スティアードとアルフォンスとの騒動から部屋に戻ったリオとネクサスはというと…
「ハルト! 大丈夫だった!?」
「シノブ、も…平気、だった…?」
セリアはリオに、朝陽はネクサスにそれぞれ声を掛ける。
「はい、大丈夫ですよ」
「あの程度、平気平気」
2人共、特に気にした様子がなかった。
「それよりも、ハルト」
「なんだ?」
ネクサスがリオにさっきのことを尋ねることにしたらしい。
「あいつらと知り合いか? 名前を聞いた辺りで、なんか一瞬だけ感情が抜けたような気がしてな…」
「………………」
ネクサスの質問にリオが若干面倒そうな表情をする。
「そういえば、セシリアさん、も…なんか、変でした、よね?」
スティアードとアルフォンスを見た瞬間、セリアが顔を俯かせたのを見てた朝陽も質問する。
「そ、それは、その…」
何と言っていいのかわからず、セリアも困り顔でいると…
「……前にベルトラム王国にいた頃のことを話したろ?」
リオが観念したようにそう呟く。
「確か、王立学院とかに通ってたんだったか?」
昔、精霊の民の里で聞いた話を思い出し、ネクサスが問い返す。
「あぁ。さっきのスティアードとアルフォンスは学院時代の後輩とクラスメイトだったんだ」
「そういや、あのスティアードってのはアルフォンスのことを先輩って呼んでたな。つまり、アルフォンスってのがお前のクラスメイトだったと…?」
「そう。そして、野外演習の時、俺に冤罪の濡れ衣を着させたのが、スティアード=ユグノーだ」
「……なるほどな」
そこで例の冤罪に繋がるのか、とネクサスは納得した様子だった。つまり、ユグノー公爵家はリオに冤罪をかけたものの、数年後の今になってそのリオに助けられたことになる。まぁ、スティアードとアルフォンスとの件で、リオのユグノー公爵家に対する印象はさらに下がってそうだが…。
「彼らも、かつては先生の授業を受けた生徒でもあるけど、気付かれなかったようで安心しました」
リオはもう昔のことだと割り切っているのか、話題をセリアの正体がバレていないことに向ける。
「本当に…あの2人を見た時は冷や冷やしたのよ? バレるんじゃないかって…」
当のセリアもそんな風に語る。
「ま、今日のところは休みましょうや。明日はどうせ今日の後始末に色々と回りそうですし?」
すると、ネクサスがそのように提案してきた。
「穏便に済ませたかったんだけどな…」
暗にネクサスが挑発したからと言いたそうなリオだが…
「ああいう感情的な手合いはすぐに理性を忘れる。どっちみち、こうなってたさ」
ネクサスは肩を竦めてそう返していた。
「……そうだな」
リオもそこには同意したのか、淡白に返す。
それからリオ達はそれぞれベッドルームで休むべく移動するのだった。
………
……
…
翌朝。
リオ達は1階のレストランで朝食を済ませると、そのまま部屋へと戻っていく。
それと時を同じくして宿の前にリーゼロッテの乗る馬車が止まり、中からリーゼロッテが出てきてアリアだけを伴ってリオ達が滞在している部屋へと訪れるのだった。
コンコン。
部屋にノック音が聞こえてきたので、近くにいたリオが扉を開ける。
「おはようございます。ハルト様」
扉の前にはリーゼロッテとアリアが立っていた。
「これは、リーゼロッテ様。おはようございます」
「朝早くから押しかけて申し訳ありません。昨夜の件についての謝罪、並びにその後の経緯についてのご説明に参りました。少しの間、お時間をいただいてもよろしいですか?」
そう言うと、リーゼロッテは恭しくお辞儀する。後ろに控えていたアリアも頭を下げていた。
「はい、大丈夫ですよ。しかし、わざわざリーゼロッテ様自らがお越しいただかなくても…」
