精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第四十六話『到着と、秘めた一面』

 一団がアマンドへ移動を開始してから小1時間が経過し、アマンドが見えてくる距離になった。

 

 その間、馬車内では勇者が会話の主導権を握ってあれこれ話を展開していたそうだ。

 かくいう外でもリーゼロッテの侍女達がリオやネクサスの様子を間近で観察していたアリアにあれこれ聞いていたようだが…ネクサスや周りの騎士達にも聞こえない声量で話していたので、特に問題はない。

 

 そして、一団がアマンドに到着し、西門から入って中央のメインストリートを進んで北区画にあるリーゼロッテの屋敷へと向かうのだが…。

 

「リーゼロッテ様。ここまでお送りくださり、ありがとうございました」

 

 都市の中央にある広場でリオが途中下車していた。

 

「?」

 

 こんな場所で途中下車とは、何事かと思って馬車の後方を歩いていたネクサスも歩調を速めてリオに合流する。どうやら馬車内での話で、リーゼロッテが是非リオとネクサスにリッカ商会が経営する宿屋に泊まってほしいとのことだったらしく、断るのも悪いとリオが承諾したのだ。

 

「なるほど」

 

 その説明を聞き、ネクサスも納得していると…

 

「それでは、ハルト様、シノブ様。本日はごゆるりとお休みください。明日の午前中に使いの者をお送りしますので」

 

(使いの者?)

 

 やや話が見えないネクサスだが、とりあえずリオに合わせてリーゼロッテに一礼しておく。

 

「じゃあ、アリア。お2人の案内をよろしくね」

 

「かしこまりました」

 

 どうやらこれから滞在する先の宿屋にはアリアが案内してくれるようだった。

 

「では、ハルト様、シノブ様。こちらへどうぞ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「…よろしくお願いします」

 

 アリアの先導でリオとネクサスはリッカ商会の経営する宿屋へと訪れる。と言っても、その宿屋はこの中央広場にあり、リーゼロッテの屋敷にもほど近いアマンドの超一等地にあるものだったので、リオとネクサスも驚いていたが…。

 そこから先はアリアがいるということもあってか、とてもスムーズに手続きなども進められていき、リオとネクサスは3階にあるスイートルームに案内される。

 

「………………」

 

「大変素晴らしいお部屋ですが…本当によろしいのですか?」

 

 さしものネクサスも唖然としている中、リオがアリアに尋ねていた。

 

「はい。気に入っていただけるたなら、心行くまでご滞在してください。期限も特に定めておりませんので、料金のことはご心配なく」

 

 アリアは恭しくお辞儀しながらそう言う。主であるリーゼロッテの意向もあるのだろうが、随分と気前のいいことだ。

 だが、それも考えようによってはプラスになると考え、リオはその好意を受け取ることにした。唖然としていたネクサスもすぐに復活すると、アリアに頭を下げていた。

 

 

 

 それからアリアが退室し、リオとネクサスの2人きりになると…

 

「はぁ~…なんか、どっと疲れたわ…」

 

 ソファに腰掛けながらネクサスが疲れたようにソファに身を預けている。

 

「珍しく慣れないことをしていたしな」

 

 そんなネクサスの様子を見てリオが微笑する。

 

「まさか、あんな国の要人達に会うなんて誰が想像するよ?」

 

「そうだな。俺も想定外だった」

 

 ネクサスの言葉にリオも苦笑しながら同意する。

 

「だが、これでリーゼロッテ=クレティアとの繋がりは作れた、だろ?」

 

 ネクサスは真剣みのある表情で姿勢を正すと、リオに話の水を向ける。

 

「あぁ。彼女を通じてガルアーク王国に召喚された勇者について聞ければ御の字。それと、彼女が転生者かどうかにもよるけど、友好関係を築くことに関しては問題ないはずだ」

 

 リオも真剣な表情でそのことをネクサスに話す。

 

「それを踏まえての介入だったのか?」

 

「全部が全部思い通りって訳じゃないけど…」

 

「ベルトラム王国…いや、ユグノー公爵派か。なんでいたんだか…」

 

「それは流石にわからないけど…いずれにしろ、少し面倒なことだな」

 

 珍しくリオがそんな風に言う。ユグノー公爵派との接触…そこに何かあったのだろうか?

 

「……そういや、勇者の方はどうだった? 随分と上から目線な奴だったが…」

 

 ネクサスはそのことを聞くべきか少し迷ったが、先に勇者『ヒロアキ=サカタ』について聞くことにした。

 

「話している感じ…なんというか…自分優位に話を進めたそう、だったかな? それでいて自分で色々と話を振ったりしてて…」

 

「ふ~ん…」

 

 聞いといてなんだが、リオの話を聞いてネクサスは興味無さそうにしつつ、ある確信を得た。

 

(そりゃあれか? 異世界召喚に酔って、俺強ぇアピールしたいってのか?)

 

 つまり、オタク系男子なのでは、と…。

 

(さっきチラッと見た動きからして素人同然。まぁ、現代日本で武道とか嗜んでない限りはそうなんだが…どこからあの自信が湧くのかね?)

