精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第三十四話『精霊と前世について』

 サラ達が美春達を連れて退室した後の会議室では…

 

「すみませぬな。リオ殿、アイシア様。それにネクサス殿にファング様も…。色々と込み入った話もさせていただきたく、もうしばしの間、この老人共とのお相手を願います」

 

 アースラが代表してリオ達にそう語り掛ける。

 

「いえいえ、お気になさらず。むしろ、彼女達を外してくれて助かってますよ。なぁ、リオ?」

 

「ネクサスの言い方は引っ掛かりますが…ご配慮、ありがとうございます」

 

 ネクサスがすかさずアースラにそう言うと、リオもそう言って会釈していた。

 今、この部屋にいるのはリオ、ネクサス、アイシア、ファングに、里の長老陣、そしてドリュアスのみだ。

 

「それで、聞きたいことは何です?」

 

 リオに代わりネクサスがどんな話を聞きたいのか、と長老陣に問う。

 

「うむ。他にも色々と伺いたいことはあるが…まずはアイシア様とファング様のことだ。ドリュアス様、よろしいでしょうか?」

 

 ネクサスの問いにシルドラが代表して答えつつ、アイシアの隣に座るドリュアスにお伺いを立てる。

 

「そうね。まず、こうして会ってみてからわかったけど、アイシアもファングも、私が知らない精霊よ。アイシアについては長老達経由でリオからの話を聞いて、いくつか不思議に思ってたのだけど……ファングについては正直お手上げね。なんで、こんな複雑な構造をした精霊になったのか不思議でしょうがないわ」

 

「格的にどうなんですか?」

 

 ドリュアスの言葉にネクサスがファングの精霊としての格を尋ねる。

 

「そうね…これだけ複雑だと、やっぱり準高位級に定義されるのかしら? でも、こんな複雑な生物も見たことないから判断が難しいわね。でも、さっき感じ取った気配的な感じなら、アイシアと似たようなものだから…限りなく高位に近い準高位級…なのかしらね?」

 

「さいですか…」

 

 ファングの格は一応、準高位級ということになるらしい。

 

「意思疎通はできてる?」

 

「いやぁ~…恥ずかしながらそれはサッパリでして。一応、俺の言葉を理解してファング自体の意思表示はできてるけど、サラ達みたいな意思疎通はまだ…」

 

「そう。言葉を介せるかはわからないけど、一応その辺りもアイシアと一緒に教えましょうか」

 

「よろしく頼んます…」

 

 そう言ってネクサスがドリュアスに頭を下げる。

 

「それで、アイシアの方だけど、記憶がないのよね?」

 

「うん」

 

 ドリュアスに聞かれたので、アイシアも素直に頷く。

 

「そこも不思議なのよねぇ。少なくとも人型精霊に昇格したのなら、昇格前の記憶も少なからずあって然るべきなのに、自分がどんな精霊だったのか、名前も忘れてるなんて…」

 

 ドリュアスがそのように呟くと…

 

「……少しお伺いしたのですが…精霊はみな人型精霊に昇格するようなものなのですか? 低位や中位の時の記憶も留めていると?」

 

 すかさずリオが疑問を口にする。

 

「う~ん…難しい質問ね。私も自分が見てきた精霊しか知らないから、正確な答えを与えることは出来ないわ。けど…精霊の誰もが昇格するわけではないの。色んな要素やきっかけなんかもあるから、一概には何とも言えないのかしら…」

 

 ドリュアスも悩ましげにリオの前半の問いに答え…

 

「記憶に関しても、そうね。低位の頃なんかは覚えてないわ。人間でいうとこの赤ん坊みたいなものだし…覚えていても中位の頃か、中位以降くらいかしら? まぁ、その頃の私は宿り樹から離れられなくて、毎日ひなたぼっこしてたくらいかしらね」

 

 後半の問いにもちょっと懐かしい感じで答えていた。

 

「つまり、本来なら高位に昇格する直前の記憶はあるはずなのに、アイシアにはそれがない、と…」

 

 ドリュアスの説明を聞き、ネクサスが噛み砕いて理解する。

 

「そうね。まぁ、それを言ったらファングなんて、いったいどういう経緯を経たらこんな姿になるのか、不思議な訳だけど…」

 

『?』

 

 ファングがドリュアスの視線に気付き、首を傾げる。

 

「あと、付け加えるなら、中位以上の高い格を得て、さらに長い年月を重ねていく内に精霊の我は強くなって、個性も強くなっていくわ。私みたいにね?」

 

「「なるほど」」

 

 リオとネクサスがそれぞれ納得していると…

 

「だから、なんていうのかしらね? アイシアは、格は高いのに、どこか生まれたての精霊みたいに我が弱い、ちぐはぐに見えるのよね。ファングも、話してみないことには何とも言えないけど、似た雰囲気があるのよね…」

 

 ドリュアスはそう語ると、アイシアとファングに視線を向ける。

 

「?」

 

