精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

44 / 58
第四十三話『大規模戦闘への介入』

 それから買い物開始から約1時間後。

 

 情報収集から戻ってきたリオとも合流し、一行は店舗2階の試着室にてセリアと朝陽のファッションショーまがいのことが行われていた。セリアが可愛らしく清楚な感じの服装が中心なのに対し、朝陽は動きやすさを重視したような服装をしていた。

 リオがセリアに同じような感想を送って褒めているのに対して、ネクサスは朝陽の服装の特徴を指摘したりしていた。

 

 

 

 それから数十分後。

 衣服の買い物を終えた一行は、リッカ商会の高級レストランに足を運び、ちょっと遅めの昼食を取ることにした。

 レストランに入ると、昼時のピークを過ぎていたこともあり、5人でも入れる個室へとすぐに通されていた。

 

「それにしても、ハルトも太っ腹だね」

 

 席に着いたネクサスがリオに話し掛ける。

 

「どうせ、自分じゃ持ってても使わないしな。こういう時に使わないと」

 

「そう言えるお前さんは素直に尊敬できるよ」

 

 などと男2人で会話していると…

 

「本当によかったの? 私やアリサさんの服…結構買ってもらっちゃったけど」

 

 おずおずとセリアがリオとネクサスに尋ねる。朝陽の方も言葉にはしないが、やや気まずそうにしてる。

 

「いいんですよ。生活には必要なものですし、俺もネクサスも蓄えはあってもあまり消費しませんから」

 

「まぁ、確かにな」

 

 リオの言葉にネクサスも頷く。

 実際、2人はたまに狩った獣の素材や魔物の魔石を換金することはあっても、消費はしてないのでそれなりの蓄えがあるが、使った記憶はあまりない。美春達の買い物を除けば、露店で買い食いをしたくらいだろうか?

 それに武具はドワーフ謹製のものがあるし、薬の材料や食料についても精霊の民の里から大量に貰っているから、よほどのことがない限り、使い切ったり、食べ尽くせることはないだろう。家まで造ってもらってるし…。

 

『だからアリサも気にすんなよ?』

 

 ネクサスも朝陽に気にするなと日本語で伝えておく。

 

「……ありが、と…」

 

 朝陽はまだ拙い感じだが、こちらの言葉でお礼を言う。

 

「じゃあ、ランチにしましょうか」

 

「だな」

 

 それから店員を呼んでコース料理を頼み、和やかな時間を過ごしていく。

 

………

……

 

 買い物と食事を終えてから岩の家に帰宅した後のこと。

 

「セリアさんの実家に行く?」

 

「あぁ。先生自身、家族に無事を知らせたいみたいだ」

 

 荷物を一旦置いたネクサスが今後の行動を聞きにリオの家を訪ねると、リオからセリアの実家に手紙を置きに行くということを知らされた。

 

「そっか。ま、ここは最小限の人員の方がいいか。俺はここに残って朝陽の面倒を見てるよ」

 

「いいのか?」

 

「お前さんやアイシアがいるんだ。そんなにかからんだろ? だったら、待つよ。その間に朝陽の言語理解も少し深めときたいしな」

 

「ありがとう」

 

「別にお礼を言われることじゃないがな」

 

 リオのお礼にネクサスはそう返す。

 

「それと、帰りに寄っていきたいところがあるんだ」

 

「ほぉ? どこだ?」

 

「ロダン侯爵領、領都ロダニアだ。先生に聞いた話では、そこにユグノー公爵派がフローラ王女を擁して拠点にしてるらしい」

 

 リオの話を聞いて合点がいったのか…

 

「なるほど。勇者か」

 

 勇者のことだと察する。

 

「あぁ、その氏名を確認しておきたい」

 

「皇グループの御令嬢か、亜紀と雅人の兄貴か…はたまた別人か」

 

「外れだとしても、情報は確定させておきたい」

 

「わかった」

 

