精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第四十話『旅に道連れ、逃避行』

 リオの大立ち回りから、およそ1時間後。

 王都ベルトラントから東へ延びる街道を外れた丘陵地帯の一角に佇む人影が2つ。

 

 セリアとアイシアだ。

 セリアは何度もアイシアにリオが無事かどうかを聞くが、アイシアからの答えは『大丈夫』の一点張り。だが、それもすぐに終わる。

 

「お待たせしました」

 

 ふわりと空から舞い降りたリオが、フードを外しながらセリアに言う。

 

「……え?」

 

 突然のことにセリアも目を丸くして驚く。その間にリオが周囲を見回している。

 

「アイシア。シノブは?」

 

 まだ合流してないネクサスのことをアイシアに聞く。

 

「忍なら、まだ来てない」

 

「おかしいな。あいつのことだから、もうとっくに来ているものかと…」

 

 アイシアの答えにリオも首を傾げる。

 

「えっと、リオ? もしかして協力者がいたの?」

 

 そんなリオにセリアが尋ねる。

 

「えぇ、まぁ…光弾魔法を迎撃した瑠璃色の光弾は覚えてるでしょう? それを放ったのは、俺の…友達です」

 

 リオはやや照れくさそうにセリアに説明する。ネクサスの方からダチだの言われてはいたが、リオの方からネクサスのことを友達と言うのは、意外と初めてかもしれない。

 

「あの時の……じゃあ、その人にも迷惑かけちゃったのかな、私…」

 

「あいつなら、そんなこと気にしませんよ。今回の情報収集にも手を貸してくれたくらいですから」

 

 セリアが少し気にしたように呟くが、リオはそんなことはないと言う。

 

「そっか。でも、ちゃんとお礼は言っとかないとだね」

 

「はい」

 

 リオとセリアがそんな話をしていると…

 

「あ、忍が来た」

 

 周囲を見回していたアイシアがネクサスを発見する。

 

「やっとか。一体何をしてたんだか…」

 

 リオが半ば呆れている。その様子を見てセリアが…

 

「本当にお友達ができたんだね。よかった。ちょっと心配してたんだよ?」

 

 そんなことをリオに言う。

 

「え? 俺ってそんなに気難しく見えますか?」

 

「だって学院時代は私しかいなかったんでしょ?」

 

「それを言われると…言い返しにくいというか、何とも言えませんね…」

 

 セリアの言葉にリオが少し反論気味に言うが、続く言葉に言葉が詰まってしまい、指で右の頬を掻く。

 そんな良い雰囲気の中、ネクサスがリオ達の前に降り立つ。右肩に女子高生を担いだまま…。

 

「「………………」」

 

「その人、誰?」

 

 その姿にリオとセリアが固まり、アイシアが当然の質問をする。

 

「あ~、その…なんだ……仕方なかったんだよ。置いてくる暇がなかったというか…その、女の子を放置する訳にもいかなくて…」

 

 開口一番、そんな言い訳じみたことを吐くネクサスは、本当に申し訳なさそうな表情で、リオを直視できないでいた。

 

「…シノブ…」

 

 リオは小さくネクサスの偽名を呼ぶ。

 

「は、はい…」

 

 ネクサスはリオの声に、その場で静かに正座する。

 

「確かに先生の真意を聞き出した後はアドリブって言ったけど、これはどういうことだ?」

 

 ともかく、理性的にまずはネクサスの話を聞くべく、セリアを攫った後のネクサスの行動ことを問いただす。

 

「王の剣がお前の追跡に参加したのを見てそっちを邪魔しようかとも思ったんだが…勇者の動きが気になって、そっちの妨害に動いてたんだよ。追跡に参加してないのと、見た感じで近接武装を持ってなかったからな。だから、ハルトを狙撃されても厄介だから足止めに動いたんだ。まぁ、結果は邪魔しつつ気絶させてきたけどよ」

 

「そうか。そこまでなら俺も理解できるし、援護には感謝してる。勇者と相対してみた感想はどうだった?」

 

「なんというか…人間離れしてる部分も確かにあるが、全体的に見たら戦い方は素人だな。そこがアンバランスに思えてならない」

 

「ふむ…」

 

 ネクサスの話を聞き、リオも顎に手を当てる。

 

「で、勇者を気絶した後、俺も撤退しようと、空戦騎士団に見つかるのも嫌だったから尖塔の上から飛び降りたんだけど…そこに運悪く、この娘がいてな。しかもこの娘、剣で斬りかかってきたもんだから、反射的につい鳩尾を殴って気絶させちゃって…さらに間の悪いことに兵士達も集まってきたから言い逃れもできず、この格好も怪しかったせいで、お前の仲間だと思われて…」

