精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第四十二話『アマンドでの買い物』

 翌朝、日が覗き始めた頃合いの静まった時間帯。

 

 リオとネクサスは家から出てきて、昨夜のことをそれぞれ話していた。

 

「珍しいな、シノブがそこまで話すなんて…サラさん達にも話したことはないだろ?」

 

「まぁ、あいつらにも話してないことを昨日会ったばっかの人間に話すのもおかしな話だが…なんでかな。話しちまったんだよな…」

 

 リオの反応を受け、ネクサスも自分でも驚いているようだった。

 

「まぁ、シノブが自分から話したのなら、俺から言うことはないよ。ただ…」

 

「わかってる。肝心のことは言ってない。言ったのは、俺の身の上話くらいさ」

 

 ネクサスはそう言うが、身の上話といってもそうそう言い出せる内容のものでもないはずだが…。

 

「名前の方は?」

 

「そういや、詳しくは言ってねぇな。勇者達が召喚された時点ではまだ俺は生きてる訳だし…そこから逆説的に察せられてもな…」

 

 名前については詳しく言ってないと答える。

 

「ラティーファが目を輝かしてたっけ?」

 

「ま、親父の方はメディアにも顔を出してたしな…」

 

 やれやれ、といった風にネクサスは肩を竦めていた。

 

「ともかく、今は苗字は言わないように気を付けるさ」

 

 ネクサスはリオにそう伝える。

 

「よろしく頼む。それで、今日の予定だけど…アマンドに買い物に行こうと思ってる」

 

「セリアさんと朝陽の生活必需品や衣類の買い出しだな?」

 

「あぁ。朝食を食べた後に行こうか?」

 

「了解だ」

 

 一先ず、今日の予定を決めた後、それぞれ朝食の準備に家の中へと戻る。

 

………

……

 

 その後、朝風呂や朝食を済ませた一行は、アマンドへと移動する。

 目的はセリアと朝陽の生活必需品をリッカ商会で買い揃えることにある。一応、誘拐された人間であるセリアや朝陽がいるので、2人にも偽名を名乗ってもらい、首飾り型の偽装魔道具を渡して髪の色を変えている。ちなみにセリアは白銀から金へ、朝陽は金から水色といった具合に変化している。

 

 そうして一行は午前中のわりと早い時間に到着したのだが、この時間帯でもアマンドの活気は相変わらず賑わっていて、既に営業している店も結構あるくらいだ。

 

「ここがアマンド…聞いてた通り、活気のある都市ね」

 

 偽装魔道具を身に着けていてもフードを深めに被ったセリアがアマンドに入ってからの感想を言う。

 

『へぇ~』

 

 同じくフードを被った朝陽も初めて見る街並みに周囲をキョロキョロと見回してしまう。

 

「まずはリッカ商会に向かいましょうか。お2人の生活必需品を買わないとですし」

 

 リオがそんなセリアと朝陽に言うが、朝陽の方は何となくでしか伝わっていない。城にいた頃は召喚に巻き込まれた人達と言語学習もしていたが、ある程度伝わればなんとかなると思い、『はい』『いいえ』とかの簡単な言葉以外では身振り手振りで意思を伝えていたらしい。

 

『ほら、行くぜ?』

 

 ネクサスが日本語でそう伝え、朝陽の右手を取って先導する。

 

『あ、ちょっと!』

 

 慌てた様子で朝陽もついて行く。手を振りほどかないのは、こんな場所で迷子になったら困ると自覚もしてるので、大人しくついていく。

 

「では、こちらも行きましょうか」

 

 リオもそんなネクサスを見て、セリアに右手を差し出す。

 

「あ、うん…」

 

 セリアもおずおずとリオの右手を握る。ちなみにアイシアは既にリオの左手と手を繋いでいる。

 

「それにしても、シノブ君は責任感が強いのね?」

 

「そうっすか? 俺としては、普通のつもりなんですがね?」

 

 先行するネクサスと朝陽に追いついたリオ達。そんな中、セリアがそのように感想を漏らし、ネクサスも特に気にした様子もなく答える。

 

「シノブは意外と気が利くところもありますからね」

 

「意外は余計だ、意外は」

 

 リオの言葉にネクサスがそう反論する。本気で怒ってるわけではない、ちょっとしたじゃれ合いみたいなものだ。

 

「ふふ、ハルト(・・・)とシノブ君って本当に仲が良いのね」

 

