その日の夕刻。
美春達はサラ達の案内で再び庁舎へと足を運んでいた。
理由はアイシアや美春達の歓迎の宴のためだ。庁舎の低層にある大食堂に足を踏み入れれば、そこには無数の円卓に所狭しと料理が並べられていた。おそらくはビュッフェ形式だろう。
雅人やアルスランなどはご馳走の数に目を輝かせてはしゃいでいたりする。
とは言え、今回の歓迎の宴は里の上層部に位置する家系はだいたい出席するようだ。まぁ、人型精霊であるドリュアスやアイシア、準高位級と推測されるファングの存在もあるので、こういう形式になったのだろう。
それから出席者も出揃いつつある中、リオとネクサスの姿が見当たらなかった。
「……ネクサスは…?」
「ハルトさんもどうしたんだろう?」
シンシアが珍しくキョロキョロと周囲を見回し、美春もリオがいないことに首を傾げる。
「皆の者、静粛に。そろそろ宴を始めようではないか」
そうこうしている内に最長老3人も司会席にいて、シルドラが風の精霊術を用いて声を拡声して伝えていた。
「これより、ドリュアス様、アイシア様、ファング様がご来場なされる。わかっているとは思うが、あまり畏まらないようにとのことだ」
シルドラの言葉に会場にいる者達から自然と笑みがこぼれる。こういう宴では無礼講が通例らしく、みな心得たものなのだろう。
「では、お三方、どうぞお入りください」
シルドラが扉の外にいるドリュアス達に声を掛け、中に入るように促す。
すると、会場が少し騒めく。
理由は人型精霊2人と準高位級精霊1体が登場する際、意図的に伏せられた2人の人物も一緒に登場したからだ。
アイシアに密着されているリオと、左腕でファングを抱えつつ右手でドリュアスをエスコートしているネクサスという図で入ってきたからこその騒めきだろう。
その様子に大多数の者が声を失っている中、シルドラが進行を続けていき、アイシアの紹介だけではなく、美春達の紹介まで行っていた。
その後、ドミニクが率先して宴を盛り上げ、美春達への挨拶はサラ達がサポートを行い、アイシアやファングへの挨拶は契約者でもあるリオとネクサスがサポートしながらも宴を楽しむのだった。
………
……
…
そして、宴の時間も瞬く間に過ぎていき、夜遅くになってからお開きとなる。
リオ達も家へと帰る途中のこと。
「しかし、結構な人数になったな。賑やかになるのは結構だが、部屋割りとかどうするよ?」
そう言ってネクサスがそんな疑問を口にする。
リオ、ネクサス、美春、亜紀、雅人、ラティーファ、サラ、オーフィア、アルマ、フレイシアス、シンシアと、ざっと数えても11人はいる。精霊であるアイシアやファングは霊体化して契約者であるリオやネクサスの中で眠れば問題ないかもしれないから、今は省くが…。
既に以前の同居メンバーも美春達が早く里に慣れるために一緒に住むことが決まり、美春達も了承しているが…。
「確かに…この人数は想定外ですよね…」
リオも人数の多さに苦笑していた。
「前の配置のまんまだと、どうしても一部屋しか余ってねぇしな…誰か相部屋でもいいってやつはいるか?」
ネクサスがそのように提案すると…
「私が春人と一緒になる」
「……ネクサスの部屋に行く」
アイシアとシンシアが揃って挙手してそのようなことを言う。
「なっ!? シンシア、何を言ってるんですか!?」
「そ、それは流石に駄目です!」
「「アイシア様!?」」
「ずるいよ! アイシアお姉ちゃん!」
サラとフレイシアスがシンシアの言葉に過剰に反応するが、アイシアの言葉は若干スルー気味だ。その理由は、アイシアに関しては岩の家生活でも霊体化してリオと共に寝ていたということもあったので、美春からも半ば黙認されてたこともあってリオも強く否定はできなかった。時折、アイシアが寝惚けて実体化することもあったようだが…それだけ日常と化していたという面もあるのだろう。
まぁ、それを知らない里の面子(ラティーファ、オーフィア、アルマ)は驚いていた。ラティーファに関してはむしろ羨ましそうだったりもしたが…。
「? ……でも、前は一緒の部屋だった」
首を傾げながらシンシアはしれっとそんなことを言う。
(ん? なんか嫌な予感が…)
シンシアの不穏な一言にネクサスが悪寒を感じる中…
「ま、前? いえ、前も別々の部屋だったでしょう!?」
そんな事実はなかったとばかりにサラが言うが…
「……ここに来る前…宿で相部屋だった」
シンシアが、更なる爆弾を投下した。
(あれ~? なんか、デジャヴ?)