 

「それで逃走してきたのか。その人を抱えたまま…」

 

 リオがネクサスをやや冷たい視線で見下ろす。

 

「うぐっ…仕方なかったんだ。下手なとこに置いてもこの世界の人間じゃないし、土地勘とかも俺みたく無さそうだったし…なんていうか、その…」

 

 そんな答えに窮してるネクサスを見て…

 

「ま、まぁまぁ、リオ。彼も悪気があって連れてきたわけじゃないだろうし…」

 

 セリアが助け舟を出す。

 

「先生。ですが…」

 

 リオがセリアに何か言おうとしたが、セリアは正座するネクサスの前にしゃがみ込むと…

 

「それで、その…シノブ君、だっけ? その子の手当は?」

 

「まぁ、逃げてる最中にしておいたので、その内に目が覚めるかと…」

 

「そう。なら、今は一緒に来てもらいましょう?」

 

 ネクサスのバツの悪そうな表情にセリアがそのように言う。

 

「「!?」」

 

 ネクサスもリオもセリアの決断に驚く。

 

「だって、連れてきちゃったのなら、仕方ないでしょ? 今ここで彼女が目覚めたら、色々と説明しないとだし…それに目覚めて私達を見た後に帰しちゃうのも、困るでしょ?」

 

「それは…」

 

 セリアの言葉にリオも困ったように頬を掻く。

 

「だったら一緒についてきてもらいましょう。ただ…」

 

「「ただ?」」

 

 セリアが一呼吸、間を置いた後…

 

「私の見間違いじゃなければ、この子…勇者様と一緒に召喚された人よ。言葉が通じるかどうか…それに勇者様のお連れ様が誘拐されたとなれば、私のこともあるからそれなりに騒動になってそう」

 

 そのように告げていた。

 

「……いずれにせよ、引き返すって文字はないか…」

 

 ネクサスも左手で頭を掻いた後…

 

「これも何かの巡り合わせ、か…。ハルト、彼女は俺が責任を持って面倒を見る。だから、このまま…」

 

 ネクサスは決然とした表情をして、リオにそう言っていた。

 

「大丈夫なのか?」

 

「ま、問題ないと言えば、嘘になるが…それでも、俺には彼女を連れ去っちまった責任があるからな。根気よくやるさ」

 

「……わかった」

 

 渋々といった感じだが、リオもネクサスの決意を汲んで首を縦に振る。

 

「ありがとよ」

 

「元々、俺の我儘に付き合ってもらったんだ。そのくらいは目を瞑るよ。けど、これっきりにしてくれよ?」

 

「あぁ、わかってるよ」

 

 ネクサスは立ち上がると、リオに礼を言っていた。

 

「じゃあ、そろそろ移動しましょうか」

 

「それはいいけど、何処に行くの?」

 

「とりあえずは…東のガルアーク王国ですかね」

 

 行き先をガルアーク王国へと決めた一行は、空を飛んで移動する。セリアはリオが抱え、ネクサスも肩に担ぎっぱなしだった女子高生を、一旦アイシアに預けると今度はお姫様抱っこで抱え直してからリオの後を追う。

 

………

……

 

 あの後、一行は空を飛んでガルアーク王国の南西に位置するクレティア公爵領へと移動していた。

 

 その間、リオとセリアは話に花を咲かせていた。話題は、リオがベルトラム王国を出奔してからの出来事や、ネクサス達との出会い、ヤグモ地方のこと、ヤグモ地方からシュトラール地方へと戻ってきた時のことなども話していた。

 

 そんな2人の雰囲気を邪魔しないように少し距離を置いて飛んでいたネクサスだが…

 

「いい加減、寝てるフリはいいんじゃないか?」

 

 抱えてた女子高生に声を掛ける。

 

「………………」

 

 しかし、女子高生は反応を見せない。

 

『大した演技力…いや、胆力と言うべきかね?』

 

 なので、ネクサスは日本語で女子高生に語り掛けた。

 

『っ!?』

 

 女子高生は驚きで目を見開いてバッとネクサスの顔を見る。

 

『なんで、アンタ…日本語を…?』

 

『こっちにも色々と事情があってね。ま、目覚めてるんならいいや』

 

 女子高生が唖然とネクサスを見る中、ネクサスは無事目覚めたことに安堵する。

 

『ちょっと、質問に答えなさいよ!』

 

 女子高生が吠えた瞬間…

 

くぅ~…

 

 可愛らしいお腹の音が聞こえる。

 

『っ!?///』

 

