精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第五十話『襲撃後のあれこれ』

 屋敷からフローラを誘拐した人物を追ってリオが城壁を飛び越えたところで追いつく。

 フローラを誘拐した人物こそ、リオが探していた復讐の対象…『ルシウス・オルグィーユ』だった。

 

 それからリオとルシウスはいくつか話をしつつも戦闘に入る。

 序盤はフローラを盾にしたルシウスが優位に思えたが、フローラを2人の中間地点に置き、ルシウスがリオの正体を思い出したことで興が乗って楽しもうとした矢先、リオの圧倒的な実力によってルシウスの劣勢となり、ルシウスは左腕を失い、片目を潰され、体中に風穴が開けられ、身体強化を解いたら死ぬという状況にまで追い込んでいた。

 

 そんな時、1人の男が介入する。

 名を『レイス』と言い、瀕死の状態のルシウスを回収しに現れたのだ。

 そして、レイスが撤退をすると宣言した瞬間、上空からリオに向けて漆黒の閃光が降り注いできた。それに対し、リオは咄嗟に目標を変更して漆黒の閃光に向けて精霊術による一撃を放つ。

 力は拮抗したかのように見えたが、リオがさらに力を込めて黒い閃光を押し返していた。

 

 その隙にルシウスとレイスが忽然と消え去っていた。

 ちなみに黒い閃光の正体だが、西の上空を飄々と飛んでいた黒い竜らしき存在によるものだと推察される。

 

 そうしてリオは怨敵であるルシウスを逃がし、フローラに自分が『リオ』であると知られてしまう。

 

………

……

 

 一方で、西門の戦いもネクサスやアリア達の活躍もあってミノタウロスを殲滅した後、残った魔物の掃討戦に移行していた。

 そんな中、黒い竜のブレスと、それと拮抗し押し返した閃光を目の当たりにした西門の陣営では…。

 

(ハルト、か?)

 

 あのブレスを押し返すだけの力を持った人物と言えば、ハルトしか頭に浮かばなかったが、ネクサスは些か疑問を抱いていた。

 

(……何か不測の事態でもあったか?)

 

 そんなことを考えながらも、掃討戦に身を投じていた。

 

 

 

 それから西門の状況も落ち着いてきた頃合いで…

 

「さてと…」

 

 ネクサスは、先程見た黒い竜らしき存在が放ったブレスの降り注いだ地点を調べるべくその場から移動しようとしたが…

 

「シノブ様。どちらに?」

 

 そんなネクサスにアリアが声を掛けてきた。

 

「さっきの竜が何に対してブレスを吐いたのか気になりましてね。そこの調査でも、と」

 

「……ならば、私も同行させていただきます」

 

 ネクサスの言葉にしばし考えた様子のアリアが同行を申し出る。

 

「それは助かります」

 

 ネクサスも同行の申し出を快く承諾するが…

 

(ま、おそらくはハルトがいたんだろうが…さてはて、何が起きてるのやら…)

 

 内心ではある程度の推測をしていた。

 

「では、参りましょうか」

 

「はい」

 

 そうしてネクサスとアリアは現場に向かうべく移動を開始した。

 

 

 

 そして、向かった先には…

 

「ハルト様?」

 

 リオがいた。

 

(このオドの流れと淀みは…ブレス以外に戦闘でもあったのか?)

 

 そんな中、ネクサスは周囲の魔力の状態を探り、少し眉を顰めていた。

 

「シノブに、アリアさん。どうしてこちらに?」

 

「……なに、西門も落ち着いたようだったから、さっきのブレス対決の調査にな?」

 

 しばしその場のオドの流れを読み取ってたネクサスはリオの問いに答える。

 

「そうか。というかブレス対決って…」

 

「お前の風の砲撃(・・・・)はさっきのブレスを押し返してたから間違いでもないだろ?」

 

「お前にだって似たようなことが出来るだろ?」

 

「俺の場合は地形に影響を与えない自信はないな」

 

 などとお互いに軽口を叩いていると…

 

(本当に仲がいいのですね、このお2人は…)

 

 その様子を見ていたアリアがどこか羨ましそうにしていた。

 

「それで? どうしてお前さんはこんなとこにいたんだ?」

 

「実は…」

 

 そこでリオは先程起きたフローラの拉致を企てたルシウスとの戦闘や、介入してきたレイスとかいう謎の人物にルシウスを連れて逃げられたことを話した。但し、その場では単に誘拐犯とその仲間らしき人物ということにしておいて名前はまだ伏せていた。

 

「そんな…屋敷に魔物が…」

 

 そのことを聞き、珍しくアリアが戸惑いの表情を見せる。

 