 それからリオはセリアから聞いた勇者召喚をしただろう聖石を保有する国、もしくは勢力をネクサスとも共有しておいた。

 

 ベルトラム王国本国にある一つで重倉 瑠衣が召喚されたのは確定されており、ユグノー公爵派によってフローラ王女と共に持ち出された一つ、ガルアーク王国に一つ、そしてセントステラ王国に一つ。予言では6人の勇者が召喚されたはずだが、残る2つの聖石については行方知らずらしい。

 

 それを踏まえ、クレール伯爵領に忍び込むにあたり、帰り道でロダニアへと向かうことに決めたようだ。

 

「それと、シノブ。確認しておきたいんだけど…」

 

「勇者の強さか?」

 

「あぁ、神装というのもどういうモノかと思ってね」

 

 リオの改まった質問にネクサスは…

 

「前にも言ったが、全体的に見ればアンバランスだな。どこか人間離れしてるが、動きは素人の域だ。あの弓が神装ってのなら、あの威力は頷ける。雷を操る弓、と言うべきか? 俺の出した氷の壁に穴を開けやがったしな」

 

 そう答えていた。

 

「なるほど」

 

 ネクサスの言葉を聞き、リオも少し思案顔をする。

 

「その、ユグノー公爵派の所にいる勇者も神装を持ってるとして…どんな形状かはわからないし、本命だとしても接触は避けるべきじゃないか?」

 

「そうだな。警備状況にもよるが、仮に戦闘になって大事になっても困るか」

 

「そうそう。セリアさんもいるなら、なおさらな?」

 

 そう言ってネクサスがリオの肩をポンポンと軽く叩く。

 

 その後、リオとネクサスはある程度の話をつけると、自分の家へと戻っていく。

 

………

……

 

 それから2日後の早朝。

 自分の家を時空の蔵へと格納したリオがセリアとアイシアを伴い、ネクサスの家の前におり、ネクサスと朝陽を見送りに出ていた。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「おう、気を付けてな?」

 

 リオがネクサスに声を掛けると、ネクサスも右拳を突き出す。それにリオも応え、自分の右拳で軽く小突き返すのを見てネクサスも満足そうに笑う。

 

「アイシア、ハルト達を頼むぜ?」

 

「ん、大丈夫」

 

「セリアさんもお気をつけて」

 

「ありがとう、シノブ君」

 

 ネクサスがアイシアとセリアにも声を掛ける中…

 

「いって、らっしゃい」

 

 朝陽もこちらの言葉でセリアとアイシアに声を掛けていた。

 

「アサヒさんも頑張ってね」

 

「えぇ」

 

 一緒に買い物をした間柄なのか、リオ達が出掛けるまでの2日でセリアと朝陽もそれなりに打ち解けていたようだった。

 

「では、先生」

 

「うん。お願い」

 

 リオがセリアを抱き抱え、空へと飛ぶとアイシアもそれに続く。

 そして、リオ達が見えなくなった頃合いで…

 

『さてと。じゃあ、勉強だな』

 

『わかってるわ。その代わり、私の運動にも付き合いなさいよ?』

 

『仰せのままに』

 

 日本語で話し合うネクサスと朝陽。

 こちらの言語を学習するだけでなく、ネクサスに剣の稽古をつけてもらうことになっていた。そのため、ネクサスは精霊術を用いて近くにあった適当な太さの木を伐り、木刀を2本ほど作っていたりもする。

 

………

……

 

 リオ達がクレール伯爵領へと出発してから3日後のこと。

 

「そろそろ帰ってくる頃かね?」

 

 朝陽の勉強を見ながら、こちら側の言葉でネクサスがそんなことを呟く。

 

「セリア、さん、たち…?」

 

「あぁ。行きに1日、勇者のことを調べるのに1日、帰りに1日、って考えると今日くらいかね?」

 

「ふ~ん…」

 