 その様子にセリアは微笑ましそうにしていた。セリアは事前にリオのことを偽名で呼ぶことにしていたのだ。ネクサスに関してはまだ本名を名乗ってないので、自然と偽名の方を呼んでるが…。

 

 そうこうしてる間にも一行はリッカ商会の女性向けの衣類を販売している店舗の前へと辿り着く。

 

「では、ここから先は俺とシノブは別行動を…」

 

 辿り着いてからリオがそう言うと…

 

「あ~…すまんが、ハルト。俺はこのまま付き添うわ。アイシアだけじゃ、色々と不便だろ?」

 

 そのネクサスの提案にリオとセリアがギョッとする。

 

「お、お前…女性の買い物に…つ、付き添うのか…?」

 

「えっと、シノブ君…? 流石にそれは…恥ずかしいというか、ねぇ?」

 

 リオとセリアがおずおずとネクサスを説得しようとするが…

 

「あぁ、俺は別に気にしません。つか、昔に散々連れ回されて慣れてるんで…」

 

 もはや悟ったような表情で、そんなことを言う。

 実際、ネクサスの前世では妹の双子に散々服選びだの、下着選びだのに連れ回されて耐性、というかもう諦めの境地になっていたのだ。そのため、女性の買い物に付き合うことには特に抵抗を持っていない鋼の精神を培っている。

 

「む、昔…?」

 

「……あ~…つまり…そ、そういうこと、なのか?」

 

 セリアが首を傾げる中、リオは以前ネクサスに妹がいたことを聞いていたので、そのことに関係するのかと思って尋ねる。

 

「まぁ、そういうこった」

 

 リオの推察にネクサスは頷き、肩を竦めてみせる。

 

「え? ど、どういうこと…?」

 

「す、すみません、セシリア(・・・・)。どうもシノブはこういうことにも慣れてるようなので…」

 

「な、慣れてるの!? 女性の買い物に付き添うことに!?」

 

「は、はい。詳細はまた今度本人から伺ってもらえれば…俺の口からはなんとも…」

 

 流石にここで前世の話をするわけにもいかず、リオはセリアにそのように言う。ちなみに『セシリア』とは、セリアの偽名だ。

 

「そ、そう…」

 

 リオの返答にセリアもチラッとネクサスを見る。

 

「なんなら、セシリアさんはアイシアと回ってくださいな。アリサ(・・・)は俺がエスコートしますから…」

 

「それもそれで、どうなのかしら…?」

 

 ネクサスの追加提案にセリアも朝陽の顔色を窺う。

 

『なによ?』

 

 こちらの世界の言葉を断片的にしか拾えない朝陽は首を傾げる。ちなみに『アリサ』というのが朝陽の偽名だ。

 店舗前に辿り着いてから聞こえてきた中で聞き取れたのは『すまん』『このまま』『お前』『それは』『しません』『つまり』『まぁ』『え』『はい』『そう』といった短い単語くらいで、どういう会話をしているのか、さっぱりわからなかったのだ。

 

『要するに、俺はお前の買い物に付き添うってことだ。通訳も兼ねてな?』

 

 首を傾げる朝陽にネクサスは日本語でそう告げる。

 

『あ~………はぁ?!』

 

 それを聞いて朝陽もギョッとした様子でネクサスを見る。些か声を張ったせいで、若干注目もされてるが…。

 

『余計に注目されるぞ?』

 

 一応、そんな注意をしながら、周囲に『何でもないです』アピールをする。

 

『ぐっ…』

 

 文句を言おうにもこれ以上目立つのも嫌だったので、しばし堪える。

 

「ま、そういう訳だ。ハルトはハルトで動いててくれ。こっちは適当…に、とは言えないが、何とかするからよ」

 

「あ、あぁ…まぁ、何かあればアイシアを通して連絡してくれれば問題ない、のかな?」

 

 ネクサスの言葉にリオは少し困りながらもアイシアを頼ることにした。

 

「うん。任せて」

 

 そのアイシアも頷いてみせたので…

 

「じゃあ、1時間後くらいに戻ってきますね」

 

「う、うん」

 

「いってら~」

 

 セリアとネクサスの声を背に受け、リオは独自に情報収集へと向かうのだった。

 

 

 

 リオが情報収集に向かった後、残った4人は…

 

「それじゃあ、行こう」

 

「おう」

 

 フードを取り払ったアイシアがセリアの手を引っ張り、それに続く形でネクサスもフードを取り払って朝陽の手を引いて店内へと入っていく。それに倣い、セリアと朝陽も慌ててフードを取り払う。