 さしもの女子高生もそれには赤面し、顔を伏せる。

 

「お~い、ハルト。そろそろ着陸しようや」

 

 それを見て苦笑したネクサスは少しだけ速度を増すと、リオの追従して提案する。

 

「そうだな。わかった」

 

 リオもそれを承諾し、ベルトラム王国との国境付近に広がる森の少し開けた空き地部分を見つけ、そこへと降り立つ。

 

「う~ん…並べられるか?」

 

 周囲を見回し、ネクサスがそのように口にする。

 

「岩が2つも並んでるのは不自然じゃないか?」

 

「こんな場所に人なんか滅多に来ないから大丈夫だろ」

 

「まぁ、それはそうだけど…」

 

 リオとネクサスがそんな会話をしているが…

 

「『???』」

 

 情報を知らないセリアや女子高生からしたら頭に疑問符しか浮かんでいない状態だ。

 

「とりあえず、地盤の安定を頼むわ。ここで下手に逃げられても困るし」

 

「………………」

 

 女子高生を抱えたままネクサスがリオに頼むと、女子高生が微妙にネクサスを睨む。

 

「仕方ないな」

 

 セリアを降ろし、リオが地面に手をついて精霊術を用いて周囲の地盤を安定させる。

 

「よし、これでいいな」

 

「あの、リオ? いったい、なにを…?」

 

 セリアが困惑気味にリオに尋ねると…

 

「まぁ、見ていてください。『解放魔術』」

 

 そう言ってリオが時空の蔵から岩の家を出現させる。

 

「『なっ!?』」

 

 セリアと女子高生が突然のことにギョッとしたように驚く。

 

「見た目は岩ですが、中は居住空間になってますので…」

 

 そう言ってリオがセリアを岩の家に案内しようとするものの…

 

「…………ない…」

 

「うん?」

 

「先生?」

 

 セリアの様子がおかしく、ネクサスも首を傾げ、リオもセリアに声を掛ける。

 

「もう、我慢できない!」

 

 そこからセリアはリオに色々と聞きたそうに、そして目を輝かせながらリオの装備してる時空の蔵を見つめる。おそらく彼女の研究者魂に火が点いたのだろう。

 

「『………………』」

 

 その様子を呆然と見るネクサスと女子高生。

 

「くっ…はは」

 

「!? な、なんで笑うのよ?」

 

 リオが笑みをこぼしたことからセリアも、なんで笑ったのかリオを問いただす。

 

「いえ、先生のそんな表情を見たのも久しぶりですから、つい懐かしくて、それでいて嬉しくなりまして」

 

「!?///」

 

 リオの言葉にセリアが赤面する。

 

(相変わらずだな、ハルトも…)

 

 ネクサスはそんなリオの言葉を聞き、内心で嘆息する。

 

「ネクサスはどうする?」

 

 セリアとアイシアを岩の家に招き入れたリオがまだ外にいるネクサスに聞く。

 

「ん~…こっちはこっちで事情説明しとくわ。だから、そっちも先生の疑問に色々と答えてやんな」

 

「……わかった。夕食はどうする?」

 

「こっちで適当に済ますわ」

 

「了解。じゃあ、適当に時間に情報交換に来てくれ」

 

「わかった」

 

 そう言ってお互いに頷き合ってると…

 

「リオ~、まだなの~?」

 

 家の中からセリアがリオを呼ぶ。

 

「今行きます」

 

 リオが家の中に入るのを見てから…

 

「んじゃま、こっちも家を出しますかね。『解放魔術』」

 

 リオの家の向かい側にネクサスもドミニク達に造ってもらった岩の家を出現させる。

 

『………………』

 

 もはや言葉もない女子高生が唖然としていると…

 

『そういや、まだ名乗ってなかったな』

 

 家へと向かうネクサスはふと思い出したように呟き…

 

『俺はネクサスだ。ま、シノブって偽名もあるがな?』

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて自己紹介をする。

 

『は? なにそれ?』

 

 女子高生は意味わかんないとばかりにネクサスを睨む。

 

『事情は中でゆっくり話すさ。お前さんの名前は?』

 

『………………』

 

 ネクサスに名前を聞かれ、しばし逡巡した様子の女子高生は…

 

『朝陽。「流星(ながほし) 朝陽(あさひ)」よ』

 

『朝陽か。よろしくな?』

 

『ふん…』

 

 ネクサスの挨拶に女子高生…朝陽はプイっとそっぽを向くのだった。

 

(さてはて…これからどうすっかな?)

 

 ネクサスは朝陽にどれだけの情報を開示すべか、この後はどういう風に扱うべきか、色々と考えるのだった。

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