 まだ片言な部分は否めないが、それでもこの5日間で朝陽の言語理解も飛躍的に高まっていた。元々、城で土台は出来上がっていたのに加え、ネクサスの個人レッスンもあって、それが開花したのだろう。

 また、剣の稽古も言語学習の休憩がてらにやっているのだが…本人から剣道部に入る予定と聞いていたが、なんというか剣道らしからぬ動きを見せる朝陽にネクサスも最初驚いていた。

 特徴的なのが、片手で木刀を持ち、一見無秩序に見える斬撃の軌道は的確に相手の急所を狙い、それが防がれたり避けられたりすると、すぐに離脱してから再び仕掛けてくる。一撃離脱、ヒット&アウェイを思わせる戦術を取っていた。

 剣道という型のある戦い方もできなくはないが、この剣の才覚はこちらに来てからこそ開花したと言っても過言ではなく、剣道の型で戦うよりもこの型にはまらない戦術の方がより彼女に合っているような感じがした。

 

 と、その時だった。

 

『グルルルル…』

 

 霊体化してたファングが顕現すると、森の方を睨んで唸り声を上げていた。

 

「ファング?」

 

 ネクサスがファングの見る方へと意識を集中させると、妙なオドの吹き荒れを感じる。

 

「どうした、のよ?」

 

 朝陽が何事かと尋ねると…

 

『ふむ。そうか。近くで大規模な戦闘が起きてるらしい』

 

 ファングからの意思が伝わったのか、ネクサスが朝陽に日本語でそう告げる。

 

『戦闘…』

 

 朝陽がそれを聞き、やや緊張した面持ちになる。

 

『あぁ、ちょっと様子を見てくる。ファング、お前は朝陽の護衛だ。アレ(・・)はまた今度試そうぜ?』

 

『ガウッ!』

 

 ファングに朝陽の護衛を任せ、ネクサスは外へと向かおうとする。

 

『あ、ちょっと!』

 

 そんなネクサスを朝陽が追おうとするが…

 

『朝陽。悪いが、お前は留守番だ。ちょっと規模が大きめだしな。お前をフォローしてやる余裕がない』

 

 普段の飄々とした表情ではなく、真剣みのある表情をしながら朝陽に言うネクサスに…

 

「っ…」

 

 朝陽もそれ以上は何も言えなかった。

 

『安心しろ。ここには結界があるし、ファングもいる。何かあれば、ファングを通して俺を呼べばいい』

 

 それから朝陽にそう言い聞かせると…

 

『じゃあ、ちょっと行ってくら』

 

 ニカッと笑って外へと出る。それから精霊術で入り口の施錠をしっかりすると、空を飛んで戦闘が行われている方角へと向かう。

 

 

 

 ある程度、進んだところでネクサスは神経を集中させ、空から戦闘の様子を俯瞰する。

 

(ゴブリンに、オークの群れ? こんな数がこの森に…?)

 

 数を把握しようとして、そのとんでもない数に驚いていると…

 

(それだけじゃねぇ…この感覚。前に遭遇したことがある? それと…)

 

『ブモォォォ!!!』

 

 以前、アマンドの近くで会敵した人型魔物の気配を察知し、見たことのない大型の魔物…いわゆる『ミノタウロス』と呼ばれる牛の頭に人型の巨体を持つ魔物の声が聞こえてきた。

 

(相手は人か。だが、こっちは劣勢。だが、やたら動きの良い…というか圧倒してる人がいるな…)

 

 視覚を強化してそれを見ると…

 

「は? メイド?」

 

 一瞬、間の抜けた声を漏らしてしまうが、その手に持つ剣を見て納得する。

 

(あ~、魔剣ってやつか。いや、それだけじゃないか。ありゃ実力も剣技も相当なもんと見た…だが、1人が突出しても、戦況は厳しいことには変わりないか…)

 

 そうして観察していると…

 

(ん?)