『?』

 

 当のアイシアとファングはその視線に首を傾げるだけだったが…

 

「アイシアは、今のままでも十分に魅力的だと思うよ」

 

「ファングもあんま気にすんなよ? もう、お前と俺は一心同体なんだからよ」

 

 リオとネクサスがそのように言う。

 

「ありがとう、春人」

 

『クゥン!』

 

 アイシアもファングも嬉しそうに返す。

 

「ふふ、契約者との信頼関係は良好のようね。いい傾向よ。私には契約者がいないから、ちょっと羨ましいかも」

 

 ドリュアスからもそんな風に言われ、リオは少し照れくさくなり、ネクサスはファングの頭を撫でていた。

 

「確かに。リオ殿もネクサス殿も、アイシア様とファング様と随分と打ち解けていらっしゃるようだ。しかし、ハルト、とは…? リオ殿のことをそう呼んだように聞こえましたが…」

 

 ドリュアスの意見に賛同しながらも、アースラはアイシアのリオの呼び方について気になったようだ。

 

「実は、事情がありまして…今の俺は、シュトラール地方では『ハルト』という名で活動しています」

 

「ちなみに俺も『シノブ』って偽名を名乗ってます。俺にもちと事情がありましてね」

 

「先程、サラさん達にもお話したことですし、ちょうどいいので皆さまにもお話ししようと思います」

 

 そう言ってからリオとネクサスはそれぞれの事情を長老達にも話す。

 リオは、かつてベルトラム王国にいた頃に王侯貴族のいざこざに巻き込まれて無実の罪を着せられ、指名手配をされていることを…。

 ネクサスは、かつて自分が奴隷の身で、ガルアーク王国の暗部で活動し、初任務の帰還途中に追手を差し向けられ、自らの死を偽装して脱走したことを…。

 

「なるほどのう。お2人にそんな過去が…」

 

 アースラが複雑な面持ちで呟き、他の長老達も複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「ま、面白くもない身の上話ですので、どうか聞き流してくださいな。今ではもう自由の身ですからね」

 

 ネクサスが肩を竦めながら快活そうに言う。そこに悲壮感はなく、本当にもう気にしていないのだというのがわかる。

 

「…面白くない話ついでに、皆様にお話しておきたいことがあります。私達が美春さん達とどうして話が通じたのか…。それを説明させてください。ただ、話の内容が内容なので、出来る限り他言無用でお願いしたいのですが…」

 

 珍しくリオは勢いに任せて、その辺りの事情も説明するようだった。

 

「ま、それが筋ってもんかね?」

 

 ネクサスもリオの判断に異論は無さそうだった。

 

「よいのか? 無理して話す必要はないのだぞ?」

 

 最長老3人も目を見張り、シルドラが代表して2人に聞き返す。

 

「無理、というわけではありません。ただ、普通に聞いても信じられる内容ではないのも事実なので。逆に皆さんが不気味に思われるかと…」

 

「ま、美春ちゃん達…いや、勇者が召喚され、それに巻き込まれた人間と出会わなければ、おそらくは話す機会もない内容のものなんですよ。これからする話ってのは…」

 

 リオとネクサスがそう言うと…

 

「つまり、異界から来た彼女らには、既に話したということかな?」

 

 シルドラがそのように問い返してきた。

 

「そう、ですね。事の成り行き上、話さざるを得ませんでしたから…」

 

「ま、向こうも最初は半信半疑でしたからね。こればかりは仕方ない」

 

「それに、美春さん達を里で面倒を見ていただく以上、皆さんにも説明しておかないといけないと思いました。先日は当事者の1人でもあるネクサスとも一緒に説明を行った方がいいかと思い、省かせてもらいましたが…ご希望とあらば、説明させていただきます」

 

 リオとネクサスはそのように答える。

 

(相変わらず、堅いね…リオは)

 

 ただ、ネクサスは先日許可取りに来れなかったので知らなかったが、今の言葉で許可取りに来た時のリオの様子が何となくわかったのか、内心で苦笑していたが…。

 

「そうか…。皆の者、聞いての通りだ。これからお2人のする話はこの場のみのものとし、外への持ち出しは堅く禁ずる。誓えぬ者、異議のある者は部屋を出て行くように」

 

 シルドラがそのように他の長老に言うが…

 

「……ありがたいことだね」

 

 ネクサスが小さく呟く。誰一人として出て行くものがいなかったのだ。

 

「では、全員。先の制約を厳守することを誓ったものとみなす。違えた者には……まぁ、言うまでもないな。ドリュアス様もよろしいですか?」

 

「えぇ、いいわよ。どうせ、言いふらす趣味も相手もいないしね」

 

「然様だそうだ。では、お2人とも説明願えるだろうか?」

 

 シルドラがドリュアスにも確認を取ってから、改めてリオとネクサスに向き直って説明を促す。

 

「はい。ご高配、痛み入ります」

 

