精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第三十七話『試練と、本心』

 模擬戦後。

 リオ達は休憩がてら自宅へと戻り、リオが率先して給仕をするというので、美春、オーフィア、フレイシアスも志願して人数分のお茶をお菓子を準備する。ネクサスも手伝おうとしたが、4人もいればいいかと、リビングで寛いでいた。

 お茶とお菓子が来るまでの間、ベラとアルスランが中心になって先の模擬戦のことを熱く語り合っていた。

 ただ、雅人の様子が少し変だったようにも思えるが、話は聞いてたのか受け答えはちゃんとしていた。

 

 そして、お茶とお菓子を持ってきたリオ達にさっきまでしてた模擬戦の話をする中…

 

「お、俺…俺にも剣術を教えてくれないか、ハルト兄ちゃん?」

 

 雅人がそわそわした様子でリオに尋ねてくる。

 

「剣術を?」

 

 その雅人の言葉にリオも目を丸くして驚く。

 

 その後、雅人の意思を確認するべく少し説教臭いことを言ったものの、リオは雅人の意思を尊重し、戦士の適性があるのかを確かめるべく、精霊の民方式での試練を課すことになった。

 事前に美春や亜紀にも相談していたようで、美春も雅人の意思を尊重したいとのことだった。ただ、試練を知るアルスランやベラからは心配もされていた。

 普段は穏やかな戦士でも、豹変して実戦の厳しさを教えるためだからだ。

 それでも雅人は『守れる力が欲しい』、と試練を受けることを決意した。

 

 

 

 それから数十分後。

 リオ達が再び庁舎前の広場に集まるが、一度解散したためか、リオ達以外の姿はない。

 雅人は、里の子供達が使う訓練用の装備一式(片手剣と盾、革鎧)を借り受け、装備して軽い準備運動をしていた。

 

「リオ…」

 

「お兄ちゃん…」

 

 一方のリオも雅人に試練を課すと決めてから、ピリピリした雰囲気を纏っており、不用意に近づくなと言わんばかりの気配を出していた。ちなみに装備は普段の剣ではなく、雅人と同じく片手剣と盾という組み合わせだった。

 そんなリオの雰囲気にネクサスとラティーファはどこか心配するような表情で見ている。他の見学者である美春達も平時では見せないリオの険しい雰囲気に委縮してしまっているが…。

 

「無理に付き添う必要はありませんよ? これから、面白くもないものを見せることになるので…」

 

 リオはそのように見学者達に言うが…。

 

「悪いが、俺は見届けさせてもらうぜ? 雅人の漢気ってやつをよ」

 

 肩を竦めながらネクサスが率先して見学の意思を伝える。

 

(リオ…お前の覚悟、ってのもな?)

 

 ただ、内心ではそのようにも捉えていたが…

 

「私も、見ています…」

 

 すると、次に美春も見ると言う。

 

「……過酷な内容になると思いますよ?」

 

「それでも、ハルトさんに雅人君を託した以上は、私にも見る責任が…いえ、見届けないとダメな気がするので…お願いします」

 

「わ、私も! 雅人は私の弟ですから!」

 

 美春の言葉に亜紀も続くが、やや声が震えていた。

 

「私ももちろん見るよ、お兄ちゃん」

 

「俺もだ! 雅人とはもうダチだしな!」

 

「私もなのです!」

 

 年少組も見学を希望し…

 

「年長者の私達が目を背ける訳にもいきませんね。私達も見ています」

 

 サラ達も見学するようだった。

 

「………………」

 

 シンシアも黙っていたが、その場から離れる様子がなかった。

 

「結局、全員が見学希望ですか。わかりました」

 

 そして、リオもここまで来たら、自分の冷酷で非情な側面を見せる覚悟を決め、雅人と向き直る。

 リオは雅人に今の装備がシュトラール地方での一般的な剣術スタイルであることを教えつつ、攻防のバランスが良く、対人戦にも向いていることを説明した後…。

 

「じゃあ、死合開始(・・・・)だ。好きに攻撃してくるといい」

 

 リオは開始の合図と共に意識を切り替え、雅人へと明確な敵意と殺意を向ける。

 

「へ…?」

 

『っ…』

 

