精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第四十九話『アマンドへの襲撃』

 リオ達がリーゼロッテの屋敷で食事会に参加していた一方で、先日の魔物襲撃の件を受けて西の森へと調査隊が派遣されていた。その先発隊はユグノー公爵からの申し出もあってベルトラム王国の騎士達が20人ほどで構成されていた。その中にはユグノー公爵から汚名返上の機会を与えられたアルフォンスの姿もあった。

 

 しかし、その先発隊は結局アマンドに帰還することはなかった。

 いったい、彼等に何があったのか…?

 

 

 

 そして、屋敷の方でも食事会が終わり、リオとネクサスが宿屋へと戻ることになっていた。

 その際、フローラからまた会えないかとの提案もあったが、とりあえず後日屋敷でまた会えるかもしれないとしてリオとネクサスは宿屋へと帰っていった。アマンド周辺の安全が確保されるまではユグノー公爵派もアマンドに滞在するとのことだ。

 

 そして、リオとネクサスが宿屋へと戻る途中でのこと。

 

「リーゼロッテさんの意図がわかった?」

 

「あぁ。もちろん、絶対ではないし、外れてる可能性もある。が、俺は高確率でこれだと思う」

 

 リッカ商会が出した地球産の商品についての考察を話し合っており、ネクサスはその意図に関してある答えを見出していた。

 

「それは?」

 

「おそらくだが…彼女も自分と同じ転生者を探してるんじゃないか? それを探し当てるために地球産の商品を作ったり、品名を付けたり…」

 

「ふむ…」

 

「まぁ、流石に探し当てた後のことまでは現時点ではわからないが…少なくとも、探しているという意思を感じた」

 

 ネクサスは自分なりの考察をリオに伝えていた。それを聞いたリオは少し思案顔を見せていたが…。

 

「勇者は気付いてないっぽかった…というよりもその可能性に行き着いてないんだろうな」

 

「そう考えるのが妥当かな?」

 

「なまじ言語が自動翻訳されてるから気付いてないんだろうな。もしくは異世界召喚にどこかしらで酔いしれてるのか…いずれにせよ、あの勇者はもうちっと落ち着いた方がいい。自分優位に話を進めたいのが丸わかりだしな。自分が主人公だと錯覚してんのかね? 他にも勇者はいるってのに…」

 

「あはは…」

 

 ネクサスのやや批判的な言葉にリオも苦笑する。

 

「ま、なんにせよだ。あの勇者がいないところで接触してみるのもありかもしれないな。ユグノー公爵派が屋敷にいる間は厳しいかもだが…」

 

「そうだな…」

 

 2人はそんな会話をしながら宿屋へと帰るのだった。

 

………

……

 

 明朝。

 まだ日が完全には昇っておらず、空が綺麗な瑠璃色をしていて、うっすらと明るくなってきた時間帯だ。

 

『グルルルル…!!』

 

 突然、ネクサスの中にいたファングがベッドに寝てるネクサスの身体の上に顕現すると、低い唸り声を発していた。まるで何かに対して威嚇しているような感じだ。

 

「? ファング…?」

 

 その唸り声にネクサスも眠っていた意識を覚醒させる。

 

「どうした…?」

 

 ファングの視線を辿ると、そっちには西の森の方角だった。

 

 すると…

 

『ブモォォォッ!!!』

 

「ッ!!」

 

 聞き覚えのある雄叫びにネクサスはベッドから飛び起きる。

 

「今日もまたハードになりそうだな」

 

 そんなことを呟きつつ、手早く寝間着からブラックワイバーン製の戦闘服へと着替えてから未だ唸ってるファングを抱えてからベッドルームから出る。

 

「シノブ」

 

 そこには寝間着姿のリオとセリア、アイシア、朝陽もいた。

 

「ファングが唸ってるし、さっきの雄叫びだ。早々に動いた方がいい」

 

 既に着替えているネクサスはいつでも動けるように言う。

 

「とは言え、情報も仕入れておきたい」

 

「随分と慎重派だな。ハルト」

 

「………………」

 

 ネクサスの言葉にリオは特に答えない。

 

 この都市所属の冒険者でもあるまいから、別にアマンドを守護する責務はリオやネクサスにはない。その役割は代官であるリーゼロッテにある。移動中ならともかく、本拠地であるアマンドならそれなりの戦力も蓄えているだろう。騎士や冒険者達が連携すれば、ミノタウロスのような魔物も時間はかかるが、おそらくは倒せるだろう。