 

「ほ、本当にいいのかな?」

 

「なに、荷物持ちとでも考えればいいんすよ」

 

 店内に入りながらセリアがまだ納得してなさそうだが、ネクサスは何とも軽い感じで言う。

 

「荷物持ち…」

 

「そうそう。服って何着か買うと嵩張って重くなりますからね」

 

 などと適当なことを言いつつネクサスはセリアを説得する。

 

「それなら、リオにも手伝ってもらった方が…」

 

「帰りにはそうするでしょうけど…あいつ、こういうの苦手そうだもんな~」

 

「それは…確かに…」

 

 セリアはそう言うが、続くネクサスの言葉にどこか納得してしまったようだ。

 

「まぁ、何が役立つかわからんから、今度来た時はあいつも一緒に連れてきましょうよ。あいつの好みとか、セシリアさん、知りたいでしょ?」

 

 ニヤニヤとそんなことを質問するネクサスに…

 

「うん……って、違う! 今のは違うのよ!?」

 

 反射的に頷いたセリアだったが、誤解だと言い繕う。

 

「? ハルトの好みなら、私が知ってるよ?」

 

 そして、的確なのか、的外れなのか、アイシアがそんな事を言う。

 

「おっと、思わぬ伏兵現る…と言っていいのかね?」

 

 そんなアイシアの発言にネクサスは微妙な表情をする。

 

『ねぇ、さっきからなに話してるのよ?』

 

 会話の環に入れない朝陽が口を挟む。

 

『いやな。俺のことは荷物持ちとでも思ってくれって話と、ハルトの好みをセシリアさんが知りたそうでな?』

 

 ここぞとばかりに日本語で朝陽に話を振った。

 

『ふむふむ。荷物持ちか…』

 

 セリアのことはともかく、ネクサスの荷物持ち扱いには『なるほど』、といった感じで頷く。

 

「ちょっと、シノブ君? アリサさんに何を吹き込んでるの!?」

 

 日本語という未知の言語を使われてはさしものセリアも理解できないため、ネクサスを問いただす。

 

「ははは、それよりもそろそろ買い物をしてくださいな。俺のことなんて忘れてさ」

 

 ネクサスは笑って誤魔化すと、セリア達に買い物を勧める。

 

「セシリア、今は買い物をしよ?」

 

 アイシアもセリアにそう言って買い物を促す。

 

『アリサも気になるようなもんはちゃんと見てけよ?』

 

 当然、朝陽にも日本語でそう伝える。

 

 それから4人は1階から3階にある衣服やアクセサリーの類を見て回り、セリアと朝陽はいくつかの服をキープしていく。特にセリアの場合、リオの好みをアイシアから助言される形で選んでいるのもあって、それなりに嵩張っているようにも見えた。

 

 そして…

 

「ね、ねぇ、シノブ君? 本当にこの先もついてくるの?」

 

『アンタ、正気?』

 

 4階のランジェリーショップに続く階段の前でセリアと朝陽がそれぞれの言葉で最終確認をネクサスにしていた。

 

「えぇ」

 

 ネクサスはそれに対して頷いてみせた。

 

『アンタのメンタル、どうなってんのよ?』

 

『ははは、伊達に妹達に連れ回されたわけじゃないからな。下手すりゃ二股野郎と思われたこともあるくらいだしな』

 

 ネクサス自身はもう過去のことだと笑っているが…それはそれでどうなんだろうか?

 

『そ、それは…』

 

 その話を聞き、朝陽もやや同情したような視線をネクサスに向ける。

 

「な、なに?」

 

 その朝陽の反応にセリアも何事かとネクサスを見る。

 

「いわれのない疑いを持たれたこともあるので、白い眼で見られることには慣れてるのですよ。だからご安心を」

 

 ネクサスはそのように説明する。というか、どう安心しろと?

 

「ホント、昔に何があったの!?」

 

 セリアは逆に過去に何があったのか、心配になったらしい。

 

 

 

 結局、ネクサスも朝陽の翻訳という名目で一緒に4階のランジェリーショップについていき、他の女性客や店員からやや白い眼で見られるのだが、店員へのどこか慣れた様子の紳士的な振る舞いや話すのが苦手な朝陽への対応などから気にされなくなった。

 ちなみに2回しか訪れてないアイシアを店員が覚えてたらしく、声をかけてもらってセリアや朝陽のサイズを計測することもあったが…ネクサスはどこか慣れた様子で待機していた。

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