 その無言の圧力は雅人だけでなく、見学している美春達にも襲い掛かり、身震いさせていた。

 身震いしなかったのは…

 

(これが、リオの()、か)

 

「………………」

 

 闇の世界を生きてきたネクサスとシンシアだけであった。

 

 それから雅人はリオの課す試練に何度も向かっていくことになる。

 

「……っ」

 

 その様子を見てられなかったのか、亜紀が動こうとしたが…

 

「待て」

 

 ネクサスが亜紀の肩を掴み、制止させる。

 

「で、でも…このままじゃ、雅人が…」

 

 リオの今まで知らなかった一面を垣間見、そんなリオに雅人が挑み続ける姿は亜紀からしたら見るに堪えなかったらしい。

 

「雅人の邪魔をするな。姉なら、弟を信じてやれ」

 

「し、信じる…?」

 

「そうだ。弟が頑張ってるのに、姉がその邪魔しちゃならねぇ」

 

「で、でも…雅人、あんな苦しそうなのに…!」

 

「それでも、だ。弟妹が頑張ってる時に、兄姉が口を出すもんじゃねぇ。その頑張りを見届け、見守るのも兄姉の役目だと…俺は思うぜ?」

 

「………………」

 

 ネクサスの言葉に、亜紀は何も言えなくなり、雅人を見やる。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「………………」

 

「っ、うらあああ!!」

 

 リオに立ち向かう雅人は息も絶え絶えだが、それでもリオへと向かっていく。何度も剣を落とされても、何度でも拾い、向かっていった。

 

 

 

 そして、十分後…。

 

「はぁ……はぁ…」

 

 雅人は地面に仰向けで倒れ込んでいた。精も根も尽き果てたのだろう。

 

「雅人、もういいよ。終わりだ」

 

 すると、リオがいつもの優しい感じで雅人に終わりを告げる。

 

「え…お、わり…?」

 

「雅人の心の強さはわかったからね。明日から、正式に剣術を教えるよ」

 

「ほ、ほんとか…? や、やった…」

 

 リオが雅人へと正式に剣術を教えることが決まった。

 

「見事だったぜ、雅人」

 

 そんな雅人にネクサスが軽く拍手しながら近寄り、賛辞を述べる。他の見学者も近寄ってきて、雅人への称賛を口にする。

 

「………………」

 

 リオは1人、その輪には入らずにいたが…

 

「お前もご苦労さん」

 

 ネクサスがリオに声を掛けていた。

 

「ネクサス…」

 

 リオがネクサスの名を呼ぶと、ネクサスがリオの首に腕を回してグッと近寄せると…

 

「その調子で美春ちゃんや亜紀とも向き合ってみればいいのによ」

 

 皆に聞こえないよう小声でそのようなことを言う。

 

「無茶を言うな…」

 

「そうだな。でも、これだけ言わせてくれ」

 

「?」

 

 リオが苦笑する中、ネクサスはそのまま…

 

「それでも、ちゃんと向き合え。お前が、美春ちゃんをどうしたいのか…たまには我を通したっていいんだよ」

 

 そう告げていた。

 

「そう、なのかな…?」

 

 その言葉にリオは自信なさげに呟く。

 

「あぁ…いずれは真実を話す時がくる。その時になって、後悔しないようにな?」

 

 それを言うと、ネクサスはリオを解放し、一緒に輪の中へと入っていく。

 

(後悔しないように、か…)

 

 リオはネクサスの言葉を頭の中で反芻していた。

 

………

……

 

 その日の晩。

 雅人が試練を乗り越えたことを祝す、ささやかな宴が催された。

 しかし、雅人は試練の疲れもあってか、食事の後にすぐに部屋で眠ってしまった。部屋で熟睡する雅人の様子を見るべく、リオとネクサスが留守番することとなり、アイシアを除く女性陣で庁舎近くにある貸し切りの温泉施設へと向かうことになる。

 アルスランも雅人が眠ったことで暇になりそうだからと帰っている。

 

 そして、残ったリオとネクサスは…

 

「なぁ、リオ」

 

「なんだ?」

 

「今回はいつまで滞在する気だ?」

 

 ネクサスがリオにそんな質問をしていた。

 

「美春さん達が、里に馴染む…のを待ってたら遅いからね。だいたい1ヶ月から2ヶ月くらいを想定してる」

 

