精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第四十七話『ちょっとした騒動』

 リッカ商会経営の高級宿に泊まることの決まった日の晩。

 リオ達は、高級宿の1階にある超高級レストランとして一般開放もされている食堂に足を運び、とある個室席でディナーを楽しんでいた。

 ただ…

 

「アリサさん、大丈夫だった?」

 

「えぇ…一応は…」

 

 朝陽の留守番中に近くを魔物の群れが通ったことについての事情は既にセリアやアイシアにも伝わっていた。

 

「忍。要反省」

 

 なので、セリアもアイシアも朝陽の側にいて、ネクサスに厳しい視線を送っていた。

 

「うぐっ…」

 

 ネクサスは返す言葉もなく、縮こまっている。

 

「まぁ、今回ばかりはシノブが悪いかな」

 

 リオも苦笑してセリアやアイシアと同じ立場を取っていた。

 

「……俺が軽率でした…」

 

 反省はしているものの、どう償うべきかネクサスにとっては非常に難しい問題だった。

 

 

 

 といった感じでネクサスの肩身が狭くなっていても、それなりに楽しく食事をしている時だった。

 

「……なんだか騒がしいですね?」

 

 リオが個室席の入り口である扉を見ながら呟く。

 

「……この個室に近寄ってきてるな」

 

 超高級レストランの豪勢な料理も、今の肩身の狭いネクサスにとってはあまり味を感じてないらしいが、それでも気配を探ってそう伝える。

 ちなみにリオ達にいる個室席は入り口の扉正面に開放的な窓が設置されており、その窓の先には広々とした裏庭を一望でき、天気の良い日にはテラスでの食事も可能らしい。

 

「よくわかるわね?」

 

 ネクサスの発言にセリアが驚いたように言う。

 

「まぁ、このくらいの芸当なら…」

 

 ネクサスがそう話していると…

 

「だから、前に使った個室席を使わせろと言っているんだ。金だって通常の3倍は払うと言ってるんだぞ?」

 

 個室席の扉の外から、なんだか若い男の声が聞こえてくる。

 

(ひぃ、ふぅ…足音からして、男が3人、女が2人か。それにこの足運びは…女の方は一般人。男の方は1人が従業員なのは確かだ。残りの方は騎士か? それにしちゃ品性の欠片もない言動だが…酔ってんのか?)

 

 ネクサスは気配と足音の感じから当たりをつける。これも暗部時代に磨いてきた技能の一つだが…今は言葉にせず、内心で分析していた。

 

「…どう、しようか?」

 

 不安そうな表情でセリアがリオに聞く。

 

「もう少し様子を見たいですが…シノブはどう思う?」

 

 リオは様子見をしたそうだったが、思案顔のネクサスに意見を聞く。

 

「多分、無遠慮に入ってくると思うぞ? こういう酔っぱらいは質が悪いからな」

 

「そうか。なら、俺とシノブが対応します。セシリア達は無視してくださっていいですから」

 

 ネクサスの意見を聞き、リオは自分とネクサスが対応すると言い、セリア達に無視を決め込むように伝える。

 

「え、えぇ」

 

「うん」

 

「わかった、わ」

 

 女性陣もリオの言葉に頷いていると…

 

「君では話にならん。先客とは俺達が話をつける」

 

「お、お客様!」

 

 従業員の制止を振り切って突き飛ばしたのか、外にいる男の内の1人が無遠慮に個室席の扉が開ける。ネクサスの予測通りだった。

 

「……騒々しいですね」

 

 個室席に入ってきた面々を見て、リオとネクサスが立ち上がる。呟いたのはリオだ。

 一方、入ってきたのは、貴族然とした私服を身に纏う男性が2人、その後ろに少々派手だがオシャレをしている少女が2人がいた。少女達の方はやや緊張しているようにも見える。

 

「っ…」

 

「?」

 

 その男性2人を見てセリアがサッと俯いてしまい、朝陽がそんなセリアの様子に首を傾げる。

 

(? この2人は…)

 

 さらにリオも内心で男性2人に既視感を覚えていたが、初対面での対応をすべく頭をリセットする。

 

「君達は…ハルトと、シノブと言ったかな?」

 

 入ってきた2人の男の内、扉を開けていの一番で入ってきた男ではなく、その後ろに控えてた1人がリオとネクサスの偽名を呟く。

 

「? 申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?」

 

 リオが男に名を呼んだ理由を聞く。

 

「あぁ、失礼した。こちらが一方的に君達のことを知っていただけだから、知らないのも無理はない。僕の名は『スティアード=ユグノー』。そして、こちらの彼が『アルフォンス=ロダン』。今日、君達に助けられた一団に所属する騎士、と言えばわかるかな?」

 

 男は自らを『スティアード=ユグノー』と名乗り、前にいる男…『アルフォンス=ロダン』の紹介もする。

 

(『ユグノー』だぁ? となると、あの公爵様の息子か? それにしては…)

 

 内心で毒づきながらもネクサスはポーカーフェイスでリオの言葉を待つ。

 

「……然様でございましたか。これは失礼をしました」

 

(ハルト?)

