精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第四十五話『アマンドへの道のり』

 リオ達が壊れた馬車の元へと向かう。

 目的の馬車は街道脇の森にまで吹き飛んでいて、ものの見事に横転している。さらに鉄板製の荷台は酷くひしゃげていて、車輪を含む外れたパーツなども散乱している。一見すると、もう使い物にならない状態と言ってもおかしくはないのだが…

 

「シノブ」

 

「あぁ」

 

 リオとネクサスはその馬車の状態を確認していき、互いに頷くと…

 

「これなら大丈夫そうですね」

 

 リオがリーゼロッテに応急処置が可能だと言う。

 

「やはり、無理ですよね……って、え!?」

 

 いたたまれない面持ちのリーゼロッテは修理が無理だと思っていたらしいが、リオからの言葉を聞いて驚いていた。

 

「幸い、車輪や車軸には致命的なダメージがありませんからね。車体はともかく、応急処置をすればアマンドまではなんとか走れるかと」

 

 そう言ったリオはそんなリーゼロッテの様子に笑みを浮かべる。

 

「……そう、ですか。それはなによりです」

 

 部下である侍女2人の前でもあるため、リーゼロッテはすぐ軽い咳払いをするとそう答える。

 

「では、修理に取り掛かりますね。ですが、ひしゃげた鉄板はこの場での修理は無理なので、この場で切り離してもいいですか?」

 

「それは構いませんが…切り離す…?」

 

 リーゼロッテが首を傾げる中…

 

「では、少し離れてください。シノブ」

 

「わかった」

 

 リオとネクサスはそれぞれ腰から剣を抜き、馬車へと近づいていく。ちなみにネクサスの方は漆黒の剣を抜いている。

 

閃ッ!!

 

 すると、2人は交互に剣を振るい、車体の鉄板を切り離しにかかる。阿吽の呼吸、とでもいうのか。見事なコンビネーションによって短時間で車体から鉄板を切り離す。

 

「「「………………」」」

 

 リーゼロッテと侍女2人も驚いたように目を見張る。

 

「……お二方とも、素晴らしいお手並みですね」

 

 いち早く再起動したリーゼロッテがリオとネクサスの手並みへの感想を呟く。

 

「いえ、この剣のおかげでもありますから」

 

「………………」

 

 リオが答えながらネクサスは黙って剣を鞘に戻す。

 

「先程の戦闘でも、ハルト様はその剣で風を操っていたと思いますが…魔剣、ですよね? おそらくは、古代魔道具級(エンシェントアーティファクトクラス)の代物かと思いますが…」

 

 リーゼロッテはそのようにリオに尋ねる。

 

 『魔剣』。

 それは広義の意味では魔術の込められた剣の総称であるが、狭義では現代魔術では再現不可能な古代魔術を込めた剣のことを指す。一般的には狭義の意味で使われることが多いが、広義での意味で使われないというわけでもない。

 先の戦闘で見せた性能を考えれば、リオとネクサスの持つ剣はいずれも古代魔道具級の魔剣として認識されてもなんら不思議ではない。

 

「親しい知人から譲り受けた代物です。なので、大切に使っています」

 

 リオはリーゼロッテにそのように答える。

 ただ、実際はドワーフ謹製の代物であり、剣には使い手の精霊術を纏わせる効果と、その精霊術を増幅する効果の2つしか備わっていないわけだが、その情報を開示する必要はないとしてリオはそのように答えたのだろう。

 

「まぁ、そうでしたか」

 

 リーゼロッテはリオの答えにしばし考え込むような素振りを見せる。

 

「こちらは私とシノブでやっておきますから、リーゼロッテ様は他の従者の方達の指揮をお執りください」

 

 リオは朗らかな笑みを向けながらそう言う。

 

「……では、お言葉に甘えまして。こちらの侍女、『アリア』を置いていくので、何かお手伝いが必要でしたらお申し付けください。クロエ」

 

「ぁ…はい!」

 

 リーゼロッテはやや呆れた様子で、侍女の1人…『アリア』と呼ばれた侍女を残して、クロエと共にリオやネクサスを興味深そうに見る侍女達の元へと向かう。

 

 

 

 リーゼロッテが侍女達の指揮を執る合間、リオとネクサスは馬車の修理を行っていた。

 

「………………」

 

 それを近くで見守る侍女…アリアは2人の息の合った所作に感心していた。

 

「お二方とも、見事な手並みですね」

 

 アリアがそのまま感想を述べると…

 

「旅をして長いですからね。こういう大工仕事も覚えないと、なかなか大変ですから…」

 