「いえ、謝罪する側の人間として被害者であるハルト様達をお呼び立てするわけにはいきませんから」
リオの言葉にリーゼロッテはやや困り顔で答える。
「恐縮です。では、中へどうぞ……で、いいのでしょうか?」
リオもリーゼロッテの誠意を感じ取ったのか、頭を下げ返しながらもこのまま部屋に招き入れていいのか少し悩む。
「ハルト様達の好きな場所で大丈夫ですよ」
かくいうリーゼロッテも困った表情で返す。
「では、中へ。シノブもリビングにいますので、そちらでお話を伺います」
そう言ってリオはリーゼロッテを部屋に招き入れることにした。
「わかりました。では、アリアはここで待機していてちょうだいね?」
「はっ」
リーゼロッテの命に従い、アリアは外で待機するようだ。
「……どうぞ、中へ」
そのことにやや意表を突かれたリオだが、リーゼロッテをリビングへと案内する。
「ハルト。誰が来たんだ……って、これはリーゼロッテ様。おはようございます」
リビングにはネクサスを含め、セリア、アイシア、朝陽もいた。代表してネクサスがリオに誰が来たかを聞こうとしたが、リーゼロッテの姿を見ると慌ててソファから立ち上がって挨拶する。
「っ……」
ネクサスに挨拶を返そうとしたリーゼロッテだが、リビングにいた女性陣の美しさに言葉を失ってしまっていた。
「シノブに加え、こちらの3人と一緒にこの部屋に滞在させていただいております。金髪の子がセシリア、桃色の髪の子がアイシア、水色の髪の子がアリサさんといいます」
そんなリーゼロッテにリオが3人を紹介していく。
「初めまして。セシリアと申します」
「アイシアです。よろしくお願いします」
「アリサ、です」
3人もリーゼロッテに挨拶すると…
「アリサはちょっと口下手なんです。緊張してるのもあるので、ご容赦ください」
ネクサスがすかさず朝陽の挨拶に対するフォローをしておいた。
「……初めまして。リーゼロッテ=クレティアです。お三方とも、お綺麗でいらっしゃいますね」
「ありがとうございます。リーゼロッテ様もお綺麗でいらっしゃいますよ」
リーゼロッテの挨拶にセリアがお返しの言葉を送る。そこは流石、年長者というべきか…それとも貴族として育ってきたが故の対応力がアイシアと朝陽とは違う。
「それでは、セシリア達は奥の部屋で待っててくれるかな? 昨夜の件で、リーゼロッテ様とお話があるから。シノブは当然こっちだぞ?」
「わかって、ますよ」
一瞬、素で答えそうになるが、リーゼロッテの手前、あまり素を出し過ぎるのも問題かと、言葉遣いを改める。
「うん」
「えぇ…」
「では、失礼します」
それからセリア達も奥の部屋へと向かい、リビングにはリーゼロッテ、リオ、ネクサスの3人が残ることになった。
「シノブ、リーゼロッテ様のご案内を。俺はお茶の準備をしてくるから」
「あぁ…」
リオは部屋に備え付けてある簡易キッチンにてお茶の準備をしに行くと…
「では、こちらへどうぞ」
ネクサスはリーゼロッテに上座の席を勧めるが…。
「ありがとうございます。ですが、私はこちらで…」
リーゼロッテは下座の席に座る。
「わかりました」
ネクサスはリーゼロッテに一礼すると、リオが来るのを立って待つ。
「お待たせしました」
少ししてトレイを持ったリオがやってきて、リーゼロッテの対面に座る。それを見てネクサスもリオの隣に座る。
それから3人は昨夜の出来事に関する謝罪や話し合いをする。
リーゼロッテからの改まった謝罪から始まり、昨夜の一件でユグノー公爵も謝意を示したいとのこともリーゼロッテの口から伝えられた。
その際、リオは円満に騒動を解決すべく和解か、示談、もしくは契約書かそれに準ずる書類の作成を提案し、リーゼロッテの感心を得ていた。