「1、2ヶ月か。ま、そんなもんか…サラ達もいるし、そこは心配いらないだろ」

 

「だいぶ打ち解けているしね。それに雅人への剣術指南もあるし」

 

 そう言うリオの表情はどこか暗かった。

 

「気にするな、ってのは無理か」

 

 ネクサスは先の雅人への試練のことを気にしているのだろうと考える。

 

「本当は見せたくなかった。でも、この世界にいる間、もしかしたら見ることになるかもしれないなら…」

 

「ま、早い方がいいさ。ああいうのは、さっさと見せておいた方がいい」

 

「……そうだな。そもそも住む世界も違うのだし…」

 

 ネクサスの言葉に頷いたリオがそう漏らすが…

 

「……それは違うと思うぞ。リオ」

 

「え?」

 

 ネクサスはリオの今の一言を否定した。

 

「確かに、彼女達は異邦人。この世界とは違う世界で生まれ育った。向こうから見たら俺達も同じだ。でもな…」

 

 ネクサスは少しだけ悲しそうな笑みを浮かべて、こう続けた。

 

「俺はあいつら(・・・・)の兄であり続ける。向こうで死んだとしても、俺があいつらを想う気持ちまでは失っちゃいない。想いは…残り続けるんだよ。この胸の奥…魂に刻まれてな。だから、俺は生きていける。あいつらのことを忘れることなく、生きていけるんだ」

 

「ネクサス…」

 

「だから、リオ。お前も、忘れないでくれ…お前が大切にしている、約束を。誰かを想っていた頃の、そんな気持ちを…」

 

「………………」

 

「もう2度と会えない俺とは違うんだ。彼女は、お前の目の前にいる。だから、お前はお前でしっかり向き合え。それがきっと…お前の未来に繋がると思うからよ」

 

「俺に未来なんて…」

 

「ある。お前が目を逸らしてるだけで、人生って道は…続いていくんだからな」

 

「………………」

 

 ネクサスの言葉にリオは少しだけ俯いていた。

 

「変なこと言って悪かったな。でも、これが俺の本心でもあるからよ」

 

 そう言ってネクサスはソファから立ち上がり、自室へと向かう。

 

「忍」

 

 自室へと向かう途中、アイシアが実体化する。

 

「よぉ、アイシア」

 

「ありがとう」

 

「さて、何のことやら…」

 

 アイシアの礼の言葉にネクサスはとぼけてみせる。

 

「春人には忍みたいな人もきっと必要。これからも春人の良き友達でいて」

 

「ま、前世ではともかく、今はダチなんだ。ダチの相談にはいつでも乗るぜ」

 

「うん」

 

「ま、後は任せるぜ?」

 

「わかった」

 

 ネクサスがそう言うと、アイシアはリオの元へと向かう。

 

「さて、ファングとも話さないとな。ドリュアス様に色々教わってるはずだし…」

 

 ネクサスはネクサスで自室で待っているだろうファングの元へと向かうのだった。

 

………

……

 

 それから1ヵ月半。

 リオ達は里での暮らしを穏やかに送っていた。美春達も里に馴染んだと判断したリオは再度シュトラール地方へと赴く折を夕食中に同居している皆に伝えた。

 

「そういや、詳しく聞いてなかったけどよ。シュトラール地方には何しに戻るんだ? 指名手配だってまだ有効なはずだろうし…」

 

 リオがシュトラール地方を目指す理由を詳しく聞いてなかったと思ったネクサスがリオに尋ねる。

 

「お世話になった恩師の人に挨拶したいと思ってな」

 

 そう言うリオの表情はどこか懐かしそうだった。

 

「恩師か。俺にはそういう人がいないから、少し羨ましくもある」

 

 ネクサスがそのように言う中、その恩師についての話題になり、リオが恩師の人について人柄などを話していく。

 

 

 

 その2日後の朝。

 リオはアイシア、ネクサス、ファングを連れて再びシュトラール地方へと出発する。

 出発の間際、リオは美春から手作りのお弁当を受け取っていた。そのことをネクサスやドミニク、アースラから少しからかわれたりもしたが、無事に出発することになる。

 目指すは、ベルトラム王国。

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