 リオがアリアの感想に言葉を返す。

 

「ご立派なことです。先程の戦闘でも見事な立ち回りでした」

 

「武器に恵まれていたのと、シノブが来てくれたおかげで目の前の敵に集中できましたから」

 

 リオはそのように謙遜しながらネクサスを見る。当のネクサスはボロが出ないように黙々と作業している。

 

「ご謙遜を。確かに素晴らしい魔剣を所持していると思いますが、使い手はそれ以上の腕前とお見受けいたします。それに背中を預けられるほどの信頼される方もいるようですし…」

 

 アリアはリオの戦闘技能やネクサスとの関係を褒め称える。

 

「ありがとうございます。小さい頃から、鍛えることだけは怠りませんでしたし、いい出会いにも恵まれたとも思ってもいます」

 

 そうしてリオとアリアが喋っていると…

 

「ハルト、こっちは終わったぞ」

 

 ネクサスが自分の分担が終わったことを知らせる。

 

「わかった。こっちも終わったから、一気に持ち上げよう」

 

「了解だ」

 

 そして、横転した馬車を2人で持ち上げる。

 

「……本当に見事な技量ですね」

 

 アリアは2人の技量を素直に称賛する。

 

「ハルト、俺は反対側に異常がないか見てくる」

 

「任せるよ」

 

 ハルトにアリアの相手を任せる形で、ネクサスは馬車の反対側へと向かう。

 

「……ハルト様。シノブ様は…」

 

 アリアはリオにネクサスが、意図的に自分達を避けてるのでは、と聞こうとしたが、途中で言葉を切った。

 

「あいつも緊張してるんだと思います。それに普段は気さくな奴ですから…」

 

 それを察し、リオがネクサスのフォローをしておく。

 

「そうなのですか?」

 

「皆さん、本来なら雲の上の人達ですから、どう接したらいいのか戸惑っているんだと思います。かくいう私も少々委縮してしまってますが…」

 

「なるほど」

 

 リオのフォローもあり、アリアもネクサスへの追及はせずにリオから少し情報を引き出そうと話を持ち掛ける。

 

「ハルト様達はいつから旅をなさってるのですか?」

 

「私は、11歳(・・)の頃からですね。今年で16歳になりましたので…旅を始めてから、もう5年くらいになりますね」

 

 リオはアリアにそう答えるが、一部虚偽の情報を織り交ぜている。

 

「そのような年齢から…ですが、その年齢では冒険者として登録もできなかったのでは?」

 

「えぇ。今でも冒険者として登録はしておりません。色々な国を渡り歩くのに、冒険者としての登録は少し足枷になるので…」

 

「なるほど。では、シノブ様も…?」

 

「具体的にいつから旅をしてるのかは私も知りませんが、私と同様に冒険者登録はしてませんよ。あいつとは、旅の中で出会った大切な友人ですから」

 

「友人、ですか」

 

「はい」

 

 そんな風に会話をしていると…

 

「ハルト。こっちにも異常はなかったぞ」

 

 反対側を確認し終えたネクサスが戻ってくる。

 

「ありがとう、シノブ。じゃあ、あとは…」

 

 リオがネクサスに礼を言うと、馬車を街道まで搬送すべく行動を開始する。

 

………

……

 

 それから魔剣使い3人によって馬車を街道まで搬送し、アリアがそのことをリーゼロッテに報告していると…

 

「ハルト様、よろしければこちらのお飲み物をどうぞ」

 

「シノブ様も、どうぞこちらを…」

 

 2人の侍女がリオとネクサスにそれぞれ近付き、木製のコップを差し出す。

 

「ありがとうございます。えっと…」

 

「どうも…」

 

 リオとネクサスがそれぞれお礼を口にするが、リオの方は相手の名前がわからずに言葉が詰まるのに対し、ネクサスはお辞儀してからコップを受け取る。

 

「恐れながら、ご挨拶が遅れました。わたくし、リーゼロッテ様に仕える侍女の『コゼット』と申します」

 

 侍女…『コゼット』は侍女服のスカートを摘まんで淑女然とした挨拶をリオにしていた。

 

「「っ……」」

 

 その様子を近くで見てたリーゼロッテとアリアが、なんでか反応していたが、それを見た者はいなかった。

 一方で…

 

「美味しいですね」

 

 ネクサスの方もコップの中身の果実水を一口、口に含むと目の前の侍女にそう言っていた。

 

「恐れ入ります」

 

 目の前の侍女もネクサスに一礼する。

 

「「………………」」

 

 しばしの沈黙がネクサスと侍女の間に漂う。

 

(なんか、言った方がいいのかな?)