 

 ネクサスはそれが一番の謎だと言わんばかりに唸る。

 

「シノブ?」

 

 リオがそんなネクサスに声を掛ける。

 

「あ、いや、すまん。そろそろアリサを迎えに行くかな」

 

 そう言ってネクサスはソファから立ち上がる。

 

「俺も先生やアイシアと合流するよ。事情も話しておきたいし」

 

「わかった。じゃあ、俺は少し出てくる」

 

 ここからはしばし別行動だ。

 

「気を付けろよ?」

 

「あぁ…夕食の時間までには戻る」

 

 森へと向かうネクサスにリオは注意を促し、ネクサスもそれに頷いていた。まだ、漠然とした違和感の正体が見えてない以上、早く朝陽を連れてこようと足早に宿屋を出る。

 ネクサスが出た後、リオも念話でアイシア達の居場所を確認し、部屋の鍵をフロントに預けて出掛ける。

 

………

……

 

 それからネクサスはアマンドから一度出て森に入ると…

 

(やはり、静かだ。ふむ…)

 

 森の静けさに警戒しながらも手早く用事を済ませるべく、誰もいないことを確認してから空を飛んで岩の家を目指す。

 

(とりあえず、この辺りまでは来てないな…)

 

 自らの岩の家に到着すると、周囲の気配を探って異常がないことを確かめる。

 

(ファングもいるとは言え、少し遅くなっちまったか。さてはて、どんなことを言われることか…)

 

 精霊術で入り口の施錠を解除すると、家の中へと入る。

 

「ただい、ま…っと!?」

 

 家の中に入った瞬間、ネクサスの身体にドンッと衝撃が走り、ネクサスは不意打ちということもあったが、なんとか踏ん張ってみる。

 

「いったい、なにが…?」

 

 何の衝撃だったのかわからず、視線を下に向けてみると…

 

「………………」

 

 何故か朝陽がファングを両腕で抱えたまま、ネクサスに体当たり(?)をしていた。心なしか、頭をネクサスの胸辺りに押し付けているようにも見える。

 

「朝陽…?」

 

 ネクサスが朝陽に声を掛ける。

 

『…っ…………ぃ…』

 

「へ…?」

 

 朝陽が何かを呟く。それが日本語というのは理解したが、声が小さくて聞き取れずにいると…

 

『遅かっ、たじゃない…!』

 

 そう言ってネクサスを見上げる朝陽は…目に涙を溜めており、身体もどこか小刻みに震えていた。

 

『何があった?』

 

 何やらただ事ではなさそうな雰囲気にネクサスも真面目に問い掛ける。

 

『ファングが、妙に唸るから…ちょっと入り口の窓から外を見たのよ。そしたら…変な、気持ち悪い人みたいなやつがうようよいて…どっかに移動中だったのかもしんないけど…こっちに気付いてなさそうだったから…ファングの口を押さえて、抱き締めて…私も部屋で息を殺してたのよ…』

 

『なんだと…?』

 

 朝陽の話を聞き、ネクサスは後悔半分驚愕半分といった表情になる。

 

『それで……ファングも大人しくなったから、もう一回…様子を見に来ようとしたら、扉が開いて…そしたら、アンタが入ってきた、から…』

 

 やや震えた声で朝陽はネクサスのいない間に何があったのかを話す。そして、その話を聞いたネクサスは…

 

(あ~、くそっ…やっぱ、1人にするんじゃなかった。いくらファングがいるとは言え、女の子なんだ。その辺の配慮が足りなかったか。俺だけ素性を隠してさっさと戻ってくりゃよかった。そうすれば、その魔物の群れも殲滅できたかもしれねぇのに…なにより…)

 

 未だ身体を震わせる朝陽を見て…

 

(こいつを…怖がらせることになっちまった…)

 

 そのことに強い後悔の念を抱いていた。

 

『っ…』

 

 声には出さないが、朝陽も心細かったのだろう。すぐ戻ると言ったネクサスもなかなか帰ってこず、魔物の群れが家の前を通っていったのだ。

 

『すまない…』

 

 そんな朝陽をネクサスはそっと抱き締め、謝罪に言葉をかけていた。

 

『っ……くぅ…』

 

 抱き締められた朝陽は、静かに涙を流す。

 

(しかし、魔物の群れか…)

 

 その様子を見ながら、ネクサスは魔物の群れについて考える。

 

『キュフ…』

 

 朝陽に抱えられ、その上ネクサスが朝陽を抱き締めたせいでサンドイッチ状態になったファングはやや苦しそうだったが…。

 

(何もなければいいが…)

 

 一抹の不安を覚えながら、ネクサスはしばし朝陽を抱き締め続けたのだった。

 

 

 

 それから朝陽が落ち着きを取り戻した頃合いで…

 

『落ち着いたか?』

 

『……うん…』

 

『そっか』

 

 ネクサスは抱き締める力を緩める。

 

『………………』

 

 しかし、朝陽はなかなか離れようとしない。

 

『あ~、こんな時になんだが…アマンドに行くことになった』

 

『なんでよ?』

 

『ま、これも成り行きってやつだ。詳細は移動中に話してやるから、準備してきな』

 

『……わかったわ…』

 

 そう答える朝陽はネクサスから離れて部屋に戻ろうとして、度々ネクサスの方を見る。

 

『安心しろ。今度はちゃんとここにいるから』

 

『……絶対よ?』

 

 そう言い残し、朝陽は2階の自室へと向かう。

 

「……どうも、調子が狂うな」

 

『ガウ?』

 

 いつもの強気な態度ではない朝陽の姿にネクサスは苦笑し、ファングも首を傾げる。

 

「お前もありがとな。ファング」

 

『ガウ!』

 

 そう言ってファングの頭を撫でると、ファングは元気よく吠えた。

 

 

 

 それから朝陽の準備も済み、家の外に出てから時空の蔵に岩の家を格納すると、ネクサスは朝陽を抱えてアマンド方面へと飛び立つ。ちなみにファングは霊体化してネクサスの中にいる。

 アマンドの近くに到着すると、森の中に着地してそこからは徒歩でアマンド内に入り、リッカ商会経営の宿屋へと朝陽を案内する。

 ちょうどリオ達も戻ってきていたらしく、ネクサスはリオに朝陽が見たという魔物の群れについての情報を共有していた。

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