そして、リーゼロッテ側でユグノー公爵との和解の契約書作成の場を設けることになり、午後にはリーゼロッテの屋敷に2人を招待されることになった。これは、昨日の馬車での話の中で、2人にお礼をしたいとのことにも起因している。
リーゼロッテは奥の部屋に待機している3人も屋敷に招待しようとしたが、昨夜のことがショックで疲れているのだとリオに言われ、3人にも謝罪の言葉を伝えてほしいと頼む。
………
……
…
そして、リオとネクサスがリーゼロッテの屋敷に向かい、まだ午前中ということもあってか、すぐに契約書の雛型を作成をしてしまおうと、応接室で待っていたユグノー公爵と会談の席を設けることになった。
結果的に、リオとネクサス側に大変有利な条件での契約書の下書きが出来上がることになった。
さらにはスティアードとアルフォンスによる2人に対する土下座もあったが、ネクサスは特に関心を持たずにいたのに対し、リオも学院時代に強く当たられていたとは言え、もうどうでもいい相手のことだったので、どこか素っ気ない感じで頭を上げるように言うのだった。
そこからしばしリーゼロッテやユグノー公爵を相手に談笑の相手をしていたリオとネクサスだが、侍女であるナタリーが昼食の準備ができたと呼びに来たので、そちらに移動することになった。
アリアとナタリーに案内され、屋敷の食堂に入るリオ達。そこには既に勇者『坂田 弘明』とロアナ、それにフローラもいた。
「ぁ…ハルト様」
リオ達の入室に気付いたフローラがリオの偽名を呼ぶ。
「……再びお目にかかれて光栄です。フローラ王女殿下。勇者様と、ロアナさんも…」
一瞬、リオは間を置いたが、すぐに再起動して先客である3人に向かって恭しく挨拶する。ネクサスも最初のイメージが崩れるのはどうだろうと思って、黙ってお辞儀してみせていたが…。
「よう、災難だったらしいな?」
そう言ってきたのは弘明だ。
「いえ、特に問題もなく、円満に解決されるとのことですので」
「そうか。まぁ、座れって」
リオの答えに、弘明がそのように言う。
(物凄く偉そうに家主っぽいこと言ってるけど、ここリーゼロッテの屋敷だよな?)
そんな弘明の態度にネクサスはポーカーフェイスのまま内心でツッコむ。
「ハルト様、シノブ様、ユグノー公爵も、どうぞおかけください」
リーゼロッテもリオ、ネクサス、ユグノー公爵に席を勧める。
「どうぞこちらへ、ハルト様」
「シノブ様も、どうぞ」
アリアがリオにフローラの隣の席を、ナタリーがネクサスにロアナの隣の席をそれぞれ引いて誘導する。
「失礼いたします」
「……失礼いたします」
ネクサスはそのまま素直に座るが、リオは少し躊躇いつつも着席する。ちなみにリオとネクサスは向かい合った形になり、フローラとは逆の席にリーゼロッテ、ロアナとは逆の席にユグノー公爵が座った。
そして、ささやか…といっていいのかはわからないが、食事会が開始される。
「やっぱり、いつ食べても美味いな。リーゼロッテの屋敷の料理人は実に腕がいい」
そんなことを言うのは弘明だ。
(他人の家ってのは理解してるんだろうが、勇者って立場がどうにもこいつを歪ませてるようにも思えるな…ま、元々そういう性格だったのかもしれないが…やや増長してる感がある)
そんな弘明のことを冷静に分析するのはネクサスだ。
「あ~、こうなるとやっぱ米が欲しいぜ」
(精霊の民の里やヤグモ地方ならいざ知らず、シュトラール地方にあったっけか?)
弘明の言葉に、ネクサスは内心で首を傾げる。
「一応、リッカ商会の伝手を使って用意してみたのですが…」
すると、リーゼロッテがそのように呟く。
(あんの!?)