 

 急接近する見知った気配を察知する。

 

「ハルト!?」

 

 なんと、リオがその戦闘に介入したのだ。

 

「なにしてんだよ!?」

 

 思わず声を漏らす。

 

「……はぁ…しゃあねぇな…」

 

 リオが介入した時点で戦局も変わったと判断したネクサスだったが、頭をガリガリと掻いてから深く溜息を吐くと…

 

「俺も手助けしますか…」

 

 何が起こるかわからない以上、時空の蔵から主武装(・・・)を取り出しておいてから、腰裏に装備してた2本のダガーを引き抜き…

 

「じゃ、殺りますか(・・・・・)…」

 

 顔から表情が抜けたように無表情となり、ネクサスも戦闘へと介入すべく降下していき、適当な木の枝に着地すると、身体強化の精霊術を用いて駆け出す。

 

 

 

 リオが戦闘に介入し、ミノタウロスを撃破したところで、黒と灰の人型魔物が3体ほどリオへと襲い掛かっていた。

 

「っ!」

 

 リオがその迎撃に動こうとしたが、すぐにやめて別のミノタウロスへと向かう。

 

「危ない!」

 

 その様子を見ていた少女が悲鳴に近い声をあげて警告するが…

 

バタリ…

 

 次の瞬間には黒と灰の人型魔物が地に落ち、頭部が転がりながら消滅していた。

 

「え…?」

 

 その少女が驚く中、消滅した人型魔物の代わりにネクサスがその場に現れる。

 

「………………」

 

 ネクサスはリオを一瞥してからリオとは逆方向にいたミノタウロスに向かって跳躍する。

 

『ブモォォォ!!!』

 

 ネクサスの接近に気付き、ミノタウロスが巌のような大剣で斬りかかるが…

 

「………………」

 

 空中で身体を捻り、ギリギリのところで大剣を躱し、懐に飛び込むと、そのまま二刀流のダガーで素早く斬りつける。が、大したダメージにはなっていないようだった。

 

(流石に得物が小さいとダメか…)

 

 そんな思考を巡らせながらも、ミノタウロスがそんな掠り傷を気にするでもなくネクサスを左拳で殴ろうとするが…

 

「巨体のわりに良く動く」

 

 そう呟き、迫る左拳の手の甲部に手をついてミノタウロスの腕の上に舞い上がると、そのまま駆ける。

 

『ブモォォォ!!!』

 

 そのネクサスを振り払おうと身体を激しく揺さぶるミノタウロスだったが、ネクサスはその前に再び跳躍すると…

 

「シッ!」

 

 自らの武器であろうダガーをミノタウロスの眼へと投擲し、片目を潰す。

 

『ブモォォォ!!?』

 

 片目を潰され、大剣を無秩序に振り回すミノタウロスから一旦離れたネクサスは、残ってたダガーを腰裏に戻すと、腰の左右に装備していたネクサス本来の主武装(・・・・・・)…白銀と漆黒の片刃の長剣…刀に少し似た、その二刀を引き抜き…

 

「散れ…」

 

 未だ大剣を振り回すミノタウロスへと再接近し、大剣をギリギリで躱しながら二刀を振るう。

 

『ブモォォォ!?!?』

 

 ミノタウロスの胸部に特大のバツ印型の傷痕が生まれる。しかも、バツ印には特徴があり、片方の剣筋は焼け跡のような斬り傷、もう一方は霜のついたような斬り傷となっていた。

 

「無駄に耐久力があるな…」

 

 そういう手合いが若干苦手なのか、ネクサスがそんなことを漏らしながらトドメとばかりに二刀を同じ方向へと向けて振るい、ミノタウロスの首を刎ねる。

 

「あとは…」

 

 ネクサスはミノタウロスの首が落ちるのを確認してから周囲の気配を探り、残った魔物の殲滅に加わる。

 

 

 

 こうしてリオとネクサス、さらには護衛の騎士ややたら強い侍女達の奮戦もあり、魔物達の撃退に成功した。

 リオとネクサスの参戦によって窮地を脱したこの一団の正体は…?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。