…ネクサスは即座に追撃を選択した。

 

(死ね…)

 

 ダガーに精霊術で冷気と熱気を纏わせ、今度は冷気の刃で目を、熱気の刃で再び心臓を貫く。

 

『グ…ガガ………』

 

バタリ…

 

 しばらく貫いたまま様子を見ていたが、魔物の身体が罅割れて崩れ落ちると、魔石だけが残る。

 

(魔石。となると…やはり、魔物か…?)

 

 とりあえず、魔石を拾い上げると家の前へと向かって低空飛行で飛ぶ。ちょうどリオとアイシアもやってきてそれぞれ魔石を見せ合う。

 

「本当に魔物…と解釈していいのか?」

 

 家の前で魔石を見せ合う中、リオがそんなことを呟く。

 

「何か気になることでもあったか?」

 

「気のせいだと思うけど、俺が倒した黒い魔物の口の動きがな」

 

「口の動き?」

 

「まるで、何かを言ってるようにも見えたんだ…」

 

「ふむ……アイシアの方は?」

 

 リオの言葉を聞き、しばし考えるネクサスはアイシアにも意見を聞く。

 

「……わからない。そこまで注意してなかったから」

 

「俺もだ。だが、黒い個体は他の2体よりも強かった。となると、リーダー格の可能性も捨てきれんか…」

 

 アイシアの言葉も聞き、ネクサスなりに考察するが、情報が少ないのもあって憶測になってしまっていた。

 

「……う~ん…」

 

 難しい表情でネクサスが唸っていると…

 

「とりあえず、今は美春さんと亜紀ちゃんの無事を確認しよう。引っ越しの話もあるし」

 

「……わかった」

 

 熟考を中断し、ネクサスもリオの話を聞くことに同意する。

 

 それから3人は家の中に戻ると、亜紀から謝罪される。勝手に家を出たこともそうだが、ネクサスにちょっと八つ当たり気味なことを言ってしまったことも少し気にしていたようだ。ネクサスは『誰にだってそういう時もあるだろうから気にすんな』と笑って許していたそうだが…。

 呑気に昼寝してた雅人も起きてきて、リオが引っ越しの話を切り出す。

 無事に許しを得たらしく、美春達を里に連れてきてもいいとのことだった。但し、今後シュトラール地方に戻る際には里についての情報を秘匿するようにとの条件を付けて、だ。

 

 

 

 そして、翌日。

 転移結晶を用いて里への転移が決行された。

 

「本当に一瞬で景色が変わったな」

 

「そういえば、シノブは初めてだったな?」

 

「あぁ…」

 

 転移後、里の近くでしばし会話をしていると、迎えの者達がやってくるのだった。

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