 

 とは言え、だ。ここでリーゼロッテに潰れられても困るのも事実。彼女を通じてガルアーク王国の勇者に接近し、あわよくば美春達とも再会させてあげたい。そのためにはリーゼロッテとの友好関係が必須だ。

 

「ま、別にいいけどよ。俺は勝手に動かせてもらうぜ?」

 

「シノブ?」

 

「ものは考えようってことさ」

 

 そう言いながらネクサスはファングを朝陽へと預ける。

 

「ファング。また朝陽を守ってやってくれ。人前ではちゃんと霊体化してな?」

 

『ガウッ!』

 

 言われるまでもない、みたいに返事するファングの頭を一撫でしてからネクサスは部屋から出ようとする。

 

「え…シノブは、どこに、行く、のよ?」

 

 朝陽が驚いたようにこっちの言葉でネクサスに聞く。

 

「な~に、ちょっくら手助けしに行くだけさ」

 

 肩を竦めながらネクサスはこう続けた。

 

「ガルアーク王国は元々故郷だし、このアマンドにだって1年くらいは過ごしてたんだ。だから、俺は手助けに行くのさ」

 

 そう言うネクサスの表情は…どこか寂しそうな笑みを浮かべていた。

 

「シノブ…」

 

「………………」

 

 その表情に朝陽とリオは何と言っていいのかわからずにいたが…

 

「ハルト。お前はお前で動けばいい」

 

「え…?」

 

「俺も俺で、好きに動くからよ」

 

 そして、ニカッと笑ってからネクサスは今度こそ部屋から出て行くのだった。

 

………

……

 

 部屋から出たネクサスは堂々と正面の入り口から出ようとする。

 

「お、お客様!? 危険です! 我々の指示に従って避難を…!」

 

 そんなネクサスの姿を見つけた従業員がネクサスに呼びかける。

 

「大丈夫大丈夫。危険には慣れてるから。それよりも他の客をしっかり避難させてくれや」

 

 そんな飄々とした態度で入り口から外に出ようとするネクサスの前に従業員が立って道を塞ぐ。

 

「し、しかし!」

 

 それでもお客様を危険に晒すわけにはいかないと、従業員も頑固な姿勢を貫く。

 

「良い従業員だ。教育が行き届いてるねぇ~」

 

「は、はぁ…ありがとうございます…?」

 

 突然のネクサスの賛辞に従業員も困惑していると…

 

「だがまぁ…相手が悪かったな?」

 

 そう言った瞬間、従業員の目の前からネクサスの姿が消える。

 

「え…? お、お客様!?」

 

 従業員がキョロキョロと周囲を見回すが、ネクサスの姿はなく…

 

(悪いねぇ。こういう技術ばっか鍛えてたからな)

 

 既にネクサスは外に出ていて、建物の屋根伝いを走って西門へと移動している最中だった。

 

 

 

 そして、西門が見える位置までくると、ネクサスは戦況を確認し始める。

 

(ふむ。門は破壊されているものの…ゴブリンとオークが攻めてきて、それを押し留めてる感じか。で、後方にはミノタウロスに例の人型魔物と…)

 

 視力を強化し、戦況を観察している。ややこちらが優位に見えるが、『戦力をこっちに注ぎ過ぎでは?』という疑問も覚えていた。ミノタウロスや人型魔物がいる以上、それも考え過ぎかとも思ったが、今の状況が既に異常事態に違いなく、最悪の場合も想定しておいた方がいいのではないかとネクサスは考える。

 

(とは言え、ぽっと出の人間の言うことを素直に聞いてもらえるわけもないか…)

 

 自分はあくまでも部外者であり、下手な介入は防衛側の連携を崩すことに繋がりかねないとしばし様子を見ようとするが…。

 

(好きに動くとは言ったものの…思ったよりも動けてないな…)

 

 と内心でボヤいていると…

 

『ブモォォォッ!!!』

 

 東門の方からミノタウロスの雄叫びが聞こえてくる。

 

(それにしてもよく通る雄叫びだ。向こうに行った方が…いや、ハルトの奴が向かうか…)

 

 空に上がる気配を感じ、リオも動き出したんだと考えたネクサスは、 戦力的に自分やハルト1人いれば、あの程度の魔物はどうとでもなると考えたが…

 

(しかし、解せない。攻めはゴブリンとオークに任せて自分達は高みの見物。あいつらが動けばもっと被害も出てるはずだが…)

 

 未だ動かないミノタウロスや人型魔物に静観に違和感を覚えていた。

 

(何か狙いがある? いや、そもそも魔物にこんな統率力があるものか? 朝陽を迎えに行った時にも感じた違和感だが…こんな大量の魔物がどこに潜んでた…?)