「幸い、リーゼロッテ様に怪我はありませんよ。アイシア達が守ってくれたようなので…」

 

「アリサは、大丈夫だったか?」

 

「そっちは自分の目で確認してくれ」

 

「……わかった」

 

 リオの話にネクサスも頷いていると…

 

「あと、この辺りの探索は既に終了しています。残念ながら、付近に潜伏してる様子もなく、痕跡もありませんでしたが…」

 

 リオが追加情報を提示した。

 

「畏まりました。では、屋敷へと戻りましょう。私もここでの調査を終えたらすぐに戻るつもりでしたので」

 

 それを聞いてアリアがそのように言うが…

 

「俺は少し残りますよ。ハルトが痕跡を見逃すはずはないとは思うが…俺は俺で少し調べてから戻るよ」

 

 何か気になることでもあるのか、ネクサスはその場に残ると言う。

 

「わかった。何かあったら教えてくれ」

 

「了解だ」

 

 そうしてネクサスはリオとアリアを見送ってから…

 

「………………」

 

 精霊術で嗅覚を強化し、周囲の匂いを嗅ぎ分ける。

 

(オドは乱れてるが、血の匂いはまだ残ってる…)

 

 ネクサスは血の匂いを嗅いでそちらに歩いていくが…

 

(しかし、この残り方は…敵は空を飛んだのか? それに匂いが急に途切れてやがる。転移魔術か?)

 

 匂いが途切れた場所で立ち止まると、そんなことを考える。

 

(向かった場所がわからない以上、ここまでか…)

 

 ネクサスはそこで調査をやめて、西門を通って屋敷へと向かうことにした。

 

………

……

 

 リオとアリアが屋敷に戻ってから少ししてネクサスもリーゼロッテの屋敷に到着する。

 

「シノブ様。ようこそいらっしゃいました」

 

 そこにはナタリーが待っていて、ネクサスに恭しく頭を下げる。

 

「どうも。えっと…」

 

 そういえば、こちらの名は通ってるが、相手の侍女の名前を聞いてなかったとネクサスはバツが悪そうな表情をする。

 

「ナタリーと申します」

 

 それを察したのか、ナタリーが自ら名乗る。

 

「ナタリーさんね。申し訳ない。何度か世話になってるのに名前を伺ってなくて…」

 

 記憶力はわりといい方だと自覚しているネクサスはナタリーに対して詫びの言葉を送っていた。

 

「……いえ…覚えていただいて恐縮です」

 

 ネクサスがナタリーのことを覚えていたことにナタリー自身もやや驚いていたようで、そのように返していた。

 

「ところで、ハルトはどちらに?」

 

「リーゼロッテ様の元にいらっしゃるか、もしくはお連れ様方と一緒にいるかと思いますが…」

 

 ナタリーは先刻アリアと同僚のコゼットがリオを連れてリーゼロッテの元へと向かったのを思い出しながらそう答える。後者については推測だったが…。

 

「そうですか。なら、ハルトの所に案内してもらえますか?」

 

「承知しました」

 

 ナタリーはネクサスを屋敷内に案内するため、他の侍女にリオ達の所在を聞き、そのままリオ達がいる部屋の前まで移動する。

 

「こちらです」

 

「ありがとうございます。ナタリーさん」

 

「いえ、何かあればお呼びください」

 

 リオが先に世話役の侍女を断ったという話も聞いていたので、ナタリーはネクサスに一礼してからその場を後にする。

 

「…さて」

 

コンコン。

 

 部屋の扉をノックすると…

 

「シノブ。戻ってきたんだな」

 

 リオが対応してくれていた。

 

「あぁ、さっきな。入っても?」

 

「構わないよ」

 

 リオの先導で、ネクサスも部屋の中へと入る。リビングのソファには既にセリア、アイシア、朝陽が座っていた。

 

「あ、シノブ君」

 

「シノブ…」

 

「おかえり、忍」

 

 女性陣から名前を呼ばれたネクサスは…

 

「ただいま戻りましたよ。なんか変わったことはなかったかい?」

 

 帰還の挨拶をしながら、そんなことを聞く。

 

「シノブも戻ってきたことだし、それをこれから話そうと思ってたんだ」

 

「そうか。なら、ちょうどよかったのかな?」

 

 それからリオ達は朝から起きた騒動の話をする。また、その際にリオから一つ報告があった。それはフローラ王女にリオの正体がバレたということだ。

 

「は? どういうこった?」

 

 ベルトラム王国での詳しい出来事を知らないネクサスや朝陽などは首を傾げている。

 