(シュトラール地方にもあったんだ…)
表情には出さなかったが、ネクサスもリオも内心で驚く。リーゼロッテの説明では、シュトラール地方でもごく一部の地域で栽培されているが、基本的に脱穀した麦のように粥にして食すらしく、貴族や王族とは縁遠い食べ物である、とのこと。
さらにこの米は、弘明の言う炊いて食べる米とは品種がそもそも異なっているので、炊いて食べると不味く感じてしまう。そこでリーゼロッテは美味しく調理した品も用意して、食べ比べをしてもらおうという趣向を凝らしたおもてなしをする。
そして、その場にいる者達の前に炊いた米と、調理した米の料理の二皿が出される。
(おいおい…これって…)
(間違いなく…)
調理された米料理を見てネクサスとリオは内心で
「おぉ、チーズリゾットか!」
だが、既に炊いた米を食べていた弘明は、調理された米料理を食べていて、そんな感想を漏らしていた。
「ヒロアキ様の言う通り、確かにチーズを使用しておりますが、この料理はリゾットというのでしょうか?」
「あぁ、俺のいた世界にも似た料理が存在するからな」
「そうなのですね。どのような品名にするか、決めかねていたのですが…せっかくですし、リゾットとつけさせてもらいますね」
「あぁ、構わない。これは紛れもなくリゾットだからな!」
リーゼロッテがそのように弘明と会話している中…
(この勇者…気付いてないのか?)
(ふむ…なるほどな。となると、あれらは…)
リオは弘明の言動に内心で呆れていたようだが、ネクサスはこのことからある事実に気付いて納得していた。
(こりゃ、帰ったらハルトに要相談だな)
そう考えながら、興味深そうにリゾットを見つめてから食べていた。
それからみんなでリゾットの感想を言い合っていると、話題はリオとネクサスのことになる。
「お2人は、いつから旅をしているのですか?」
フローラが旅の話に興味を抱いたのか、2人に尋ねる。
「私は11歳の頃からですね」
「自分は10歳でした」
リオはアリアに伝えた偽の年齢を伝え、ネクサスもプロキシア帝国への諜報活動で旅してたことを考え、そのくらいかな、と思って答える。
「11歳に、10歳、ですか…」
思ったよりも若い頃から旅をしてるのだと思い、フローラが驚く。ただ、リオの答えを聞いたフローラはややもどかしそうだった。
「お前ら、今いくつだよ?」
そこに弘明からの質問が飛んでくる。
「今年で16歳になりました」
「自分は今年で17歳ですね」
その答えにその場にいた者達も少なからず驚く。
「そんな若い頃から旅してたのかよ。親とかはどうしたんだ?」
「私が旅立つ前には亡くなっております」
「同じく、既に天涯孤独の身です」
弘明の言葉にリオもネクサスもそう答える。事実として、どちらも両親とは死別している。
「あ~、そうか。そいつは悪いことを聞いたな…」
弘明も今の質問にはややバツが悪そうに言葉を漏らす。
「いえ、既に過ぎたことですので、お気遣いなく」
代表してリオがそれを軽く流していた。
そして、話題はリオとネクサスのこれから先、定住するかもしれない予定の話になったり、それにやや嫉妬した弘明が口を挟んだりし、リオとネクサスが自分達は勇者の力には及ばないようなことを言ったりした中…リーゼロッテから勇者の話題が振られ、これ幸いにとリオが情報を引き出す。
すると、弘明の口からもガルアーク王国に召喚された
さらにユグノー公爵からも今度ガルアーク王国で行われる夜会で勇者のお披露目の話題も挙がり、そこにはセントステラ王国の勇者も出てくるかもしれないという不確定情報も出てきた。
それらを聞いたリオとネクサスは驚きの反応を装いながらもアイコンタクトで頷き合っていた。