 

 一瞬、リオの表情から感情が抜けたような気がしたネクサスだが、リオが軽く頭を下げてしまったので、ネクサスもやや遅れて頭を下げる。リオもネクサスも目の前の相手に誠意など欠片も持ってないが…相手はそれを理解してないのか、どこか上機嫌のままだ。

 

「それで、皆さまはどのような御用で、こちらの部屋に?」

 

 必要以上には喋らない寡黙な感じと思われているネクサスに代わり、リオがスティアード達に尋ねる。

 

「なに、この部屋を使わせてもらおうと思ってね」

 

 すると、今度はアルフォンスの方が単刀直入に言ってきた。

 

「こちらの部屋を、ですか?」

 

 アルフォンスのド直球な言い方にリオも面食らってしまったようだ。

 

(あ~あ…顔の赤さから見て、相当酔ってるな? そして、後ろの女の子達を見るに、見栄を張ったと見た)

 

 ネクサスが冷静に来訪者達の様子を観察して分析する。

 

(アホくさ…)

 

 そして、己の分析結果(多分、間違いないだろうと確信している)にポーカーフェイスながら内心で呆れかえっていた。

 

「そうですか。こちらの食事は終わりましたので、どうぞお使いください」

 

 対してリオの対応はアッサリと淡白なものだった。そう言った後、リオはセリア達に目配せして席を立つように促す。セリアとアイシアはすぐに立ち、朝陽もそれを見て慌てて立ち上がる。

 

「「っ…」」

 

 そこでやっとスティアード達はセリア達の存在に気付いたのか、女性陣の顔ぶれを見て息を呑む。

 

「3人とも、こちらへ」

 

「………………」

 

 リオとネクサスがスティアード達との間に入り、壁となってセリア達を退室させようとする。

 しかし…

 

「まぁ、待て」

 

 アルフォンスが待ったをかける。

 

「なんでしょうか?」

 

 リオが矢面に立って対応する。

 

「気が変わった。一緒に酒でも飲んで、食事をしようじゃないか」

 

 アルフォンスはリオとネクサスと共にいるセリア達を見やりながら、リオ達を誘ってきた。

 

(下心丸出しだな…相手にするだけ無駄だが…こういう手合いはしつこいぞ?)

 

 そんなことを考えるネクサスはチラリとリオを見やる。

 

「ありがたいお誘いですが、もう食事もお酒も間に合っていますので」

 

 リオは丁寧ながらも確固たる姿勢で断っていた。

 

「ほぉ? 貴族である俺達の誘いを断ると?」

 

 アルフォンスは貴族という笠を着て、そのように言うが…

 

(知らないってのは、ある意味で幸福なのかもな…)

 

 ネクサスは静かにそう考える。

 

「申し訳ありません。旅の疲れが残っているものですから」

 

 一方のリオは断る姿勢を崩さない。

 

「なるほど。しかし、貴族の誘いを断るとは感心しないな」

 

(しつけぇ…)

 

 アルフォンスのしつこさにネクサスのフラストレーションが溜まっていき、ポーカーフェイスが若干崩れそうになる。

 

「……どうか、ご容赦を」

 

 ネクサスの様子に気付いたリオがさっさと退室しようとするが…

 

「まぁ、待つんだ。君達ほどの剣の腕前の者をいつまでも野放しにするのも忍びない。どうだろう? 俺達が口添えすれば、騎士の地位が手に入るぞ?」

 

 アルフォンスのしつこさも大概なもので、そんなことを言っていた。

 

「興味がありません。あいにくと、疲れておりますゆえ…」

 

 それでもリオの拒否の姿勢は変わらない。

 

「……これが最後だ。共に食事をする気はないかね?」

 

 アルフォンスが最後通告とでも言うように、言葉を発する。アルフォンスの言葉の向かう先は、セリア達だ。

 

「「「………………」」」

 

 女性陣はリオの言いつけ通りに無視を決め込む。

 

「……っ」

 

 それに対してアルフォンスは真っ赤だった顔がさらに赤くなる。

 

「ここまで、ですね。それでは…」

 

 リオがセリアとアイシアの背を押し、ネクサスも朝陽を守るようにしながらその場から立ち去ろうとする。その際、リオは大事にしたくないからと男性従業員にリーゼロッテへの報告はしないでも大丈夫だと小声で伝えていた。

 

「大変、申し訳ございませんでした!」

 

 その男性従業員もリオ達に頭を下げていた。

 だが…

 

「おい…」

 