 

 と思いつつの果実水を飲み干すと…

 

「ありがとうございます。コップはどちらに?」

 

「あ、私が回収しますので。どうぞ、お気になさらず」

 

「そうですか。では…」

 

 果実水を飲み干したコップを侍女に渡してお辞儀すると、ネクサスはリオの方へと歩いていく。

 

「………………」

 

 そのネクサスの後ろ姿をどこかボーっとした様子で眺める侍女。

 

「どうしたの、『ナタリー』?」

 

 すると、リオの所に挨拶に行っていたコゼットが同僚の侍女に声を掛ける。

 

「な、なんでもないわ」

 

 ハッとしたように『ナタリー』と呼ばれた侍女が少し慌てた様子で返事をする。

 

「ふ~ん…?」

 

 コゼットの方はどこかニヤニヤしたような表情でナタリーを見る。

 

 

 

 その後、一団の出発の準備が整うと、アマンドへ向かうことになる。

 その際、リオとネクサスにも馬車にご一緒しないかとリーゼロッテが誘われる。

 

「よろしいのでしょうか? 私達などがご一緒しても…」

 

 リオがそのように言うが…

 

「なに、君達は命の恩人なのだ。そう気兼ねする必要はないよ」

 

「そうですよ。正式に改めてお礼を申し上げたいですし、何卒よろしくお願い致します」

 

 ユグノー公爵とリーゼロッテにまで言われては断りきるのも難しいと判断したリオは同乗することにしたのだが…

 

「自分まで乗っては人数的に厳しいでしょう。自分は外で騎士様方と周囲の警戒に務めさせていただきます」

 

 ネクサスも一度アマンドまで同行してから朝陽を迎えに行けばいいかと考えるも、流石に人数的にも馬車に乗るのは厳しいと考え、そのように提案していた。

 

「ですが、恩人であるシノブ様を歩かせるのは…」

 

「ご心配には及びません。実を言うと、自分は乗り物が苦手なので、歩きの方が気が楽なのですよ」

 

 リーゼロッテがそのように言うが、ネクサスは適当な理由をつけて同乗を断った。

 

「そう、ですか」

 

「申し訳ありません。貴族様のご提案を断る我が身の無礼を、何卒ご容赦ください」

 

 それらしく謝罪の言葉を口にしたネクサスは、リーゼロッテに一礼しながらも視線だけでリオをチラリと見やった。

 

(すまんな、ハルト)

 

 その視線にはやや謝罪の意もあったようだ。

 

「ふむ。君の話も聞きたかったが、致し方あるまい」

 

 ユグノー公爵が残念そうに呟く。

 

「申し訳ありません」

 

「いや、気にすることはない。君のような剣客が外で見張ってくれるのだ。私達も安心できるというものだ」

 

「恐れ入ります」

 

 ユグノー公爵の言葉にネクサスは恭しく答えていた。

 

 

 

 それからリオも含めた6人が馬車に搭乗すると、一団はアマンドへ向けて出発する。

 

「………………」

 

 馬車の少し後ろを歩くネクサスは、森の気配を静かに探っていた。

 

(やはり、どこか物静かな感じだ。どういうことだ? 何かの前触れか?)

 

 1人、森の気配と様子を観察し、思考を巡らせるネクサス。歩調は遅くはないが、馬車に追従するくらいの速さであり、適度な距離感を保っていた。

 

(それにしても、こんなところで主武装を使う羽目になるとは…ちょっと予定外だったぜ)

 

 それと、ネクサスは此度の戦闘でお披露目してしまった、腰に差している白銀と漆黒の刀に似た剣の柄頭を軽く撫でながら、そっちのことも考える。

 

(ま、相手も相手だったから仕方ないんだが…)

 

 先の戦闘で相対したミノタウロスのことも考える。

 

(しかし、この森にあんな図体のデカい魔物が潜んでた理由がわからん。俺が仕留めた奴を含めても、確か4体…それだけの数が冒険者にも見つからず、潜めるものか?)

 

 ネクサスはそこに違和感を感じていた。

 

(情報が少ないから、何とも言えんが…この違和感、少し気になるな)

 

 前世で探偵の父親を持ち、自らもたまに手伝いのようなことをさせられた経験からか、ネクサスはこの違和感を気にしていた。

 

(敢えて森に残って少し調べる選択もあるにはあるが…さて、どうしたものかな…)

 

 一応、アマンドへと向かう折は伝えてしまった手前、不自然に森に残るのも変かと思ってしばらくはこの一団の周囲を警戒することにしたネクサスだった。

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