ほんの数ヵ月くらい前…なんだか似たようなことがあったような気がする、と思ったネクサスだった。
「「どういうことですか!?」」
それを聞いたサラとフレイシアスが同時にネクサスに詰め寄った。多少酒も飲んでいるので、思いの外グイグイと迫ってくる。
「え…? いや、その…なんだ…」
ネクサスは若干目を上に逸らしながら頬を指で掻く。
「その、逃亡生活してた頃にな? 宿に1年くらい、相部屋で暮らしてた時期もあったな~、と…」
怖くて視線が下げれないネクサスは本当のことを言うが…
ピシッ!!
「「………………」」
サラとフレイシアスが同時に石化する。
「ほ、ほら、俺の髪とか瞳とか珍しかったから隠れるためにな!? やましいことなんて何一つなかったから!? 俺も床で寝てたし!」
ネクサスも慌てて弁解するが…もう遅い気がする。
実際、特に何もないのだが、そんなことよりも…サラとフレイシアスにとっては、『ネクサスとシンシアが1年間も宿で相部屋だった』ことの方が衝撃的だったらしい。
「り、リオ~…」
「自分で何とかしろ」
リオに助けを乞おうとしたが、一蹴された。当然だろう。
(どうしよう?)
ネクサスが自ら撒いた種で苦しむ中…
「……なら、4人で一部屋?」
またもシンシアが爆弾を投下する。
「「!?///」」
その一言に石化してたサラとフレイシアスが復活したものの、同時に顔を真っ赤にして…ネクサスを睨む。
「いや、俺…なんも言ってないんだが…?」
こういう時、男とは弱いものである。
(さ、流石に助けられないな…)
こうなってはリオも無関心を貫く他なかったようだ。
(まぁ、相部屋なんて案を出したネクサスの自業自得とは言え…悪くない案なんだよな。組み合わせが問題なだけであって…)
一応、リオはリオで相部屋の利点を考えていたが、今ここで口にすることはなかった。仮に言うのなら、ネクサスが自力でこの状況を脱した後だろう、と…。
「わかったよ。もう、俺はリビングで寝るから、空いた部屋を雅人にでも回してくれ…」
もはや威厳も何もないネクサスの一言に…
「え? いや、なんていうか…い、いいのかな?」
いきなり名指しされた雅人が本当にいいのか、困惑してしまった。
「ま、まぁまぁ…サラさんもフレイシアスさんも落ち着いて…組み合わせが問題なだけで相部屋っていう選択肢が悪いわけではありませんから…」
と、そこでリオの弁護が入った。
「組み合わせの、問題…?」
「そ、そうですよ。これからまた一緒に暮らすわけですし、部屋も限られてますから…そういう工夫も必要かと。もちろん、男女別というのが大前提ですが…」
フレイシアスの珍しくも剣呑な雰囲気に一瞬呑まれそうになるが、リオがさらに言葉を続ける。
「っ! そうだよ。さっきの例えが間違ってただけで、普通はそうだ。なんなら女性陣はローテしたっていいだろ? 一緒に住むならそういう遊び心もあってもいいと思うんだ!」
リオからの援護を受け、ネクサスがここぞとばかりに力説する。
「なんだか、リオさんに助けられてホッとしてませんか?」
ジト目のサラが復活したネクサスにそんなことを言う。
「そ、ソンナコトハナイゾ~?」
若干目を逸らしながら説得力の無いことを言う。やや…いや、わりと棒読み気味だし…。
「と、ともかく! まずは家に戻ってからだ! なっ!?」
必死過ぎるようにも見えるネクサスの言葉に…
「そうだな。夜風もまだ冷たいし、家に帰りましょうか」
リオが家への帰宅を提案する。
「「む~」」
サラとフレイシアスが若干膨れていたが、リオの言葉ももっともだったので、一行は一先ず家へと向かう。
だが、家に帰ってからさらに議論は続き、男3人はともかく、女性陣の部屋割りが混迷と化したのは…自明の理、なんだろうな…。
一先ず、暫定的に余っていた一部屋には雅人(女性が住んでた部屋に少年を住まわせるのはどうかということになり、余ってた部屋に決まった)、比較的私物や荷物の少ないシンシアがサラと相部屋になり、シンシアの使っていた部屋に美春と亜紀が住むことになった。数ヵ月前くらいの件もあり、シンシアについては監視の意味もあってサラと同室になったりする。
アイシアは霊体化してリオと共に寝るらしく、ファングもネクサスの部屋に寝泊りすることが決まった。
さてはて、これからどうなることやら…?