「前に話したろ? 王族を助けた恩賞に王立学院に入学したって…その時、助けたのがフローラ様なんだ。それと学院では一つ下のクラスにいたから後輩、に当たるのかな?」

 

 リオはネクサスにそう伝える。

 

「……なるほどな。だが、バレたと言っても、誤魔化しようはあったろ?」

 

「そこが問題なんだ。フローラ様を誘拐しようとした奴が俺と因縁のある相手で、そいつが俺のことをリオと告げたんだ。まぁ、フローラ様も混乱してたようだから、誤魔化しはしたけど…それでも俺がリオだと確信されてる感じはする」

 

「お前と因縁のある相手だと…? っ…まさか…?」

 

 ネクサスはリオの説明に少し首を傾げたが、すぐさまそれを理解した。

 

「あぁ…やっと、見つけたんだ」

 

「……そうか」

 

「だけど、横から介入してきた奴に連れてかれて逃げられた」

 

(そうか。戦闘もあったと言ってたが、そういう…)

 

 リオの話を聞き、ネクサスも納得する。

 

 そして、リオ達は今後の方針も話し合い、お茶をしたり、交替で仮眠を取ったりしてしばし時間を潰すのだった。

 

………

……

 

 その夜。

 夕食が終わった頃合いで、ナタリーが部屋にやってきてリオとネクサスをリーゼロッテの元へと案内することになった。セリア達は留守番である。

 行き先は場所は屋敷内の会議室だ。

 会議室にはリーゼロッテの他、ユグノー公爵、フローラ、ロアナ、弘明といった面々も揃っていた。

 しかし、弘明の様子が些かおかしい。有り体に言えば、機嫌が悪い、というかなんか拗ねているように見える。

 

(やれやれ…今回の騒動で活躍できなかったことを拗ねてんのか? だとしたら筋違いだろうに…)

 

 そんな様子の弘明に対してネクサスはそう思ったようだが、ポーカーフェイスを貫いていた。

 

 そうして弘明の機嫌は置いておいて、話し合いが始まる。

 

 議題はフローラを拉致しようとしたルシウスのことだ。

 ルシウスについてユグノー公爵からの情報提供があった。ルシウスはかつてベルトラム王国の下級貴族であったらしく、『王の剣』の候補にも挙がるほどの者だったらしいが、家が没落したために王の剣にはなれず、さらにそこから傭兵として成り上がった後のことはユグノー公爵も知らないという。

 しかし、ユグノー公爵はこうも付け加えていた。貴族にとって没落とは、不名誉なことであり、後の採用口はないわけではないが、出世の道は途絶えるとのこと。一家で心中したり、行方をくらますのが多いが、中には別の道で頭角を現す者も少なからずいる。その少ない例がルシウスやアリアだ。

 

 さらに話し合いは続き、リオのルシウスに対する人物評も聞くことになる。リオとルシウスの因縁を考えれば、リオのルシウスに対する酷評も頷けるが、それを知らない者からしたら、リオ…ハルトがそこまで言うとは、と思えてならないだろう。

 そのことについて直接の交渉相手ではないロアナが質問していたが、リオの過去を聞いて顔を青ざめさせて謝罪していた。リオは気にしていないとロアナを宥めたが…。

 

 そして、話題は『レイス』についても触れられるが…特にこれといった進展はない。唯一、アルボー公爵家と密かに繋がっているというプロキシア帝国の外交官と同じ名前、というのがユグノー公爵から伝えられた程度だ。リオもフローラもレイスを見たわけだが、フードで顔を隠してたので、容貌まではわからなかったという。

 

 結論として、素性のわかっているルシウスを探した方がいいということになり、ユグノー公爵とリーゼロッテがそれぞれ対応することになった。

 それから他にもいくつか話し合いを行い、解散したのは1時間以上も後の事だった。

 

………

……

 

 翌日の昼前にもリオとネクサスはリーゼロッテに呼び出されていた。

 今回は会議室ではなく、応接室でリーゼロッテとアリア、ユグノー公爵とフローラが同席していた。弘明とロアナはいない。

 

 リオ達の今後の予定を聞きたいとのことと、お礼についてだ。

 

 今後については急用と称し、ガルアーク王国の王都ガルトゥークへと向かう折を伝えていた。

 そして、リオはダメ元でリーゼロッテのお礼を今度行われる夜会への参加させてもらえないかということを伝えていたのだが、リーゼロッテもそれを承諾した。理由はいずれちゃんと話すという条件で…。

 ちなみにユグノー公爵達のお礼について、とりあえずは貸しにすることになったが…。

 

 

 

 そして、それから2日後…リオ達はアマンドを出発することになった。

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