「ホント、感謝してもしきれないですよ…」

 

 リオとネクサスはそのように言ってから前世の記憶についての説明を長老達にした。

 

 具体的には、幼少の頃に自分ではない自分の記憶に目覚めたこと。その記憶の中で暮らしていた世界が、たまたま美春達と同じ世界であったこと。この2点に重点を置いて説明していた。但し、2人の過去…事故によって死んだ事実や、リオの前世である天川 春人と美春達との関係などは伏せたものの、それでも言葉が通じた理由については十分な説明にはなったはずだ。

 

「以上です」

 

「まぁ、簡単に信じられるようなもんじゃないのは確かですがね…」

 

 2人が説明を終えると、長老達も軽く息をついており…

 

「ふむう。確かに、俄かには信じがたいが……事実なのだろうな」

 

 最初に開口したシルドラが唸るようにしながらも答える。

 

「信じていただけるのですか?」

 

「盟友達の言葉なのだ。その時点で疑ってはおらんよ。実際に言葉も通じたようだし…仮に嘘を吐くとしても、このような荒唐無稽な話もしまい」

 

 リオが驚いたように聞くと、シルドラがそのように答える。

 

「一応、信じられないようなら、日本語の準備もしてたんですがね」

 

 ネクサスも最悪日本語を話す気でいたようだった。

 

「ニホンゴ? それが彼女達と通じた言葉なのか?」

 

「えぇ、前世での一地域…というか、島国の言語なんですが…」

 

「ほぉ?」

 

 シルドラも興味があるのか、少し聞きたそうにしたので…

 

『こんな感じです』

 

 ネクサスが日本語で言葉を発する。

 

「むむ…確かに聞いたことのない言葉だ」

 

「じゃが、確かに証明は難しいが、喋れる理由にはなるか…」

 

 シルドラが日本語の発音に聞き慣れない様子で言っていると、アースラが得心したように頷く。

 

「それにしても、記憶を宿したまま生まれ変わるなど…長く生きてきたが、初めて聞いたわ」

 

「「ですよね」」

 

 アースラの言葉にリオとネクサスが揃って声を漏らす。

 

「ふむ。ドリュアス様はリオ達みたいな人物と遭遇したことはおありですかい?」

 

 顎に手をやっていたドミニクがドリュアスに尋ねていた。

 

「いえ、ないわね。私が知る限り、そういった人物が里に現れたことはないと思うわ」

 

 ドリュアスも心当たりがないらしい。

 

(やはり、あの魔法陣が関係してるのか?)

 

 そんな中、ネクサスは死に際に見た魔法陣のことを思い出していた。

 

(ま、状況証拠だけだし…しばらくは考えるのを保留にしておくか…)

 

 その後、アイシアの発言で会議室内はちょっと唖然とした空気になったのだとか…。

 

………

……

 

 一方で、会議室を退室させられた美春達はサラ達に案内され、庁舎の外に出ていた。

 

 広場を通る時に里の子供達が朝の座学を終えて訓練と運動の時間で移動していたのに遭遇する。その中にはベラとアルスランの姿もあり、少し会話していた。

 その際、アルスランが雅人に特異な武器は何かと聞いたが、雅人はそういう経験を積んでないからわからないと答えるものの、興味があるらしかった。

 

 その後、美春達はかつてリオ達が共同で住んでいた家へと案内され、美春達が家の規模にやや戸惑っていると…

 

「えっと…元々は空き家だったんですが、実はここには1人…まだ暮らしてる人がいまして…」

 

 サラがちょっと言いづらそうに言う。

 

「シンシアちゃんっていう、ネクサス様のお連れさんが住んでるんです」

 

 フレイシアスが引き継ぐように答える。

 

「シンシア、さん?」

 

「シノブ兄ちゃんの連れ?」

 

「どういう方なんですか?」

 

 美春達が首を傾げる。

 

「う~ん…なんと言いますか…」

 

「物静かな子、かな?」

 

「ネクサスさんにベッタリ?」

 

「意外と寂しがり屋さん…?」

 

 サラ達もシンシアの評にはなんだか微妙な反応だった。

 

「ともかく、これから一緒に暮らすと思いますから、挨拶くらいはさせないと…」

 

 サラが息巻いて家の中へと入り、シンシアを探しに行く。

 

「ネクサス様が帰ってきたと知れば、すぐに来ると思いますけど…」

 

 フレイシアスはそのように呟く。

 

 

 

 そうして美春達も家の中へと上がり、先住民のシンシアとの対面を果たす。

 どこかアイシアっぽくもあるシンシアの雰囲気に美春達は親近感を湧いたようだが、彼女が人間族だとわかって少し驚いていた。しかし、そこはネクサスの連れということもあってサラとフレイシアスが面倒を見る形で住まわせてもらっていると聞いて納得される。

 

 それから訓練の終わったベラやアルスランが遊びに来て、ラティーファ、亜紀、雅人の年少組で親交を深めていくのだった。

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