 

 観察してる限り、無尽蔵とも言える数の魔物が攻め寄せてきていた。しかも反対側の東門にも魔物が出てると予想しても、その数は異常である。

 

(この魔物の軍勢の背後に黒幕がいる…?)

 

 魔物を使役するなんて荒唐無稽とも言えるが、他に考えつかないのも事実。しかし、黒幕が誰なのかの判断材料もないので、それ以上は流石に考えが及ばなかった。

 

 すると…

 

ゴウッ!!!

 

 東門の方から膨大なオドの奔流が放たれたのを察知する。

 

(ハルトか。魔物を一掃したのか?)

 

 まだ手助けをしてないネクサスよりもリオの方が早々に手を貸してるような気もするが…。

 

『ブモォォォ!!!』

 

 と、ミノタウロスが雄叫びを上げ、後方に控えていた20体もの人型魔物も動き出すのが見えた。

 

(ここで動く? やはり、何かしらの意図が…?)

 

 そう考えながらも、ネクサスは帯剣している内…白銀の剣を右手で抜いて一振りする。すると、白銀の剣の刀身から瑠璃色のオドが細長いレーザー状となって20体の人型魔物の頭上から襲い掛かる。着弾した瑠璃色のオドのレーザーはそのまま人型魔物の肉体に氷の刃を発生させて貫き、地面へと縫い付ける。

 

「これは…!?」

 

 西門で兵士長と共に指揮を執っていたアリアがその光景に驚く。

 

「いやぁ、申し訳ありません。本当はもっと早く動くつもりでしたが、ちょっと気になる考察に耽って遅れてしまいました」

 

 そんな風に謝罪しながら西門に続くストリートからネクサスが歩いてきて、白銀の剣を軽く払うように振るう。

 

「な、なんだなんだ、お前は!?」

 

「シノブ様…!?」

 

 兵士長と思しき人物と、アリアがネクサスの登場に驚き、声を上げる。

 

「ま、ただのお節介ですよ。ちょっと遅れましたがね」

 

 そう言ってネクサスは左手で漆黒の剣も抜く。

 

(口調が違う…こちらが本来のものなのかしら…?)

 

 ネクサスの口調に違和感を覚えたアリアがそのように思っていると…

 

「さて、残るミノタウロスを倒しますか」

 

 言うが早いか、ネクサスはそのまま一足飛びに跳躍するとミノタウロスに肉薄する。

 

「マティアス兵士長。彼に続きます! 侍女隊はシノブ様が縫い付けた人型を確実に屠りなさい! 他の者達はゴブリンとオークを押し留めてください!」

 

「お、おう! わかった!」

 

 そうしてネクサスの参戦もあり、西門の戦いも収束に向かい始める。

 

………

……

 

 一方で、リーゼロッテの屋敷でも異変が起きていた。

 屋敷の中に数体の人型魔物がどこからともなく侵入を果たしていて、屋敷の中で待機していたユグノー公爵達を襲撃していた。

 そんな中、フローラを逃がそうとロアナ達が奮闘し、弘明も人型魔物を数体を屠る活躍をしたものの、何者かによって気絶させられる。人型魔物も何体かを残し、別の方向へと向かうことになる。

 そして、フローラはとある人物によって逃がされたと思われたが、その実…誘拐されていた。

 

 それと同時期にセリア達を避難させるべく北区画に向かっていたリオが屋敷の前にやってきたところ、フローラを誘拐した人物が大胆にもリーゼロッテやリオ達の前を横切って逃亡を図る。

 その人物を見たリオは、その逃亡を図る者を追うことにした。

 

 それから屋敷から残った人型魔物が出てきたが、防御をセリアに任せたアイシアによって人型魔物は全滅させられていた。

 

 しかし、リオが追うことを決断したフローラを誘拐した人物とは…?

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