 アルフォンスがリオ達の進路を塞ぐ。

 

「……退いていただけませんか?」

 

 辟易した様子のリオがアルフォンスに言う。

 

「貴様、無礼にも程があるだろう?」

 

「あ、アルフォンス先輩!」

 

 アルフォンスの暴走をスティアードがマズそうにしながらも止めようとする。

 すると…

 

「あ~、やだやだ。他国の都市で貴族がどうだのと、くだらない…」

 

 我慢の限界だったのか、ついにネクサスが口を開く。

 

「なんだと…?」

 

 アルフォンスの眼がネクサスを捉える。

 

「シノブ…!?」

 

 ネクサスの言い方にリオも驚く。

 

「おっと、口に出てましたか? それは失礼しました」

 

 そして、わざとらしく言葉を発してから頭を下げる。

 

「ですが、分を弁えてないのはどちらでしょうね?」

 

「き、貴様…!」

 

「ここはアマンド。つまりはガルアーク王国の国内です。あなた達はベルトラム王国の騎士でしょう? それが他国の領土で好き勝手を働くなど…上司が知ったらどうなりますかね?」

 

 やや挑発的なネクサスの物言いにアルフォンスのプライドが反応する。

 

「っ…!!」

 

「アルフォンス先輩!」

 

 再度スティアードがアルフォンスを止めようとするが、プライドを傷つけられたと感じたアルフォンスは止まらない。

 

「いい気になるなよ、この外民風情が!!」

 

 理性よりも感情が優先された結果、アルフォンスがネクサスに殴り掛かる。

 

「下の下だな」

 

 そう呟くと、アルフォンスの突撃を躱し、足を引っかけて転倒させようとするが…

 

「おっと、こんなことで店に迷惑をかけるのも無粋か」

 

 ひょいっとアルフォンスの首根っこを素早く掴み、転倒の勢いを殺す。

 

「ぐがっ!?」

 

 急に前後に揺さぶられたためか、アルフォンスは変な声を漏らす。

 

「随分とフラフラですね? 貴族様?」

 

 首根っこを掴んだまま、ネクサスがアルフォンスに声を掛ける。

 

「一応、これって正当防衛になんのかね?」

 

 白々しくもそんなことを言っていると…

 

「せ、先輩を放せ!」

 

 スティアードがネクサスに掴みかかろうとして…

 

「ほらよ」

 

 その前にネクサスがアルフォンスをスティアードに向けて投げる。

 

「わわ!?」

 

 それを受け止めようとして失敗し、扉側へと倒れ込むスティアードとアルフォンス。

 

「………………」

 

 ネクサスは冷たい視線を2人に向けながらも、2人が動けないように拘束する。

 

「はぁ……申し訳ありません。出来る限り穏便に済ませようと思いましたが、無理がありましたね。このお二方を適切に処理できる方をお呼びしてもらってもよろしいですか?」

 

 リオがやや困り顔のまま、男性従業員にそう伝えていた。

 

「は、はい! ただちに!」

 

 男性従業員は慌ててその場から離れる。

 

「3人はどうぞお部屋へ戻ってください」

 

「え、でも…」

 

 リオがセリア達にそう言うが、セリアはやや困ったようにその場を見る。

 

「事情聴取なら、俺とシノブだけで十分ですから。3人はお部屋にいてください」

 

「だけど…」

 

「セシリア。ここは春人の言う通りにしよう?」

 

 リオの言葉を聞いてもセリアはまだ渋っていたが、アイシアが間に入ってセリアを説得する。

 

「アリサのことも頼んますよ」

 

 未だスティアードとアルフォンスを拘束してるネクサスもセリアに朝陽のことを頼む。

 

「……わかったわ。なら、先に戻らせてもらうね?」

 

「はい。アイシア、2人をお願いね?」

 

「任せて」

 

 そして、セリア達もその場から離れるのだった。

 

 

 

 それからしばらくしてリオ達の元にアリアが参上し、事の経緯を事情聴取することになった。

 ネクサスの拘束してたスティアードとアルフォンスはリーゼロッテの屋敷に連れていかれ、リオとネクサスにはアリアから謝罪が行われ、明日にでもリーゼロッテからも謝罪の機会を貰いたいとの申し出も受けていた。

 リオやネクサスはあくまでも今回の騒動の被害者であり、ネクサスの正当防衛も受け入れられた。その様子を見ていた男性従業員や、騒ぎを聞いていた他の客や従業員、さらにはスティアードとアルフォンスが連れていた少女達の証言もあったので、リオとネクサスに一切の非がないのも確認されている。

 そして、リオとネクサスを丁重に部屋に送った後、アリアはリーゼロッテの屋敷に戻って夜分遅くではあるものの、アリアの口からリーゼロッテとユグノー公爵に報告されるのだった。

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